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不幸


目が覚めてから4時間以上たっただろうか、霧も晴れ、日は高く登ってしまった。


「参ったな…」


何にも有益な情報を得られぬまま、歩き疲れ腰を休めている所だ、デブの身体は燃費が悪いのだ。


「まじでどこだよ………」


俺って寝てる時に勝手に体が動き出す奇病でもあったけ。あれ?でも、テレビでそんな奴あったな。でも、あれ冷蔵庫の食材を食べるくらい位のショボイやつだし。


「まじで来ちまったか、異世界……」


あんまり、外に出ないし森林や山なんて登らないから植物なんかには詳しくないが、


「どれも一回もみたことねぇぞ。知ってる花とか、植物とか一つもないとかありえんだろ」


流石に全部見たことがないっていうのはありえない。


「時々変な動物?みたいなものもいるし。なんだよ、此処は」


ミーン、ミーンと蝉のような音が森林に響きわたっている。多分、蝉ではないだろうが。似たような虫だろう。日陰にいて、心地よい風が吹いているから、あまり暑くなかったが。


「流石に、こんだけ歩いたら。ふぅ、無理ないか」


身体中から汗が吹き出て服も、身体にピッタリと張り付いている。近くのそこそこ大きめな木の木陰に背をかけて、ズルズルと力が尽きたように座る。虫の音が響き、風に葉を揺らす木々。


「なんか、いいな…」


呑気だとは思う。異世界に飛ばされて、右も左もわからない状態、変な動物、魔物なんてのもいるかもしれない、何にもわからない。すぐ死んでしまうかもしれない、そんな切迫した現状なのに、


「そういや、こうやって長い時間外に出るのは久しぶりだな」


高校に不登校になって、最初は皆んな真面目に学校に行っているな、馬鹿な奴らめ。なんて思っていたが、そのうち周りの目が気になって、何か正論を言われるのが怖くて外に出れずに、自由に堂々の周りの目を気にせずに外に出ている奴らが羨ましくなり、でも、自分からは今の自分を変えられなくて、どんどん腐っていった。



しかし、此処には誰も自分を馬鹿にする奴も、おかしいと思う奴も、自分を知っている奴も誰もいない。どうしようもなくなって、かといって開き直る事もできずに、燻って、腐って、堕ちていった、そんな自分を少しでも、解放できたのだ。


「気持ちがいいな」


長い事感じる事ができなかった感覚だ。木々が風に吹かれて枝葉を揺らし、差し込む日の光、耳に聞こえるのは虫の音、気持ちの良い昼下がりの陽気だ。


「ッ!?」


そんな中、ガサリと少し遠くで音がした。動物ではない、それよりもっと大きい。


「熊かなんか?やばいぞ、どうしよう」


早く離れたは方がいいのか、それとも身体を動かさずに静観すべきか。


「ちょっと、確認してから決めよう」


もし、この世界の人だったら保護してもらうように頼もう。問答無用で殺されないかどうか心配だけど。あ、言葉つうじるかな。


なるべく音を立てずにゆっくりと、音のした方に移動していく。見える位置まで移動して止まる。


「やった!この世界にも人間が存在するんだ。いなかったらどうしようかと思ったよ」


ただの引きこもりの直家にはサバイバル知識なんて大層なものは存在しない、あったとしてもそれを実践出来るような器用さは持ち合わせていない。


直家が伏せている約50メートル先に歩く5人の集団がある。何かを話しながら周りを警戒しながら歩いてる。


「でも、なんかヤバそうな格好してるぞ。あれ確か、歴史の教科書で見たぞ。言葉通じなかったら即殺されそうだな」


問題は、格好であった。直家が言った通り歴史の教科書の端っこにある絵に良くある応仁の乱の足軽のような格好である。と言っても、全員格好が違う。ほとんど裸のような身体に胴と刀を帯びている屈強な男、変な兜をかぶり、着物ような物を着ていて、槍と弓を背負っている、屈強な男。

………屈強な男しか居ない。


「なん……いねぇの…ね」


「そ……都合……ないねぇ…ょ」


僅かに聞こえる声を聞く限り日本語のようだ。いくら言葉が通じても、山賊足軽の様な風貌の屈強な男達の前に行く勇気なんて物は無い。


「いくらなんでも、あれは駄目だろ。言葉が通じるって事を知った事だけで収穫だ。やり過ごそう」


マジで怖いし。と、心の中で呟きながら。今この状況がいくら大変な事でも、流石に出て言ったら殺されるか殺されないかの中では出てはいかない。


ジッと、男達が過ぎるのを待つ事に決めた。そんな時、直家の少し後ろでガサリと、何かが移動する音が聞こえた。ビクリと肩を震わせ恐る恐る後ろを振り向く。


「ヒッ!」


動物では無い、人間でも無い、頭に小さな角が生え赤黒い肌を持ち腹が餓状態の少年の様に出っ張った、120センチ位の身長の小さな鬼の様な生き物がいた、3体も。


「ギジャァァァアアアア‼︎」


「ウァァァァァァア!来るなぁ!こっち来るなぁあ‼︎」


人では多分出せないような、おぞましく、グロテスクな声を上げながら、こちらに走ってくる。


「なんだ‼︎何が起きた!」


「おい!変なデブが、小鬼に追われてるぞ‼︎」


「今日はついてると思ったけど、最高についてる日とは思わなかったぜ!」


男達にも直家の声を聞き、直家のいる方を向き、歓喜する。刀や槍、弓等の武器を構えて小鬼達に構える。


「アァォァァァァァ!助けて!お願いします!助けてください!」


「いいぜぇ、助けてやるよぉ!おい!てめぇら、誰でもいいその小僧を捕まえてろ!」


走って合流すると同時に男の一人に首を摑まれた直家はつんのめりながら転び、押さえつけられた。


「いってぇ!なにすんだよ!あっ、いえ、すいません、なんでもないです」


酷すぎる扱いに、僅かに芽生えた反抗心は屈強な男ひと睨みで霧散する。


「小鬼三匹だけだ!一匹ずつ確実に殺せ!」


男達は慣れたように、武器で距離をとりながら数の差を利用し小鬼達を殺していく、一匹は二人に何度も斬られて、もう一匹は胸に刀を生やし、最後は囲まれて串刺しだ。


「す、すげぇ」


あんな恐ろしい、化け物をあっという間に全滅させた、戦い慣れてるというのがすぐわかった。


「さて、今日の戦利品だ。こんな、ご時世にそんなに丸々と太ってんだ。どこのバカ息子かわからんがたっぷりと身代金を要求してやるよ」


予想はしていた、いいひとではないとは思っていたけど。マジもんの山賊だった。


そんな事を、山賊達の話を押さえつけられながら聞き、今更ながら命の危険を実感し、頭の中が真っ白になる。


雲ひとつなかった空に、暗雲が青白い空を蹂躙し始めた。


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