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山賊討伐2

山賊5人を瞬殺した後、勘づかかれる前に一気に本拠を叩くために急いで、神社廃墟に向かっている。


ちなみに、装備を剥ぎ取った死体は放置である。小鬼等の妖怪に喰われるかして、比較的早く綺麗になるらしい。


来る時は荷物持ちの直家をある程度気遣って、ゆっくり歩いていたが。殺してしまってはバレるのはもはや時間の問題だ。なので、残りはかなり急ぎ足で向かったため、時間も四半刻位で目的地に着いた。その分、直家は半死半生だが。


「さてと、今度は俺が裏に回ろう。裏に回ったと思った段階で一気に強襲してくれ。頼むぞ、正綱殿、道成殿」


「任せる」


「フハハハ!誰1人も裏に回らせ無いわ!」


少し神社から離れた所で仕度を始める。直家と安兵衛が持ってきた皆の武器、防具等を皆に返す。身軽になった直家と安兵衛はある程度回復した。


「伊吉、直家、安兵衛は同じように裏に回れ。側から離れないように」


「は、はい」


さっきの5人を一方的に殺したのとは違う。人数が山賊の方が多いのだ。圧倒的に正勝様達が強いが、初めての直家は不安が尽きない。それは伊吉達も同じだったのか、顔が強ばっていた。だが、自信に満ちた正勝様の姿を見ていると安心してくる。勇気が湧いてくるのだ。これが人に勇気を与える姿かと思い、憧れを抱く。これこそが、男が至る一つの極致なのだろうと。











「……よし、こちらは良いな」


並びは前と同じで、真ん中に直家達がいる。腕を組み仁王立ちしている正勝様がボソリと呟く。


「…………ふむ。1人で出来る奴がいるな。」


「えっ、大丈夫何ですか?」


「問題無い。1人だけ際立って違う妖気を感じるので目立つだけだ………、っと、始まったな」


「ぉぉぉ!」


少し遠いところで正綱様の声が聞こえる。 それと同時に悲鳴が沢山聞こえて来る。陣取った場所が、少し高地だったので暴れ回っているのが良く見える。それにあわてた山賊達がぞろぞろと出てくる。予想していたとおり30人位の人数だった。


あっという間に半分は討ち取ったであろうか、首と血飛沫が色んなところから上がるのが、気持ち悪い。それを後ろで見ていた頭目が密かに逃げ出そうとするのが見えた。それに釣られて5人くらいの人が頭目とこちらに逃げ出して来るのがわかる。


「……こっちに来るな。逃げ出すとは……。誇りは無いのか…」


「………こっち来るのかよ。めんどくせぇな」


「!!」


道勝様、待っている時も寝ていたらしい。この人はあてになるのかな……。松五郎さんは、やはり面倒くさがりやだった。



「クソ!こっちにもいやがったか!そこどけ!いけお前ら!」


5人の山賊がそのままこちらに突っ込んで来る。待っていれば後ろからあのふたりが合流してしまうから、突き進むしかないのだ。しかし、前にいる3人も強者達だ。案の定、松五郎が1人の首を飛ばし、道勝様も槍で大きな風穴を開け、もう1人の頭を槍で潰す。正勝様の方に向かった2人は近づくことも出来ずに首が消えていた。


「あぁ!使えん奴らだな!チッ、やっぱり本職にはかなわないか」


「仲間を見捨てて、己だけ逃げるとは何たる卑怯!貴様に誇りは無いのか!」


「誇り?そんなもんで飯食えんのか?えぇ!?貴様はそれで飯を食えるからいいよなぁ、なぁ!!こっちはな!そんな事にこだわった奴から死んでいくんだよ!わかるか、お武士様よ!貴様らの生まれながらに余裕のある奴の上からの正論ほど、イラつくものはねぇんだよ!!正論吐いて生きられるなんて、幸せだろう!?そんな奴に負けねぇ!殺してやる!こんな所でぇ死ねるかぁ!オレは、オラは上に行くんだこんな所で終われねぇ!」


「憐れな……、来い。俺が、その下らん妄執を終わらせてやる。お前ら手を出すなよ」


「俺を舐めんなよ…?あっちで、お高くとまった武士を討ち取った時もあるんだ。貴様を殺して、他の国で仕官してやる!」


腰の刀を抜き、猛然と正勝様に襲いかかる。速さも、目に見える妖気の量も只の山賊とは者が違う。それに気が付かなかったが、時折覗く肌の古傷の多さには、数多の戦場を駆けてきた事が良くわかる。


