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人手不足2

「さて、そろそろ休憩にしよう。適当な腰を落ち着けられる所まで下がって昼食を食べようか」


「さ、賛成!そ、そろそろ限界」


「けっ!な、軟弱な野郎だ、こ、んなんで、疲れてんのかよ!俺は、ピンピンして、るぞ」


「何処がだ」


5回ほど小鬼や赤猿の群れに出会い、時には正面から戦い、時には後ろに逃げながら戦い、時には追いつかれて死にそうになったりと、初日の時より戦いは上手くはなっているが、結局は数に押されて逃げる事になる事が多いのである。ましてや、派手に逃げている時に他の群れとまたぶつかった時は本気で死を覚悟したものである。


そんなこんなで何とか生き延びてお昼を迎え、昼食をを取り始める。いつもは、満面の笑みで食べる猿吉が眉間に皺を寄せていた。理由は多分今日のアレだろう。


「クソアマ共が!今思い出しても腹が立つ!俺より少こーし背が高いからってチビ呼ばわりしやがってよ!」


「感じのいい人では無かったからね。でも、次はないって言ったし、もう積極的に絡んでこないと思うよ。あっちも面倒な事は嫌だろうからね」


「でも、あの青海って言う子は可哀想だよな。絶対あいつら友達だとか思ってないだろ。何で一緒にいるんだろ」


「知るかよ。弱ぇからだろ」


弱い、それは多分戦闘力的な意味だけじゃないだろう。あらゆる部分が弱いからああいう状況になっているのだ。そして、言外にこういう事も言っている。自業自得だと。それは、何処か自分自身にも言っているように直家は聞こえた。そしてそれは、直家も思い当たる節があるのだ。


「そう、だな」


それに関しては可哀想とは思うが猿吉の考えに賛成だ。自分で変わろうと思っているのであればもっといい居場所を見つけているはずだ。あの、女は何処かで自分自身に見切りをつけている。諦めているとも言うが。それはあの女が変わろうとしない限り変わらないだろう。しかし、長貴の考えは違う様だ。


「………彼女はいいんじゃないか?」


「はぁ?正気かお前?あんな奴入れても戦力にならねぇだろ」


「俺もそう思う。可哀想だけど役には立たないような気がする」


「そうかな?僕は彼女は変わりたがっているように見えたけどな」


「何処がだよ。気が弱ぇし、いびられてるってことは妖術の腕もたいした事ねぇんだろ?何よりよぉ、お前がいう変わりたいって意志は俺には感じなかった。ありゃ、全部に諦めちまっている奴の顔だ。そんな奴たとえ、無理矢理入れたとしても長く持たねぇだろ。言っちまえば、開拓者に向かねぇんだよ」


「ふむ、意見の相違という奴だね。でも、言いたいことは少し分かる。でも、僕は意志なんてものは無条件に湧くものではなくある程度の環境の下地が必要なんだと思うんだよ。だから、まだ彼女の善し悪しを決めるのは早いのではないかな?それに、猿吉君の言う通りだったら組から抜けてもらえばいいだけの話だ。どちらにしても、僕らには今、妖術が使える人が必要なんだ。悪い話では無いと思うんだよ僕は」


「……ふん、勝手にしろ。それに、入るかどうか決めるのはあの女だ。俺達が、ここでいくら話しても仕方がない事だろうよ」


「そうだな。あの人が1人で抜けることは出来ないだろうし。俺達が直接誘わないと無理じゃないかな。結構、前途多難だよ」


「うーん、そこなんだね。彼女1人じゃ難しい事は分かっているのだけど。少なくとももう1回会って見ないとダメだね。朝井村も広いからなねぇ。いったい何処にいるのかな?会ったとしてもある程度支援しないといけないから、どんなことをするか考えないと」


「いらねぇよ、1人で抜けることが出来ねぇような奴は、はなっからいらねぇだろ。抜けるにしてもある程度腹決まってないと抜けれねぇし。全部、あの女次第だろ」


「長貴、これに関しては俺もそう思う。あんまり甘やかさない方があの人の為にもなるよ。どうも優しすぎる」


「……そう、かな?……分かった。君達の言う通りにしよう」


こうして、青海と呼ばれる女性(直家達は年齢が分からないので女性としているが見た目は高校生か中学生でも通じるような容姿をしている、胸以外)をスカウトする方針に決まった。食事も開拓地の危険な場所なのでいつでも動けるように少量を素早く食べる為、終わっている。


