開拓者 初日
開拓地寄合所から開拓者組合所に変えました。
「クソッ!何で小鬼がこんなに強いんだよ!」
「知るか!オラァ!うわっ!わらわら来た!」
「直家君!そっち何とか抑えてて!こっちは結構限界!片付けたら行くから!」
「えっ!この数を!?ちょ!キツイって!」
「うるせえ!黙って、言われた、通りに、してろ!このッ!らぁ!」
時間は太陽が高く登りそろそろ小腹が空いた当たりの時間帯。直家達、玄武組は早速小鬼の群れに囲まれていた。結成から早3日目にして全滅の危機が訪れている。
「おい、直家!てめぇ絶対そっから退くなよ!てめぇの持ってる小鬼を1匹でもこっちに寄越したらぶっ殺すからな!」
「無茶いうなよ!この数はヤバイって言ってんじゃん!」
「いやぁ、冗談抜きでここで全滅するかもね」
後半の方はマジトーンで喋る長貴。一番初めに決めた役割分担などもはや誰の頭にも残っていない。小鬼と直家達がぐちゃぐちゃに入り乱れている。
ここは朝井村の近くにある一番難易度が低い開拓地。ここでほとんどの開拓者が経験を積んで次の開拓地に移る場所である。そして、もっとも死亡率が高い場所でもある。直家や猿吉を試合で倒した、才能溢れる初心者開拓者達がここで死んでいくのだ。
「オラァオラァ!!死ねやぁ!なにぃ!?」
猿吉の得意とする変則的な動きで意表を突く攻撃も受け止められている。あの弱いと思っていた小鬼に。このような状況に追い込まれた一つの原因はそういった侮りなのだが、致し方ない事でもある。
「畜生!こっから先は通さねぇぞ!この!オラァ!ウソぉ!ぐはぁっ」
直家は5体以上の小鬼を1人で受け持ち猿吉や長貴の方に行かせないようにしている。前の直家が知っている小鬼ならば簡単に通らせないようにすることができる。
しかし、ここの小鬼は今までの小鬼とは一線を画す。もはやほかの生き物と言っても過言ではないくらいに強力になっている。一体一体の質もそうだが、何より後ろに目が付いているのではないかと思うくらいの連携が一番の脅威。猿吉が相手をしていた小鬼3体は2匹が猿吉の動きを止めて攻撃を爪で受け止めていたり、直家が相手している小鬼は槍を振り回す直家の攻撃を一体が受けている瞬間に懐に入ろうとして、それを槍の柄で吹き飛ばしたら他の小鬼が懐に入ろうとしてを繰り返しているうちに少しずつ近づかれ渾身のタックルを受けてしまった。
「ぐっ!この!うぁああ!」
それでも何とか転ばすに体制を立て直して腰にしがみついている小鬼を引っぺがえそうとする。その僅かな時間が命取りとなり、他の小鬼が一斉に直家に群がる。
「チッ!何やってんだよ!小鬼風情が!しつけぇんだよ!」
押し倒された直家に猿吉が悪態をつき、目の前の小鬼を片付けて助けに入ろうとする。
「このぉ!どけ!クソッ!」
何匹もいる小鬼に押さえつけられては流石に動けない。それどころか、鋭い爪で直家の皮膚を切り裂いている。小鬼に掴まれているところから血が出てくる。そしてトドメを刺そうと喉に噛み付こうとしてくる。
「大丈夫かい!直家君!今助けるよ!」
だが、次の瞬間に直家の上にいた小鬼の重みが一体消える。槍の柄で大きく吹っ飛ばされたようだ。流石にそれには動揺したのか少し力が緩む。
「このっ!いい加減どけぇぇ!」
そのまま力ずくで小鬼をどかし起き上がる。急に起き上がった直家のせいで尻餅ついた小鬼は直家と長貴の槍の穂先で2体が胸を貫かれ絶命する。その少し離れた場所で、猿吉が1体の首を切り飛ばした。これである程度楽になる。
「助かった!」
「いいさ。でも、僕もそんなに助ける事は出来ないだろうから気を付けてよ!」
「分かった!」
最初に襲ってきた群れの数は12体である。半分近くの小鬼を直家が抑えている間に長貴と猿吉が片付けると言う感じになっていた。長貴が担当していた4体の小鬼はもう片付けたらしい。流石、頼りになる。
「残り5体だ。一気に畳み込むよ!」
「この2体は俺がやる!手ぇ出すなよ!」
「わかった。任せるよ」
直家と長貴の2人で残りの3体を相手する。小鬼も仲間がやられて数が減った為か、少し逃げ腰だ。戦意喪失に近い感じになった小鬼を片付けるのは簡単だ。長貴が先頭に立って突貫していき小鬼を一体殴り飛ばす。地面を転がった小鬼に直家がトドメを刺し、その間にもう一体の胸が長貴に貫かれていた。