「ハァ!死ねぇ!」


「ふん!」


刀で斬り掛かってくる頭目を槍でいなしながら、距離を維持する。時折、槍の穂先から妖術の刃なのかが飛ぶ、それをギリギリかわしながら一心不乱に斬りかかり続ける。凄まじい胆力だ。正勝様の攻撃はどれも必殺の威力がある。それを受け止め、かわしながら攻撃し続ける。直家の目から見ても、妖気がどちらも充実していくのがわかる。お互いあの勢いで出し続けて妖力が尽きないのか。


「ああああああぁ!ああぁっ!いゃゃああ!」


「…………………………!」


少しづつ押され初めてた、頭目はこのままでは負けると思い勝負に出た。周りの妖気が高まって強い力込めてゆくのがわかる、残りの妖力を全て出し尽くして無理しているのがわかる、咄嗟にそのような判断が出来るというのはやはり違う。それを見て正勝様も警戒し、動きが止まる。その瞬間、今までとは比べものにならないほどの速度で突進する。また、うちかかってくるも思い身構えるが、急に止まり乾坤一擲、刀を投げたのだ。流石にこれには驚いたのか、少し反応が遅れる。もう1本の刀を抜いた頭目が、その隙にもはや直家の目に見えない程の速度で斬りかかる。刀の届く位置まで近づいた。斬られる!







咄嗟に目をつぶる直家、正勝様が斬られたと思った。それほど、完全に入ったといった間合まで近づいたのだ。しかし、斬られた様な音は聞こえない。目を恐る恐る開けてみると、頭目が刀取り落とし、槍が胸を貫き、貫通していた。


「ガフッ…………クソがぁ、これでもダメかよぉ。少し手を抜いてやがったなぁ」


「………最後は本気だ。危なかった、貴様が上方の武士を討ち取ったのは嘘では無いようだな。見事だった」


「あぁ、チクショウ。これで終わりかぁ、村に帰って偉くなったってお袋に言いたかったなぁ。腹一杯飯をくわせたかったなぁ。死ぬなら村で死にたかったなぁっ…………」


「………逝ったか」


頭目は強そうな威圧感を発する、身体の大きい男だったが。胸を貫かれた男は何かを妖力を出し尽くした為か頬が痩けて身体も干からびている様な感じがする。ここまで出し尽くしたのか、これでは勝てたとしても逃げれはしなかっただろう。それに、この男が言っていた、事もまた現実なのだろう。この男はそう言った環境で、生き延びここまで来たのだ。これもまた、正勝様と違う正しさ、真理であった。


「直家。この男の言っていることは間違いではない。確かに俺は恵まれている。生まれながらにしてこと地位にいるのだから、食うに困った事も無かった。学べ、直家。色々な事を知るのだ。世の中には、色んな人がいる。学ぶ事を辞めたら、この男のようになる。この男の、言っていることは正しい。ただ、正しさなど無数にある。そのうちの一つだよこれは。一つの考えに囚われるな、学び考え答えをだせ」


「………はい」


正直色んな事があり過ぎて、この世界に来てから全然頭の処理が追いついていなかった。それにしても、この1日は濃かったし、長かった。この経験が後に大きな影響を及ぼして来るのだろうなと、自分でもわかるほどだった。


「こっち、終わった」


「なんだ?1番強い奴そっちに行ったのか?やりたかったなぁ」


そんな、事を考えいるうちに、山賊達を全滅させてきたのか正綱様達と道成様達が合流してきた。いったいどのような戦い方をしたのだろうか、正綱様は凄まじい返り血の量だ。


「うむ、見事な使い手であった。危うく斬られる所だったよ」


「うーん、惜しいなぁ。やり合って見たかったが」


「どうでもいい、早く剥ぎ取って帰ろう」


「そうだな。暗くなっては帰れなくなると困るからな」


今は太陽が高く登りお昼頃といった感じだ。ここまで来るのに一刻半かかったのだ、帰りは幾分か楽とは言え、今から帰っても夕方位になるだろう。夏なので日が出る時間は長いが、あんまり悠長にもしていられない。


「おい!直家、伊吉、安兵衛、山賊の装備を剥ぎ取って帰るぞ。だから、剥ぎ取って来い。むしろお前らはそちらが主だ」


何となく予想はしていたが、やはり死体から剥ぎ取るのか。嫌だな……。これこそ、慣れろってことなのかもしれないが、遠くで見ているだけで吐きそうになるのに首を飛ばされた死体を見て吐かない自信はあまり無い。


