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内部掌握

ゴタゴタしてて更新が遅れました。死んでません大丈夫です。ですが、これからも少し更新が不安定になると思われます。


「おやおや、姫様。いや、もう将軍ですか。いやはや時の流れは早いものでですね。少し前までこんな小さい幼子だったというのに」


でっぷりと太ったスキンヘッドで丸顔の男。沢道という者だ。神室家の有力な力を持つ坊主。いわゆる生臭坊主で金にも女にも汚いが、その外交手腕と顔の広さは天下にでも比類を見ない力量を持つ。薄氷の上にギリギリ立つ神室家にとって無くてはならない存在。


「……これ、沢道殿。今や京様は天下の武士の頂点に立つ存在だぞ。言葉使いに気を付けなされ」


「これはこれは、中野殿。お久しゅうございます。先の戦は無事、勝利されたようで」


「ワシのことは良い。此度は不問とするが……次からは姫様に対し将軍として接するように」


それを誰よりも分かっているのが、沢道というのが非常に厄介なのだ。ニヤリ、と明らかに侮りと嘲笑の笑みを深めた。


「ええ、ええ。勿論ですとも。次から気を付けさせていただきます。そのくらいはしないと……クックッ…あまりに哀れですからねぇ。おままごとにはキチンと付き合いますよ」


「………」


「沢道殿‼︎」


「くははっ!ハーハッハッ‼︎おっと、また油断して失礼な態度を…どのような罰を私にかしますか?京…様?」


高笑いする沢道の傍に二人の男が並ぶ。神室家でも有数の強力な力を持つ武家の者。溢れ出る妖気は間違いなく一流以上。


形だけの将軍より遥かに力を持っている事を見せつける沢道の笑みは更に深くなる。罰せられるものならやってみろ。そういう態度、考えが滲み出る。外交上手がこのようなかなり直接的な挑発してくる時点で、いったい神室家内でどれだけ侮られているか、それがよくわかる。


誰も従いはしない。


「…………まったく、笑ってしまうな。中野よ、これが私の現状か。舐められるという段階ですらない、これは存在すら無いものとして扱われているぞ。傀儡としての価値すらそれほどないか沢道」


「姫様は賢いですなぁ。偉いですぞ、これで次の傀儡を用意する手間が省けます!」


手を叩き、唾を撒き散らしながら大口を開けて笑う、笑う、腹がよじれるほど面白いのだろう白目を剥きながら天下の将軍の前で笑い狂った。これだけしても何もできない将軍の力の無さに、笑いが止まらない。


その様子を見て、京の表情がゆるんだ。いや、笑った。それは諦観の笑みではない。凶悪な…罠にかかった愚かな獣を見る瞳で。


「ふーむ、中野。貴様、誰の許可を得てこの無礼を許すつもりなのだ?いつ、私が許可を出した?」


「い、いえ。し、しかし。ここで沢道と事を構えるのは……」


「あ?」


「……も、申し訳ありません」


「ふん。おい、沢道。貴様、先程からなんだ?頭が高いぞ。まずそこから不遜だ、頭を地に擦り付けろ。そして初めて今の無礼の発言の数々を詫びる機会を与えてやろう」


顎を上げ、見下すように見ながら地に手を付けろと手を下に向けた。それを見て、沢道はキョトンと笑い止み自信満々の京の顔を見た。


「聞こえないか。沢道。耄碌するには中野くらい歳をいってからにしろ。早く、頭を垂れろ。私は、将軍だ」


意味がわからない。まさか、これほどまでに愚かだったのか?いや、これはもうおかしくなったのか。最早、その域に達するほどの暴挙。沢道にはそう見えた。


「……正気ですかい?」


目に殺気を帯び始める沢山道に呼応するように両隣の二人の武士は静かに刀に手を伸ばした。静かに高まる殺気を軽く流す京。戦場を経験した彼女はこの程度では動じなくなっていた。だが、沢道にとってはその様子が自棄になっているように見えたのだろう。


