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山賊

すこーしだけ、書き溜めがあります。

屈強な男の集団、もしかしたらちょっと荒っぽい冗談なのではないか?なんていう現実逃避に似た甘過ぎる考えは山賊が本拠にしてる小さな神社のような建物がある場所に連れてこられた時点でもうすでに霧散している。


昔はここに村があったのであろうか、近くに幾つか木で出来たボロボロで今にも崩れそうな昔の日本によく見たであろう家のような物がある。4人が寝たらもう身動きができないであろう位狭い。ドアや仕切りなんて上等な物はなく中は見放題だ。その中にも6人ほどが丸まって座っていた。直家を捕まえた山賊が、座っていた6人を呼ぶ。他の家からもゾロゾロと山賊が出てくる。全員合わせると30人以上はいるだろうか、ジロジロと直家を見ながら神社に集まる。


「おい、こいつ何処で捕まえたんだ?」


「街道近くだよ、こっちに帰るときに小鬼に追われていた」


ここまで連れてこられるまでにはもう直家は強い恐怖で固まっていた。頭が真っ白になり、何にも考えることができない。直家の顔も生気をなくし青白くなって震えている。


「多分どっかの商家の息子だろ、今のご時世こんなデブにする余裕があるってことはかなり金持ちだ」


「人質って訳か。金を払わなければ命はねぇってやつだな」


「おい人聞きの悪いことを言うな、俺らがこのご子息を保護して、それを引き渡すお礼に世話金をもらうだけだろ?」


「おい!聞いてたか!そういうこった、早く帰りたければ何処の商家の子か言え!」


ビクッと、直家の肩が震える。当たり前だ、そんな商家の家の息子ではない。もし自分が全然関係ないと知ればどんな目にあうかわからない。なんて答えればいいのか全く思いつかない。結果、黙る。騒いでいた男の中でひときわ身体が大きく、身につけてる物も少し他の男達よりいい男が直家の近くにくる。頭目であろう。


「………おいおい、俺はあんまり気が長いほうじゃねぇんだよ、早くしろ」


「ヒッ!まっ、待って。」


なら早くしろと、こちらを睨んでくる。だが、言える訳がない。何も言えずに下を向いて黙っているしかない。下手な事を言って余計怒らせる訳にはいかない。でも、喋らないともしかしたら殺されるかもしれない。怖い、怖い、怖い怖い怖い!頭のなかがパニックに陥り口がカラカラに乾き、喋れない。目に剣呑な光を宿し直家の胸ぐらをねじりあげ、持ち上げる。


「てめぇ‼︎いつまで黙ってやがる‼︎後三秒以内言わねぇといてぇ目見るぞ!!」


「ヒッ!やめ!やめて!お、お願い、お願いします!」


いぃぃち!男が数える。男の拳に力が入るのがわかる。にぃぃ!腕が振り上げられる。サンッッ‼︎そういうのが早いか、直家の腹に拳がめり込むのが早いか直家の体が浮く。衝撃が先に来て痛みが一瞬遅れる、すぐに業火が凄まじい勢いで燃え広がるかのように痛みが身体を蹂躙する。


「かっ……ぎぃぃ、がぁぁ、ハッハッハッぐぅぬぃぁああ!」


内臓がぐちゃぐちゃになったかと錯覚してしまうほどの衝撃だ。口から唾液が溢れ出して床に垂れていく。


直家を殴った男の隣にいた少し細身の男は、苦しみ、激痛でのたうち回っている直家の髪を掴み無理矢理、苦痛で歪み唾液で汚れている顔を上げさせる。


「ぃっ…だぃ」


「ほら、いえよ…。もう一発いくか?」


「ヒッ‼︎や、やめ、知らない‼︎俺は知らない‼︎」


今度は身体を蹴られた。身体が大きく吹っ飛ばされる。


「なぁ、難しい話じゃねぇだろ?てめぇをまんまるに肥えさせてくれた奴の名前を言えって言ってんだよ。爪を剥がされたり、金玉切り取られたりしたくなかったらな」


恐怖と痛みで頭の中がぐちゃぐちゃになり身体が震え、意識が飛びかけ、下半身に生暖かい液体が垂れ流れる。頭がパニック状態になり半狂乱に叫び出す。


「いやだ!助けて!誰かぁ‼︎たすけてぇ!誰かぁ‼︎だ、誰か、お願い、お願いします、た、助けて、助けてください…。イヤだ…がぁっ!」


「うるせぇ‼︎黙ってろ‼︎ッチ、最悪だこの野郎漏らしやがったぜ。こいつ縛ってそこらへんに転がしとけ、邪魔だ」


朦朧として意識が飛びかけてるなか、頭目の声を最後に全てが暗転する。












目が覚めた。何か恐ろしい夢を見ていたような気がする。いつも通りの散らかって汚い部屋。よく知っている天井から目を横にそらし、カーテンの閉まった窓が日差しを遮断しきれずに光が漏れてる。


