深層の脅威3
初日を終えてから約1ヶ月程の過ぎた。紅葉の綺麗な秋ももう終わり、薄くだが雪が少し積もっている。
「がぁ!このぉ!りぁ!」
「りゃぁぁぁぁあ!」
そんな中、白い息を吐きながら大赤猿を相手に必死に立ち回っている2人。直家と猿吉だ。
大赤猿とはだいたい想像がつくだろうが赤猿の進化系。見た目は猿というより、ゴリラ。赤い毛皮に黒い顔。知能も赤猿より高く、力も強い。嫌なやつだ。しかも鬼と一緒で赤猿を従えてやがるからたちが悪い。
小物掃除はなにより優先なのでウチの最高戦力の長貴を投入し早めにかたをつける。それまでの、抑え、出来れば討伐は直家と猿吉の仕事だ。
だいたい青海の先制攻撃を与えて、硬い皮膚や厚い体毛を弾き飛ばし、その傷口に攻撃を加える。初日は何とか直家と猿吉の2人で何とかなったがどうにもならない時は長貴が参戦するのを待つ。大体このパターンになる。
そして、この1ヶ月は常に他の妖怪集団に鉢合わせないように、距離的に孤立しているのを襲うのを徹底し、絶対に戦闘中に他の集団に参戦されないようにした。
「のぉらぁ!猿吉!」
「はぁ!直家!」
死闘に死闘を重ね直家と猿吉の連携が更に磨きがかかり、1日に一体が限界だったが今では一体は余裕で、上手くいけば2体目にいけるだけに成長した。
鬼や大赤猿との戦いは、長貴が雑魚処理を終えて参戦したら楽に終わるので、主に猿吉が意地になって長貴参戦前に決めてしまいたいのだ。そのせいか、おかげか、直家も死力を尽くすはめになる。
戦闘を早く終わらせるのを望むのであれば攻撃の手を緩めることは出来ない。だが、勿論相手の反撃も苛烈だ。それを受け止めるのはほとんど直家なのだ。直家も直家で更に丈夫になった自覚がある。なにせ、一撃まともにくらうだけでHPがあったら8割は削れる位の威力なのだ。油断すると即死である。
「オラァァ!この!」
今回も苦戦である。長貴の方もまだまだ時間がかかりそうだ。やはり、無理に攻めたのが祟ったのかこちらも体力と妖力が、尽きてきた。この調子だと、今日はこの大赤猿一体を討伐して終わりになりそうだ。
正直、大赤猿の攻撃を受けるのはかなり骨が折れる。動きが速く、予想外の動きを多くする。致命的な一撃を受けることは無いが、かなり時間がかかることが多いのだ。
「直家ぇ!急げぇ!絶対!長貴が来る前に終わらすぞぉ!」
直家の後ろから大赤猿に突撃する猿吉が叫ぶ。猿吉の刀はまた、青海が作った腹辺りの傷を斬り、離脱。それに怒って大赤猿が追撃しようとするのを直家が止めるのである。
「クソッ!結構ギリギリだぞ!あぁ!重い!」
「テメェがそのままずっと抑えてれば1分以内に終わらせてやるよ!」
「1分も攻撃を受け続けたら死ぬじゃねぇか!冗談じゃねえよ!このォ!」
怒り狂う大赤猿の攻撃を避けたり、受け流したり、命を削りながら受け止めたりする直家。全て直撃を避けているにも関わらず血が噴き出す程の傷が一撃食らう度に出来ていく。本当に1分もまともにやりあっていたら多分死ぬだろう。
「おりゃぁぁぁぁ!」
また死角から猿吉が攻撃しようとする。今までは反応出来なかった大赤猿が今度は、ニヤリと笑いながら猿吉の方を見る。
「なっ!」
驚く猿吉。勢いのついた猿吉の身体は止まらない。これを、狙っていたのだろう。流石、頭が良いだけある。
「ぬぉおおおおおおおおおおおお!」
しかし、その体勢は直家から傷口が丸見えだ。ダメージを受けて動けないと判断したのだろう。だが、甘い。直家の丈夫さを考慮しなかったため致命的な隙を与えることになった。
連続で槍を突き出す直家。それをまともに貰い、不意の激痛に驚く大赤猿。完全に動きを止めた身体に更に直家が放てる最大限の連撃を繰り出す。一突き、二突き、三突き、身体に槍が刺さるたびに身体が大きく震える。衝撃が内蔵にも達しているのだろう。
