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人手不足

朝井村に来てはや10日になった。今日も朝早くから三人で鍛錬に精を出していた。初心者開拓者の多い朝井村で朝早くに起きて鍛錬をしているのは玄武組だけだ。ちなみに、玄武組などの名前は開拓者組合所にどのような人がいるかなどの管理をする上で必要になるらしい。この朝井村の組合所でも3人個別の証明木版を見せて3人で組んでいるとも伝えたのである。何故そのような情報が必要かと言うともし村に妖怪が攻めてきた場合どの位開拓者がいるか実力はどのくらいかなどを知っていると守りやすいからだ。暫く妖怪の襲撃などないらしいが。


「オラァ!オラァ!死ねぇ!」


「ふっ!はぁ!危ねぇ!」


「ッチ!運のいい野郎だ」


「お前今死ねぇって言ってたろ!この野郎!」


朝から喧嘩のように模擬戦をしている直家と猿吉。今のところ互いに勝ちが5回、負けが5回と互角の戦歴となっている。素早い動きで意表を突いて相手を翻弄する猿吉と、どっしりと構えて相手が来るのを待ち多少の攻撃は受けても相手を捕まえる。


言ってしまえば互いに苦手とする相手である。なかなか捕まらない猿吉と、いくら攻撃しても倒れない直家。いつも、鍛錬の最後にこのふたりの模擬戦をやり、捕まえるか、先に倒れるかの勝負を続けている。


「ラァァァァァァァ!」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!」


互いに限界が近づき、最後の一撃として渾身の力を、速さを秘めて互いにぶつかる。


「…………今日は引き分けだね」


勝敗を見守っていた長貴が呟く。猿吉の胸には槍が直家の肩には木刀がそれぞれ当たっていて、二人同時に倒れる。


「はぁ、あれだけ体力を残しておいてって言ってるのに」


毎日これだ。勝った方もフラフラしていて変わらないので、毎日死力を尽くして戦っているのである。かくも男のプライドとは面倒なものだ。


とはいえ、半刻ほど寝て、目が覚めると元気になっているのだが。どちらも丈夫だ。なので文句は言っても朝の鍛錬を中止ににはしないのである。頭痛がするかのような感じでこめかみを抑えている長貴はあらためて直家と猿吉の扱いづらさに溜息をもう1度吐く。


「はぁ。この2人は放っておけば勝手に目が覚めるとして……。もう10日目か。全然予定通りに行かないなぁ」


長貴の考えでは3ヶ月か長くても半年後には次の拠点に移れる様にしたかった。何故なら組合所で聞いた開拓者の平均的な日数だからだ。早い人など10日目にはもう次に移っている。そこまでではないにしろ、今も浅い層でまごついている現状には少し焦りを感じる。


聞いたところによるともう他の初心者開拓者達の組は深い層に潜りはじめている。中には次の拠点に移ったという人もいたくらいだ。浅い層はまだまだ序の口もいいところだ。本番は深い層に入ってからである。そこで初めて多種多様な妖怪が出てきて、色々と開拓者として必要なことを学ぶのだ。玄武組はまだ、そこに至ってすらいない。


「それを一番自覚しているのはこの2人なんだから何にも言えないよ……」


勿論そういった事は、直家や猿吉も十分わかっている。だからこそ、限界まで自己鍛錬し少しでも追いつけるように必死に頑張っているのだ。才能が無いことははなから承知だ。それをわかった上で2人を誘ったのだ。それなのに、他のに比べて遅いというのは我儘だろう。2人は今出来る精一杯をやっているのだ。


「ま、気長に待つように心がけないとな」


気持ちが逸ると、無意識に無茶をしてしまうかもしれない。こんな所で無茶をして死んでしまっては元も子も無いのだ。リーダーである自分の役目は全員で生きて帰れるような指示を出す事。長貴はそう思っていた。


「だけど、人手が足りないのは本当だからなぁ。どうしようか。朝井村にいる同期じゃあ、今更入ってくれない様な気がする」


ならば一旦社山城下町にでも戻って1人誰か捕まえてくるか?そんな時間勿体ないし、第1今ある収入だけで結構ギリギリの生活を送っているのだ。そんなことをしたら一気に文無しになる。ならば、朝井村いる人じゃないと厳しいか。


「そんな都合のいい人がいるわけないか……」


朝井村で1人でいる人なんかいない。いたとしてもかなり人間的に問題のある人か、人と組む必要が無いくらい強い人かだ。前者は論外だし、後者は入ってはくれないだろう。長貴的には入って貰ってもリーダー変われって言われるだろうから、絶対に嫌だ。


