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「中途リアル」

筆者多忙につき、お待たせいたしました。色々とアイデアはあるのですが、文章にする体力・気力が持たず。のんびり続けていこうと思います。



(残り時間: 19分47秒)


「"机"と"椅子"が"いなくても"できる、アルファベット1文字…」


ひとまず声に出して読んでみる。


か細い呟きは静かな部屋の空気を少し切り裂き、そのまますっと溶け込んでいく。



ふと、自分が手をぐっと握りしめているのに気付いた。

無意識に緊張してしまっていたらしい。


大事なのは、いつでもどこでもリラックス。

拳を開き、手指の筋肉を弛緩させる。まるでピアノを弾いているかのようにヒラヒラと。ちなみに弾いたことはない。


肩をマエケン体操ばりに動かし、首をまわす。

普段から猫背気味だと自他共に認める俺の上半身は、小気味良い音を立てながらパキパキとほぐれていく。



それから朝のラジオ体操一周。

学校がすっかり嫌になり不登校になった俺だが、引きこもっても生活習慣だけは守ろうと、毎朝6時に起きてぼっち体操をしていたのが役に立つ。


が、正直ふりつけを正確には覚えていない。


何となく腰を後ろに倒して、後屈する。薄暗い天井が一瞬見える。体の前方の筋肉が歓声をあげながらじわじわ伸びていく。


次の動きが分からない。人生はフィーリング。天井はシーリング。

適度にアレンジしながらこなしていく。



「腕を…てきとーに開いて〜。わん、つー、さん、し…」


カウントさえちゃんとすれば、一応それなりには見える。


ラジオ体操歴8年のベテランは伊達じゃない。振り付けすら覚えてないが。



突如不審な行動を取り始める変態。一人取り残された柚葉。



「さっきから何やってるんですか?」


「んー、これはだな、オリエントに古くから伝わる伝説のストレッチ。正式名称は『国民保健体操』。またの名を『NHKラジオ体操第一…」


「オリエントってあの、急行で殺人事件が起きて、実は犯人が乗客…」


「ダメ!それ以上はダメ。ゼッタイ。ネタバレしたら作者が殺されかねない。まずそのオリエントはイスタンブールだ、いくら東方といえど、ざっくりしすぎだろ西洋人」


「どのオリエントなんですか?」


「極東の島国、東洋。黄金とか魔女とか箱根駅伝の、あれな。ちなみに対義語はオクシデント(西洋)」


「アクシデント?」


「それは西洋人泣くぞ!放送事故!」


「そういえば、残り時間ちゃんと確認してます?あと13分ですよ」


「えっ…! いや、確認してたし。全然時間確認してたし。だいじょーぶ、オールok今日も西部戦線異状なし」



熟練兵の如くてきぱきと何ちゃってラジオ体操を終え、再び机上の紙に向き合う。


今回は単文、特に意味ありげな要素はないが、強いて言うなら"いなくても"が引っかかる。

"なくても"、ならまだしも。


最近はやりの擬人化だろうか。


何とは言わないが、最近では戦艦や刀剣とかを擬人化するのがブームだ。

神社仏閣を…こう、男性諸君が好きそうな感じに擬人化して、リアル神社仏閣から怒られたという話もある。

「何でもかんでもとりあえず擬人化すりゃいいって話じゃないよ!」とマックの女子高生が叫んでいたのも記憶に新しい。


最近では競馬の馬がお姫様方になっているのを電車で見て、あまりのシュールさに思わず、飲んだペットボトルのお茶を吹きそうになった。


disってない。俺、馬の姫、すごくいいと思う。馬力ありそう。



「何を黙って一人でニヤニヤしてるんですか、傍から見るとかなり気色悪いですよ」


「ふーん、そうか──って突然めっちゃ辛辣だなそのコメント!! 謎を解いてるの俺は!! わかる!?!?」


「机と椅子が擬人化されてるからって、そんな長いことニヤニヤします?」