「そろそろいいだろ。早く行こうぜ、今日は逃げたせいで鼻を削いでいねぇんだ。このままだと赤字だぜ」


「そうだね、頑張らないと。彼女を誘うどころじゃ無くなるからね」


「誘われる組が金欠で野宿をしているなんて聞いたら、抜けたくても抜けないだろうし」


結構笑えない話だ。事実誰も笑っていない。何かに躓くとその未来は現実のものとなる可能性は大いにあるからである。まず、今日の稼ぎを黒字にしないと話にならないのである。


「まったく、食い扶持を稼ぐだけで精一杯なんて。こんなに大変だとは思わなかったよ」


「愚痴を言っても始まらねぇよ。それに飢え死にするのり、小鬼にぶっ殺される方がまだマシだろ」


「どっちも僕は嫌だよ……」


猿吉は戦って死んだ方がまだカッコイイ位の感覚なんだが、直家や長貴からしたらどちらも冗談ではない。槍を持つ手に自然に力が入る。開拓地のかなり浅い層にまで降って食事をしていたので、少し歩き回っても小鬼には出会わない。


「なるべく少数の集団に会いたいけどもなかなかいないなぁ。赤猿の群れもいないし。はぁ、もっと稼ぎのいい妖怪はいないものか」


「狂犬や、黒鷲、妖狐の1尾なんかが出れば良い稼ぎになるらしいけど、あんまり浅い層じゃでないらしいね」


「そんな奴に出会ったら、俺らじゃ全滅するだろうしね」


開拓者組合所の壁や高札(大きい木の板に色々書いているアレ)に、妖怪の絵と名前等がが書いてある紙が貼ってありそこには、1匹いくらほど出ますという金額や、高額で売却出来る部位の位置等が書いてあり、それを見て、文字を読むのが苦手な人にも分かるようにしている。直家もそれを見たので、何となく分かる。というか、この3人の中で文字が不自由なく読めて書けるのは長貴だけである。


前々から文字を書けた方がいいよなぁと思ってはいたが、村にいた時はもっぱら模擬戦や妖怪退治に専念していたので、文字がどうこうなんて考えもしなかった。いざ、町に出てみるとかなりの頻度で文字を読む機会が出てくる。朝井村に来てからは少なくなったが、今後は必要になるだろう。何処かで勉強しないとダメだ。この世界の文字自体は平仮名のようなものとや片仮名のようなものと漢字の様なものもを物凄い達筆で書いている感じだ。何となく読めそうなんだけど読めないという不思議な感じである。なので、丁度いいから思い出したうちに長貴に頼んでおこう。


「なぁ、長貴。頼みがあるんだけどいいかな?」


「……いまかい?」


「いや、今すぐってわけじゃ無いんだけどさ。帰ったら俺に、文字を教えて欲しくて」


「頼み事をするタイミングが今か、と聞いたんだよ。てめぇは、やっぱりどっかズレてやがるな」


そうかもしれないが、猿吉には言われたくない。長貴も苦笑いしているので、猿吉の言うことは本当なんだろうけど。


「なんていうか、直家君は時々物凄く図太いというか、緊張感無くすことを平気で言うよね」


「空気が読めねぇだけだろ」


「うるさいよ。猿吉には言われたくない」


「俺は読んだ上で、その空気を壊しているんだよ。てめぇとは違うわ」


「いや、そっちの方が酷いような…」


静かな長貴の突っ込みは、妖怪を呼び寄せないように静かに喧嘩をしだした2人には届かない。文字を教えてくれと言うのは、直家は軽く言ったがキチンとした教育を受けられるのは特権階級か経済的に余裕のある人だけである。つまり、文字を読めるなどの教養を教わるのも高いお金が本来ならばかかるのだ。それでも、殆どの人は親に何とか出して貰ってある程度の教育は受けているが。