「………朝…か、何かへんな感じだな」


今日はいつもある、朝目覚めた時の恐怖がない。自分だけが取り残されていくような感覚が、ない。ただ、あるのはとても恐ろしいものから逃れたような、強い安堵感だ。


コンコンと、不意にノック音がした。父親だろう。わかったはいたが、何故か身体が強張った。父親は信用していて、こんな事はなかったが。


「ナオ、起きたか?飯ができたぞ。降りてこい」



わかった、父さんと今行くよ。行きたいよ。声がする。こんな日常には場違いな焦ったような声が。


「……い!ぉい!おい!起きろ!起きろって!」


耳を塞ぐ。目を閉じる。五感を全て閉じたい。聞きたくない。見たくない。起きたくない。それでも声は届き、自分の部屋が崩れて行くような気がした。


「いい加減に起きろ!おい!今しかねぇんだよ!早く!早く…起きろって‼︎」


「……うっ、な、なんなんだよ……誰だよ」



目が覚めた、長く夢を見ていた。一日もたってないのに、涙が出るくらい懐かしかく、戻りたかった。多分、現実逃避してたのだろう。覚えている最後の記憶は殴られたこと、これが意識を失う前に受けたものかはわからないが、今もかなり身体が痛い。吹っ飛ばされた時に擦りむいた所は今パッと見た所だけで両手の数を超える。打撲に紫色のアザ、数えればきりがない位は満身創痍だ。


「やっと起きたな、坊ちゃん!」


さっきから俺に小声で話しかけて俺を起こした奴が横で喋りかけてくる。若い男で、30はいってないが20代というのも少し老けてるぐらいで、髪は短く切られてるが、無精髭が生えていて頬もこけている、少し痩せ過ぎなぐらい痩せ細っている。この男も捕まっていたのであろう。同じ木に縄でくくりつけられていて、すぐ隣にいる。ここで、俺も縄で拘束されているのに気がついた。


「ぐっ!ふんぬ!ぐぁ!はぁ、やっぱ無理だ」


「シッ!静かにしないか!あいつからが起きたらどうする!いいか、坊ちゃんしばらく寝ていたからわからないだろうけどね、今は日が昇ったばっかり位の時間なんだ」


そういえば、少し肌寒い。自分が思っている以上に気絶していたらしい。自分がどんな状況にいるのか、思い出してくる。体が震えているのは寒いからだけではない。また、同じ事をされるのか、それとも本当に爪をはがされたり、拷問の様な事をされるのか、それかもう見切りをつけられて、殺されるかもしれない。い…嫌だ、嫌だ、嫌だ!嫌だ‼︎


「お…おい!大丈夫か?よほど酷い目にあったんだな」


「うるさい…」


うるさい、静かにしてくれよ。もう嫌だ。帰りたい。助けてよ、誰か。


「おいおい、そりぁねぇだろ。心配してんのによ。チィ、まぁいい、坊ちゃんがどんな奴だろうと知った事じゃねぇが聞け、うまくいけばこのまま逃げられるぞ」


「え…、どういう事?」


逃げるって、どうやって?縄で体を木に括りつけられているし、足にも丁寧に拘束されてある、身動き出来るのはせいぜい顔くらいなもの。こんな状態でどうやって逃げるっていうのだろうか?大体、この縄がどうにかなったって俺にはこの世界で帰るところがないのだ。また、失敗したら?今度は、殺されるのじゃないか?


