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成近姉さんの嫁入り騒動


「お、見えた見えた」


杜山城下町から出発して2日目の昼頃。伊吉と一緒にここを通った時は3日かかったが、少し早歩きと荷物がこぼれないように走ったりを繰り返してなんとか今日中に出石村に着く位になった。


まず、その前に成近姉さんに会いに行ってお土産を渡さないといけない。ついでに、お兄さんにも。なので、土井村に寄っている。


「成近姉さんいるかな?」


荷物を担いで土井村に入りウロウロとさまよう。村の人に怪訝な顔をされたが、仕方が無いだろう道を覚えてないのだ。


「って、聞いた方が早そうだな」


何も1人で歩き回るよりも村の人に聞いた方がいい。


「すいません。屋敷ってどこにありますか?」


「あー、アンタ商人さんかい?ここにまで売り込みにくるのはいいけどね、多分買わないよウチの領主様は」


「いえ、違うんですけど…」


「まぁ、いい。行くだけ行きな。あっちの方だよ」


最後まで誤解は解けなかったが、道は教えてくれた。お礼を言ってそちらに向かう。


「そういえば、久しぶりに商人に間違われたな」


前は商人の息子と言われていた。行商人に変わったが、何となく懐かしい。思えば、この世界に来てまだ2年も経ってないのだ。何となく、不思議な気持ちになる。


今、この世界の事が夢で普通にあの世界で目が覚めたら喜ぶだろうか?


考えようとしてやめる。考えても仕方が無い事だろう。言えるのはこれは夢では絶対無いということだけ。それが、願望からくるのかどうかはわからないが。


「お、あれだな。」


広い村の中を少し歩くと屋敷が見えてくる。ここまで来ると、記憶が戻ってくる。


「うーん、時間も時間だからいないのか?」


遠目から見てもどうも人がいるようには思えない。いや、いることはいるのだが女中さんが一人だけのように見える。


お昼頃なのでもしかしたら妖怪退治に出かけたりしているのかもしれない。なら、ここで立っていてもしょうがないので屋敷で待たせてもらえないか頼もう。


「すいません!誰かいますかぁ!」


「はーい。えーと、どちらさま?商人さまなら特に必要な物が無いのでお引き取り願いたいですけども…」


何か布巾のようなもので手を拭きながら、訝しげに直家を見る。一方直家の方はこの女中さんに見覚えがある。この村によった時に成近姉さんを叱っていた女中さんだ。


「いえ、商人ではないんですけども…。覚えてませんか?」


「んー………あ!成近様と一緒にいたあの子か!はぁー、大きくなったわねぇ」


この場合の大きくなったは身長じゃなくて筋肉で身体全体が肥大している事だろ。一応、身長も伸びたのだが誤差の範囲内だ。


「はい、どうもお久しぶりです。成近姉さんに会いに来たんだけど、今いますか?」


「今はいないんだけど、多分もうすぐ来ると思うわ。屋敷で待っていく?」


「はい!おねがいします」


そのまま、屋敷の1室に案内されてそこで待つように言われる。


「よかったわ。最近、成近様の元気が無いから直家くんの顔を見たら喜ぶわよ!」


「元気が無い?」


「えぇ、多分遊び相手がいなくなっちゃったから寂しいのよきっと」


そう嬉しそうに言って部屋から出ていく。屋敷に一人だけだったのでやる事が沢山あるのだろう。忙しい中ありがたい事だ。


約三十分程だろうか、目をつむり眠気と格闘しながら待つ中玄関の方から声が聞こえて、あ、帰ってきたな、と思った次の瞬間襖がバン!という音を立てて開く。


「うぉっ!」


流石に速すぎるので、一気に目が覚めると同時に変な声が出た。


「直家…久しぶり。それと、ごめん」


「えっ、何が!?」


俺の顔を見て嬉しそうに久しぶりと言ってくれたが、すぐに申し訳無さそうに謝る。それに、成近姉さんの着ている服も晴れ着姿というか、まるでお見合いの時のようなきらびやかな姿だった。


もともと美人さんの成近姉さんが綺麗な服を着るだけで、まるで絶世の美女のような印象を受けて一瞬見惚れる。


そのうちに、ドタドタと成近姉さんを追いかけてくる足音が聞こえてきて正気に戻った。


「はぁっ!?」


今度は成近姉さんが、直家に抱きつきぎゅっと抱きしめる。


思考が追いつかない直家。目をつむり恥ずかしそうに抱きつく成近姉さん。追いついたお兄さん2人がこの光景を見て固まる。更に、姉さんの母親である道成様も固まる。


「は、はは。どうも、お久しぶりです。あ、これお土産です」


もう思考を投げ捨てて、お兄さん方に下駄をプレゼント。勿論、姉さんは抱きついたまま。


意味わかんないけど、多分ここで殺されそう。お兄さんの目に殺意が宿るのを見てそう思ったのだった。













それからの騒動は割愛する。ただ、言えるのは3回は死の可能性があったということ。約20分後にようやく、武力の行使による野蛮な解決ではなく、話し合いという平和な所まで持ってきた。


