出石村への帰郷1
「ふぅひぃはぁ。何とか…なった」
流石に走りっぱなしはきつい。たが、そのおかげで日が出ているうちに着く事が出来た。
「この時間はみんな仕事してるだろうし…。正勝様はいるかな?」
仕事は全て息子に任せている正勝様ならば、屋敷でゴロゴロしているだろう。改めて思うけど、よく道勝様グレなかったな。俺だったらそんな親父この野郎!ってなると思う。
「親父か…」
そういえば父親をおいてこんな世界に来てしまった。何も言えずに消えてしまったのは本当に心残りだ。言った所でもうどうしようもないが。
「やめやめ、辛気臭い顔で会うのは失礼だからな」
パンパンと両手で顔を叩く。久しぶりに会うのだから、元気な姿を見せなければ。
「えーと、ここをこういって」
流石に1年も暮らしていたら道は覚えているので土井村のようにはならない。少し迷いかけたが。
「あったあった」
そうして歩くこと少し、屋敷が見えてきた。
「誰かいますかー!門を開けてください!」
インターホンのような便利なものはないので、門の前で大きな声をだす。そうしたら、のんびりと誰かが歩いてくる音が聞こえてくる。
「誰だぁ。面倒臭いことだったら道勝が帰ってきてからにしろぉ」
門の内側から気だるそうに返答が帰ってきた。この声は松五郎だ。相変わらずの面倒くさがりやで懐かしくなってくる。
「俺ですよー!直家です!」
「なに!直家か!帰ってきたのか!そうか、今開ける!」
ガタガタっと音がして、門が開く。嬉しそうな顔で直家を迎え入れた。………腰の刀を抜いて。
次の瞬間、刀が振り下ろされる。
「グゥ!」
何とか、紙一重の所で間に合い槍で受ける。そのまま、ギリギリと押し込まれていって崩される、と言ったあたりでパッと圧力が無くなった。
「ふぅー、腕を随分と上げたな?」
「はぁはぁ、マジで心臓に悪いのでやめて下さいよ……」
少し間に合わなかったら死んでいた。というか、よくよく考えたらこの人二級開拓者だったんだよな。開拓者になってみてよけい凄さがわかる。この人やっぱり化物だ。前よりはるかに強くなったけど全然勝てる感じがしない。
「いいじゃねぇか。その程度で死ぬようじゃとっくに死んでる。まぁ、反応は及第点辺りだけどな」
「……わかりましたから刀をしまってくださいよ…」
「んだよ、つまんねぇな。ま、後で稽古つけてやるからそん時にゆっくりやるか」
多分さっきのでかなり手加減をしていたのだろうけど、昔の俺と稽古する時なんかかなり気をつかってくれていたんだなと思う。適当な人だって前は思ってたけど直家の事をキチンと考えてやってくれたということだろう。
開拓者になってからの方がこの人に学ぶ事が多そうだ。もっといいお土産を買っておけばよかったかも。まぁ、そんなもの無くても暇潰しでやってくれそうだが。
「あ、そうそう。松五郎さん、はいこれ」
「ん?なんだ?お菓子?おー土産かありがてぇな」
「何が好きか分からないのでこんな感じになりましたけど、次はどうします?」
「菓子も悪くはねぇんだが…。やっぱり酒だな。次は酒で頼むぜ」
「わかりました。っと、そろそろ勝正様の所へ行っていいですかね?」
「おう、喜ぶぜ」
屋敷の部屋の間取りは分かっているのでスイスイと進んでいく。勝正様の部屋の前で一旦止まり。
「勝正様。俺です、直家です。ただいま帰ってきました」
「おぉ!なんか声が聞こえると思ったらお前か!入れ入れ」
襖を開けて中に入る。松五郎も含めて3人で畳の中に座る。一応、正勝様が1番偉いので座布団を敷いているがあまり変わらない。
「久しいな。なんとか開拓者として死なずにやってるみたいだな」
「お久しぶりです。何度も死にかけましたが、こうして生きてますよ」
「ハハハッ!お前は丈夫さだけが取り柄だからな!死んだらいいとこ無しだ!」
「そうですね。あ、これお土産です」
「おぉ、すまんな。さてと、こういう時は面倒な奴から片ずけるのが俺だ。さっそく聞こうか」
