山賊偵察
何でもいいので感想宜しくお願いします。
「おお、来たか。4日ぶりだな。どうだ?村の暮しには慣れたか?」
「は、はい!失敗続きですが何とかやっていけそうです」
「そうか、それは良い事だ。あぁ、そうそう、松五郎はどうした?」
松五郎というのは、自分たちを迎えに来てくれた男の名前だ。松五郎は、厠に行くから先に行っていてくれと言われたので先に来たのだ。ちなみに、厠というのはトイレのことだ
「松五郎殿は厠に行って、少し遅れると」
「なるほど、いやあ奴は元開拓者だからな。気分屋なのだ、気を悪くしないでほしい。あれでも、実力はあるのだから。」
開拓者というのは新しい畑や水田を増やすために山や森のなどの未開拓地を切り開いていく人達の事だ。そこにいる小鬼とは比較にならないくらいの強力な妖怪もなども相手にするという。正勝様もそうだが、開拓者とお侍様と言うのはある程度人間をやめている。そして、この村の実質的な戦闘員は正勝様と松五郎殿、後もう1人いるらしいがその人は今他の村に用事がありいないらしい。後は、ほとんど小鬼などの弱いか妖怪などとしか戦ったことの無い人ばかりだ。
「まぁ、良い。今日来てもらったのは。前に聞いた山賊の事だ。あれから、周りの村や近隣の話を聞き回らせてたんだが…、伊吉のように街道で移動した人が何人かいなくなっている事がわかった。それで今回、他の村のとも協議して山賊討伐する事になった。しかし、何処を拠点にしているか分からんのだ。場所を知りたい、それと今日近くまで偵察にも出かけたい。2人ともそれに同行してほしい」
「そういう事であれば大丈夫でございます。今すぐにでも、出立出来ますが…、直家は少し荷が重いのでは?山を下って来るだけであれだけ息を切らしていたのです。今回登るとなると…正勝様にご迷惑になるのでは…」
確かに、つい数日前の出来事であるのだから伊吉が心配するのもわかる。正直、ここ最近日に日に身体の調子が良くなって行っているがまだあの距離を一切の休憩なしで行ける気はしない。ましてや今度は登りだ、前の比では無いだろう。魔物などは、正勝様がどうにかしてくれると思うが、それ以外で迷惑を掛けまくる事は容易に想像がつく。
「ふむ、少し聞いておるのだが。直家はまるで幼子なみに力が弱いとな。また、記憶喪失で妖気すら感じることが出来ないと聞く。我々、戦いを生業とする者は己を妖力を使い強化しておる。幼い頃から、妖力で己を強化する術を鍛錬してきたのだ。だからこそ、只の人とは一線を画すだけの力を得ておる。伊吉、お主は気が付いていないだろうが、お主達のような普通の人も無意識である程度身体を強化しているのかもしれん、今回直家を見てそう思ったのだが、それならば妖気、妖力の扱い方を覚えた方が良い。鍛錬法は俺がよく知っている。それを教えた方が今後の事もあるのでな、良いだろう。このままでは使えたものではない」
「そこまでのお考えで………それならば何も言うことはございません。」
伊吉が頭を大きく下げるのを見て、自分も慌てて下げる。話を聞いてて呆然としていた。何処か、正勝様はこの村の支配者で村人に対してある程度冷たい態度を取るのでは無いかと勝手に思ってたいたのだが、パッと出の俺のような怪しい素性の分からないような男でもちゃんと考えてくれていて、今回今後の為にと教えても貰える。当主として村人為に必死に日夜考え、この村の発展に尽くすという理屈があり、俺のためだけではないのは分かっているが、それでもこのような使えないと思われた赤の他人にここまでの手を差し伸べる人など元の世界にはいなかった。
その事が、今は凄まじく嬉しい。心のどこかで今回も駄目だと思ってた自分に手を差し伸べてくれる人がいるというのが、また、まだ、チャンスを与えてくれる事実に、心が震えるのだ。頭を下げたまま、涙が溢れて来る。この世界の村に来てから、感情を揺さぶられる事ばかりだ、まだ自分に、これからに期待してくれている人がいる。遅い成長を待ってくれる人がいる。この事が何よりも嬉しく、心の枷が取れてゆくのがわかる。何処か、本気になる事を馬鹿にしていた自分を恥じる。こんな世界に飛ばされてようやく気がついた。元の世界にもちゃんとチャンスはあったのだ、それを全て不意にしていたのは自分。無能、無才、それが自分をなのだ、こんな所に来てようやくわかった。それを受け入れる事がどれほど怖かっただろう。だが、無能だとわかった上でまだ手を差し伸べてくる人がいる、それを無駄にする訳にはいかないのだ。今度こそは。