スッと目を細め。殺すことに決めた。代わりになる傀儡などいくらでもいるのだ。別に彼女にこだわる必要はない。そう思い手を上げ合図を出す。


「……もう少し賢いと思っていましたよ」


「ほう、私もだ。沢道」


ほんの少しの哀れみと嘲笑の笑みと、自信に満ちた京の笑み。二人の視線が交錯し、武士二人が走り出した。


「残念だ」


「ああ、まったく」




真っ赤な血の花が咲き乱れる。部屋を彩る赤い色は勝負が決した事を決定つける証明。血の海の上で笑う勝者は———。














「なぁ、姫さんよ。アンタを殺そうとしたやつってどうなるんだ?」


「決まっているだろう?()()だ。私を誰だと思っている。——将軍だぞ。天下に遍く全ての武士の頂点の立つ者。それが、私だ」


「なんか、性格変わってない…?…この娘」


赤い花が咲いた場に立つのは、沢道にとって初めて見る二人組。方や小柄だが勝気で溢れ出る妖気は今まで見たことが無いほど濃密な男。方や大柄で温厚そうだが、その手に持つ槍から滴る血に背筋が凍る。この男も凄まじい力を持つことはすぐにわかった。


一瞬だ。一瞬で、神室家でも有数の手練れである二人を殺した。多分殺された事すら死ぬ間際まで分からなかっただろう。それほどの速度。沢道の手駒にはいない、まさに、別格の二人。


「さて、慈悲深き私はもう一度言うぞ。頭を垂れよ。その額の皮が剥けるまで地に擦りつけ、懇願するのだ。そうして初めて先程の不敬の発言を弁明する機会を与えようぞ」


「……どこで見つけた。それほどの力を持つ者を…傀儡の姫如きが!どうやって!何故⁉︎貴様らは何故この未来の無い女の下についた‼︎」


状況を性格に把握し、そして侮りは消え憤怒が支配した。


ここまで来るのに何年かかったと思っている。将軍家で能力を認められ、神室家の武家を取り込み潰れかけの神室家を潰さないように奔走し、そしてついに最有力候補の一人と言われるまでに大きくなったのだ。


ただの坊主が、才覚でここまできた。長年の積み重ねがあった。それは決して小娘に覆せるものでは無い。だからこその侮り。それは、当然過ぎるくらいに当然の感情だ。そのはずなのに。


「偶然見つけた浪人風情に‼︎それが、覆される?ふざけるな…!ふざけるな!ふざけるなッ‼︎」


「……仕方ないわね。まだ現実が受け止められないようだし。直家、手伝ってあげなさい。思い知らせながらも、壊れないようにね」


「難しい注文だなぁ…」


顔を顰める、直家がノシノシと床の木を軋ませながら近ずいて来る。


「くっ!貴様ら、いくらで雇われている!その倍を出そう!そのような泥舟に乗る必要はない!もっと良い、賢い道を望むままに用意してやる!」


「へぇ…なぁ、京神室家の蔵に後いくらくらい残っているんだ?」


「知らないわよ。でも、この屋敷一杯に金を積んでも入らないくらい?少なくともそれくらいあるわよ」


「へぇ、その倍か…?おい、用意できるのか?」


「ぐっ!しかし!このままではこの家は滅びる!それではその財宝も意味はない!」


「フフ、それに関して二人にはこれ以上ないものを用意したわ。貴方では、決して用意できないものよ?」


「なんだ!それは!私に用意できないものなど!」


遂に、直家に捕まり頭をむずりと掴まれた沢道。


「私の…首。私にしか用意できないわよ。最早、彼らがいる限りね」


笑みを深める京の顔を見て、その覚悟のほどを感じ取った。そして、己の敗北を察した時。直家の手によって地に頭を打ち付けられる。そのままグリグリと徐々にめり込んでいき痛みで熱くなる頭で考えた。


「さぁ、弁明を聞かせてちょうだい?」


この女は……本気だ。痛みで熱いのに、血の気が引くという不思議な体験をしながら身体を震わす。


「も、申し訳あり…ません…!」


「なぁに?」


「お、お許しを…!お許しを!」


「えぇ〜ゆ・る・さ・な・い」


最後に見たのは、笑う京の顔。それが真っ赤に染まったと思ったら視界が宙をぐるぐる回り暗転したのであった。


気長に待ってくれると助かります

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