しかし、3人だけでは人手が足りないのは事実。せめてあと1人は欲しい。出来ればこの中にいない、妖術を使える人が。ちなみに、村では武士以外に妖術を使える人などいないが、才能があれば教えてくれる時もあるのである。妖怪などに村が襲撃された時に妖術が使えるというのは大きいことなのだ。その中で特に才能がある人はよく開拓者に志願する。理由は、もっと稼ぎたい、小さい村ではなく大きい都市に住みたいなど様々だが、上手く行けば大名のお抱えの妖術師になれるかもしれないのである。こういった人は特に女性に多い。女性の方が平均的に男性よりも妖力が多く、筋肉がつきにくいので妖力を纏えないため、妖術に特化するのである。


「まぁ、でもそれなりに情報を集めておこう」


もしかしたら、都合のいいの人が出てくるかもしれない。組合所の人にも色々と聞いてみよう。


ある程度考えがまとまった当たりで直家と猿吉がピクッと動く。そういえば、そのまま放ったらかしにしてたんだと思い出した。グゥと長貴のお腹が鳴り、朝食がまだだった事に気が付いたので、2人を起こそうとする。軽く意識が戻ったのであれば、後は起こすのは簡単だ。


「2人ともそろそろ起きて!御飯!食べに行こう!」


「………てめぇはそんな単純な事で俺様が釣られるとでも思っているのか?」


「でも、起きたじゃないか。ちなみに、直家君はもう準備を整えているよ」


「早く行こう。……ん?猿吉、まだ倒れていたのか?回復が遅いなぁ。そんなに俺の攻撃が効いたの?」


「はっ!冗談がうめぇな。テメェの攻撃なんかで倒れるわけねぇだろ?コンニャク見てぇな感触だったぜ?」


「よし、準備が出来たね。行こうか」


直家の挑発に猿吉も準備を整えながら挑発仕返し、全員の準備が整う。玄武組の朝は早い。なので、開店した直後にすぐに入るので人が空いている。貸切状態とも言える。いつも通りの日替わりを頼み、朝に長貴が考えていた人手不足で人を1人、入れたいという考えを伝える。


「……それは俺達が使えねぇからって事を言ってんのか?」


「違うよ。猿吉君も感じているでしょ?僕らの組が人手不足なのは」


「でもそれは、俺達がもっと強くなれば解決するんじゃないかな?」


「そうかもしれないけど、でも僕ら3人とも妖術を使えないじゃない。使えたとしても簡単なものだけだ。だから、遠距離からの攻撃手段が欲しい。そうすると今までのように逃げ回らなくても良くなるからね」


「違うだろ?そんな奴いれると今やってる逃げながら敵を倒す戦法が出来なくなる。妖術を使えるやつって事は多分女だろ?それいつは俺らの速度について来れるのかよ。もし、逃げきれなくなった時に見捨てるしか無くなるぞ?」


「猿吉君はいつまでもあの戦い方がいいと思っているのかい?」


「………………」


「確かに猿吉君の言う通りだけど、それじゃいつまでたっても妖怪達と正面から戦えないよ」


その通りだ。3人がそれぞれ、このままではいけないという思いがあったのだ。猿吉の言う通り、デメリットも勿論あるが、もっと強く上に行くためには、なるほど妖怪達と真正面から戦える力が必要だ。その上で1人、妖術を使える人を入れるのは悪くない判断だ。


「……俺は賛成だよ。正面切って戦えないといつまでたっても強くはなれないとおもうから」


「っけ。好きにしろ。でもよぉ、見つかるのか?そんな奴」


「分からないよ。だけど見つかった時のために今のうちから許可を取っておきたくてね」


会話も一段落付き、注文した物が運ばれてきた。安いからであろう毎回水で割増した玄米の粥と、何かの肉の味がもの凄くしょっぱい塩焼き。漬物少々で量だけは沢山ある。元の世界の感覚でいうと食えたものではないが、空腹は最高のスパイスとはよく言ったものでたいへん美味しく食べれている。安くて量が多いこの店はいつも愛用している所だ。


米粒一つ残さずに食べきり、満足感に浸り小休憩をしている時、1組の開拓者達が入ってきた。


「お!人あんまりいない!たまには早起きしてみるもんねぇ!」


「あー!ホントだぁ!眠い体引きずって来たかいがあってよかったァ!」


「あ、あの、朝早くにそんなに、騒いだら、め、迷惑に……」


甲高い声で、容姿もいい。思い出した、あの試合の時に笑っていた不快な2人だ。なるべく、関わりたくないから目を合わせないようにする。あの時の、青海と言われた女性も一緒いて、3人を止めようとしている。