「って、おい!直家もお礼を申し上げろ!お前のためにここまで考えて下さっているのだぞ………おい、泣いていいるのか?」
「あ、ありがとうございます。こ、こんな俺の為に、そこまで考えくれた。この機会を絶対無駄にはしません!!」
「お、おう、そんなに喜んでくれるとは思わなかったが……」
しかし、やる気があるのはいい事だ。俺の言う通りにすれば大丈夫だろう。正勝様が急に泣き出した俺に少し心配そうな顔を見せたが、直ぐに笑顔になる。
「案外涙脆いのだな、直家は。意外だ………」
「まぁ…良い、さて。早速出るか。もう用意は済んであるのだ。今回行くのは、俺と直家、伊吉の3人だ。松五郎は他に用事を言いつけているので今日は参加しない、異論ないな」
「わかりました。直ぐにでも出立しましょう。ほら直家、そろそろ泣きやめ!いくぞ!」
「は、はい」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
あれから半刻程(1時間)、山の中を歩いていた。案の定と言うべきか、早々に直家はバテていた。ただ今度は、休ませてとは一切言わずに2人に少し遅れながら必死に食らいついている。そんな直家を置いていかないようにゆっくり、進む伊吉と正勝様。それがわかっているからますます休ませてとは口が裂けても言えない、少しでも早く移動しなければと、気がせく。しかし、先に進んでいた正勝様と伊吉が止まる。
「ここらで休憩だ!」
「はぁ、はぁ、気を使って貰わなくても良いですよ、まだ、大丈夫です」
「馬鹿者、今回偵察もそうだが、お主にまず妖気を感じて貰うと言う目的もあるのだ。そんな状態では話にならん、少し休め」
「はい……」
そうだった、付いていくことに必死でもう一つの目的を忘れていた。妖気を感じる事も今回の目的なのだ。と言うか、俺自身からしたらそれがメインだ。教えてくれるというのだ、何一つ聞き逃してならない。大人しく休んでおこう。
「………………ふむ、息が安定してきたな。よし、始めるぞ」
「えっ!もう!?」
「ん?なんだ?息が整ったのだろ?もう十分ではないか」
まだ、10秒かそこらだぞ。それで休んだといえるのかな?いやいや、弱音はいかん。流石、お侍様はスパルタだ。少し伊吉も苦笑いしてる。
「はい、十分でございまする」
「ふむ、なら始めるぞ。………どうだ?何か感じたか?」
「?いや何も」
ふむ、駄目か。と呟きながら次はどうしようかと正勝様が言っている。伊吉が、少し顔を青くして仰け反っている所を見ると何か飛ばしたのかな?妖気とかを。そよ風のようなものすら感じなかったけど。
「妖力を高め、その運用するための鍛錬は知っていても、妖気を感じないというのは初めてだからな。色々試してみるぞ」
「はい!」
うーん、と悩みながら色々とやっているようだが、なんにも感じない。何か正勝様がやる度に伊吉の顔色が面白いように変わっていくぐらいの変化しか直家は感じない。
「お前…よくアレを受けて平然としてられるな……。無知というのは恐ろしい……」
「なにそれ…、そんなに凄いの?なんか気になるような、怖いような…」
「直家、考えていた事ほとんどやったが、本当になにも感じないか?」
「はい…。何にも……」
「ふむ、仕方が無い……か。少し危ないが、少し強硬策に出るぞ。あやまれば死ぬかもしれんから気を付けろよ。伊吉…、確か直家の妖力は弱く、少なかったのだな?」
「は、はい。多い方では無かったです。」
「え!?死ぬ!?何するんですか!?」
「なに、多分大丈夫だ。俺を信じろ。大丈夫、大丈夫。ほら、こっち来い」
そう言うと、正勝様の方から近づいてきて両肩をがしりと掴む。なんか、肩が熱い。何か、何かは分からないけど何かが自分の中に入ってくる。身体が熱くなってくる。と言うか、熱い、苦しくなってくる、声を出そうと思ったけど、出ない、口がパクパクと動くだけヤバイヤバイ、死ぬんじゃないかこれ。と思ったらパッと肩から手が離れた。声がでるようになった。まだ。身体の中に熱い何かが残っている。