直家が手に入れた何処で戦があったか、情勢はどうかということだろう。一応、仕入れてきたがあまり変わらないという感じだ。それを、書いたきた紙と一緒に教える。
「ふむ。あまり変わらぬか…。しいていえば、隣国が少しきな臭いということくらい。しかし、隣国の大名家とは固い同盟を結んでおるし…」
確かに気になる事はそのことくらいだ。武器と兵糧の購入量が戦でもするのかと言うくらい多い。しかし、あそこはあまり良い統治をしているとは言えずに評判は悪い。反乱の分子が燻っている所でもあるのだ。多分鎮圧用だろう。
「たいして気にする必要はないんじゃねぇの?少なくともまだ安全だろ」
「そう、だな。ふぅ、分かった。直家は引き続き情報を集めてくれ」
「わかりました」
「よっしゃ、難しい話は終わったな!今度は直家の話を聞かせろ!開拓者の話は飽きが来ないからな!」
「自分も元開拓者でしょうに……」
「俺は天才すぎて面白い話なんかねぇよ!いいから話せ!」
「俺も興味ある。ほら直家、なんか話せ」
と言うので、最初から今に至るまでの色々な話。最初の試合でコテンパンにやられたこと、仲間が出来たこと、猿吉の事、長貴の事、青海の事、初めて女を抱いた時の感想を無理矢理言わされたりもした。
時間を忘れるほど話続け、勝正様達は大笑いながら聞き入ってくれた。
「なんだ?お前ら朝井村の深層にいんのかよ。珍しい奴らだな」
「そこはどんな所なんだ?」
「初心者の用の村だよ。普通は半年で皆出てくような所だ。そんな所に1年も居続けるなんて、中々いねぇよ。俺なんて1人で10日くらいしたら村変えたぞ」
所々自慢をぶち込む松五郎節。でも、確かに凄い。朝井村に来て10日なんてそこらの小鬼を狩るのにも苦戦していた直家からすると天才という自己評価は間違ってないと思う。
逆にそんな人でも2級止まりなんて、1級の人はどれだけ凄いんだろうか?なんて、思いもしてくる。まだまだ、直家からすると雲の上の話だ。
「ほぅ、そんなところに。たいしたリーダーではないか、他の人の目など気にせずに組の成長の事を考えれる人は得がたいぞ」
「そうですね、本当にありがたいです」
尊敬する長貴の事を褒められてなんだか誇らしい気持ちになる。自分もそうだが、命を預けてきたリーダーを褒められるのも嬉しいものがある。
「しっかし朝井村の深層ね……」
「どうかしたんですか?」
話の途中で急に黙り込み、何かを考え出した松五郎。
「あぁ、いや。深層でやっていけるなら次はどこら辺がいいかなって思ってよ」
「ああ!いいですね!松五郎さんなら良いところ知ってるはずですからね」
二級開拓者たる松五郎は当たり前だが経験豊富で山城国での開拓村にも勿論詳しいはずだ。そう思い、期待の目を向ける。
「あ、ああ。そうだぞ。知ってる知ってる。ちょっと待ってろ、思い出す」
直家の純粋な期待の目に少しだじろいだ松五郎。微妙に挙動不審になりながらも自分の頭を叩いて思い出そうとする。
「えーと、えー、あ!……いや、厳しいか?……俺も昔、死にかけたし…。まぁ、大丈夫だろ」
ぶつぶつの不穏な言葉を耳に拾うたびに直家の目が胡散臭いものになっていく。例え知っていたとしてもこの人は加減を知らない訳では無いが、かなり厳しめだ。あと、適当である。本当に大丈夫かと不安になってきた。
「いま、なんか死にかけたとか言ってましたけど…」
「気にすんな。開拓地はどこもそんな場所だ」
「そりゃそうですけど…」
「まぁ、聞け。朝井村の深層で通用するなら遠山村なんてどうだ?あそこは今までの場所とは一味違うぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ、開拓者村としては一応中堅所の村だな。勿論妖怪も強くなるが、何より上級の妖怪がよく出る所なんだよ。クソ強いぞあいつら」
「……そんなの、実力が足りなかったら全滅じゃないですか」
「最初は全力で逃げろ。あいつらも全力で追いかけてくるけど、運がよけりゃ多分助かるかもしれない」