それも、下手な返答一つで首が飛びそうだが。ちなみに、成近姉さんは最初の一言以降一切喋っておられずずっと直家に抱きついている。


可愛いことは可愛いが、そろそろ命がかかっているので助けて欲しい。


重苦しい空気の中、現状把握のために再確認する。


「えぇ、えーと。つまり今日は成近姉さんのお見合いの日でありそれが終わって帰ったら急にこうなったと」


「あぁ。俺の可愛い可愛い妹を預けるに値すると決めた最精鋭のトップだ。家柄も良い、性格も良い、文武両道で顔も良くて誠実。俺の信頼出来る友人だ」


そう言うのは以前に俺を殺そうとした道達様。今回も俺を殺そうとした。というか、常に腰に刀をさして手がうずうずしてるのが分かる。やべぇお兄ちゃん。


もう1人は成達様というお方。直家とはこれが初めて会う人である。気の短い兄と比べてこちらは温厚そうだが、こちらも刀を離さないところを見ると油断してはならない。体格などは道達様と同じだが、目が糸目の人で何考えてるかわからない。ちょいやばお兄ちゃん。


ここのお兄さんやべぇのしかいねぇ。


「はぁ、情けない。あなたもう、子供じゃないのだから」


「いやだ」


口を開いたと思えば、拒絶の言葉。


「なぁ、妹よ。何が不満なんだ?言ってくれ!お兄ちゃんが何とかしてやる」


「……よく分からないですけど。成近姉さんが結婚したくないんだったら今回は見送ったらどうですか?」


政略結婚とか色々なしがらみは分からないけど、嫌々結婚しても長続きしない可能性が高い。なら、いっそやめた方がいいのではないのか。


「実はこれが最初じゃないのです。もう、5回目でして。その度に逃げ出したり駄々をこねて破談になっているのです。今回はその中でも最良の縁談。ウチとしてもこれで決めてしまいたいのです。また、破談の度に母上が後始末をして回っているのですから、そろそろわがままはいけませんよ……」


今度は糸目兄さんが喋ってくる。こっちは道達様レベルにシスコンではないようだ。それに、確かに言ってることは確かに正論なのだろう。ただ、ぎゅっと直家の服を掴む成近姉さんを見ると賛同は出来ない。