「ギャ!グギァァァァァァ、ッガ!」
最後の一体となった小鬼が急に叫びたす。仲間を呼ばれているのかどうか分からないが早急に止めさせるのが吉だろう。そう思った直家と長貴が左右から首と脇腹を槍で突き刺し絶命させる。
「オラァ!どうしたァ!死ねやぁぁぁあ!」
そして少し前に猿吉も一体妖怪の身体を滅多切りにして斬殺し、もう一体は脳天から刀を振り下ろし、鼻の辺りまで刀が到達し、そのまま倒れる。
「ハァハァ、小鬼風情が!俺様の、妨げに、なれるわけ、ねぇだろ!」
刀で身体を支え、大きく肩で呼吸をし、息も絶え絶えと言った風情の猿吉が強がりを言う。そして同じような直家も暫く喋らずに呼吸を整える。
「…………こんなに小鬼が強いと思わなかった…」
「ふぅ、僕も予想外だよ。でも、納得した。確かにこれじゃあ、死亡率が高い訳だ」
元の村での小鬼の感覚で考えていて、仲間と組まずに1人で入ったらどうなるか。これは言わなくてもわかる。とてもじゃないが1人でどうこうできる数ではない。なるほど、初心者開拓者がほとんど仲間と組む訳だ。
「……あんまり息を整えている時間はないよ。騒ぎ過ぎたし、血の匂いに他の妖怪が寄ってくる前にさっさと小鬼の鼻と腹の中を開けよう」
そう、ここで殺した小鬼は退治した証拠として鼻を持っていき、朝井村の開拓者組合で退治した数に応じてお金を貰う。そして、腹を開くというのは、小鬼というのは何でも食べてしまう妖怪らしく、何故か消化できないものはお腹の中に残るらしい。例えば、お金とか。殺した開拓者から奪い取って腹の中にあるということが結構あるらしい。もしかしたら、それが腹が出ている原因かもしれない。
「急いで!先に鼻を全部切ってから、次に腹を切るよ!」
長貴の号令の元、猿吉と直家が動き出す。それを聞いて3人それぞれ小刀を買って持っているので、それで鼻を剥ぎ取る。もちろん初めてなので上手く切れないが、妖力を纏い力づくで剥ぎ取る。あんまり気持ちの良いものではないが、仕方ない。小刀や宿代などでそろそろ収入が欲しい直家にとっては、これが今日の飯の種となるのだ。
「よし!終わったね!次は、お腹の大きい奴から行こう!」
全部の鼻を剥ぎ取り終わり、次は小鬼の腹を捌く。3人で手分けして腹を切り裂き、胃の中を調べる。
「お!あったぞ!しかもこいつ銀銭なんて持ってやがる!はっ!小鬼風情が勿体ねぇなぁ!」
高額の銭を手に入れたからか嬉しそうに血に濡れた銀銭を高らかに掲げる。
「ん?こっちにもあったね。銅銭が5枚か。枚数が多いね」
そして長貴も同じように見つける。直家は自分もと思うが残念ながら今やった小鬼には何にもなかった。仕方ないので次にお腹の大きい少し遠くに倒れている小鬼の所まで向かう。
「よし。次こそは」
「グギャ?」
「ん?」
今まさに腹を切ろうとした瞬間、変な声が聞こえて前を向く。そこには超至近距離で小鬼と顔を突き合わせた。暫しの空白……。
「小鬼だぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「グギャァ!ギャギャ!」
悲鳴のように仲間達に妖怪が襲来した事を伝える。小鬼も我に返ったのか後ろにいたのだろう小鬼がゾロゾロと茂みから出てくる。
「バッカ!てめぇなに小鬼を引き連れて来てんだよ!」
「引き連れた訳じゃあねぇわ!もしかしてさっき仲間を呼んだの有効なのかよ!」
「ヤバイよ。さっきより数が多い…」
ゾロゾロと出てくる小鬼の数は20体近い。さっきより遥かに多い数だ。流石にこれは分が悪い。
「どうする?逃げた方が良くない?」
槍を急いで構えた、直家は長貴に逃げるようにいう。
「小鬼が何匹来ても変わらねぇよ!やろうぜ!」
対照的に猿吉は交戦派だ。刀を構え今にも斬りかかりそうな雰囲気だ。どちらにするにしても時間がない。早く決めなくてはならない。
「……一旦攻撃をして相手が怯んだ段階で逃げる。このままじゃ囲まれそうだ」
早速小鬼が広く展開し逃がさないように囲み出している。ここの小鬼は足も早い。数が多く、逃げ切れるとは思わない方が良さそうだ。