「どうだ?無理矢理だが、何か感じたんじゃないか?俺の妖力をお前に直接体に流し込んだのだからな」
「はい、何かが流れこんで来て。それで、身体が熱いです。変な感じです」
「まぁ、簡単にゆうとそれが妖気だ。今のは順序が逆だがな。最初は身体の外の妖気を感じてから、次に内の妖力を感じるのだが」
「正勝様…、いくら何でも今の方法は。下手したら死んでいましたよ」
「されど、こちらの方が手っ取り早い。それに、妖気、妖力の扱いに関してはそうそう間違えんよ」
「いいよ、伊吉。大丈夫、なんか分かったかも。俺にはこの位の方が早い」
「それはなにより。でだ、その内で感じた妖力を外に放出したりしているのが妖気だ。内の妖力を感じたのだから、外の妖気も感じられるようになれるのではないか?もう1度試してみるぞ」
「は、はい」
「では、………どうだ?」
さっきまでは、何にも感じなかったが今度はうっすらと何かモヤのような物が見える、ような気がする。しかし、これで伊吉が顔を青くするようなものではないと思う。
「何かモヤのようなものがうっすらと、見えます」
「ふむ、最初はそんなものか。これだけの濃度の妖気を出してまだモヤか…。先は長い」
後で聞いたが、この世界の全ての生き物にもある程度の妖気があるらしい。妖気を感じる事の達人クラスになると周囲にどのような生き物、植物、がどれだけいるかなどという事も分かってくると言う。正勝様はそれほど、妖気を感じることが得意ではないといい、生き物の力量を図るくらいが関の山らしい。伊吉は俺の発展系の様なもので、密度がある程度の、濃さになる妖気を視認出来るらしい。
「まぁ、一段落も着いたし。そろそろ、本件の方を終わらせる。それが済んで、村に戻ったら鍛錬法を教えよう。ああ、それと妖気に頼りすぎないようにな、身体もちゃんと鍛えるのだぞ。
そう言えばそうだった。山賊の偵察がメインだった。正直自分は道なんてほとんど覚えてなんていないからほぼ全ての伊吉任せだ。今度こそ置いていかれないように頑張ろう。
もう一刻半近く(三時間程)、歩き続けている。俺もそうだが、伊吉も完璧に覚えているわけではなかったのだ。少しずつ近づいてはいるが、かなり遠回りをしていると思う。あの後一切の休憩無しに、ここまで来たが何とか直家が付いていけている。最初は1時間で半死半生位の勢いで疲れていたが、妖気なるものを感じる事が出来るようになって以降、身体が軽くなった。それこそは、三時間山道を歩き倒す事が出来るくらいに。それでも、正勝様と伊吉には遥かに及ばないが、急成長だ。やはり、妖気、妖力などが無意識に直家の身体を強化しているのだろう。今思えば、妖気のある世界でこの世界に来て調子が良かったのが少しづつ身体が妖気に慣れて来たからだろう。
それが、今回正勝様の荒療治で一気に身体が適応した。まだまだこれからだが、とりあえず今は何とかついていけることが嬉しい。身体は疲れてきっているが、今までに無い持久力に気分が高揚してある程度の疲れを吹き飛ばしている。
「ん?あ!あれだ!正勝様!見つかり増した。あそこの神社の跡地に山賊共がいます!」
「あれかぁ。確かに人数は30人程だと言っていたな?」
「はい、最低でもそれだけいます。」
「多すぎるな……。京楽辺りの中央から流れて来たのか?あの規模で被害がまだあまり出てないのは最近きた奴らだからか?装備もいい、聞いたところによると戦い慣れてもいる」
「どうかしましたか?」
あまりいい顔色では無かったので、心配になって聞いて見た。
「只の山賊集団では無さそうだ。多分最近争い事が耐えない中央から落ちてきた傭兵集団だ。仕えていた家が滅んでしまって、ここまで逃げてきた当たりだろう。他の家に雇って貰えるような名のある奴らでも無いからまだいいが、それでも厄介だ。俺と松五郎と、道勝じゃ荷が重いかもしれんな。村の方に逃げられても厄介だ。念のため戦える者が10人、荷物持ち道案内に何人かは必要だろうな」
「帰ったら直ぐに、準備しますか?」
