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(さすがにこの町で、黒い服はないでしょう?)
というわけで、チャコはシンディとお揃いの、今は伝説となった、『常夏の島の赤い花』柄がプリントされた、白地の涼しげなワンピース姿になった。
レイクサイドホテルに戻る途中、二人はごった返す、湖畔の道沿いのお店をチェックする。対象は、主に釣具屋だ。
ほとんどのお店で、パッと目に付くのが、ルアーという、バス専用の疑似餌だった。中には、それしか取り扱っていないお店もあった。小魚、カエル、ミミズなどを模したリアルな物。幾何学的な形状の物。まったくわけがわからないヘンテコな形の物――
シンディは小さく肩をすくめる。
「湖に入る前に、お店のこんな状況を目にしていたはずなのに……。なんにも疑問を抱かなかった。なんたる未熟!」
憤っている。
「……」
チャコは――
――先ほどのコトの余韻がまだ消えず、ろくな返事もできないでいた。シンディ、ちらりと見て、
「どう思う?」
「――え? あ、う、うん!」
チャコは狼狽して現実に戻る。
「ルアーって、形もさまざまだし、色とりどり。ハリーが――」
顔が赤らむ。
「――ハリーが困っているのはわかるけど。でも見た目なんか楽しそう。オモチャみたい」
シンディは思いっきりため息をついた。
「?」
「ははは、チャコっ! やっぱりあなたは鋭い。油断ならない女ね! 今あなた、核心を突いたわ。まさにその通り。――楽しいの! とっても! だから始末に困る」
彼女はちょっと口をふさぐ。
「もう一度、湖にもどりましょう。人混みを抜けたら、少し飛ぶわよ。見つかるようなヘマしないでね!」
「わかったけど? なんで人目を気にするの? そういえば、今回は魔女らしいこと全然してないわね」
「あなたが溺れたその時からね」
「そっか……わたし空飛べたんだっけ」
「チャコ、いいこと? 今回は、敵方に魔女がいる。この町の回転予報官が、今回の相手なの! 私たちが魔女だってことは、切り札として最後まで伏せときたいの」
「いっつもこんなふうに事前に教えてくれていたら、安心できるのに」
「いやだ、とんだヤブヘビ……」
彼女は笑った。
「今回は根が深い上、いろいろな要素が複雑に絡みあっている。実に厄介! 事前にアナタと手はずを確認しとかなきゃ、どんな間違いがおこるか予測がつかない」
「と、いうことは、なにか手だてを思いついたの?」
「根本的解決方法じゃないけど、それなりに有効な対処方法がある。つまり――」
ニヤリ、と笑む。
「──湖に、『無害な呪い』をかけたらいいのよ」
「はぁ?」
シンディは、それはそれは楽しそうに。
「さて、そろそろ飛ぶわよ? よろしくて、お姫様!」