「よくやったぁ!直家ぇ!これで終わりだァァァ!」
そして、猿吉も攻撃に参加し大段上に振り上げた刀を思いっきり振り下ろす。ビクリと大赤猿の身体が震え背中から倒れる。更に倒れた大赤猿に直家と猿吉がのしかかり更に傷口に攻撃を加え続ける。
「………ふぅ、流石に死んだろ」
倒れた後も10秒ほど傷口がグチャグチャになり、内蔵も骨もめちゃくちゃになるまでやり、完全に生命活動が終えたと確信してから油断せずに離れる。
「前、大変な目にあったからな。確実に死んだと思うまで油断すんじゃねぇぞ」
「猿吉が倒した妖怪の上に立って高笑いしてるから悪いような気がするけど…」
そう、実はこの大赤猿。死んだフリをするのだ。以前初めて討伐した時に死にかけの大赤猿に猿吉が直撃を貰って危うく死にかけたことがあるのだ。なので、この大赤猿に関してはかなりグロテスクな状態になるまでやる必要がある。
「ふぅ、そっちは……終わったね。今日はもう一体いけるかい?」
「あぁ、長貴お疲れ様。そうだなぁ、ちょっと厳しいかも」
「なんだ?直家。軟弱な野郎だな。俺は余裕だぜ!」
雑魚処理の終わった長貴が合流し、戦力状況を確認する。今日は結構苦戦したのでもう一体は厳しい感じだ。猿吉はいつもの強がりである。長引いた分猿吉も、妖力はもう3分の1も残っていないだろう。中層の事を考えるとそろそろ引き時だ。
「そうか……。青海さんは?」
「私は……もう一回なら大丈夫です」
「分かった。今日はここまでだね。剥ぎ取りがすんだら帰ろう」
長貴自身はまだまだ余裕そうな所があるのが、申し訳ないがこれ以上は厳しい。猿吉は少し不満そうだが、異論は無さそうだ。青海さんもまだまた出来ると言うのに情けない。もっと、強くならないといけないだろう。
「悪いな」
「いや、負担は直家君が1番大きいのは知ってるから、仕方ないよ」
負担は大きい自覚はあるが、それだけが直家の長所なのだ。それが無ければ何もないのだからもっと出来ないといけないのに…。焦ってもしょうがないのは分かってはいるが、どうしても自分だけが実力不足な気がする。
そんな、陰気な雰囲気が長貴にも伝わったのか苦笑いしながら更に声をかけようとしようとした瞬間、顔色が変わった。
「みんな!」
その声からにじみ出る焦燥感でわかった。妖怪の襲撃だろう。みな、瞬時に武器を構えて長貴の声のした方を向く。
「青海さん!」
「水よ……」
長貴の声で詠唱が始まる。まだ姿を見せてる訳じゃないが、1秒でも早い方がいいと判断したのだろう。
直家をそちらを向き、妖気の有無を見る。そうすると、2体の深層妖怪の鬼と大赤猿、そこ下に合計40近い小鬼や、赤猿の妖気を感じ取れた。しかもかなり近い。
「こんなに…。なんで、気が付かなかったんだ」
「いや、あの二つの集団は見ている。気が付かなかったと言うより逃げ遅れたと言った方が正しいと思う」
どういうことだ?二つの集団を更によく見てみる。そうすると、二つの集団が、仲間として進んでるわけでなく片方が争いに負けて逃げてくるようにみえる。どっちがどっちだか分からないが、どちらも少しづつ数が減っているのだ
「逃げた先に俺らがいたってことか…。クソッ!運の悪い」
「この速度で来られるともう10秒位でここに来るね。どうする?戦うかい?直接2体を相手するわけじゃないからなんとかなるかもしれない」
「いいじゃねぇか。1日に3体の討伐。新記録だぜ?」
「危険すぎる気がするけど……。もしもの時は逃げればいいか…」
もとより、直家達には眼中に無いはずだ。それが逃げ出すだけであれば、余程の怒りを買わなければ追っては来ないだろうしもう片方が逃がさないだろう。
「グォォォオォオオオオ!」
「オウッオウッ!ォオオオォ!」