「あ?なによ、青海の分際で私に文句言うの?誰の迷惑になるって言うのよ?人いないじゃない!」


「で、でも、あそこに人いる……し。」


「あ、ホントだ!ん?でも、あのチビと短足見た時あるわねぇ。あ!思い出した、あの時の変態と猿だ!」


「え!どこどこ?うわっ!村に帰ったんじゃ無かったの。キャハハッ!笑える!」


「や、やめてよ。聞こえてるよ」


無視をしようとした。しかし、これは怒っていいだろう。勝手に変態などとあだ名をつけられては最早我慢がならない。猿吉も向かいでプルプルと震えている。額の青筋が凄い。多分自分も凄い。立ち上がりその喧嘩を買ってやろうとあちらの方に目を向けようとした瞬間。バン!と言う大きい机を叩く音が聞こえた。誰かと思ったら長貴であった。そのまま立ち上がりこちらを笑ってくる人の元へと歩いていく。


「僕の仲間を侮辱するなんて、いい度胸じゃないか。僕達に喧嘩を売っているんだろ?買ってあげるよ。……表に出ろ」


直家と猿吉は呆気に取られていた。あの温厚な長貴が本気で切れている。怒っているのが分かる。かえってそれのおかげで、怒りはだいぶ薄まった。


「は?別にあんたの事言ってないじゃん。何で切れてんの?私達に突っかかって来ないでよ」


「そうよ、何カッコつけてんの?」


「少し顔がいいからって、調子に乗んな。キモイんだよ」


「あ、あの。やめ、やめて。す、すいません」


3人がそれぞれ長貴に対して罵倒してくる。それを必死に止めようとしたり、長貴にたいして謝ろうとしたりしている青海という人を無視していう。


「何度も言わせるなよ。いいから、表出ろ。僕は女だからという理由で手加減はしない」


両手で2人の胸ぐらを掴み上げる。それを見て、我に返った直家と猿吉は慌てて長貴を止めに入る。


「お、おい!長貴!やめろ!俺は別に怒ってない!」


「こんな連中に構わなくていい。無視してりゃいいんだよ!」


「…………ふぅ。2人がいいならいいんだけど。お前ら……もっかい同じ事言ってみろ?次はないから」


代金を迷惑料として少し多めに払い、店を出る。流石に胸ぐらを掴まれたのは効いたのか、言葉を失っていた。


「………あいつら!ふざけんな!雑魚の癖に!何が次はないだ!キメェんだよ!」


「ホントそれ!調子に乗ってるわよあれ」


「だいたい、何で青海はさぁ、あんな奴らにずっと謝っていたの?なに?私達を裏切るつもりなの?」


「そ、そんなんじゃ……」


「じゃあ何よ!」


「さ、先に悪口言ったの、こっち…だし」


「本当の事を言って何が悪いのよ!また、私たちの邪魔をした。開拓地に言っている時もあんたトロイし、何度もこっちに妖怪運んで来るし!何なのよ!」


「わ、私、武器持って戦えない、のに」


4人が全員妖術使いであるこの組は、妖怪を足止めさせるために、青海を足止めに使っている。なので、武器を持って3人が妖術を発動させるまで妖怪の相手を1人でしないといけない。中には、妖術に巻き込まれて死にそうになったことも1度や2度ではない。ましてや、勝てそうにない妖怪が出た時はそのまま逃げれるように青海とかなり距離を置く。


「あんたが一番下手なんだからしょうがないじゃない!ちゃんとやらないとこの組から外すよ!」


「……わ、わかった。頑張るから、はずさないで。お願い」


「ちゃんとすれば外さないわよ。私達の言うことをちゃんと聞きなさいよ」


「は、はい」


会話が苦手な青海にとって組から外されるというのは、ここで野垂れ死にすると同義だ。なにせ、お金は全部あちらが持っていて、多分抜ける時は来ている服なんかも持っていかれるかもしれない。青海本人は分からないが3人がお金を稼ぐ腹案として考えているのが、青海の身体を売ってお金を稼ぐことも考えいる。何処までも、都合のいい人としか見ていないのである。そこには友情などというものは皆無だ。年齢が20歳の同期と言うだけである。





店から離れた直家達はむかっ腹を立てつつ、開拓地に出る準備をしていた。さっきの事をぶりかえすとまた長貴が怒ってしまうので、自分の怒りをぐっと抑える。しかし、その怒りは当初に比べるとだいぶ薄まっている。何故なら、長貴が自分たちのことについてあれだけ怒ってくれることが嬉しかったからだ。


「長貴、ありがとうな。俺達のために怒ってくれて」


「……恥ずかしいところを見せてしまったね。取り乱してしまったよ。リーダー失格だよ…」


「失格なんかじゃないよ。俺は心の底から信頼出来る人が出来て嬉しいよ」


「合ってそう日がたってねぇだろ?単純な野郎だな」


「ま、俺も少しは見直したけれどよ」


見直したって…相変わらず上から目線だな…。まぁ、猿吉も嬉しかったのだろう。





いやぁ、長貴いい奴ですねぇ。これでイケメンですよ!もう無敵!キャー、抱いてー。あ、ホモじゃ無いですよ。今のところがほとんどが男ですけど、そういう展開は無いです。


評価よろしくお願いします。



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