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中層へ6

遅れてしまいすいません。

「うおッ!?なんで!?」


「何でって助けに来たんだよ!ほら!走って!こっち」


「馬鹿直家!早くしろ!死ぬぞ!」


「!?!?う、ん?」


突然現れた長貴と猿吉に目を白黒させながら瞬間的に反応出来ないでいた。しかし、言われた通り走って逃げながら少しづつ状況を理解し始めた。


「なんで!?俺の場所分かってたの?」


「んなわきゃねぇだろ!!偶然だよ!偶然!!誰がお前を助けるかよ!長貴がうるせぇから仕方なくだよ!」


本当は一番猿吉が直家を助けようとした事が気恥しかったのだろうか、猿吉の発言にそばにいた長貴がプッ、と吹き出す。そんな長貴に、余計な事を言うなよと睨みを効かせている猿吉。そして不思議な行動を取る2人を見て直家が首を傾げる。


「は、早く!大蜘蛛が…‼」


必死に走っている中、前で妖術を放つための詠唱をしていた青海が焦った声をだす。次の瞬間、高速でこちらに移動してくる音が聞こえてくる。後ろを振り向くと、吹き飛ばしたはずの脚がまだ不十分だが回復し、紫色の血を流しながら回復する為に全力で脚に妖力を流したのだろう、傷口から妖力が目に見える水蒸気のように吹き出す。紅く光る目と身体に走る赤いライン。暗闇で赤い線を残し走る。怒り狂った大蜘蛛の姿があった。


「何だあれ!?大蜘蛛なのか!!」


「僕達を逃す気は無いね。完全にブチ切れているよ、あれ」


「はっ!でもよぉ、まだ回復しきってないぜ。脚が遅い」


猿吉の言う通り、迫力は遥かについたが怒りに支配され走りにも冷静さは感じない脚をもつれさせながら前へ前へ進むだけ。狩りの名手の大蜘蛛の姿はこれには無い。


「皆さん!避けて!!」


青海の声になんとか反応する。嫌な気配がする3人が走っていた場所から横に思いっきり回避する。


なんとか回避した次の瞬間には、大蜘蛛が上から3人を押しつぶそうとかしたのだろうドオォォンとした重い音と共に降ってくる。


「飛んだ……のか?」


後ろから追いかけるだけじゃまどろっこしいと感じたのであろう。ジャンプして3人を潰してしまおうと考えたのであろう。少し呆然とした3人だがすぐ我に返り身体を起こし走り出す。


対してジャンプ自体がかなり無理をしたのだろう。大蜘蛛は元々そういう動作をあまりしない。ましてや脚が回復しきってないのだ。すぐに体制を立て直せないでいた。なんとか立とうとするが脚から血が噴き出しすぐにガクッと地に伏せる。しかし、目は未だ逃げる直家達を見つめている。逃がす気は一切ない。


「青海さん!」


「はい!!水球弾!!」


しかし今は機動力があり妖術を当てるのが困難な大蜘蛛に確実に着弾できる、千載一遇のチャンスだ。それを逃さず青海が大蜘蛛に水球弾を叩き込む。大蜘蛛も逃げようとしたが身体が動かずに全て着弾する。


「これは…………行けるんじゃねぇか!?長貴!」


「ダメだ!動けないうちに逃げるよ!回復されたら今度こそおしまいだ!」


「チッ!そうかよ!」


完全に決まった。回復は到底追いついていない。回復仕掛けた脚は今度こそ完全にすぐには回復出来なくなった。身動きが本格的に出来ないのである。機動力のある妖怪だが、その分、防御力は低く直家達でも十分に傷付けることができる。それを、わかった上で猿吉は倒してしまおうと提案した。そしてそれは十分に可能であった。


だが、長貴は倒すことはせずに逃げる事を選択した。今の状態の大蜘蛛から、逃げ切ることは容易であり、安全である。だが倒せば、直家達からすれば多額の金額が手に入るだろう。それは、金欠の玄武組からしたら喉から手が出るほど欲しいものだ。しかし、倒す為にかかる時間ともし回復してしまったらというリスクを天秤にかけてより安全な方をとった。これは、どちらかと言うとリーダーとしてと言うより個人的な性格が原因の判断だろうが。


妖術を行使して少し辛そうな青海を逃げる直家が担ぎ上げて走る。少しずつ、ほんの少しずつ回復している大蜘蛛を残して視界から消えるように走る。最早動けない大蜘蛛など脅威では無かった。早々に距離を大きく離して遠くで大蜘蛛の紅く光る身体が見えるだけ。それももう見えなくなった。


