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都での合戦の始まり


「長貴兄様……ほんとうに…行っちゃうの?」


「うん、今のこの家には僕を養う余裕はないって。それに…僕の母は卑賤な平民だ。正室との唯一の子供である(みやこ)とは違う。まだ、死にたくはないからね。一応限界までいたんだけど…そろそろ僕を殺そうっていう計画が動き出しているらしい」


「…そう…だね。死んじゃやだ…もんね…」


「京…約束するよ。辛いとは思うけど…けどいつかなんらかの形で君を救う。それまで耐えてくれ」


「うん…それなら。待てる…待つから…ずっと待つから…必ず…」







遠き記憶。忘れはしないそれは、それでもいまだかつてないほど鮮明に思い出した。


「ん…こ……こは?」


「起きたか。じゃ、お嬢ちゃん。名前と住んでる所わかる?ここにいれば危険だからな。送っていく」


「……………」


「なんだ、警戒しているのか?まぁ、しょうがないか。しかし、これじゃ一番聞きたいことが聞けないな…」


困ったな…と、頭をかく大柄の男。その姿から危害を加えようとしているようには見えない。しかし、背後に見える景色に背筋が震える。


あれほどいた組員が全滅。カシラと呼ばれていた強力な妖気を保持する男も顔面に一発貰ったのか陥没しており一撃で絶命したようだ。他の組員も戦った者は全員例外なく即死級の一撃を貰って沈んでいた。