「俺は少しだけ妖術が使えるんだ、それでこの縄を切る。そこでだ、俺1人の妖力だとそれが使えない、お前の妖力を俺に分けろ、そうすれば逃げれる」



妖術?妖力?なんだそれは?魔法みたいなものか?というか、そんな夢みたいな話し、本当か?本当に使えるとしたら、助かるかもしれない。あの山賊たちにも立ち向かえる人なのかも。絶望しかなかった心に希望が差してくるのがわかる。


「本当に使えるのか?そんな事ができるのか?」


「あ、坊ちゃん疑ってるな?たしかに俺は侍様じゃねぇし、見ての通り武士でもねぇ、忍びでもねぇ、しがねぇ村人だがよ、使えるんだよ3つだけ妖術が。たしかに学はねぇが若けぇ頃、怪我して引退した開拓者が村に移住してきてよ、そいつに教えてもらった。まぁ、説明するより見た方が早いだろ、だから早く俺に妖力をわけてくれ。それとも坊ちゃんも使えるのかい?」


何から何までよくわからないが、妖力とやらを分ければこの縄が切れるらしい。なら早速分けよう。……どうやって?


「あの……妖力ってなに?」


「は?……坊ちゃん、いくら胡散くさいからってそりゃねぇだろ。ここは信じてくれよ、置いて逃げたりはしねぇよ。疑り深いのはいまのご時世じゃ、しょうがねぇが、それでもこ」


「いや!本当にわからないんです。妖力ってなんですか?僕にもあるんですか?」


「まさか本当にわからんのか?驚いたな、妖術は使えなくても使う事は多いだろうに。よほど、浮世離れした暮らしをしていたのか?それでもちょっとなぁ。しょうがねぇな、時間がねぇから手短に行くぞ。妖力は誰でもある、これは絶対だ。ねぇ奴はいねぇ。少ねぇ奴、多い奴はいるが、みんな持ってる。だから、坊ちゃんも例外じゃねぇ。」


どうだろう、俺はこの世界の人じゃないし、そんな力もってないかもしれない。少なくても今の今まで何にもそんな力があるなんてわからないし、感じもしない。でも、なければ捕まったままだ。このままだと本当に殺されるかもしれない。是が非でもこの男に妖力なるものを渡さないといけない。


「じゃあ、妖力ってどうやって分けるんですか?」


「……まぁそうだよな、わからねぇよな。妖力を感じる所から始めねぇとダメか…」


感じるところから、妖気なんてものが存在しない世界から来た直家からしたら難しい事だろう、この世界の人たちは生まれた時からこの技術を使って生きてきたのだろうからそれこそ息をするように使えるのであろうが、それでも成長共に少しずつ身体に染み込ませていったこの世界の技術なのだろう、とてもじゃないが一朝一夕にはできるようにはならないものだ。


「まぁ無理だな、使えない奴なんて初めて見たが、覚えるまで結構時間がかかるものだからな比較的に簡単な妖気を渡す事すらまず無理だろうな…どうすかねぇ」


「だ、駄目なのか?なんかほら、俺の身体に触れて妖力を吸い出すとか、そういうのできないのか?」


助かりたい一心で今までの生きてきた知識を総動員して中途半端なゲーム知識をだすが、この世界に来て前の知識などほとんど役には立たないが、今回ばかりは役に立つ。


「そんなの無理に決まってるだろ、俺はそんな高等技術が使える妖術師にみえるかよ、まったく………いや、もしかしていけるか?なぁ、お前本当に妖気とか妖力とか全然使えないし知らないのだよな?…それならいけるかもしれねぇな…ちょっとこっちこい、俺の手にどっか触れれねぇか?」


縛られているのでそんなに身動きできないが、隣にいる男にはなんとか触れるぐらいの距離だ無駄にデカイ体積が初めて役に立った。横腹に手が触れる。


「よし、やるぞ、よし!うまくいった!」


「えっ!もう?なんかした?」


「妖気を感じないじゃそんなもんだろ。ふんっ!は!」


変な気合を入れその瞬間パタリと縄が落ちる。


「え?解けたの?いまの?詠唱とかは?」


「詠唱?そんな大層な事じゃねぇよ、縄を切るためにそこそこたくさんの妖力を使っただけで簡単な妖術らしいぞ。ほら解けたから行くぞ」


少しかっこいい詠唱に期待していたので、少し残念がる。


まだまだ、誰も起きてくる気配はない。そうっと、森の中に入る男の後ろについていく。そういえば、名前を聞いていなかったな。


「なあ、名前を聞いてなかったから名前を聞いていい…ですか?」


聞いてるうちに声が尻すぼみになってゆく。よく考えれば久しぶりに父さん以外の人と話している事に気が付いて話せなくなってしまう。


「名前?そうだなそういや言ってなかったな。まだ、あいつらが近くにいる事の心配はわかるが後半なんかまったく聞こえなかったぞ、もう少し大きな声で話せ、聞こえないぞ」


「あ、ああ、わかった」


「で、名前な。俺は伊吉だ。出石村の伊吉だ。お前は?」


「俺は、直家だ」


「へぇ、まるでお武士さんの名前みたいだね。苗字をないとこをみると武士になろうとしてる商家ってところか。どうだ?」


「ま、まぁ、そんなもんだよ、うん」


やっぱりここは苗字を言わないほうが正解ぽい。この世界のお武士様はどんな人たちかわからないが、武士とつくぐらいだから戦う人たちなのだろう。それなら妖気なるものが使えないってのはダメだろう。