それ会っただけでほば全滅確定っていうんですよ。俺達を殺す気なのかと疑いたくなる。
「どっちにしても遠山村は通る道だ。あそこが開拓者としていわゆる一流と呼ばれる4級以上になれるかどうかの大きな壁だな。そこさえ越えれば一流開拓者になれる」
「そりゃ、越えれたらなれるでしょうけど…」
「まぁ、別に駄目でも1回行ってみることを勧めるな。あそこは開拓者を10年以上やってる奴らもいれば、極端な話半年であそこまでいってもう次の村に移ろうとする奴らもいる。要は色んな奴らがいるんだよ。経験豊富な開拓者の話は時に金に勝るものがあるからな」
それは、確かにいいかもしれない。朝井村はその点初心者しかいなくて助言なんて望めないのだ。話を聞くだけでも価値はある。
「それは、いいですね!提案しておきます」
「そうしとけ、そうしとけ。あとよ、あそこは結構大きな村でな女も食いもんも色んなもんが朝井村に比べたら2、3倍はあるぞ。社山城下町とは比べられねぇがいい村だぜ。特に女は良かった、最高だぜ」
「そ、それは…いい村ですね…」
俄然興味が出てきた。しばらくそういう店には行ってないし、そろそろ溜まってきた。そういう話を聞くとそれだけで行きたくなってくる。というか、よく考えると猿吉は今頃社山で遊びまくっているのだと考えると羨ましくなってくる。
「いいなぁ開拓者というのは楽しそうで…」
その時黙って話を聞いていた正勝様がこうぼやいた。武士は恵まれているがこういった自由さはない。その点でいえば羨ましく感じるのだろう。
「そりゃ、命掛けてんだ。このくらいの約得なきゃ誰もやらねぇよ」
まぁ、その通りだと思う。楽しみがなければ直家も嫌になっている。
「話を聞いていれば少し身体を動かしたくなってきた。直家!久しぶりに稽古つけてやる。行くぞ」
「お、いいねぇ。俺も付き合うぜ」
「あ、やっぱり…」
来るだろうとは思っていたがこんなに突然来るとは思わなかった。だがまあ、しかし直家もどれだけ通用するようになったのか興味がある。
「よろしくお願いします」
槍を担ぎ広い庭へとでる。かなわないまでも少しくらいは通用するだろう。
「ガッハッ!」
「ふぅむ。1年ではこんなものか。まぁ、直家にしては伸びたほうだな」
あれ?おかしいな。通用しないどころか実力差が離れてる気さえしてくるぞ。
まるで相手にならない感覚は一年前とまったく変わらない。開拓者としてかなり強くなった自負はあるが、やはり武士というのは格が違うようだ。
「おら!立て!次は俺だ!」
ボロ雑巾のようになり、打ち捨てられたような直家にそんな事を言えるあたり流石松五郎。知ってたけど。
「グッ!ハァハァ」
返事などする余裕などない。槍を構え松五郎を睨みつける。
「いいねぇ。いい顔だぁ」
そんな直家の顔を見て口角を上げる松五郎。毎回思うが戦闘中は性格が変わるのだこの人。
「死ぬなよぉ!」
「ヌォオオオオオ!」
刀を担ぎこちらに高速で近ずいてくる松五郎。毎度の如く気合と根性で己を鼓舞し迎え撃つ。
「…………………………っ」
「お?生きてるな」
「馬鹿!やり過ぎだ!死ぬ1歩手前だぞ!」
「ぅう、ぐぅ」
「………相変わらず、不気味な奴だな」
「止めを刺したくなるような動き方だよ」
もぞもぞと時折痙攣しながら動く。毎度倒れても起き上がろうとするからこういう動きになるのだが、傍から見るとかなり気持ち悪い。
「まぁ、時間も時間だ。このくらいにしておくか…」
「そこそこ激しかったからな。腕を上げたってより丈夫さに磨きがかかった感じだったが」
「異様なほど倒れなかったなこやつ。本気で攻撃したくなったわ」
「死ぬぞ」
ちなみにこの2人が本気で直家を攻撃したら、一撃で直家は死ぬ。手加減すると中々倒れないという地味に嫌な相手だ。
「ま、半刻ほどほっとけば回復するだろ」
「そうだな」
直家の扱い方の雑さでこの2人にかなうものはいないだろう。それでどうにかなる直家も直家だが。
適当なヒロイン出したいけど全然思いつかない……。