「お、意外にそういうとこ気づくんだ…いやちょっとさ、現実世界の謎にふらっと思いを馳せていて。今のご時世なんでも擬人化したがるじゃん」


「あー、やっぱり、そういうことが好きなんですね、提督」


「いや違うし!?烈風とか知らない子だし!?」


「やっぱやりこんでるんですね…恐ろしい子。」


「そっちの子じゃねえ!!!」



頭を抱えながら、冷たい柚葉の視線を避けるように俺は紙を眺める。


集中できない。視線が冷たい。目力半端ないって。



ひとまず擬人化から離れて、探索の可能性を探る。



机と椅子という物自体があるということは、何かしらの仕掛けがなされていてもおかしくはない──椅子をひっくり返して裏を確認、机の中を確認、4つの脚をチェック。

天板の裏を隅から隅まで眺めて──特に何も見つからない。

という事は──


何らかのアクションを起こすと、ヒントが出る系の問題、という可能性もある。



俺は一度机と椅子を初期配置に戻し、そっと椅子に座る。



すると──


そこにあるはずの感触がなく──お尻は空に浮き、そのまま重力を受けて垂直落下。


途中で空気椅子に予定変更する脚の筋力もなく。

あるはずの物理的サポートを受けられないお尻は、自然の摂理に従い素直に落下していく。


ドスンッという音が狭い部屋に響き渡る。


「い、痛っ…」


「ここまで綺麗に決まると何だか申し訳なくなってきますね」


「犯人はお前だ!!ジッチャンの名にかけなくても分かる!!」


「お尻大丈夫ですか?痛くないです?」


「当人だけには心配されたくない…。」



柚葉から椅子をもぎ取り、気を取り直してもう一度、今度は後ろ手に椅子をセットして座る。


そして──



何も起こらない。




机に座る。



のはお里が知れるのでやめた。



これで正真正銘、まぎれもなく「ただの机と椅子」であることが示された。Q.E.D.



ここまでに費やした時間は15分。進捗はゼロ。代償は未だにヒリヒリするお尻。



残り時間は5分。

そろそろ危ない。落ち着け、俺。


呼吸を整え、薄っぺらな白い紙を眺める。裏返す。

特に何もない。表に返す。



やはり、"いなくても"が怪しい──。"なくても"でよいはずだ、無駄に"い"がなくても──"い"がなくても──。



頭の中で何かがパンっと弾ける。ニューロンを電気信号がさーっと走る。


問題の単純さに思わず笑みがこぼれる。解くまで難問、見えたら一瞬、とはこのことだ。



「つくえ」「いす」


"い"なくても。すなわち、"い"をぬくと


「つくえす」


これからできるアルファベットは、簡単に並び替えて


(エックス)



キーボードに一文字打ち込み、迷わず"Check"ボタンを押す。

爛々と赤く輝くそれは、確かに刻まれた正答に対し、厳かな開錠音を以て答える。




<Question 2 CLEAR >

残り時間:4分23秒



**************




3つ目の部屋は、それまでよりは少し大きいが──雰囲気を少々異にしていた。


何もない直方体の部屋。

壁・天井の質感はこれまでと同じように木材。


天窓からわずかに光がさしこみ、薄暗い部屋全体をかすかに明るくしている。


少し重くなった空気。けれどもそれは不快感を伴うものではなくて、むしろある種の荘厳さを兼ね備えるような、清々しい空気だった。

それだけ奥に進んでいる、ということだろう。



部屋の広さは、だいたい四畳半くらいだろうか。

こじらせた大学生が神話大系でも作っちゃいそうなアパートっぽい部屋である。



だが、その異質な雰囲気の原因は──奥の壁に貼られた、何枚かの貼り紙。


奥の壁の中央、少し高いところに、


<Question 3>


の貼り紙。

その10センチほど下、目線の高さに、大きさの違う3枚の貼り紙が並べて貼ってある。


左から小さい紙に6、中くらいの紙に3。そして──少し間をあけて、大きい紙に"?"の文字。


(以下イメージ)