じっとこちらを見る、動けなくなった大蜘蛛の赤く光る目線はいやに心に残ったが。














担いだ青海は元に戻し、夜はまだまだ深く暗闇の森の中を歩く。中層は抜けた。中層にあった圧迫的な感じは無くなりいつも稼ぎ場としている朝井村に近い場所なのであろう。


中層に入った時は死を覚悟した玄武組だったが。ここに至ってからは皆の表情も明るくなった。ここならば暗闇のという不利な状況でも何とかなる。それに明らかに妖怪の数も少ない。少しずつ口数も多くなる。


「一時はどうなるかと思ったけどよ。何とかなるもんだな」


「二体目の大蜘蛛が現れた時なんか本気で死んだと思ったよ……」


「本当に偶然に助けられたよ。もう二度とこういう事は無くさないと」


「んなもん、無くそうと思ってなくせるもんじゃねぇだろ。大蜘蛛が出てくるなんて予想出来ることじゃねぇしよ」


「それはそうだけど……」


「わ、私もそう思います。だから、あの、あんまり気負わない、方が」


「……あぁ、ありがとう。でも、リーダーとして今回甘かったのは事実だ。不運が重なったとはいえそれに対処出来ないようじゃ、いつか皆を死なせてしまう」


見上げた考え方だ。直家などは生き延びた事しか頭になく今回の教訓といえばやばい時は正常な判断が出来なくなると再認識したくらいだ。そこまで、立派な事など考えてはいない。


「はっ、死ぬときゃそれはてめぇの責任じゃねぇよ。それは全部テメェを信じた俺の責任だ。誰もてめぇのせいにはしねぇよ。俺の死は俺のもんだ。勝手に俺のも背負い込むな」


猿吉も直家よりはしっかりとした考え方を持っているようだ。なんだか、単純な事しか考えていたかった自分が情けなくなる。


「……そうか。君はそういう人だったね。…今の僕にはありがたい」


長貴も猿吉の言葉で少し楽になったらしい。


「……言葉は悪いけども、たまにはいい事を言うんだな」


「んだとぉコラァ!たまにってどういうことだ!」


ぼそっと出てしまった。聞き取れないくらいの小さな声で喋ったはずだが聞こえたらしい。たまに思うが変に地獄耳な所がある。


「いや、深い意味は無いんだ。うん。気にするな」


「深い意味が無ければ言わねぇセリフだろうが!」


面倒くさい。先程いい事を言って僅かに上がった評価はこれで無くなった。そういう、面倒臭いというのが顔に出たのか、更に猿吉がヒートアップしかける。


「や、やめて。まだ、森の中、だから。あんまり、うるさくしないで」


「俺がうるせぇって言いてぇのか!」


「ひっ!で、でも、本当に、うるさいし」


「んだとぉぉ!」


喧嘩を止めに入った青海に、飛び火して更に失言を重ねた青海に完全に対処が移ったところで長貴が止めに入る。


「さぁ、そこまでだ。これ以上は青海さんの言う通り妖怪を呼び寄せる結果にしかならないよ」


「………くそが!わかったよ!」


長貴の言う事にはきちんと従うのだな。これも口に出しそうだったがなんとか抑えて心の中で思うに留める。これを言ってしまえば天邪鬼な猿吉の事だ。ろくなことにはならないだろう。


それからもう暫く歩き、朝井村の近くまで来た。まだまだ夜は明けず暗闇が広がっている。ならべく妖怪との接触を避けて体力を温存し移動しているためどうしても時間がかかってしまう。しかし、それももうすぐ終わる。ここまで来たら後はほとんど安心だ。朝井村は妖怪を中に入れない為に外を囲っている。なので、この時間は出入り出来ないはずだ。


「適当な安全な場所を見つけて野宿かな」


そうらしい。ならべく中でゆっくりと休みたいが、仕方が無いだろう。中層に比べれば遥かに安心出来る場所だ。少し中層に行ってから感覚が狂った感じもするが。


「野宿ってもよ。流石にどうやって火を起こすんだよ。道具持ってねぇぞ」


「青海さんは妖術で火は出せない?」


「す、すいません。私水系統なので…」


「なるほど」


系統があるのか、初めて知った。そういえば、生活魔法みたいなもので生活妖術みたいなものもあっても良さそうなものだが、今の所そういったものを見た事はない。結構、妖術を使う人自体は多いが大体が伊吉の様にたいして使えないか、使えても成近姉さんみたいに威力が強い奴だけだとか。案外、直家が思っているほど便利な力では無いみたいだ。


それに、水系統と言っても玄武組が飲んでいる水は川から組んだり村の井戸から持ってきているものだ。妖術で出せるのは相手を弾き飛ばす強い勢いの水と、玄武組の切り札である水球弾。しかも、着弾した後はすぐに蒸発する。妖術で水の形を借りて具現化して物理攻撃をしているだけなので。すぐに妖術に込めた妖力が無くなり維持出来なくなる、と青海が言っていた。何が何だかよく分からないが、取り敢えず妖術で出した水を飲むのは諦めた方が良さそうだ。その認識に間違いはない。