ついに姿を表した。互いに傷だらけだが、鬼の集団の方が優勢なようで大赤猿が逃げ惑っている。こちらの事も見えているはずだが、そんな余裕など無いのだろう、完全無視だ。
しかし、こちらは無視出来ない。もはや、戦闘準備は整っているのだ。あんまりいいことの無い開拓者だが、たまにこういった漁夫の利を取れるからいい。勝てるかどうか分からないけど。
なにせ、こちらも消耗が激しいのだ。条件的には3者とも満身創痍。もしもの時はいつでも逃げれるようにしておかなければならない。
「詠唱終わりました!」
「よし!そのまま鬼に対して全力で!」
「はい!水球連弾」
「いくぜぇ!全員ぶっ殺してやる!」
青海の妖術が発射されるとほぼ同時に猿吉が走り出す。油断しているうちに一気にケリを付けたいのだろう。長貴も走り出す。
「直家くんは、消耗が激しいからそこで青海さんを守ってて!青海さんはもう1度詠唱!」
「は、はい!」
「わかった!」
長貴も本気だ。完全に一発目の奇襲で決めるつもりだ。
戦況は青海の放った妖術が2発、鬼に直撃し不意の一撃の衝撃で横に倒れる。スグに起き上がり青海の方を忌々しそうに見つめるが、ダメージが大きいためにすぐには動けない。はずしたもう1発は赤猿と小鬼が戦っている所に直撃し互いの攻撃の手が一時緩んだ。そこに、猿吉と長貴が切り込んでいき、虚を突かれた妖怪達はなすすべなくやられていく。
一方、逃げ惑っていた大赤猿はこれを好機と見たのか呆然とする赤猿に攻撃を命じ、自ら倒れる鬼に攻撃くわえようとする。
乱戦だ。鬼は邪魔な直家達をどうにかしたいが、大赤猿がそれをさせてくれない。そんな、誰からも狙われない好機のなか進み続ける猿吉達。
大赤猿に攻められて対応をよぎなくされる中、青海の妖術は警戒したのだろう。小鬼の何体かに青海を襲わせようとする。
「はぁ!りぁ!」
しかし、そんなことを直家が許すはずもなく、襲ってきた小鬼をなんの危なげもなく全滅させる。
「グゥッ!ヌォォォ!」
その光景を横目で見ていたのだろう。鬼が怒りの声を上げて攻撃を続ける大赤猿を持ち前の凄まじい膂力で、吹き飛ばし直家の方へ走ってくる。強力な妖術をもう1度受けるわけにはいかないと判断したのだろう。最高に迷惑な判断だ。小鬼位なら問題無いが、鬼単体を1人はキツイ。というか、死ぬ。
チラリと後ろを振り向き妖術の発動がいつになるか確認する。迫ってくる鬼の姿は青海だって見えているのだ。それでも、恐怖心を抑えて詠唱してくれている。
そんな姿をみて、退けるわけが無い。
「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおお!」
「グガァアァァァァァァァァア!!」
ここから先は死んでも通してはいけない。無理でもやりきる。結局根性。多分この世界じゃなかったらもう軽く3桁は死んでる。
槍を鬼に向け、腰を落とし衝撃に備える。流石に穂先にそのまま突っ込むのは避ける為に勢いが弱まる。その瞬間、直家よ方から踏み込み鬼の傷口に刺突。それを、避けて鬼が直家の肩を掴み押し倒そうとする。
「直家くん!」
長貴の声が聞こえる。が、返事をする余裕は無い。ここで押し倒されれば、後ろにいる青海がやられるだろう。凄まじい膂力だが、耐えるしかない。
「グガァァァア!」
「ぐぬぅぅぅぅう!」
槍を支えにして耐える。倒れろと叫んでいるような鬼の顔がすぐ近くにあり、えてして睨み合いのようになる。鬼も必死なのだろう。
時間にして、約三秒。全身の骨がメキメキとヒビが入る音、筋肉がブチブチと千切れる音、身体中から悲鳴を全て無視して手に入れた3秒。
「水球連弾!」
意識を失い、崩れ落ちる直家の粘り勝ちが確定した。
こっからは結構時間が、飛ばし飛ばしになるかも。




