人手不足6
いつもこのような拙い文章を読んでもらってありがとうございます。申し訳ないのですが、次の投稿は1月6日からとなります。
「お、来たか?」
「ん?おい違うじゃねぇか!男だぞあいつ」
「悪ぃ悪ぃ、小さいから遠目で見るとそう見えちゃうんだよ」
はい、終わったー。白か黒か確かめる前に襲い掛かるぞアイツ。ほら、刀に手をかけてるよ。抜くよ、絶対抜くよあれ。仕方ないから、こちらも槍を構える。
「ふう」
と思ったら、大きく息を吐き出して刀から手を離す。そして、にこやかな顔で2人に近づいていく。おお、我慢した!奇跡だ!など、これこそ猿吉が聞けば激怒しそうな事を心で思いながら見守っていた。
「そこの2人!ちょっといいか!」
「ん?なんだ?おれらにようか?」
「ああと、俺なんか女とヤレると聞いて来たんだがお前らもその口か?」
「ん?お前もなのか?というか、お前1人か?」
「ああ、仲間と離れて一人できた」
「生命知らずの馬鹿だなオメエは。まぁなんでもいいや。そうだここであってる」
その時、猿吉がチラリとこちらを見た。完全に黒だと言いたいのであろう。これは、争いは避けられないかな?どうにか出来ないものか……。多分猿吉は平静さを装っているがかなり、きているであろう。すぐにでも斬りかかりそうだ。
「仕方が無い、か。行こうか直家君」
「うーん。あ、いいこと思いついた!」
「何か思いついたのかい?」
「上手く行けば戦わなくても済むかもしれない案です。話している時間が無いので行ってきます」
「僕は必要かい?」
「いや、もしもの時には長貴が切り札なのでここで隠れていてください」
そう言い残し猿吉のように近づいていく。
「ん?また1人来たぞ?」
「げっ、まだいたのかよ。女死ぬんじゃねぇか?」
「……どういうことだ?」
「あー、いたいた。君たち3人ともあの件で来たんだよね?それなんだけど、悪いけど場所が変わるって言ってたよ。それを伝えに来たんだ」
「ん?てめぇは誰なんだ?」
「俺はあの人達の協力者だよ。金で雇われたんだ。君達も事をやってい時に他の人が来たり、妖怪に襲われたりしたら嫌でしょ?だから、周りを見張ってる」
「………それでわざわざ、人を雇うか?俺らはそれほどの金を請求されていねぇよ?」
それもそうだ。わざわざこんな人を雇う金はないと言われれば途端に胡散臭くなる。
「え、と、お金で雇われたと言ってもそんなに貰ってないんだよ。貰ってない分は君達がヤリ終わった女を少し貰うって形で雇われたんだ」
「あぁ、なるほどな。納得だ。こりぁ、女は死ぬんじなねぇんか?1回に4人を相手にするのか、俺が言うのもなんだが哀れだねぇ」
「で、その違う場所ってのは何処だ?」
「ここからかなり朝井村に近い、浅い層です。朝井村に戻って行く道の途中の外れだそうです」
「なんかよくわからんな……。何処なんだそこは?」
「あ、よ、よく分からないです」
「分からねぇって事はねぇだろ?場所聞いてんだろ?」
「いや、この事を伝えろって言われただけでして。俺も言ったんだすけど、行けばわかるらしいです」
「………まぁ、いいや。朝井村に戻る道をずっと行っていればいいんだろ?」
「そう、なります」
途中かなり危ない所があったが、何とか誤魔化しきった。実行してから思うがかなりスカスカの案である。よく成功したものだ。
「じゃあ、行こうぜ」
「あぁ、おいお前らも行くぞ」
「……俺達もか?」
「たりめぇだろ?お前は俺らと同じだし、お前は俺らの近くを見回ってないと意味ねぇだろうが」
あ、詰んだ。いや、直家は何とかなる。問題は猿吉である。あいつは最初に目的が同じだと言ってしまった。このままでは、猿吉があいつらと一緒にいなくなることになる。……別にいいか。ここに、直家と長貴が残れば何とかなるだろ。よし、そうしよ。
「あぁ、いや、俺は別行動でいいよ。周りを周回しなきゃ行けないんだ」
「ん、そうか。じゃあ先にいってるぞ」
「…………直家の野郎…見捨てやがったな」
別に死にはしないだろう。少し彼らと一緒にいるだけだ。と思っていたら、長貴が急に隠れていた茂みから飛び出して猿吉に駆け寄る。
「あ!こんな所にいた!何で急にいなくなるの?探したよ」
ここで、猿吉も察したのか。苦い顔をする。
「ゲッ、見つかっちまったか……」
「ハハハッ!残念だな。諦めて帰りな」
「クソッ!惜しいことをした」
「まだ小さいテメェには早いってこった。なぁに、またチャンスは巡ってくる」
「じゃあな、俺らは行くぞ」
そう言い残し、足早に朝井村の方向に戻って行った。残ったのは玄武組の3人。
「………あの野郎共。絶対、絶対いつか殺す」
うん、まぁ、頑張ったよ。よく耐えた。いつもなら切れて斬りつける位の感じだったからな。だが、そのおかげで、戦わずにすんだ。いろいろ穴だらけだが、何とか長貴のフォローや猿吉の機転のお陰で成功した。
