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化け物が現れた

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


なんとか生きてます。まだまだ不定期ですけども泥亀共々よろしくお願いします!


「いいんですか?砦を落さずに進んで…」


「いいんだよ、いいから見てろ」


しかし、と言いたげな顔をする猿吉の近くの控えていた兵士。それも仕方がない事だ。なぜなら今、猿吉がやっていることは足軽でもわかるような初歩、基本原則を大きく無視している。


「打って出た敵は一瞬で打ち払ったのに。その勢いで砦を落とさない。それじゃあ……敵に挟み撃ちされるのでは…」


「あぁ、そうだな。砦でガクガクと震えている兵士がよ、もしかしたら勝てるかもとありえない幻想を抱くような愚行だ」


「なら…何故なんです?」


「ククッ…まぁ、見てろ。テメェらからするとまるで俺様が全てを操っているように見えるかもな」


「…ど、どういう…」


その問いは深い森を抜けた瞬間に吹き抜けた風にさらわれる。


「さぁて、餌は撒いた。後は待つ、ばら撒かれた餌が罠だって知っていてもガッツリと食らいつくしかない哀れな魚の登場を待つぞ」


「……猿吉様は…この地方の出身なのですか?」


唖然とする男。それは森を抜けた先に広がっていた地形に全てを察したからだ。森の中にある小さな丘がある広い平原。元々は何かの村か砦でもあったのか比較的に綺麗に整備されていた場所であった。


広い森の中で挟み打ちをくらえば数の多い我々の軍は同士討ちが多くなりその被害は大きいものになる。しかし、その場所が平原でなおかつ敵が来ることをあらかじめ知っていたら?


敵は焦っている。数が少ないので籠城するしかないが、助けは来ない。ジリ貧だ。ならば一撃に全てをかけて打って出る必要がある、その機会がまるで用意されたように出てきたのだ。


飛びつくであろうよ。それしか手がないのだから。


「なわけあるか。ここに来るのは…まぁ、()()()()


ニヤケ面の猿吉に問いかける兵士の男。変に聡いこの足軽の問いに対し全てお見通しだと言うような振り向いた猿吉の冷ややかな目線にゾクリと背筋が凍りつく。


「下見を一回している。それはテメエも知ってんだろ?俺の周りを嗅ぎ回っているお前ならよ」


「……いつから?」


まさかここまでお見通しだとは思わなかった。だから、観念して答えを聞く。男はただの足軽ではない。それにしては理知に富みすぎているし、猿吉が出した妖気に耐えられる筈がないのだから。


「ハッ!確実には昨日だが…最初に見たときからピンと来てたぜぇ」


「これは…恐れ入りました。で、処遇のところは?」


「殺すなら、とっくに殺している。言ったろ、()()()()()()ってな」


それは、どういう…。その言葉の答えは聞けぬまま、砦側と城側の両方遠くに聞こえる雄叫びに猿吉の口角が凶悪に曲がる。


「適度に痛めつけた甲斐があったぜ。怒り狂ってここまで走って来るだろうぜ 奴さんはよ」


「恐ろしい男だよ、貴方は…恐るべき戦略眼だ」


敵は全力で剣山に突進するようにすら見える猿吉の手腕。それに感嘆の声をもらす男に。


「あぁ?こんなのは大したことじゃねぇよ。見んならこれからを見てけよ。テメェがどこの忍びかなんて興味はねぇが…仕事はしてけ。ちょうどいい宣伝になる。舐め腐っている奴らの目ぇを醒ます。その為の一助にな」


猿吉は初めから、スパイなど承知の上で行動し更にそれを利用するつもりだった。なんと情けないか、しかし。


「ハハッ…このようなこと恥ずかしくていえないな。全てを見透された上で仕事を許されるなど、人生最大の恥辱なれど、不思議と笑いしか出て来ないわ」


男を前に猿吉は馬に跨り、軍に指示を出し待ち構える陣を敷く。そして、時を待たずして敵の声が近くなり遂に野原家との戦いが近くなった時。荒ぶる妖力が猿吉を覆い、力の奔流が小さな風を生む。


それをビリビリと痺れるように肌に感じながら、こちらを見ずに猿吉は更に叫ぶ。


「見て行け、最強の俺様の戦い方を!そして、世に広めろ!俺様の名を!栄光を!財を!俺に集まるように!その瞼けして閉じるな!そんなこと許さねぇ!遍くを見て報告しろ!テメェの親玉に、俺がいたことを!ついでに神室家の復活もな」


