人手不足4
何だかんだで2日に1回の定期更新になっています。ですけど、忙しくて書けなかったりするときがあって更新が遅れる時も、もしかしたらあるかもしれません。完結させられるように頑張るので見捨てないでください。
「んで、何でお前1人で逃げてたんだ?仲間はどうしたよ?いたろ?あのいけすかねぇ、クソアマ共よぉ」
場所を変えて朝井村に近い浅い層まで戻ってきた。そこで、猿吉が本題を切り出す。逃げてくる時は青海1人であった。仲間はどうしたのか?やられたのか、それとも置いていかれたのか?もしそうだとすれば、仲間に誘うにあたってやりやすくなる。
「あ、あんまり、悪く言わないで……」
「あぁ?俺が嫌いな奴をどう呼ぼうが勝手だろうが。てめぇには指図されるいわれはねぇよ」
「すまないね、彼は口が悪いんだ。でもね、君の仲間に悪く言われたというのもあるんだよ。あんまり、悪く思わないでくれ」
「は、はい。こちらこそすいません、でした。結局、謝れなかったです」
「あーー!んな話はどうでもいいんだよ!話戻すぞ!」
「そうだね。何故君が1人で逃げていたんだ?仲間はどうしたの?」
多分、聞いている長貴も猿吉も勿論直家も聞く前から何となく答えは分かっていた。試合中、食堂で見た青海とあの女達の関係性は友人では絶対無い。
「え、えぇと。妖怪と戦っている時に他の妖怪の群れと出くわして、できる限りやったんだけどダメで、えっと、皆で逃げた」
「へぇ、皆で逃げた。でも、青海さん1人しかいなかったよ?他の皆は?」
「ほら、私ってトロイから、皆を待たせたら悪いから、先に行ってもらったんだ」
嘘だろうな。少し話を考えている様な仕草がある。第一本当だとしても、仲間を置いて行ったりはしないはずだ。友達、仲間であるとすれば。勿論時には非情な判断は必要だろう。しかし、黒犬のあの数は厳しいことは厳しいが、協力すればどうにもならない相手ではなかった。ましてや、妖術が使えるのだとすれば特に。
「なるほど、そういう事情か。大変だったね。あ、そうそう、最後の質問いいかい?」
「な、何?」
「何故君は刀を持っているんだ?君の武器は妖術だろう?見た所血もついているし」
「あ、えっと、これは私の友達も皆妖術で戦うから、誰か1人は少なくとも妖怪を足止めしないといけないの」
「だから、やっていたと。君は満足なのかい?」
「………うん。私が1番妖術下手だし。私がやるのが一番いいの」
何故この人は、あんな人達をかばうのだろうか?分かっているはずだ、自分がどのように扱われているか。でないと、こんな嘘はつかないのだから。無理矢理自分自身を納得させているのだろう。
「どうする長貴?今言う?」
「そう、だね」
長貴は正直何か不安なんだろう。事情を聞こうとして、仲間への不満を聞き出して、そこから仲間に誘うつもりだったがどうにも、不満どころか文句すら言わない。誘っても上手くいくかどうか分からないのである。
そんな一瞬の戸惑いの中、猿吉が苛立ちを抑えきれずに叫び出す。
「あぁぁぁあ!!気持ちわりぃ奴だなぁ!てめぇも分かってんだろ、自分がどんな風に扱われているか!友達?仲間?馬鹿言うな、奴隷だよ!あいつらはテメェの事をそういう風に思っている!そう言う、クズ共なんだよ。だから簡単に見捨てる!だから!」
「おい!やめろ!それ以上言うな!」
「…チッ、いるんだよ。そういうクズが…」
最後の言葉は青海さんに言ったというより、自分自身に言ったように聞こえた。猿吉も昔、過去に似たような事があったのだろうか?分からないが、昔の事を一切語らない猿吉の一端を見た気がする。
「………わかっています。私がどう見られているかなんて。でも、どうしようもないじゃないですか…。仲間外れにされたら、本当に死ぬしか無いから…」
「ならば、他に入れる所があればいいのかい?」
「……無いですよ、そんなとこ。私なんてとろいし、妖術もそんなに上手くないし、本当は開拓者に向かない人なんですから……」
「いや、あるよ。僕達の玄武組に入らないかい?僕たちなら君を見捨てたりはしないし、奴隷のような扱いもしない。男所帯だから不安はあるだろうけれどもどうだろうか?」
「………え、私?いいの?」
「ああ、丁度1人、妖術が使える人が必要なんだ。こちらから頼みたい位だよ」