「直家、慣れろ。そうでないとこれからが大変だ」


「は、はい…」


身体が、本能が、忌避する。人の死体に対しての恐怖がある。しかし、やらなければならない。これからの為に必要な事は確かであろうから。近くにあった、さっきの山賊の頭目の死体に近づき死体に触れる。簡素な鎧を着ていたが、なかなか外せない。ふと、後ろの方で固定していると気づき重い体をひっくり返す。鎧を外し、着ていた服を脱がせ、武器を奪い、褌1枚になるまで身に付けているものを全て、剥ぎ取る。一人目が終わり、ふと額の汗を拭くと、べチャリと音がする。手を見てみると大量の血が着いていた。手が震え、顔が強ばる。俺は今、人の死体をまさぐってる。山賊の頭目の光の無い目と目が合う。猛烈な吐き気に襲われ…


「早くしろ!!こんな事では日が暮れるぞ!」


「は、はい!」


動きの止まった、直家見て正勝様が怒声を上げた。それを聞いて、吐き気が収まった。すぐ次へ向かう、余計な事を考えてはいけない、考えれば考えるほど心が摩耗していく。まだ、この行為を真っ直ぐ受け入れられるほど心が強くは無いのだから。それを分かった上で考えさせないようにしているのであろう。













結果的にはそれほど時間はかからなかった。伊吉も安兵衛もいたし。最初から従者達に剥ぎ取られていた山賊も少なくなかった。


「終わったな。さぁ、剥ぎ取った物を持って帰るのは荷物持ちの仕事だ。さぁ!直家!安兵衛!気張りな、最後の大仕事だ」


「えっ!この量をですか!?」


「流石にこれは……」


30人分の衣服や武器、防具は文字通り小山の体をなしていた。これを2人だけで、持ち帰るのはどう考えても無理がある。このような無理を言って先ほどの事を考えさせないようにするためであろうが、いくら何でも無理があった。


「ふむ、流石に無理か。ああ、そうだ、持っていくのは持てるだけでいいぞ」


「……残りはどうするのですか?」


伊吉が、当然の疑問を投げかける。


「あぁ、それは明日以降直家に取ってこさせる」


「!?それは、無理です!直家ではここまで道が分からずたどり着けない!ましてや、妖怪が出たらひとたまりもありません」


そのとおりだ、俺ひとりではたどり着くことすら出来ないのだ。


「分かっている。暫くは、俺が付いて行ってやろう。仕事もこの時期は特にやる事が無いのでな。まぁ、仕事が舞い込んで来たら道勝にやらせる。山を上り下りするだけでかなりの鍛錬になる。直家にちょうどいい」


それを聞いた、道勝様と直家の顔が青くなった。特に道勝様は体も震えだしている。


「仕事がない?そんな馬鹿な、いくらでもある、それどころか山積みだ………」


ブツブツと色々なことを言い出し始めた。心の闇は深そうだ。直家の方もブツブツと何かを呟き始めた。


「ま、毎日、こ、この道を。往復するのか?死ぬぞ……」


「まぁ、そういう訳だ。今回持って帰る分を正綱殿と道成殿の報酬だ。帰るのが遅くなるであろうから、先に帰って貰っても大丈夫だ」


「なるほど、理解した。小僧、頑張れよ」


「沢山持ってきてね」


そう言い残し、従者達を引き連れて戻ってゆく。彼らが、再び死に体の直家と会う頃には日が落ちて、暗くなった時間だったという。












「では、何かあったらまた呼んでくれ。助太刀する」


「呼んでね」


「お主ら、少なくない金を貰って置いて良くそのような事が言えるな。まぁ、今回は助かった。礼を言う」


山賊討伐した翌日、村に泊まった道成様と正綱様が帰って行く。昨日死ぬ思いをして持って言った防具、武器の類を従者の方が軽々と持っていった。最初からこのようにしたら早いことは分かっていたのだろうが、全員わかった上で直家にやらせてくれていたのだろう。喋る機会は無かったが、全員優しい人であった。


お見送りには、正勝様と道勝様、松五郎と直家の4人であった。伊吉は昨日開けたぶん、今日畑を耕して来ると言い、安兵衛さんは昨日のは流石に応えたのか、家で休んでいるらしい。俺らも家に帰ったらそのままバタンキューと言った感じだったので分かるが。


本当は直家は来る必要は無かったのだが、これからまたあの山に登り残りを取ってくると言うので、ついでにお見送りに付いてこいと言われたのだ。それは逆に失礼では無いのかと思わないでもない。


「行ったな。さて、直家、早速行くぞ。残りを何日かかけて、取りに行くぞ。早くしないと取られるかもしれんからな」


「……わかりました」


「なーに安心しろ!俺が付いている、荷物を持つのは手伝わないがな!」


「…………………わかりました」


直家の山賊討伐は、まだ終わっていない。

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