挿絵(By みてみん)


部屋の中に特に物はなく、壁も天井も不審な点はない。


ヒントはこれだけ。情報量は少なめ。


残り時間はおよそ20分。出口のキーボードは相変わらずこれまでと同様に無言で佇んでいる。



6,3...の並びから考えるに、おそらく"?"に入るのは数字。


謎を解く手がかりとしては貼り紙の大きさ。明らかに何か作為がある。


大きさと数字に何らかの関係がある、と考えるのが妥当だ。



貼り紙の大きさと数字が反比例しているのか…?

だが、それはおそらく違う。

解く人に貼り紙の大きさを正確に調べる方法などないし、第一に"3"と"?"の貼り紙の間が不自然に広がっていることの説明がつかない。



横にして右から見れば、貼り紙の大きさが鏡餅のようになり、東京スカイツリーで、6,3,4…という可能性も考えだが、やはり同じように広がった空間の説明がつかない。



注目すべきヒントはなし。

完全に手詰まりだ。



電気もねえ。ガスもねえ。おらこんな謎いやだ〜、東京さいくだ〜と頭の中の吉幾三が歌い始める。



そもそも、どうして俺はここにいるのだろうか…



オレは高校生探偵、三宅葵。幼なじみで同級生の優月茜と家でゲームをしていたら、黒ずくめの男の怪しげな取り引き現場を目撃した。


いやしてないわ、2行目でダウト。

そもそも探偵ではないし、何処にでもいる見た目は高校生、頭脳も高校生である。


頭の中の小さな探偵を消去し、頭をまっさらにして貼り紙を眺める。



「あの…葵くん…」


「名前覚えてくれたの!」


「なにコミュ障みたいなこと言ってんですか」


「否定できないのが辛い…」


「…やっぱやめときます」


「えっ、ちょっと待った! なに!? 何でも聞く。お願いします何でも聞きますから」


「聞く気ないですよね…」



はあーっとため息をつく柚葉。


思わずその困った顔が、一瞬茜に見えて──




「3」




「なに」



「さっきと比べて、"Question"の貼り紙、少し違和感ありません?」


俺は初めて"Question"の貼り紙をまじまじと見つめる。



確かに、1問目も2問目も"Question"の貼り紙はあった。


少し年季の入ったヒノキの板に、ぺたっと貼られるようにして。



「少し、文字の雰囲気が違うんですよね…。3とか。何か違う?みたいな。」



俺はすたすたと貼り紙の方へ歩き、じっと3を眺める。


確かに、何かが違う…。


まさか、


「さっきまで文字が半角でしたよね?今回だけ全角になってます」




たしかに。



と言いたいところだが、俺は1問目や2問目の数字が全角か半角かなんて覚えていないし、第一それが何に繋がるのか…



もう一度、その下の6,3,4の数字を見る。


3を見る。



もう一度、"Question"の"3"を見る。



「6,3,4と──フォントが同じだ。しかも全て全角」


「そうなんですか!?」



「ってことは──」



俺は、"Question"の"3"に手をかける。


少々湿り気を帯びた、薄い紙。古本のページのような手触り。


右端に人差し指を乗せ、そこから指を左にゆっくり、すーっと動かす。



違和感を掴む。


3の左横あたりに、段差がある。


指は微かな紙一枚分の厚さを捉えた。



「部屋が薄暗くて気付けなかったな…」


よくよく見ると、うっすら縦の線が3の左に見える。


よほどよく見ないと気づかない、2枚の紙の境目。


この"3"は、"Question 3"の貼り紙の上から、新しい紙で貼り直している。



つまりこれも、謎の一部ってことだ。



作者に一本とられた気がして、俺は思わず歯噛みする。



気が付くと残り時間は10分を切り。ゲームオーバーが刻々と近づく。


落ち着け俺。頭を回転させろ。脳内にある大量の歯車が──カチカチッと高速で動き出すイメージを頭に浮かべながら、俺は作者の意図を考える。



「どうしてわざわざこんなことをしたんでしょうね…」


「それが今回の肝だろ」


「わざわざヒントを隠すために、こんな手の込んだことをするとは思えませんが…」



そうなのか?