「あっそうだ、さっきは妖気を吸うことは無理だっていったけど、どうして急にできるってなったの?」


さっきら少し疑問に思っていたことだ。聞いた話ならかなりの高等技術が必要で、妖術師なるものじゃないとそうそう使えないものらしいが、それを何故やれたのか?


「あぁ、それか。それはな前は何も妖気、妖力もなんも知らねえってとは、妖気の抵抗力が限りなく弱いんだよ。よく赤子とかにも、病気のときとか、妖気を渡して早く直るようにするんだよ、抵抗の弱い赤子なんか引き出すのも、渡すのもどっちもできる。多すぎると、赤子が最悪妖気にやられて死ぬかもしれんし、少なすぎるとすぐに病気とか、最悪なくなるとこっちも、死ぬ。なくなると大人でもかなりの衰弱するから、お前は気をつけろよ。あ、心配すんなよさっきお前からとった妖力は俺が妖術を使うための少ししかとってねぇよ。本当はもうちょいと取ろうとしたけどお前結構妖力が少なかったからな」


助かった事で少し高揚してるのかかなり饒舌になってしゃべってくる。へぇ、とか、うん、とか適当に相槌を打ちながら、結構大事な事なのだろうから必死に覚えようとしてる。

それでも、やっぱりチートとか皆無らしい。妖力の量が少ないみたいだし。結構、かなり、すごく、ショックだ。






「フゥ〜、もうここら辺までくればあいつらだって追いかけてこねぇだろ」


1時間くらい歩いたろうか。もう足が子鹿のようにプルプル震えて歩くのが限界だ。というかよく持ったと、自分を褒めてやりたい。舗装された道路じゃなく、起伏も結構あり草を掻き分けながら歩いていたので神経をかなりを使ったのでかなり疲れる。


「ヒィヒィ!うげぇ。ヘェヘェ。ヒィ!」


「おいおい情けねぇなあ。まだまだ、村に着くまで一刻ほどかかるぞ。」


「ちょっと、やす、ませて、お願い!」


一刻ってのは約2時間くらいの事らしい、半刻は1時間らしい。なんで知ってるって?何度も何度苦しくて後どのくらいで着くのか、しつこく聞いていたからだ、着くまで一刻半くらいのかかるって聞いたのに、あと何刻、あと何刻って何度も聞いたので伊吉もウンザリした様子でも律儀に応えてくれたからだ。


仕方ねぇな、といった様子で近くに座る。それを見て本気で安心して膝から崩れ落ちるようにどかっと座る。


それを見て溜息を吐いて、思いついたようにきいてくる。


「おい、直家。お前村に着いたらどうするつもりだ。お前、どこかの大きな町の商家のご子息様だろ。というか、どうしてあいつらに捕まったんだ?」


「えっと、それは…」


そのときすこし遠くでガサリと草が揺れた。伊吉と俺は会話を中断して音のしたほうを見る。もしや、山賊の奴らが追いかけてきたのではないかと思い身体を硬くする。


「…………」


「…………」


出てきたのは、山賊の奴らではなく。この世界のに来て初めて遭遇した化け物。小鬼と言われるやつらだ。


伊吉と視線を合わせやり過ごす事にきめる。小鬼の方を身体を低くして見る。小鬼は2匹いて、片方は何か持ってる。遠くでよく見えない。2匹が少しこちらに近ずいてくる、気が付いてはいないようだし、進路上にもいないので多分通り過ぎるだろうが、そのとき持ってるものが見えた。


あれは、人間の腕だ。赤く血で汚れているが人間の腕だ。多分、男の腕ではない、女か子供の腕だ。


「っ‼︎‼︎」


「おい!馬鹿!」


驚いて少し音を立ててしまった。小声で注意されたが遅かった。1匹がこちらを見た。完全に気がつかれた。



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