惨劇
XX68年 "あゝ何ということだ.
今宵もまた、悪魔が僕をそそのかす.
一度、激情を渡せば苦悩とおさらばさ.
城にこもり、寒さに耐えるが扉は鳴らぬ.
扉を開ければ心身の滅び.
あゝ何ということだ、我が主.己の幸せのために最も愚
かで美しい手段を取ってしまった."
"XX02年4月12日、村が襲われた"
酷い風景だ。私が到着したときには死体が辺りに散乱
し死の臭いに満ちていた。生存者の話によると突然、
山賊が襲いかかって来たらしい。男と子供は見つける
や否や殺され、女は辱めを受けた。ここらを管轄する
警手が到着する頃には村は壊滅状態にあったそうだ。
わずかに残った生存者は体が震えている者、起こった
ことを許容できず笑みを浮かべている者、どこか遠い
ところを見つめている者など様々であったがどれもま
ともではなかった。
「ドーキンス博士」私が現場に駆けつけたとき警手に
呼び止められた。「ひどい有様ですよ。まるで地獄に
いるように思えてしまいます。」「死体の損傷が激し
い。おそらく遊ばれながら殺されたんだろう。少しず
つ切られては逃げ、そして、動けなくなったら止めを
刺された。およそ、人間の所業じゃないよ。辛かった
ろうに。」まもなくして山賊どもは捕まえられた。
その日の夜、私が学生時代にお世話になった先生と話
をした。「ドーキンス君、今のこの世の中をどう思
う。都市部に力は集められたおかげで科学の発展は目
覚しい。特権階級に属する人々は優雅な暮らしをす
る。だが、その反面、都市以外ではどうだ。人々の暮
らしは虐げられ、不満が募り、暴走する。不甲斐な
い。ただただ不甲斐ない。」「仕方のないことで
す。」「仕方のないことだと。人が大勢死んだんだ
ぞ。」「今は時代の変わり目なんです。いつだって時
代の変わり目は弱者が翻弄されます。仕方のないこと
なんです。ならば、我々、科学者がすべきことは目の
前のことに一喜一憂するのではなく、一刻も早くさら
に科学を発展させ、その恩恵が弱者にも行き届くよう
にすることだと私は考えます。」「そうだな。さすが
若き天才は考えることが違うな。」アルバート博士の
自嘲と軽蔑に満ちた視線に私は沈黙を保つしかなかっ
た。