長貴の提案に暗かった表情がパァと明るくなるが、すぐにまた暗くなる。
「…提案は嬉しいけど、やっぱりダメだよ……。皆の邪魔になっちゃうよ。私、さっき言ったけど才能ないから…」
「チッ」
「あー」
「ははは、そんな心配はいらないよ。僕達が才能のある人に見えるかい?」
そう言う、長貴を見て頷く。
「見える」
「……長貴だけだよ。俺も猿吉も君と同じで才能なんて無いよ」
「僕はただ、年の功ってだけなんだけどね」
「あ、本当だ。負けた人達だ」
「あぁ!てめぇ!喧嘩売ってんのか!」
「ヒッ、ご、ごめんなさい。ほ、本音が……」
頭を抑えながら猿吉の恫喝に震える。なんか、後半の方も失礼な事を言っている。……少し、青海さんが友達が出来ない理由がわかった気がする。
「は、はは。まぁ、才能うんぬんで言ったら俺も同じだって事だよ」
「そういう事。改めて言うよ。青海さん。僕達の玄武組に入ってくれないか」
「……えっと…」
「自信がねぇんだったら、入んな。俺達は才能はねぇかもしれねぇが、他の奴らより強くなってやる。いや、なる。半端な気持ちだったら前と同じだ」
猿吉の言葉は厳しいが、言っていることは本当の事だ。俺達は才能の無い同士なぁなぁで終わらせるつもりは毛頭ない。だから毎日血の滲む鍛錬をしていくのだ。正直、才能が有るか無いかで安堵されていると困るのだ。天才の中に自ら入っていって伸びようとするくらいの気概が無いと意識の差がありすぎていても辛いだろう。
「……入る。入れて、ください。お願いします」
「誘っておいてこういうのは悪いけど、猿吉君の言うことは本当だよ。それでもいいの?」
「大丈夫。私、妖術下手だけど皆を驚かせるくらい上手くなりたい。私だって、なんの目標も無しにきたわけじゃないから」
いくらあの3人に誘われて断りずらかったとは言え、流石に命がかかっているのである。興味が無ければ断っていただろう。それでもここに来て、開拓者を目指しているということはそれ相応の目標があった事だ。
「なるほどね。どうだい、猿吉くんは?」
「なんで俺に聞くんだよ。けっ、入りたきゃ入りゃいい。俺のやることは別に変わらねぇからよ」
よく言うよ、結構反対してたのに。本人の前にも入んなって言ったぐらいだったのだから。
「猿吉くんのお許しも出た事だし、改めて。僕は長貴というんだ。玄武組のリーダーやっている。青海さん、歓迎するよ」
「俺は直家だ。よろしく。あそこの偉そうな奴は猿吉だ。知ってると思うけど口が悪いから気にしないでね」
「ふん」
「は、はい。よろしくお願いします」
ペコペコと頭を下げる青海。口が悪く、基本低姿勢の青海が何故ハブられたのかわかる気がする。これで、普通の顔だったら仕方の無いやつだという扱いで何とかやっていけたかもしれないが、不幸?な事に顔が整っていて可愛いのである。村でも人気はあったであろう。それがあの3人が気に食わなかった事なんだろう。3人とも綺麗な事は綺麗だし男からも人気はあったろうが、顔も性格もキツイので敬遠されていたのかもしれない。それで、人気のある青海が妬ましくて……。全部予想だが、あながち間違っていないような気がする。そんな失礼な事を思っていた直家である。
「とりあえず、今日は帰ろう。青海さん。明日からお願いね」
「あ、あの。その事なんですけど、お願いが…」
「ん?」
「3日間だけは時間をいただきたい、です」
「理由を聞かせてもらっても?」
「は、はい。今はこんな感じですけど、昔は本当に仲が良かったんです。ダメな私をいつも庇ってくれて、だから、あの、別れる為の時間が欲しいんです」
「ケジメをつけてぇってわけか?そんなら3日も必要無いだろ?今行ってぱっと言ってくればいいだろうが。そんなに必要なのか?」
「ひっ、あの、その、えと」
「猿吉くん、彼女は彼女の考えがあるんだよ。別にいいじゃないか。3日待つくらいは。それでケジメを付けてくれるんだったら」
「俺が言いてぇのはそういうことではねぇよ。ただ一言を言うのに3日を使うのは逃げだ。今言えなかった事を3日後に言えるわけねぇだろ。まだ言えてねぇからもう1日延ばして、延ばしてって延ばされたらかなわねぇからな」
