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 ハリーが肩から提げていたのはまさしくクーラーボックスで、その中身は、もちろんとれたてのアユだった。ラモスはそれをボックスごと受け取って厨房に消えた。

 チャコは落ち着かない。もぞもぞしたり、あっちを見たり、こっちを見たり――

 正面にハリーが座っている。視線の持ってき場所に困ってしまう。

 これは、ハリーも同様らしく、あっち向いたり、こっちを向いたり――

 偶然、目があって、二人とも俯いてしまう。

「……あの」

「……その」

 そのまま沈黙だ。

 横で知らんぷりしてたシンディ、とうとう吹き出した。

「アハハ……。まったく、二人とも笑わせてくれる。手の焼ける人たちね!」

 ハリーを見た。

「ハリー? まず、はっきりさせましょ。貴方、ヤクザの、おそらくトップ、親分さんの、息子さんね?」

 ものすごいストレートな問いかけ! ハリーは顔に汗をかき――やがて、意を決したのか、真面目な顔でこくりと頷いた。

「ついでだけど、お母さんはいない。お父さんは貴方を溺愛している」

 ハリーは目を丸くした。

「母は僕が五歳の時病死した。なんでわかったんだ?」

「貴方から生活臭が全然感じられないからよ。そのシャツだって、ずっとクリーニング屋任せなんでしょ? 機械洗いでボタンにひびが入ってるわ」

「よく見てるんだな……驚いたよ。溺愛の方は?」

「そんなの簡単。あのバカ高いボート見たら誰だってそう思うわ! 反抗している貴方のご機嫌をわざわざ伺っている、何よりの証拠じゃない。子分どもも貴方にはまったく手を出せないでいるし……。それから、たぶん貴方、お母さん似なんじゃない?」

「全部当たりだ。たまげたよ。降参だ」

 シンディは満足げに頷くと、返す刀であっさりとチャコの問題を片づけてしまった。

「ハリー。貴方がいない間に、チャコが、なんて言ってたか教えてあげよっか? チャコったら、『普通』とか『常識』はイヤなんだって! だからハリー、貴方全然オッケーよ」

「わーーーー! シンディ!」

 ハリーはなんとか笑顔を作った。まずシンディに感謝するような眼差しを向けると、

「ほんとかい? チャコ」

 と期待を込めて問いかけてくる。チャコは

「――うん」

 と、自分でも驚くほど素直に、ついでに可愛らしく答えてしまって――顔を赤らめてしまった。

「それに、わたし、トラブルには慣れてるし……」

「?」

「あははははっ!!」

 慌てたようにシンディが割り込む。

「ハリー! 食事のあと何しよか? そうだ、アユ釣りしましょっか? あんな高価なもの、ただで戴くの悪いから!」

「いや、アユは――」

「ほら、チャコ! あんたもお願いすんの!」

「う、うん、釣らせて、お願い、ハリー!」

 ハリーは、やれやれと――だがはっきりと嬉しそうに――両肩をすくめた。さわやかな笑顔で答える。

「イエス、チャコ! 君のお望みのままに!」












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