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才能と身バレ

レビューが書かれてアクセス数が激増!嬉しい!


——強い。


槍を合わせて一番はじめにそう感じた。荒々しい妖力の奔流とは違い、戦い方は実に洗練されていた。恐ろしい迫力と気迫からくり出される一撃は的確に急所を狙う繊細なもの。


大島勝政。名から推測するに、大島一門の一人。幼い頃から正しい兵法を学び、それが身体、骨見に染み込んでいる正真正銘の戦うもののエリート。才能と弛まぬ鍛錬があって初めて至れるところに彼はいるのだ。


しかし、それより驚くのは…。


「…ッガァッ‼︎グッ…んだテメェ…クソ強ぇな!」


「……弱くはないようでホッとしてるよ」


鬼人化しての本気の戦いはあの時記憶を失って目が覚めた時以降初めて。つまり今の直家にとっていわゆる本気というのは初めてなのだ。


だからこそ、敵の才能と強さに驚き—()()()()()()()()()()()()()()()にさらに驚く。


荒々しい踏み込みから放たれた黒い妖力を纏った初撃、それを紅い静かな焔のような煌めきを纏った己の一撃が迎え撃ち、これを弾き飛ばしたのだ。


己には勝政のような武芸の積み重ねはほとんどない、ほぼ完全な我流。しかも、その槍捌きは粗暴、乱暴、下品となんとも美しさのないもの。勝政の槍捌きから感じた上品さはかけらも感じない。


が、その威力は地を割る。剛力だ。


「ったく。なんて力だ。化け物め。その適当な槍さばきでなんで俺と打ち合えるのか不思議だぜ。元開拓者ってところかね。凄まじい天才だな…羨ましいぜ」


直家の力に手がビリビリと震えている勝政が、槍を振るい体勢を立て直して構えた。直家と少し打ち合い、下した評価がこれ。


「天才…ね。俺がどんな人生を歩んできたか自分でもわからないから…なんとも言えないが…。なんか、その評価はすげぇ……()()()()


才能溢れ、鍛錬を誰よりも積んできたと自負する勝政にとって己と同じ境地に立つ人間は全員天才だ。才能と鍛錬。それがあって初めて至れるはずの境地。強さなのだから。


事実、そうだ。この強さを保持するもののほとんどはそれ相応の才能と環境に恵まれている。


だからだろう。そんな勝政にとって、直家は己を越える天才に見えた。


だが、それは記憶がある時でもない時でも言ってはならない禁句だ。天才?才能?そんなものいったい何度懇願したのだろう。それが無くて何度泣いただろう。何度、失っただろう。


それは直家が多分生まれた頃から、ずっとずっと……今この瞬間も心の底から欲している絶対手に入らないものだ。


記憶が無くても、身体が、魂が、全てが激しい怒りに支配される。紅き妖力がその怒りに呼応するように大きく、直家を包み込む。控えめだった妖力の放出を解放した直家。


戦闘狂の勝政はそれを見て、ニヤリと口角をあげ自分もとギアを上げようとするが…その瞬間気がつく。直家が持つ妖力の異質さに。


「…おい。なんだそりゃ…なんで…なんでお前の妖力は…そんなにも練られている!?それに…」


よく見たら妖力量はそれほど多くはない。それにしたって全て生まれつきのものでは無い、死にかけるはずの妖力を空っぽにする危険な行為を何度も、何度もして無理矢理拡張された器からの妖力はどこか異質。ほとんどが、生まれつきの妖力では無い。


そしてその全ての妖力は異常なほど濃密に練られている。何をすればここまで来るのか理解ができない程だ。


———ゾッとする。自分は今何を見ている?妖力がほとんどなかった人間だった人が己と互角に打ち合っている?それは…。


「…ありえねぇ…。んなバカなことが…」


才能なきものが、ここまできた。何をすればここまで来れる?ありえるのか?いったい、何度死にかければいい?何度も、何度も、何度も、未知の地獄以上の地獄を越えてこの男はここに立っている。


無意識に足が後ろに下がった。才なき者がここにいること自体にもはや恐怖すら感じる。勝政自身もそれなりの地獄を歩んできたという自負があるから余計に。


「なんか知らなけどさ。イライラが止まらないや。だから——もうちょっと付き合えや」


足が、腰が、何より目の前の化け物に気持ちが引けた。自慢の黒い鬼人化の妖力もまるで物足りない。目の前にいる化け物に対抗できるものではないと感じてしまう。己の中にあった絶対の自信が消失した。