これは単にヒントを隠すためだけじゃないのか…?



冷静に状況を整理する。

残り時間は7分。焦りは禁物。いつでもどこでもリラックス。



一番左に小さい6、中央左に少し大きい3、紙一枚分あいて──

そうか、この間隔は上にずれた3を表していたのか!


思わずぽんと手を叩く。まるで柏手のようになってしまったその手は、ある意味伊勢神宮という空間において何の違和感も感じさせない。


無事にクリアして外に出られたら、ちゃんとお参りしようと心に誓う。



音に反応した柚葉が怪訝な顔でこちらを見る。


その顔にヴィクトリーサインで返しつつ、このゲームの開発者の顔を思い浮かべる。


やはり似てる。


どこがどうとは言わないが、やはり…全体の雰囲気だろうか。




じっと柚葉を見つめいていると、柚葉はいっそう眉を傾けて怪訝な顔をする。



「あと5分ですよ」


「ってマジで!?まずい…解かないと…」



左から順に、小さな紙に6、それより少し大きな紙に3、それから上の方の紙に3。求めるべきは右端、一番大きな紙に入る数字。



何も思い付かないまま、時間だけが過ぎていく。


ヒントが少なさ過ぎる。何か、もう一手ヒントがあれば…



「Question1、2で何か変わった点は無かったか…?」



何となく声に出す自問自答。泣く子と自答には勝てぬ。



「そういえば、このチュートリアル、テーマがあったよな…」


「Japan、ですね」


「それだ」


確かに最初の問題でテーマが書いてあった。

黒板に貼られた"Question1"の貼り紙とともに…


黒板?

なぜあそこだけ黒板?



そして、2問目は、机と椅子…よく学校にあるような…



バラバラのピースが音をたてて繋がる。各々があるべき所へ収まっていく。


「 解 け た 」



ヒントは数字、そしてテーマの日本と、隠しテーマの学校。



数字は、小さい6、中くらいの3、高い3、そして大きい?



小、中、高、大と考えれば──


日本特有の学校制度、6-3-3-4制。




キーボードにゆっくりと"4"を押し、"check"を押す。



──カチャッ。



解錠。




<Question 3 CLEAR >

残り時間:1分58秒






扉がゆっくりと開く。



次は小さな部屋だった。


その一番奥には──壁に背中を預けた、いわゆる、宝箱のような、古びたチェストが一つ。

鍵穴はなく、流れ的にもすぐ開く感じだろう。これで開かない展開なら訴訟も辞さない構えを取りつつ、俺はチェストに歩み寄る。


二次元のチェストなら何度も右クリックで開けたことがあるが、生で見るのは初めて。思わずしげしげと眺めてしまう。


「これ実はミミックだったりして」


「倒せばいいじゃないですか」


「非武装完全中立主義の俺に?こちとら非暴力不服従で17年生きてるんっす、しかも丸腰。最近の小学生はナメてるけど、ミミック地味に強いんだぜ。ま、まさか──やっぱ異世界ついでに魔法とか剣術とかスキルとかチート能力が実は!?」


「ないです」


「嘘だろ」


「ないです」


「あると言ってくれ」


「あります」


「嘘でしょ」


「嘘です」


「ウ・ソ・だ・ろ…」




がっくりうなだれる俺は、柚葉が小さく「今は」と付け足したことに、気付いていなかった。



「開けたらチュートリアル、クリアです」


柚葉はなぜか伏し目がちにそう言う。



何かがひっかかりつつも、俺はチェストに手をかける。




チュートリアルのくせに、実はもう一山あります。次回もいつになるか分かりませんが、お楽しみに。

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