そうと決まればと、早速猿吉が小鬼の群れに突貫する。逃げるだろうと思っていて油断していた小鬼は猿吉に切り飛ばされる。それに直家と長貴が追従して薄く広がった小鬼の集団を中央突破するように苛烈に攻撃を仕掛ける。
それに包囲に出ていた小鬼が直家達の所に戻り後ろが更に薄くなり突破が容易となる。長貴が2体目の妖怪を突き殺した後、逃げろ!といい。今まで攻撃していた猿吉と直家が途端に反転して逃げる。真後ろにいた小鬼を猿吉が切り伏せて道を開ける。
「グギャ!?」
それに驚いて固まっていた小鬼だが、すぐに持ち直し追撃し始める。猿吉は、あれほど激しく攻撃をしていたのに逃げる時は速い。名前の如く猿のように木々を抜けていく。真ん中に長貴で最後尾に直家がいる。
「……間に合わないか…」
しかし、開拓地の小鬼もさるものである。追撃は速い。もう追いつかれ始めた。長貴は宛が外れてどうしようか考える。その間に直家が立ち止まり先頭切って進んでいた小鬼を不意ついて殴り飛ばし、次の小鬼を突き殺した。
そんな直家に驚き小鬼達は速度を下げる。次も行くぞという構えを見せた瞬間に振り返り全力でまた逃げ始める。
「…直家君、手馴れたものだね。助かったよ」
「毎日こんなことばかりやらさせていまたしたからね。逃げながら相手を叩くの得意なんですよ」
そう、直家はこういった状況に一番強い。伊達に妖怪と追いかけっこを続けてきたわけじゃないのである。しかし、小鬼も学習する。次はこれ程簡単にはいかないだろう。何せ質も数も違うのだ。
「次は僕も立ち止まるよ。タイミングを教えてくれ」
「分かったよ。今だ!って言うからね」
「おもしろそうだな。俺もやるぞ」
目ざとく猿吉も参加してきた。直家が一番最後尾を走り少し前に猿吉と長貴が走る。
「今だ!」
「オラァ!」
「ハァ!」
直家達が全員一気に振り返り小鬼を突き、斬り、また突き殺し、今度は3人ががりて来られるとは思ってなかったのか完全に小鬼の勢いが止まる。振り返ってから気が付いたが小鬼にも足の速い遅いがあるのだろう。半分位の小鬼は少し遠くを走っている。なので一時的に戦力が半減しているのだ。これを好機と見た長貴は攻撃を指示する。
「行ける!怯んでいるうちに畳み掛けるよ!」
「はっ!言われなくても!オラァ!小鬼如きが俺を止められると思うなよぉ!」
先行した小鬼の数は5体だ。この数なら一気に片付けられる。猿吉が先行して小鬼の真ん中に躍り出て刀を振るう。何匹かに当たり血が飛ぶが致命傷ではない。暴れ回る猿吉に気を取られた小鬼を長貴と直家がそれぞれ突き殺す。猿吉も一体の小鬼の首を跳ね飛ばし数を大きく減らす。残った2体は直家達の勢いに恐れをなしたのか背を見せて逃げ出す。
「逃がすかよっ!」
「合流されると厄介だ!ここで切り伏せて!」
「わかった!」
直家と猿吉が逃げる背中を追いかけて槍の長さを利用して背中に突き刺す。猿吉も飛びかかり背中の肩から斬り下ろす。これで襲ってきた小鬼の集団は壊滅したが、まだ後ろから追ってくる小鬼達は健在だ。
「いけるぞ!勢いに乗って全滅させるよ!」
「言われなくても!」
少し遅れて殺された死体に合流した小鬼に襲いかかる。斬殺された小鬼には怯んだのか動きが止まる、その一瞬の空白を直家達が突き、勢いに乗った槍と刀を止めることは出来ずにあっという間に全滅させられた。
「よっしゃあ!勝ったぞ!ざまぁみろや!」
小鬼の死体に足をのせて高らかに刀を掲げる。直家と長貴は流石に疲れたのか槍に身を預けている。
「………猿吉君は元気だね。さて、少し距離が空いたけど鼻を剥ぎ取ろう。今日は、ここら辺で村に帰ろう……」
「そうだね。帰りの体力も残しておかないといけないからね…」
「んん?なんだなんだ?もう疲れたのかァ?軟弱者だなぁ!」
「さて、早く終わらせて帰ろう」
「そうですね」
疲れているので猿吉の挑発に無視して小鬼の鼻を削ぎ始める直家と長貴。そんな2人の反応につまらなそうな感じで猿吉も小鬼の鼻を削ぎ取る。
その後合計31個鼻と、銀銭1と銅板2、銅銭8枚を手に入れた。これを持ち、疲れた体を引きずり朝井村に引き返す。櫓門になっている所を抜けて村の中に入り疲れたように息を大きく吐き出す。