つまり何が言いたいかと言うと、教育費は高いのである。それを知らない直家の提案をどうするかである。打算的ではあるが、いかに教育費が高いかを説明して恩を売るというのも悪くは無い。直家にもある程度の教養を身につけて貰うというのも玄武組としては良い事だ。が、正直文字を教えると言っても長い期間が必要である。簡単には決められない。


ましてや、今はゆっくり考えている時間なんて無いのである。ある意味絶妙なタイミングで入れてきたともいえよう。おかげでなかなか考えがまとまらない。もしかして、それすら狙って言ったのかと頭悪そうに喧嘩している直家を見る。本当にどちらか分からない人だ。


「ふう、直家君。分かったよ。帰ったら文字を教えるという話、受けるよ」


「お!ありがたい!助かるよ!教えてくれる人がいなかったんだ!流石に文字くらい読めないと恥ずかしいからさ」


「俺も少ししか読めねぇよ」


「馬鹿なだけだろ」


「てめぇも同じじゃねえか!」


「俺はまだ学ぼうとする意欲があるからいいの」


「なんだその理論。なら、俺もやるよ。長貴よぉ、一人増えてもあんまり変わんねぇんだろ?俺も混ぜろよ。直家にいいと言って俺にダメとかねぇだろ?」


「は、はは。猿吉君もやるんだ………」


「おら、いいってよ。文字が読めるようになったテメェに馬鹿にされるのは嫌だからな」


「…そんな理由で…」


了承した理由でもないし、理由も曖昧極まりないものだったが、もうやる流れだ。


「本来、結構高いものなのに……」


午後の妖怪退治をする前に精神的に少し疲労し始めた長貴であった。


「おい!長貴!なにボーっとしてんだよ!早く行くぞ!今日の食い扶持を稼ぐんだろ!こんな所で気が抜けてたらいつ死んでもおかしくねぇぞ!」


「……なんか、納得出来ないな」


まるで、長貴が悪いような流れに少し憮然とした顔をするが何とか切り替える。このかりは、今日帰ってから文字を教える時にタップリと返してもらえば良いだろう。学問を何処か舐めている2人が後悔するまでやってやろう。と、心に誓う長貴であった。


僅かに長貴の逆鱗に触れてしまった事に一切気が付かない、直家はあー、良かったなんて呑気に言いながら森の中を進む。


「そろそろ、俺達が逃げ出した当たりだな」


「この辺は小鬼がよく出るからね。数が多くて厄介だけど効率がいいからここで適当な小鬼の群れを見つけよう」


「じゃあ、早速探そうか」


「……なぁ、今思ったんだけどよぉ、なにも探し回らなくてもいいんじゃねぇか?適当な所にでも隠れて奇襲した方が楽に倒せるだろ」


「ん?らしくないな。正々堂々やらないと強くなれないって言ってたの猿吉じゃないか」


「正々堂々やっても勝てなくて逃げるはめになるし、今はそんな事を言っているだけの経済的な余裕は無いことはお前も知ってんだろ?」


「まぁ、そうだけど」


「……うん、猿吉君の案で行こう。まず、隠れることが出来るところを探さないと」


「少し高所で、なるべく対象が近くに寄ってもバレにくく、何より敵の襲撃を受けない場所がいい」


「よくそんなにポンポン思いつくな。でも、そんな場所あるのか?」


「全部に当てはまる場所じゃなくてもいいんだよ。ある程度当てはまれば」


「よし、じゃそういう所を探そうか」


「移動している時もなるべく隠れながらの方がいいだろ。上手く行けばそのまま奇襲できる」


猿吉の提案をそのまま受け入れ、隠れ潜む場所を隠れながら探し回る。そして、いつもより少し深い層にいい所が見つかった。高所ではないが敵に気付かれないような長い草が生えていて身を隠すには持ってこいであった。敵の襲撃は気をつければ受けることはないだろう。


「お、来た」


「じゃ、決めた通りにやろう」


そうして、少し待っていると10体程の小鬼の群れが近ずいてくるのが分かる。決めたこととは、大声を出して突撃すると奇襲の意味が無いので、手で合図を出しながら少しずつ近づいていき、猿吉が刀を鞘から抜いたらそれぞれ突貫する事である。


ゆっくりとこちらに歩を進める小鬼達に合わせて直家達もゆっくりと配置につく。距離が10mをきった当たりで猿吉が刀を抜きながら突貫する。それに直家や長貴もついて奇襲をかける。