まぁ、一言で言うとだ。と言いながら振り返り、男を見て。


「覚悟しろ。次はテメェらだってな」


「…確かに。見させてもらおう。特等席で、じっくりとな」


スパイ公認証をスパイ相手からもらえるとは、なんとも面白いことだ。そう、面白い。これがたまらなく面白く感じるのだ。それは多分猿吉の魅力。それは度量の広さからくるものか、それとも刹那的生きるからか。わからないが、それでもこれから見れる景色は多分面白い。


そんな面白さを優先する時点でどこかもう似た者同士なのだろう。そんなことは両者共にわからないことだが。


「さぁ!来るぞ!魚が!自らその命を断ちにな!望み通り断ってやろう!苦しまないように、一撃でなぁ!」
















「敵が見えた!勝機はこの一瞬にあり!敵将の首を!」


逸る気持ちを抑え、森を抜け憎き敵軍を見つけた。今の今までずっと攻めることなく引きこもっていた神室家がまさかの行軍。


しかし、やはり急造の軍だ。ましてや兵法も知らないと見える。何に焦っているかわからんが砦を落とさず進み、今こうして挟み討ちに合おうとしている。


なんと愚か。しかし、我々はその愚かさに救われた。砦に今も残るであろう千の兵と我々の持つ二千五百の兵。


敵は五千と言うが、練度は最低。しかも将は無能と来ている。挟み討ちにできたら確実に勝てる!






なんて———本当に思っているわけねぇよなぁ?



ゾクリと背筋が凍る。後数秒もすれば森を抜ける。そうしたら、油断した敵の背中が…。



「敵将の首を!首を!」


勢いよく森を抜け、ニヤリと笑い迎える敵軍を見て全てを悟り後悔するが。もう—止まらない。


「そうだ、わかっていた。罠だろうことは。しかし…我々はこれしか勝つ方法はないのだ!構うな!進め!敵将を!その首を!」


「おう!お呼びかァ?」


「ッ⁉︎貴ッ!」


遠く出待ち構えていた敵軍。何故…と思う暇もなくその首は天高く飛ぶ。


いや、その野原家の将は最後にその答えを知れた。それは天高く飛ばされた首だから見れた光景。文字通りの冥土の土産だが、それは絶望の光景。


小高い丘には兵の半分もいない。それ以外の兵は皆、森の中に伏兵として潜んでいる。平原の兵は囮だ、餌だ。哀れな魚が飛びつこうとして横から鋭い刃がその息の根を止める為の。


そして何より平野を駆け回る騎馬部隊。それは宙に浮かんだ首が地面に落ちるまでのあいだに自身が率いていた部隊を木っ端微塵に斬り裂いた。男の生命力の強さはここでは不幸として働く。信頼していた仲間の死を見てその生を終えるのだから。










「さぁて、面白いくらいにハマるな!」


騎乗し、敵兵を切り裂き何人目かの敵将の首を刎ねた段階で敵は完全に崩れ出した。それを見て潜めていた伏兵を全てだし、丘に構える兵にも下知を下す。


「さぁて、ここで皆殺しだ。逃すなよ。ここで頑張れば後は敵の城に()()()()()()()。気合い入れて追撃戦だテメエら‼︎」


「「「「「オオオオオオオオッ‼︎」」」」」」」


「……本当に恐ろしい人だ。半刻もたっていないというのに、敵が完全に崩れてしまった。芸術的にして、戦い方は獰猛そのもの。しかし、皆殺しとは…いささか」


「なんだテメエ俺に文句つけるのか?」


「い、いえ…」


「フン…俺のやり方だ。敵さんもここに来る時点で死ぬことは覚悟してんだろ。ここで略奪させときゃ、ウチの血の気の多い連中も城下街では大人しくなるだろうよ」


今回は長期的な統治も視野に入れている。どうしても最初は戦をして打ち負かす必要があるが、それ以外は。


「必要以上に恨みを買ってもつまらねぇ。そうだろ?」


「……そう…ですね」


そこまで計算していたと言うのか、この猿吉という男は。どこから現れた?何故このような者が今まで無名だった?そして……この男を従える神室家の新当主は一体…。あまりの凄まじさに混乱が深まる忍びの男。


「で、テメエはどうする?まだ見ていくか?」


「……これはあまり悠長に見ていると首が飛びそうですからね。両方に意味で」


猿吉からもちらつく殺意に冷や汗をかく男。これ以上知りたければ命賭けろと言うことなのだろう。


「ここで失礼させて戴きます」


「フン、この俺様のことはどう伝えるつもりだ?聞かせてみろ」


悪戯っぽく笑う猿吉の問いに、真剣な表情で男は答えた。





「———化け物が現れた、と」




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