「はぁ、やっと着いたぁ」
「今日は初日だからあんまり深い所に行かないようにしようと言ったのに…浅い所でもあれだけの大変なのは予想外だったな。これから大変だよ」
そう、あれだけの激しい戦闘をしたあの場所は朝井村の中でもかなり浅い層である。本来の予定は今日浅い所でも様子を見て、次の日にでも本格的な深い所に行こうとしていた。しかし、浅い所でもかなりギリギリだったので、この実力で深い所潜るというのは自殺行為と同義であるということは嫌でも理解した。
「……明日も同じ所に行こう」
「そうだね……」
じゃないとマジで死ぬ。それについては猿吉も不満そうな顔をしているが文句は言ってこない。
「ここでグダグダ喋るよりよぉ、さっさと開拓者組合所に言って換金しようぜ。そんで、早く金よこせ」
「そうだね、こんな臭いものずっと持っていたくはないからね」
昨日は長貴が村の中央にある神社の隣に組合所を見つけたようで、合計してから3人で軽く中を見る。暗くなっていった時間だったので直家の見つけた宿屋の並んでいる区画にいき一番安い宿屋に泊まることに決まる。値段は1人銅板2なので3人で銅板6必要だ。また、公衆浴場(風呂屋)の値段は1人銅銭3必要である。また、食事は1日3食だと1人銅板1ほどかかる計算だ。なので、食事を食べ屋根のある寝床で寝て、風呂に入ると1人あたり合計銅板3と、銅銭3必要である。全員で1日約銀銭1ほど必要だ。
そして、小鬼の鼻を一つにつき銅銭3であるらしく。合計しても銅銭93枚。銅板9枚と銅銭3枚の収入だ。
「……今日は運が良かったんだな……」
換金が終わった後直家が呟く。今日は猿吉が偶然銀銭を1枚見つけてきてくれたからいいものを、それが無ければ結構ギリギリだ。いや、それどころか赤字かもしれない。刀や槍は妖力を纏い壊れにくくしているが、消耗品である。その、減価償却費を入れたら結構やばいかもしれない。それに武器というのはもしもの時は投げ捨てて逃げるものだ。そうなると次の日には仕事出来なくなる。なので予備の槍なり刀なりをいつでも買えるようにしなくてはならない。
「明日は、もっと頑張らないといけないね。でも、無理して死んでしまっては元も子もないから」
長貴は、焦る直家の心情を分かってか、落ち着くようにさとしてくる。
「とりあえず、今日は早く休もう。明日も寝不足では本当に命取りになるかもしれない」
「嫌だね。それじゃいつまでも強くなれねぇだろ?俺は俺のやりたいようにやる」
これに関しては直家も同意見だ。ギリギリで少しでも万全の状態にして挑みたい長貴とら違い、直家と猿吉は少しでも差を埋めるために自己鍛錬は休みたくない。
「……分かったよ。長期的には良いからね。でも、3人でやろう。そして狩りに支障が出ないようにする。これが僕からの条件だ」
「………まぁ、それでいい。長貴がいると効率がいいのは確かだからな」
不承不承ながら猿吉は納得する。些か予定が変わったが話は終わった。その後疲れた身体を引きずり猿吉が見に行った区画の飲食店などの色々なお店がある場所に行き遅めの昼食をとる。そして、食べ終わったあたりで今日の収入を3人に分ける。
「うし!暫く時間があるな!少し休んだら早速やるぞ!」
「えぇ、これから?疲れてないの?それに、ほら、村の散策とかしなくていいのかい?」
「こんな少し大きい村で見るものなんて何にもねぇよ。それに大体見た」
やっぱり手が早いというか目が早いというか、もう探索済みらしい。まぁ、直家も別に見る所もないから賛成なんだが。
「はぁ、分かったよ。やろう。時間が余ってもやる事が無いのはその通りだからね」
向上心の塊とも言える猿吉と直家との間に挟まれている長貴はたまったものではないが、それが早く上に上がっていくために必要であるのだ。我慢してもおう。
猿吉と直家の1日のスケジュールは朝に早起きして3人で鍛錬し、開拓地に潜って妖怪討伐して、時間があれば持ってきたおにぎりをお昼に食べて、また妖怪を討伐する。その後に朝井村に引き返し、夕食を食べて夜寝る前に自己鍛錬をして満足したら寝るという感じです。妖力がある世界なので回復が早いので疲労等なら一日寝るだけで十分です。