「せめて、何で結婚をしないのか理由を言わないとダメですよ。言ってください」


「……」


「成近姉さん。嫌なら嫌な理由を正直に言わないと。俺も何とも出来ないよ」


「………めんどうくさい。疲れる。もっと楽してたい。もっとゴロゴロしてたい」


あ、これ擁護できねぇわ。理由としては最低の部類に入るぞ。正直になんて言わなきゃよかった。


「……」


「妹よ…。流石にそれは……」


道成様は額を、抑えて顔も青い。道達様は流石にダメだろって顔してる。糸目兄さんは目を完全に閉じた。


どっちかっていうと、直家も今の一言でお兄ちゃん側に鞍替えしたいくらいの気持ちになった。だが、そういう訳にもいかず。


「そこまで正直に、言う必要はないよ!なんか、適当な嘘を言えばいいんだから!」


小声でそう伝える。その言葉に、んー、と思案顔になり、あっ!、と、何かを思いついたような顔に言いしれぬ不安を感じる直家。


「待って、何思いついたか言って…」


「実は私、直家が好き」


嫌な予感とは結構当たるもので、予想通りぶっこんできやがった。


「なに!それは、本当か!」


驚きと殺意と殺意、と色んな感情がごっちゃになった道達様。卒倒しそうな道成様、糸目は限界まで目が開く。怖い。


「うん。相思相愛。もう、子供もいる」


「いやいやいや!何言って「ほ、ほ、本当か!こ、ここの野郎!そこになおれ!俺がぶっ殺してやる!!」


「兄さんやめてー私の愛しの人を殺さないでー」


すげぇ、棒読み。これに騙されるのはこの家族くらいだろう。


「くっ!しかし!はっ!子供は?今何ヶ月だ!」


「2ヶ月?」


「くっ、だから気がつかなかったのか!」


「話を聞いてください!僕は何もやってないですよ!それに、時期的に無理でしょ!2ヶ月前なんて俺いませんよ!」


「うるさい!妹と話をしているのだ!黙ってろ!」


刀を抜き、息を荒げる兄に糸目が一言。


「兄さん…少し落ち着こう。流石に嘘だよ…」


「直家……バレちゃった」


バラちゃったじゃないよ…。下手したらこの村から出ることが出来ずに死ぬ可能性もあったぞ。


「でも、直家が好きなのは本当」


「そうなのか………」


こちらを睨めつけてくる道達様。めっちゃ怖い。ちなみにここも全部棒読み。


「はぁ。分かった。そんなに嫌ならもういい」


と、ここで道成様が諦めたようにそう言う。それを聞いて急に花の咲くような笑顔を見せる成近姉さん。


「あと、いい加減騙されるの辞めなさい道達」


「いや、でも。……はい」


「予想はしていましたが、今回もご破談と。仕事に戻りますよ道達兄さん」


流石5回目。流れるように終わっていく。お兄さん2人とも部屋からでる。


「……今はいいけど、いつか必ずそういう日がくる。駄々をこねられるのはもうそんなに長くは無い」


ぎゅっとまた、無言で直家にしがみつく。


「いっそのこと、あなたが貰ってくれれば……娘も懐いているし」


好きかどうかではなく懐いているか懐いていないかが基準になっているあたりもうどうでも良くなってきたのだろう。5回目なら仕方ないような気がするが。


「ハハッ、お兄さん2人が許さないですよ俺じゃ。まぁ、こんなに美人な人を貰えるのであれば喜んで貰いますけどね」


「!?」


冗談半分にそう言ったら、ずっと抱きついていた成近姉さんが急に俺を突き飛ばした。そのまま、姉さんも走って部屋から消えていく。


「いたた、なんなんだいったい……」


「フフ、何なんだろうね」


直家からは角度的に顔は見えなかったが、道成様は急に少しニコニコしだした。


「さっきの話。視野に入れておく」


そう言って、道成様も部屋から出ていく。残されたのは直家一人。


「あ、お土産」


お兄さんに下駄を渡し、受け取らないかと思ったがちゃんと受け取った糸目が2足。しっかりしてるというか、ちゃっかりしてる。


しかし、まだ髪飾りを成近姉さんに渡してない。そろそろ、この村を出発しないといけないので、成近姉さんを追いかけて渡さないと。


「どこいったんだろ?」


屋敷の中を探していなかったので村に、村にもいないようなのでどうするか。


その時、俺をちょうど商人と勘違いしてそのままの村人がいたのでもう1回聞いてみる。


「成近姉…様、いますか?」


「ん?あんたさっきの……。下駄が無いところを見ると売れたのかね。おめでとうさん。あぁ、成近様ねさっき顔を真っ赤にしてあの山を走っていったよ」


「あぁ、ありがとう!あと、俺商人じゃないからね!」


「頑張って売れよぉ!」


うーん、いい人なんだけど話を聞かないね。まぁ、場所が分かったからいいんだけど。


言われた山を少し歩いた所で、成近姉さんの妖気を感じ取って近づく。


姿が見えてくる。晴れ着を着ているのですぐ分かる。しかし、それも走ってきた為かなりほつれたり、脱げかけているところもある。


「いたいた……成近姉さん!」


そう声をかけると肩がビクッと震える。こちらを振り向かずスーハーと深呼吸をしてこちらを振り向く。顔は普通だ。


「なに?」


「何、じゃないよ。急に突き飛ばして逃げたら驚くにきまってるじゃない」


そういいながら、懐から買ってきた髪留めを取り出す。


「それ……」


「お土産っていうか、成近姉さんへの贈り物。前髪が邪魔ってよく言ってたでしょ?これいいかなって思って。どうかな?」


「……嬉しい。……どう?似合う?」


「うん。やっぱりこっちの方が可愛い」


「………………………………そう」


顔を真っ赤にして下を向き、絞り出すように返事をする。


「どうしたの?顔が真っ赤だけど、熱でもあるの?」


髪留めで前髪を上げて出たおでこに、手を当てる。


「んー、少し熱いね」


「!?!?。だ!大丈夫!」


「そ、そう?養生してよ。あ、俺はそろそろいくね」


「……もう?ここに泊まっていかない?」


「時間があんまり無いんだよ。ありがたいけど先に進まないと」


「そう……………来年も来る?」


「もちろん!成近姉さんに会いにこないと俺も元気でないよ。じゃ!またね!」


そう言って、山を急いで降りる。思ったより滞在時間が長くなった。日が落ちる前につかないといけないので結構ギリギリ。


「やばいな。野宿はもう勘弁だぞ!」


出石村まではまだもう少し。













直家がいなくなった山の中。ひとり、貰ったばかりの髪留めを触る。


「フフッ」


嬉しそうに笑うその顔を見るものはまだいない。


ようやくフラグっぽいのが出せました。フラグってか、落ちてる感じしますけどね。

あと、直家くんがめっちゃジゴロなセリフをいえているのは姉さんには可愛いとか美人とかいい慣れているので平気でいいます。姉さんだけですけど。

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