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メニューは自分に任せて、とシンディが言うのでお任せした。
即行、彼女は目を輝かせてラモスじいさんにオーダーを出した。
「『アユの天ぷら』をお願いするわ!」
チャコ、少し意外な感じがした。イメージが合わないような気がしたのだ。
「お魚の揚げ物? ……それって、下々の食べ物でございますことよ、お嬢様?」
「アハハ、チャコおもしろすぎ!」
ぶんぶん首を振る。
「――チャコチャコ! 今回は違うのよ。ピュアまで来て、『アユ天』を食わない手はないの! ここの一番の名物でね――名物にウマイものなし、て太古の名言があるけど、これがホントに美味しいんだから! ね、ラモスおじさん <ハート> 」
シンディ、両手を唇の横で組み、かわいらしく目をぱちぱちさせた。この子、おぢさんキラーである。
ところが――ラモスおじさまは、気落ちしたように首を振ったのだった。
「他のにしたら……どうだい?」
シンディ、信じられないという顔になった。
「ほんとへんくつだ……」
チャコは吹き出しそうになるのをこらえて――そしてラモスの態度にも少し疑問を感じ――ここではじめてテーブル上のメニューを開いた。もしかしてその名物料理とやらを、このお店では取り扱っていないのかもしれない?
そんなことはなかった。ちゃんと記載されており――そして――チャコは、目を剥いてしまったのだった。思わず声がひっくり返る。
「時価ァア――!?!」
ラモス、まるで表情を変えず。
「……」
なんにも喋らなかった。
シンディがメニューを引ったくり、真面目な顔つきで内容を改め始める。チャコはラモスおじさんに尋ねた。
「時価って――もしかして時期外れなの? 今ないの?」
シンディ、メニューから視線を外さず、小声ながらはっきりと――
「そんなことないっ」
断言する。
「……半分だけ当たりだ」
とラモス。肩をすくめた。
「捕れないんだよ……」
「……?」
それで全ての説明が済んだとばかりにラモスは口を閉ざす。ピュアの事情を知らないチャコには、これ以上なんと会話を続けたらいいのかわからない。
『捕れない』ということは、これは全国的社会的に重大事件なんだろうか?
それとも地元の一部の産業だけの、懸念のタネでしかないのだろうか?
そもそも捕れないということがよくわからない。――技術的な問題? それとも組合の労使紛争などのとばっちり? 政治的、社会構造的問題? それともそれとも、まさかなにか天変地異が起こったとか――!?
こういうとき頼りになるのが、わがブレイン、わが親愛なる相棒だった!
チャコはすがるような気持ちでシンディに振り返った。知らず彼女の腕を掴んでいる。シンディは頼もしげに小さく頷くと、真剣な顔付きでラモスに鋭い質問を発した!
「時価――て、おいくらかしら?」
チャコ、思い切りこけた。――首が痛いぞくそったれ!