「まぁ、結局は戦わずにあの2人を退けることが出来たんだから上々だよ。後はここで待つだけだね」
「そういや時間は聞いてねぇな。いつごろ来るんだろ?」
「彼がここで待っていたと言っても朝からじゃないんだ。ある程度の時間は分かっていたんだろ?ならそろそろ来るんじゃないかな」
「……俺達が交渉している時に来ていたら詰んでいましたね」
「いっその事そうなってあいつらを斬れたらどれだけスッキリしたか……」
いやー、多分こちらが斬られていたと思うけど。見たことがない顔だし、同期ではない。先輩格の人だろう。それで、2人でやっていてこんな事にお金を払えるだけ稼いでいる人達だ。それ相応の実力を持っていることだろう。だとしたら、玄武組の3人では厳しいだろう。
「ん?誰かこっち来る」
「あいつらが戻ってきたわけじゃねぇよな?」
「方向が違う。多分彼女達だ」
「やっとお出ましか」
「1日と約束はしたけれども、これ以上青海さんを預けては置けない。ここで貰うよ」
時間さえ与えればいくらでも似たような事は彼女達は出来るのだ。仲間になる青海に対して、こういった非道な行いを許すわけにはいかないのである。
青海の姿を確認した。警戒したり嫌がったりした素振りは全く見られない。何も知らされていないのだろう。ここらか見ても分かるくらい彼女達はニヤニヤしながらこちらに向かってくるのがわかる。
「待たせたわね、約束通り連れてきたわよ!」
少し離れた所から声が掛けられる。距離が離れているというのもあり、前に1度会っているがあまり覚えてはいなようだ。
「ん?……あなた達誰?」
「よぉ、ようやく気がついたか。ここにオメェらの客はいねぇぞ?」
「え?え?……ど、どいうこと?なんで、居るの?」
近づいてきてようやく気がついたのかこちらを警戒するように下がる。それに対し、青海さんが混乱した様子で何故ここに居るのかを聞いてくる。青海さんからしたら1日という時間を貰ったはずなのに何故?それに、偶然という感じではない。
「青海さん。君は騙されていたんだ。この人達に売られる所だったんだよ」
「えっ?えっ?どういうこと?ね、ねぇ、どういうことなの?」
長貴のセリフに青海が元仲間だった彼女達から後ずさりする。どういうこと?と聞いたが、もう何となく察しはついていたからの無意識の行動であった。もはや、仲間として信用は皆無である。
「ッチ!思い出した!あの時の気に入らない奴らね!」
「青海!どういうこと!何で、あんたの事を知ってんの!?」
想定外の事が起きて、青海さんを含め4人ともそれぞれ混乱している。だが、分かっているのは今回立てた計画がご破算になったということ。いち早く状況を把握したリーダー格の女が怒りを抑えながら絞り出すようにして喋りはじめる。
「………あなた達、どういうつもり?」
「なに、簡単なことさ。青海さんを貰い受けに来たのさ」
「………そういう事だったのね。青海の様子がおかしいのもあなた達が原因…」
「そうかもしれないね。本当は1日待つつもりだったんだけど、君達がある計画している事を知ってしまってね。迎えに来る時間を早めた次第さ」
「ね、ねぇ、答えてよ。計画って?私を騙すって何の事?ほ、本当なの?」
話についていけていない青海が、怒りに打ち震えるリーダー格の女にビクビクしながら聞く。そんな、青海睨みつけるように見据え嘲りの表情を浮かべながら今までの鬱憤を晴らすように喚き出す。
「ハッ!本当なの?ですって?何言ってんのよ。自分で分かってるんでしょ?分かりきったことを一々聞くなよ!そこがイライラすんだよ!村にいる時からそうよ!空気読まないし!トロイし!失敗しかしない!なんにも出来ないくせにずっと口答えしやがって!そんなんだから友達も出来ないのよ。この、グズッ!そんな、クズを有効的に使ってやろうと思ったのよ! どうしようもないアンタでも、男ウケだけは良かったからね。実際高く売れたのよ。いくらか分かる?2人で銀銭6枚よ?あんた1人がたった半刻男の相手をするだけでこれだけ手に入るのよ?あんたみたいなクズがこれだけ稼げるのよ?なんか文句あんの!?」
「ひ、酷い。……い、今までずっとそんな事を考えていたの?」
「そうよ。考えていたわ。ずっと青海を馬鹿にして、虐めて、あわよくば事故ということにして殺そうかななんて思ったりもした」
「なんでっ!私達、仲間じゃ無かったの?」
「そうだったの?初めて知ったわ。貴方の中では、私達仲間だったのね」
その最後の言葉がトドメだった。言葉を失いフラフラと後ずさって行く。項垂れたように前髪が邪魔して顔がよく見えない。あれだけ言われたのだ、精神的に結構きているであろう。
「………………わかった。いいえ、わかっていた。ようやく本当に理解できた。そう、いうことね。よく…分かった」