そうなれば…あとは酷く脆い。




今度は、直家の地に足がめり込む踏み込み。槍を大きく薙いだ。


「ラァッ‼︎」


「グッ!?…だからッなんなんだよこの力はよぉッ!」


小さく、悲鳴をあげることだけは堪えなんとか受け止めることができた。だが、その衝撃に身体が大きく弾き飛ばされる。


「…し、信じられねぇ。こ、この俺様が?…マジかよ…」


負けている。気持ちで、大きく負けてしまっていた。大島家で狂犬の異名を持つ己がだ。


誰よりもやってきたという自負が、自信に変わっていた。それが容易に吹き飛ぶ程の衝撃。


「……だが…逃げるのは許されねぇ…俺は大島勝政。武士の中の武士」


「…ここにいる奴らはそれしか言えないのかね…なまじ強いから逃げる状況に陥ってないからか」


槍を更に薙ぐ、それを受け取られず槍が弾き飛ばされる勝政。


「…グァッ!ぐッ…」


「終わりだな。最後の強襲も失敗した。本軍はもはや猿吉がケリをつけているだろうし。お前らの敗北だ」


直家の槍が静かに力尽き膝をつく勝政の首に触れる。


「……聞かせてくれよ。お前は…こういう時どうする?」


力無く、死を受け入れた勝政の憔悴した声に直家は。


「…俺はただの一度も死を受け入れた時なんてないと思う。この身体に刻まれている絶対は…ただ一つ。()()()()()()()そんな下品で生き汚いものだ。高尚とは思わないよ。でも、泥を啜ってうしろ指刺されてもこうして()笑えている」


少し口角をあげて笑ってみせる直家を目を見張り、見上げる勝政。


「じゃあ、死ね。もっと早く逃げるべきだったな」


槍を振り上げ、その穂先が勝政の首に届く、その瞬間。





「——何をしている。退くぞ、勝政」


直家の槍を片手で受け止めた男が二人の間に立っていた。


「ッ…ま、まさかッ!貴様はッ!」


無言で戦いを見守っていた中野善次が驚きの声をあげた。


「大島勝頼!大島家最強と言われる男ではないか!何故ここにいる!」


「す、すまねぇ。兄者…」


「良い……この男にやられたか。ふん…悪くない敗北のはずだ。胸に刻め」


「あ、あぁ」


直家は素早く槍を引っ込め、距離を取る。冷や汗が額から流れる、多分…格上だ。


「次はお前が相手なのか?」


ジリジリと少しずつ距離を取り逃げる用意をする。


「…いや、そのような時間は無い。それに貴様を討ち取るのはここでは少々難しい」


「そうか」


「行くぞ勝政。崩れた軍と貴様を天秤にかけ、貴様を選んだのだ。今回の敗北以上のもので大島家に返せ」


「…はい。必ず」


兄、勝頼の言葉でなにかを理解したのか、最後にようやく笑い直家を見る。


「…覚悟してろよ、次会うときがテメェの最後だ!」















「おう、直家。こっちはもう終わったぜ。最後やけに生き残りどもが変にまとって退いていったが…まぁ圧勝だ」


死体の山が積み上げられた場所で血濡れの猿吉が笑う。一時はダメかと思った戦況からの逆転。それに今回参加した足軽達は狂喜乱舞する。猿吉に乗せられて熱に浮かされて、気がついたら勝っていたようなもの。夢を見ていたような気分だろう。


「お疲れ様です。直家殿もお帰りなさいませ。どこに行かれていたんですか?」


「……そうよ。猿吉はチビだけど頑張っていたわよ。アンタは後半から何してたの?」


ノブの背後に、喧嘩別れしたはずの京が立っていた。ノブが必死に猿吉を宥める中、直家が答えようとするが。


「…孤立した我が中野善次の救援に来たのだ。あの大島家の狂犬勝政を逃がしはしたが終始圧倒しておったわ」


代わりに、今回の大将である中野が答えた。その口調は最初のトゲトゲしさは感じられず、好々爺然としていて……実に気持ち悪い。


「その力、ぜひ神室家の為に…」


そして、その動機もすぐに分かった。勧誘だ。本格的に直家と猿吉の勧誘に動こうとした瞬間に、中野の動きが止まる。それは、少し挙動不審のあの幼い少女を近くで見た為。


遂に、気がついたのだ。彼女の正体に。長く仕えてきた神室家の重要人物、正室との唯一の子供。



「ひッ、姫様ッ!?」



腰が抜けるほど驚いた中野善次の悲鳴のような声は、喜びの声に溢れる戦場でもよく響き渡ったという。



今が上手いとは思いませんが…昔の駄文を見られていると思うとなんか少し複雑です。

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