「ふむ、一応道勝に他の村にもしもの時は力を貸してほしいと頼み込んで来いと言ったが、直ぐには無理だろう。幸い、山賊に感ずかれてもいないし、蓄えがあるのかまだ本格的な活動もしていない。だが、被害が出てからでは遅い、出来るだけ早期に準備するがそれでも2日はかかると思った方が良さそうだな」
さて山を降りるぞ。そう言い正勝様が山を下ってゆく。正直自分をあんな目に合わせた山賊など、自分の手で殺してやりたい位だが、実際会うと怖くて何も出来なくなるだろう。だが、もの運びなどに連れて言ってもらえるのであれば、ついて行きたい。だが、今度は本当に邪魔で連れて言っては貰えないだろうが。
「荷物運びに、直家。お前も付いてこい。貴様を捕まえて人生を狂わせた奴らの集団の最後を見ろ。ケジメだ。後ろで見ている分は安全だからな」
「なっ!いくら何でも危険です!正勝様!今日は、何とか付いてきていますが、荷物持ちながらだと付いていけませんよ」
伊吉の言う通りだ、妖気なるものをある程度使えるからと言って、あと2日で劇的に身体能力が上がる訳では無い。それに向かうのは人が殺し合う戦場だ。正勝様より強い人は只の傭兵集団にはいないだろうが、それでも人数が人数だ。何があるかわからない。
「伊吉、まさかお前本当に直家を家に迎え入れようとした訳ではあるまい。お前の家の貸与えた畑や水田を入れても直家を養うだけの余裕はあるまい。あの畑を貸与えて初めてお前の家は全員が満足に食べれるのだ。その事を知らんわけではないだろう?直家には何処かで自立してもらわなければならんのだ。この村のどの家も直家を食わせる余裕は無い。お前は優し過ぎるな。美徳だが、家族と天秤にかける程か?」
「…………………………………」
余裕が無くて、大変なんだろうとは思っていた。だが、それでも何とか一人分は何とかなる位だと思っていた。甘かった、それほど厳しい状況だと考えが行かなかった。誰もそのような事は言わなかった。皆優しかった、新参者の自分に対して露骨に嫌な態度など誰も出さなかった。邪魔、なんだろうな。わざわざ、正勝様が憎まれ役を買って出てくれているのだ、無碍にしてはいけない。
「大丈夫だよ、伊吉。俺も行きたかった。これはいい機会でもあるのだから」
「だけどよ……」
「何も今すぐ出ていけと言っている訳ではない。その為にお前の家に米をやったのだ。直家はこれから学ばねばならん。その為には、こういった機会を無駄にしてはならん。こやつは、記憶がない。文字を読めんのだ、商人になる事もできん。第一、こやつは世の中に慣れておらん直ぐに騙されて終わりだ。農業に従事すると言ってもこれもその為の知識が無ければならん、全くの無知な者を使えるようになるまで面倒見きれ無いだろう?そうなると、自ずと出来ることも限られてくる。開拓者とかな」
「開拓者!?待ってください、直家が弱いのは分かっているでしょう!?なぜ、危険の多い開拓者など」
「だからだ。今のうちに慣れておくのだよ。別にそれに決まった訳では無い。他にも仕事をそのうち出てくるかもしれん。だが、それを待ってられるほど余裕は無いのだ。分かるだろう?それに、一年程はこの村で面倒見るつもりだ。それで色々な事を身につけて貰う。俺が稽古をつけてやっても良い」
「一年だけでは」
「いいよ、伊吉。いつまでもお世話になってられないだろ?記憶が戻る気配もしないし、やれる事はやっておきたい。それに俺も見たいんだよ」
この世界のリアルを。甘い考えではこの先やっていけないだろう。見なければならない、経験しなければならない。そうやって、成長していかないと自分に未来は無いのだ。
「………わかった、だけど無理はするなよ?荷物持ちってかなり大変だからな。俺も行くけど、あんまり手伝えないぞ」
手伝ってはくれるのか。優しいな。本当にここにいると全部やってくれてダメになりそうだ。自分を強く持って暮らして行こう。
「帰ったら、直ぐに準備を始めるぞ。帰りは急ぐぞ、付いてこい来た時より急いでいくぞ。直家、死ぬ気で付いてこい」
と言うか早いか、速度をあげる。もはやここまで来るのに体力を使い尽くした。
「生きて帰れるかな……」
「下手したら、明後日に行く前に死ぬかもな。じゃ行くぞ」
今更ですが、いつしか小鬼に食べられていた女の手はあの山賊が捕まえた女です。捕まった女のお約束を踏襲し、捨てられました。辻褄合わせではないですよ、はい。