立ち直るのに時間がかかるかなと思ったが、顔をあげた時には迷いの表情は消え。吹っ切れたようなスッキリとした顔になっていた。
「長貴さん。ごめんなさい。迎えに来てもらって悪いんですけど、あと少しだけ。ここにいてもらって構わないので待ってもらえますか?」
「いいよ。約束を破ったのはこちらだからね。いくらでも待つさ」
「ありがとうございます」
そう言って元仲間の方に向き直り近くに進んでいく。そんな、今まで見た時がない青海の姿にリーダー格以外の2人は若干後退りして青海を見つめる。
「何よ?文句あんの?」
「沢山あるよ。多分こういうのをもっと言えたら仲良くなれたのかもしれないけど……。でも、私そういうの苦手だから……えっと、ごめんなさい。多分私がいることによって色んな迷惑かけちゃったよね。そして、昔はそんな私を庇ってくれてありがと」
「はァ?何言っての?何でお礼なんか言ってんの?そういう所が空気読めないって言ってんの?わかる?」
「わかる。空気読めない自覚はあるもの。でも、今はわざと空気読まない。これは私のケジメ、私の自己満足なの。悪いけど最後まで付き合って」
「……………………」
「昔のような関係に戻りたいとずっと思っていたの。でも、やっぱり無理だったね。もっと早く気がつけていたらお互いに良かったけど、ほら、私現実逃避よくしちゃうでしょ?真剣に考えようなんてしなかった。でも、もう分かっちゃった。終わりにしよう」
すうっと息を吸い1拍おいて、少し口調を変えて言う。
「今をもって青海は貴方の組を抜ける。そして、玄武組に入る」
「…………あほらし。勝手にしろよ。金が稼げないあんたに興味は無いわ。ほら、あんた達行くわよ」
心底どうでも良いといった声色で全ての興味を失った様な感じのリーダー格の女が元来た道を戻ろうとする。すぐ振り返ったのでどのような顔色からここからじゃ見えなかった。
「えっ?いいの?」
「いいから、帰るよ」
そのまま強引にリーダー格の女を筆頭に帰っていく。取り巻きの2人も慌ててついて行っていた。
「……ふぅ。ご、ごめんなさい。待たせてしまって」
「いや、大丈夫だよ」
「それよりいいのか?あいつ全然反省もなんもしてねぇぞ?」
「いいの。最後のは全部私の自己満足なのだから。相手がどう思っていようと関係ないの。……出来れば、少し昔の事を思い出してくれると嬉しいけどね」
「ふん、そうかよ」
そんな青海さんの返答を聞いて満足そうな顔で話を切り上げる。最終的には猿吉は青海さんが玄武組に入るということに対して賛成のようだ。
「青海さんが満足したらそれでいいんだけど……。なんかスッキリしないね」
「そうだね。結局謝りもしなかったからね。でもいいじゃないか。僕達の目的は青海をこちらに引き入れることだ。これ以上を望むのは贅沢だよ」
なるほど、そういう風に長貴は納得しているわけか。足るを知るという奴なんだろうけれども……。しかし、考えてしまう。もっと良い解決方法はまだあったのではないか。今考えても仕方の無いことなんだけども。
「それに、過去の事を一々振り返る暇は僕達にはないんだよ」
「そう、ですね」
長貴は玄武組のリーダーなのだ。リーダーとして、考える事は沢山あるのだろう。それこそ、過去の事を一々気にしている暇が無いくらいに。
「……………よし。かなり早いけど今日はもう切り上げよう」
「なんでだよ。まだまだ出来るぞ?」
「今日色々あって青海も疲れただろうし、これからの事も話したい。どのような役割を青海さんに担ってもらうかとかね。決めることが沢山あるんだ」
「あの、言ってもらえれば何でもやります。それに私はまだまだやれます」
「いや、長貴の言う通り今日はこの位にしよう」
「なんだぁ?直家。もう疲れたのか?」
「そんなんじゃない。ここで無理する必要は無いってことだよ」
「無理なんて、これからいくらでもしていくだろ?この位で音を上げてたら何にも出来ねぇよ」
「無理する時は無理するけど、今はその時じゃないって言いたいの。ましてやここは初めて来た狩場だ。よく分からないし、戻るにしても互いの事がよく分からない時に戦いは避けたいから」
「結局逃げ腰じゃねぇかよ」
「違う!合理的な判断だろ!」
「あ、あの、喧嘩は……」
こんな所で戦いたくないと言いながら大声を出して妖怪を呼び寄せている直家と、猿吉。そんなふたりを止めようとする青海さん。左手で目元を抑えている長貴。木の後ろからそんな様子を眺めている小鬼達。
これが青海が入った新しい玄武組の姿であった。
人手不足がこんなに長くなると思いませんでした。長くても3くらいで終わらせたかったのですがなかなか終われなかったです。次からは青海さんを入れたnew玄武組の活動が始まります。