これをたった一人でやったのか?そんな事が今の大門京でできるのは数えるくらいしか知らない。


「やっぱり……長貴お兄様が私に使わした人間?」


「あ、そうそう。その長貴って奴。なんか聞き覚えがあるんだけど…誰?」


「聞き覚えがある?長貴お兄様を知らないの?その槍を持ってて?」


「いや、お恥ずかしながら少し前戦場で目を覚ました時から記憶が無くなっててな。この槍はなんか最初から持ってたからよう分からん」


記憶がない?時折ある事例だ。頭を強く打ったりすると記憶が飛ぶというのは。つまりこの目の前の男は何かしらの原因で記憶が飛んだのだろう。


逆に言えば、最悪の可能性である目の前の男が長貴を殺したというのもありえない話ではない。


「……そう。でもとりあえず助けてくれてありがとう」


「どういたしましてだ。何、ついでだしいいよ」


「ついで?」


「そう、初めからお願いというか懇願というか、されてな。まぁ、少しくらいは暇つぶしにやってやるかと」


「待って、どういうこと?」


「旦那ッ!す、スゲェ!やっぱ旦那スゲェよ!たった一人で!これだぜ!」


「「オオオオオッ」」


後ろから走って来た男達、雰囲気は先程少女、京を襲った者達と近い。それに随分と慕われている。というより、崇拝されているというべきか。


「これ…どういうこと?」


「あー、流れで組みを一つ潰してな。その残党の一部が俺についてくるんだよ。すごい泣きついてくるし、しょうがないから少し手助けだ」


「はい!俺たちに忠誠なんてありませんから、その時の一番強いやつに従う!それがここで生きるコツ!」


「それ誇らしそうな顔で言うことじゃないわよ…」


「それで、そこの女はどうするんです?」


ビクッと身を強張らせる。そうだ、別にこいつらはさっき自分を襲った連中と大差ない。目の前の旦那と呼ばれる男がいなければすぐにでも襲いかかってくるそんざいだ。


「送り返すに決まってんだろ」


「えぇ…勿体ない…」


「なんだ?文句あるのか?」


「い、いえ!めっそうもありやせん!」


「危害を加えるなよ…?」


「はい!全身全霊を持って!」


「じゃ、散れ。もう用は済んだろう。また何かあったら暇なら手伝ってやるから」


「あ、ありがてぇ!一生付いていきます!」


多分この場合の一生とは直家が’死ぬまでと言う意味なのだろう。ある意味効率的な連中だ。呆れるほど、生に貪欲というか。


「さて、早速話の続きだ。家はどこだ?送るぞ?」


「家…ねぇ。言ってしまえばこの都が家というか、私のというか」


「まぁ腕白だろうからな。こんなところに来るくらいだ。相当出歩いているのだろう。都を家と言えるだけ詳しいのは羨ましい。俺は最近来たばかりだからな」


「……決めた。まだ家に帰りたくないわ。折角出たのだもの。少しの間、貴方の近くいさせて。満足したら帰るから」


「え…いや、それは…」


「ダメなの?もしかして、ここに置いて見捨てるなんてことはしないわよね…?」


渋る直家を注意深く観察しながら交渉を始める。今までの言動を見るにそれはしない筈だ。


それに一緒について行けたら直家の人と成りをある程度深く知ることができる。そしてもう一人、刀を持っていた小柄な男についても合流するだろう。もう一人は知らないが…、三人とも直家と同じ実力者ならばもしかしたらこの神室家の状況を大きく変える起爆剤に成り得る。


「……まぁ、いいか」


「じゃ、しばらくよろしくね。貴方のお名前は?」


「あぁ、名乗って無かったか。直家だ、よろしく」


「私は京。この名前には聞き覚えがない?」


「……いや…ないな」


「そう」


もしかしたら、長貴兄様が喋っていたら覚えているかもしれないし何かしら思い出すきっかけになると思ったが…流石にそう上手くはいかない。


「っと、もうこんな時間か。路地裏にいると日が見えないからわからなくなるな」


「何?何か用事があるの?」


「いや、仲間と合流するだけだ」













「へぇ、俺らと一緒に行かなかった理由はそれか。その女との逢瀬は楽しかったか?直家」


「こんな血まみれの逢瀬があってたまるか。ったく、訳ありだ。ノブ悪いが一人増える」


「問題ないですぜ。元々お二人には都でも上質な宿をご紹介しましたから、二人も持ち金的にも問題はありませんよ」


「すまんな。助かるぞ」


「で、その女はなんなんだ?子守とか勘弁だぞ?」


「私と似たような身長に人に子守とか言われました。屈辱です、直家」


「直家、そこどけ。そのガキ殺せねぇだろ」


サッと、直家の背後に隠れる京に猿吉は青筋を浮かべて刀の柄に手をかけている。


「めんどくさいから挑発しないでくれないか⁉︎京‼︎」


「はーい」


「まぁまぁ、猿吉さん。ここは大人の対応を…」


「…大人の対応ってのは舐められていいことにはならねぇぞ。まぁ、いい」


刀を納め、息を大きく吐き出した猿吉。ある程度落ち着いたようだ。


「猿吉だ。覚えておけ」


「俺は信輝です!ノブとお呼びください」


「猿吉さんに、ノブさんね。短いと思うけどよろしくね。私は京っていうわ」


「ふぅん。京さんね」


「……ふん…」


意味深そうな瞳を向けるノブに、猿吉も少し考え込む。しかし、すぐに雰囲気は代わり和やかなものに変わった。


「…三人はこれからどうするの?」


「とりあえず、神室家に仕官して働き口を確保はしているからな…戦が起きるのを待つしか…」


「それならどうせすぐに起きるわ。……ほらね…」


都中に響き渡る鐘の音。騒がしくなる人々が通る道の真ん中を駆け巡る騎馬武者。


「戦だ‼︎すぐに参戦せよ!」


「……直家。これは、もしかして思ったより早く……」


「あぁ、頻繁にあるってっ言っても民は動揺する筈…それが無いということは…」


かなり頻繁に戦が起きているのだろう。それこそ、週に一度いや二度もあるかもしれない。それは異常だ。いくら蓄えた財があると言ってもこれでは底を尽きるのも時間の問題。戦のたびに減った兵を補充しているのだ、それにかかる金子は考えるだけで恐ろしい。


「おい、ノブ。流石に今すぐ沈むかもしれない泥舟にはのりたくはねぇぞ!」


「いや、案外大丈夫なんですよ。基本専守防衛ですし。ま、参加したらわかります」


「……ヤベェと思ったら後ろにいる将の首持って敵陣に駆け込むからな俺は…」


「…ッ…ま…ぁ…そうでしょうね。それがみんなの本音…当たり前です」


猿吉の言葉にすこしショックを受けた京。唇を噛み…現実を、目を逸らさず見る。


嘘に塗り固められた外の実態を、この目に焼き付けるために。


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