流石にこれほど近い距離に敵がいると思わなかったのか、悲しいほどに脆かった。猿吉に一体は袈裟に斬られ、もう一体は心臓を突かれ、直家は一体を刺し殺し、もう一体の頭を槍の柄で殴り叩き伏せた。長貴などは一体を槍で刺し殺し、逃げられないように裏に回った。これにより完全に包囲された小鬼達は混乱に立ち直れず、逃げられもせずに全滅した。


「ふん、こんなもんだろ」


「いや、凄いね。こんなに楽になると思わなかったよ」


「猿吉慣れすぎじゃない?明らかに手慣れているでしょ?」


「俺は元々こういう風に村で妖怪を狩ってたんだよ。楽に狩れるが、俺達は強くはならねぇよ。だから、あんまり好きじゃねえんだよ」


直家と長貴は嬉しそうに騒いでいるが何処か、猿吉は微妙そうな顔をしていた。村ではずっとこの方法でやっていたのであろう。手慣れてはいるが好きではない、直家の逃げながら戦う戦法と一緒だ。


だが、今の直家達には大助かりの方法だ。逃げながら戦うのより遥かに効率と確実性がある。ある程度、生活が安定するまでこと方法は重宝されるだろう。鼻を剥ぎ取り、死体をそのままにして他の妖怪が寄ってくるのを待つ。小鬼の血の匂いを嗅いで黒犬という妖怪が寄ってくるらしいのでそれを待つことに決まった。


小鬼の死体など誰が片付けているのか不思議だったが、ちゃんと片ずけるやつもいるんだなと思い一人納得する直家。黒犬も群れで行動する妖怪で賢くて足が速いのが特徴だ。ただ、体があんまり大きくなく平均の犬のサイズを少し下回るくらいだ。なので、あまり強くは無く、脅威になりにくい妖怪である。群れの規模によるが。だいたい群れと言っても15頭もいれば多い方でだいたい10頭位だ。それでも、小鬼と金額はおんなじなのでよい。ただ、賢いので滅多に捕まらないし、捕まえても足が早いので大変だ。


しかし、奇襲ならば話は別だろう。一応犬なので鼻はいいから、場所バレるくね?と思ったが、小鬼の死体から出る臭いが強くて分からないらしい。


なんて、考えているうちに犬の鳴き声が遠くから聞こえてきた。


「お、狙い通りだな」


「……でも、少し様子がおかしい」


「へ?」


犬の鳴き声が聞こえる。ただ、その数が多い。20頭や30頭くらいの数がいる感じだ。これは少しやばいからもしれない。長貴とアイコンタクトをしてどうするか聞く。


「荷が重い。逃げよう」


「わかった」


早速逃げるために後ろに下がった瞬間、声が聞こえた。犬の声ではない。微かに誰か人間の女性の声で、助けを求めているように聞こえた気がした。


逃げているのか、こちらに音が近づいてくる。長貴が止まれの合図をだす。逃げるのは中止だ。


「だ、誰か!た、すけて!キャ!」


見えてきたのはあの青海という女性だ。何故か仲間はおらず彼女だけが逃げていた。黒犬は、体力を奪うために彼女を囲むように走っていた。逃げている、青海も限界だったのだろう。何かに躓き転んでしまう。


その瞬間を逃がす、黒犬ではない。一斉に彼女に群がる。それを見て、長貴が助けに入ろうとしたがその前に猿吉が入り、止める。


「何故だい?」


「まだだ。もう少し」


彼女も開拓者である。妖術が使えるのだろう。何匹かの黒犬をサッカーボール並の水球で吹き飛ばす。吹き飛ばされた黒犬は体制を立て直しまた立ち上がって、逃げ出す彼女の囲いに戻る。ああやって何とか生き延びて来たのだろう。


しかし、もう限界だろう。足元がふらつき、妖力もほとんど尽きている。もう助けを呼び叫ぶ力もないのか、それでも懸命に走る。


その時、猿吉が刀を抜きながら走り出した。丁度、黒犬の囲いを突き破り彼女に直行出来る位置に来たのだ。直家も長貴も駆け出す。これ以上ないほど、最高のタイミングだった。



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