「そうかな?何事もタイミングというのがある。そういうことを踏まえて3日というのは悪くないと思うのだけど」
「それでも3日で言えるようなら、最初からこうなってねぇよ。言わなきゃいけないことを言わなかったからここまで来たんだろ?今まで逃げ続けて、今立ち向かうってなった時も逃げの精神があるようじゃ俺らの所でもやっていけねぇよ」
「………ふむ」
「じゃあ、猿吉はどうして欲しいんだ?」
どうにも考え方に長貴と猿吉とでは結構な違いがあるようだ。と言うか、両極端だ。猿吉はドライ過ぎるし、長貴は優しすぎる。直家としては半々と言った感じだ。猿吉の意見も最もであるが、長貴の物事タイミングも大事だというのも分かる。直家はややこしくなるので話には入らなかった。青海も2人の話にはアタフタとして入れないでいた。納得していなかったのは猿吉だったので猿吉が納得できる日数はどのくらいか聞いてみる。
「1日だ。1日で全部ケリをつけろ。それが出来なきゃ変われねぇ」
「1日だけ……」
「違う、1日もだ。数十秒で済ませることができる事だ。今更思い出も語らねぇだろ?厳しくもなんともねぇ」
「どうする?あくまでも決めるのは君だ。別に3日でも構わないよ」
「別に強制はしねぇよ。3日でも1週間でも、1年でもな。そん時はもう俺らはいねぇけどよ」
「……それは言い過ぎだろ」
「だからこの程度でダメになるんだったら、俺らの所でもやっていけなくなる。てめぇもそう思っているだろ?」
「………………」
内心を見透かされていることに少し驚く。ほとんど発言していなかったので自分の考えが分かられていると思わなかった。
「何でって顔してるな。本当に俺と考え方が違うやつは俺を糾弾する。酷いやつだ、血も涙も無いってな。お前はそれをしねぇ。って事はどっかで俺に共感している部分があるんだよ。でもそれは言わねぇ。何故ならそれを言うと嫌われるから。そうだろ?」
「……………」
「俺は言うぞ。他人に嫌われようと知ったことか。心の中で思っているだけの卑怯者になりたくねぇ」
「それは……俺が卑怯者だって言いたいのか?」
何処か猿吉は直家の事を軽蔑している節があった。それは何なのか直家には分からなかったが、ようやくわかった気がした。猿吉は、直家の事を卑怯者だと、そう思っていたのだ。猿吉は口が悪い。でも、ただ相手を罵倒する言葉は少ない。自分の思った事を、自分の価値観を相手に伝えているのだ。ある意味、一番正直な奴である。素の自分を隠そうとしない。それを卑怯な事だと思っている。それに対し直家は思った事を口にせず、事なかれ主義だ。考え方は対極的だが、長貴は自分の考えをしっかり持って発言している。猿吉にとって、考え方が違うことよりも考えを発言しない方が遥かに軽蔑の対象なんだろう。
改めて猿吉の直家に対する評価が低い理由がわかった気がするが、だからといってすぐに変えられるようなものではない。それに、直家は猿吉の考え方に賛同できない部分が多々ある。それを言っていればキリがないと思うのだが。どうやら、猿吉の考えは違うらしい。
「さぁな?で、どうするよ。決めろ」
今はこんな事を考えている暇はないと話を切り上げられて、青海の話題に戻る。
「え、えと」
話が変わったと思ったらまた自分の所に戻ってきて、混乱している。これは答えられないなと思うほどの狼狽ぶりだったが。
「………1日だけください。それで全部終わらせます」
すぐに落ち着きを取り戻しハッキリと自分の考えを言う。
「…わかった。では、明後日の朝に朝井村の開拓地側の門で待ち合わせよう。それでいいね?」
「はい、お願いします」
1日で全てケリをつけることに決まる。後は俺達に出来ることは何も無いだろう。結果を待つだけだ。
朝井村の近くまで4人で移動してそこで別れる。彼女がそうしてと言ったのだ。どのように決着をつけるのかは彼女の自由で、それ以降の事は直家達には預かり知らないことである。
ただ、気にはなるので、時間のある時はなるべく近くに控えていようと決まった。それに関しては猿吉も特に何も言わなかった。あの3人が都合の良い青海が去っていくのに対しどのような行動に出るか分からない。この選択が吉と出るか凶と出るか、今は何もわからないのであった。
感想か評価をください。ご慈悲を……。