実際ところは、もし飲んで妖力があり水の体をなしている時はいいがそれが無くなり水が消えてしまったら身体はどうなるか。飲んだ直後ならいいかもしれないが、飲んでしばらくして身体の一部となった後にそうなってしまうと………。あまり考えたくはない結果になるだろう。


それは、水だけでなく火や風、土にも言える事だ。それぞれの妖術も妖力を受けて具現化しているだけの偽物だ。しかし、火に関しては最初に出した火は消えるがそれによって副次的燃えた火は自然物なので燃え続けるらしい。


「火は付けないよ。僕も持っていないし。それに火を付けたら周りに妖怪が寄ってくるかもしれないじゃないか。せっかく暗さに慣れたのに光を付けるとまた暗さに慣れるのに時間がかかる。だから、暗いままで我慢しよう」


「火を付けたくらいじゃ妖怪は別に寄ってこねぇよ。この規模の焚き火じゃ近くまで寄らなきゃ気がつきゃしねぇし。まぁ、別にどっちでもいいがよ」


「そうなのか。少しくらいの焚き火じゃ妖怪は寄ってこないのかい?いい事を聞いた。それも開拓者組合から?」


「たりめぇだろ。中層に行くからには野宿もしなくちゃいけねぇからな。次からはちゃんと火付け用の石と保存食でも買っておこうぜ。また、こういう事があるかもしれねぇからな」


「そうならないために頑張るつもりなんだけどね。でも、わかった。そうするよ。中層に進出する時はそういったものの使い方もわかっていた方が良いからね」


「じゃ、買ったものは直家が持てよ」


「なんでだよ。お前が持てばいいだろ」


「てめぇは多少荷物あろうと動きに大差ねぇだろ。俺はお前とは違って荷物は少ないほどいいんだよ!」


「俺も少ないに越したことはねぇぞ…」


「猿吉君。直家君に悪いよ。僕が持つよ僕もあんまり荷物持ったくらいじゃ変わらないから」


最初は猿吉に言われて、少し感情的に返してしまった。だが、長貴にこう言われると俺がやるとしか言えなくなる。青海?最初から荷物持ちとしては除外だ。


「いや、別に大丈夫だよ。俺が持つ。長貴はリーダーだからな。それに俺が適任ってのは間違っていない」


「無理しなくてもいいんだよ?僕は大丈夫だから」


「いいんだよ。直家が一番適任なんだからやらせとけ」


「………………そうだな。俺が一番適任だ」


猿吉に言われると猛烈に反発したい気持ちが湧き出てくるが。ぐっと堪らえる。これ以上長貴の負担とならない為に。


そんな話をして、もう暫く。そろそろ日が出てもいい頃ではないかという時間。交代で軽く仮眠を撮る。青海を優先的に眠らせて猿吉と直家が起きている。長貴が目が覚めたら次は直家だ。何だかんだ言っても1人で逃げ続けたのは効いた。疲労もピークに達している。


横に猿吉がいるので弱みなど絶対に見せはしないが。


そんな中、ふと赤い妖気が見えた。高速で走っているように見える。遠目でよく分からない。見間違いかもしれないほど一瞬であった。しかし、あの赤い妖気は無視できるものではない。


「猿吉。大蜘蛛かも知れない。2人を起こしてくれ」


「ッ!わかった!」


まだ、距離があった。見間違いかも知れない。それにこんな朝井村にほど近い場所にまで来るなど異常だ。ある確信があった、多分アイツだ。あの時の目は一切諦めていた目ではなかった。殺すまでどこまでも追いかけてやるという狂気に満ち満ちている目だった。その考えが最悪の形で当たってしまった。


2人が起きてくる音がする。寝起きでぼんやりとしている2人だったが緊迫した状況が聞いたのかすぐに覚醒する。


「直家君。大蜘蛛が、いたって本当かい?」


「こ、こんな所まで追ってくるなんて……」


「俺もそんなに執念深い妖怪だとは思わなかったですよ。まだ、見つかってはいません。出来ればこのまま隠れてやり過ごしたいです」


「そうだね。手負いの大蜘蛛とはいえ戦力的にはギリギリだから僕もそう願うよ」


こう言った願いが叶った試しが無いのは置いておいて。皆それぞれ身構える。血なまこになって探している最中だろう。見つかるのも時間の問題だろうあの様子じゃ脚は完全に回復したようだ。相次ぐ回復と長時間の高速移動で大きく妖力を減らしてはいるがまだまだ強敵だ。


東の空が少し白く染まって来た。朝井村の門が開くまで、あと半刻。


大蜘蛛との最終決戦は近くに迫りつつあった。


楽しみに読んでくださっている皆様には申し訳ないのですが、暫く忙しく、執筆時間が取れないと思います。二月には再開致しますので、どうかご愛読宜しくお願いします。

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