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金楔の国王  作者: どっすん丼
エクストリーム戴冠式編
5/7

第5話 一級フラグ建築士

評価5貰えて嬉しかったので書いた(*’ω’*)

 音楽ってのはいいものだ。


 俺はヴァイオリンなんて洒落た楽器を中庭で弾いていた。護衛が数名居るが、距離があるので気持ちだけは一人の時間と言ってもいい。久しぶりの解放感に胸が空いた。


 第二次トレニーが終わってからは『朝:人間をダース単位で処刑』、『昼:戦線で戦う騎士達を尻目に高級な調度品に溢れた部屋で執務』、『夜:逝ってしまっただろう騎士達に黙祷』というただ呼吸をワンセットするだけでストレスの溜まる生活からやっと抜け出せた。

 余暇の時間を過ごすのさえ罪悪感を覚える小心者な俺……だが分かって欲しい。前世と同じ中流階級の家庭に生まれていた場合、俺だって彼らと共に前線に出ていたはずなのだ。


 それが、国内にたったの十三名しかいない王位継承権保持者として生まれたというだけで、中身パンピーのままこんな地位に就いている。


 申し訳なさ過ぎて吐きそうになってくる。何か不正を行っているような据わりの悪さが常に付き纏っていて、逆転の発想とばかりに開き直ろうとしても、先日のように戦争が起こると、俺が増援要請に対して許可などを出したせいで数百人もの人間が王都から前線行きである。

 めちゃくちゃ人の命弄んでる感がある。何人帰って来ないのかなんて確認したくない。


 しかし増援を送らねば、前線と化した領土に住む民たちが、強制的に徴兵された上にぷちぷち死んでいく。もうこの時点で罪悪感が半端ないが、負の連鎖はそこでは終わらない。


 負ければ当然侵略されるが、よしんば敵国がその土地にノータッチであっても、もうお終いだ。働き手が居なくなった土地に未来はないのである……。

 そうやって放棄された農地などを寝かせていると、しれっと近くの蛮族とかが住み着いてしまうので、辺境の諸侯の方々には常にそんなヤツらと鎬を削って頂いており、ぶっちゃけ中央政府としては頭が上がらない。

 その為、何かしら功績を上げる度に、お礼として土地をプレゼントしていくしかない。しかしプレゼントし過ぎると、何か国みたいになっちゃって……一個の自治体みたいな感じで……そうなると税の納入は滞るし、もう予算が大変な赤字になる。

 俺は身を切り詰めるのくらい何でもないのだが、他の貴族はそうじゃないし、巡り巡ったそれは、結局のところ罪なき市民の損失になるのだ。罪ある貴族は特に損しないのにな。


 バタフライ効果っていうやつ、あれさ、あそこまで極端じゃなくても、ホントに物事は常に何かしらの線で繋がってるんだなあ、ってこんなに上の立場になって初めて気付けたわ。知った気になってたことの、更にその上に複雑な模様があるなんて、俺は昔想像さえしなかった。浅学だったもので。

 多分今も気付いてないだけで、もっと高次の視点への切り口はあるのだろうけど。


 昔の人は言いました。風が吹けば桶屋が儲かる。あれは真理だな。


 なら、国王の中身が日本人とかいうトンデモ国家は一体――いや、この国に関連する全ての国、或いは――世界は、どんな風に変わっていくんだろうか。

 まさか神様だって、こんなチンケな人間が国を動かすビッグな人間になるとは思っていなかったろうに、この小心者がここに在るというだけの奇跡が、何をどのくらい動かしてしまっているのだろう。それが生み出すのは、蝶の羽ばたき如きで起こるような台風なんて、比じゃないものなのは確かだ。

 自分が要因で何が生まれるのかさえ、渦中の身の上とあっては目の前のこと以外は何も分からない。


 結局のところ、結果が提示されるまでは、何が進行しているのかさえ分からないのだ。

 ドドーンとでっかく、目の前に突然現れるくらいじゃないと、俺が原因だなんて気付けないに決まってる。まさか蝶だって自分のせいで台風が出来たなんて思わないだろう?


 せめて……そうだな、世界統一くらいのインパクトがないと、全く気付かない自信がある。


 後は他の適切な例で言うと、俺の戴冠式とか、俺の戴冠式とか、俺の戴冠式とかがそうだな。あれはまさにバタフライ・エフェクト。俺が中身日本人じゃなければ生まれなかったショッキングなイベントだ。多分歴代、いや世界初じゃねぇかな? 縛られながら戴冠した国王なんて。

 謁見の間に飾られてる俺の肖像画、何でか玉座に金色の楔刺さってる上に俺に手枷付いてんだけど、あれはマジな話止めて欲しい。何世紀残ると思ってんだ? 未来で博物館に展示とかされちゃったらどうすんだよ。どんなSM国家だよっつー話だよ。


 「……ハァ」


 考えてると辛くなってきた。次の人生は平和な国家で平民でのんびりと生きたいものである。


 ヴァイオリンを構えて音を奏でる。昔聞いたアニソンの耳コピだが、この間お抱えの楽師が酷く感嘆して「是非この曲を我が国の中央音楽隊に弾かせる許可を! きっと陛下のその素晴らしい才覚は戦場でも発揮され、戦士達の指揮を大いに奮わせるでしょう!」とか言い出した時は焦った。

 戦場でドッタンバッタン大騒ぎするのは止めてくれ。後世に残ったら恥と申し訳なさで死ぬ。本家はな……もっと素晴らしいんだ……こんなものじゃなくて、もっと明るくてだな……。

 耳コピなので完全に劣化し、さらにベースもドラムもない。そんなものを広めるわけには行かないと、俺は必死で拒否したものだ。こんな時ばかりは最高権力者が俺であることに感謝する。こんな時だけ。


 俺は物思いに耽るのを止め、ヴァイオリンでまた別の曲を奏でる。耳コピっつっても記憶なんて信じ難いもんだが。だって生まれた時に、前世とは全く違う肉体に魂(的なもの?)が宿っちまってるんだから、脳みそだって別物なわけだ。記憶が保存されてる海馬だって別物で、ついでに多分俺も別人な訳だ。

 そんなことをグダグダ考えても意味は無いから、敢えて気にしないようにしてるけどな。


 ただ一つ言えるとしたら。

 神様が突然目の前に現れて、そんな曲はこの世のどこにも、未来にさえも無いんですよ、なーんて仰られたら、俺は一も二もなく発狂するだろうってことぐらいである。


そして時は経ち数百年後……。

歴史的価値のあるフォルネラ国の王の肖像画を、顔を顰めながら見つめる青年「案の定2ちゃんでSM国家って言われてんじゃねぇか……」

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