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大門京の裏路地にて


「いや〜大量、大量。率いてる大将の下まで案内してもらってさらに揺さぶりかけて正解だったぜ」


「これでしばらく生活には困らないな」


ホクホク顔の猿吉はジャラジャラと音がなる大判の袋を下品な笑みで覗き込む。直家もしばらくお金に困らないことに胸を撫で下ろした。目下の課題が一つ無くなったのだから当然だろう。


「ああ。またこの方法で金を稼ごうぜ!すげぇ楽だ」


「それはダメだ。今回は不可抗力。襲われたから仕方なく反撃したが自分から首を突っ込むのは良くない」


それに次は自分たちより強い奴がいるかもしれない。そういう直家に、つまらなそうな猿吉な顔をする。


「慎重すぎるぜ直家はよ」


「お前は積極的すぎる。まだ詳しいことはなにもわからないんだ。しばらく情報を集めてからでも遅くないだろ?」


「けっ、途中からそこそこ乗り気だったくせに良くいうぜ」


「知らんな」


大門京。都までもう少し。ここまでくれば道行く人も多い。街道では見たことがないほど人はごった返している。


大門京は今は中央地域の中ではそこそこ大きい神室家が支配している。将軍家の力は強く、都は何度も攻められているが跳ね返している。


だが、一国を支配しきれているわけではなく支配しているのは大門京周辺だけ。そのほかの地域はそれぞれの有力な家に奪われていた。それでも、持っているのは大門京の都一つで一国を凌ぐ経済力と人口がいるから。また、将軍家として力があった時代にたくわえた財が大きい。


しかし、有力な他の家はそれぞれ一国以上の国力を持つ家ばかり。それでも対等以上に戦えているのは精強な兵士と、忠誠心のある武将にのみ伝えられる将軍家の秘技である鬼人化が存分に使われているから。


未だに存在力が大きい家の一つである。


「って、ことらしいが。これからどうするよ」


「予定通り、都で少し様子を見てから決めよう。っといってもだいたい情勢は教えてもらったしな」


引き出したともいう。しかし、一言では説明できないほど複雑だ。将軍家の婚姻関係、そのつながり、確執。聞いたというのに全く覚えていない。


「なんだっけか…南に大島家、東に俺たちがやりあった松戸家と野原家、北に海原家、西に三毛家…のはず。それら全部が敵同士でそれぞれが大門京を狙っているんだろ?」


「あぁそれと、大島家が新興の家で、松戸が…」


「あーあぁぁ!聞きたくねぇ!どうでもいいわっ!ややこし過ぎる!半分も頭に残ってねぇよ!」


「…だよなぁ。こんなに面倒臭いと思わなかった…」


はぁと、吐き出されたため息。歩く二人の前についに見えた大門京の広大な城郭都市。城下町が丸々堀と壁におおわれている威風堂々とした光景。遠目でも見える絢爛豪華な城と御所、そして賑わう人々。


「考えるのは後だな。まずは」


それを見た瞬間に猿吉の目の色が変わった。猿吉にとって好奇心を刺激するものばかりだろう、都は。


かくいう直家も惹かれるものがある。無言で頷き走り出した二人。その姿は、なんの重責もなくただ純粋に目の前のことを楽しむ若者そのものであった。











「おおおおおおっ!すげぇ!見たことねぇのばっかじゃねぇか!」


ワハハッとおのぼりさん全開であちこち見て回る猿吉を、直家が諌める。


「あんまりはしゃぐな。恥ずかしい。ドンと構えろ、ドンと。あ、これください」


「両手いっぱいに食い物抱えているやつに言われたくねぇよ。てか、よくその状況で俺に注意できたな」


モグモグと何かしら口に詰め込んでいる直家に呆れる猿吉。直家はどうもズケズケということはいう性質らしい。それが、元からのものかはわからないが、猿吉としてはやりやすい。


「ん……おい猿吉、何か聞こえるぞ。裏の路地だ」


「話を変えるなよ。まぁいいけどよ。何が聞こえんだ?」


「悲鳴。怒号。物が壊れる音だと思う。…治安がいいというわけではなさそうだな」


「そりゃそうだろ。こんだけ広い大門京、言えない組織の一つや二つあって当然だ。面白そうだ、行ってみようぜ」


「……ここら辺の怖いもの見たさは流石だな。俺だったら行かないぞ」


「いいから、いいから」


猿吉に背中を押されて、暗い裏路地に入る。一歩中に入ったら酷い悪臭に顔を顰める。


「随分と濃い死臭だな。戦場並みだぞ」


「こもってるだけこっちの方がひでぇよ。しかし…これが都の裏側か」


相次ぐ戦に四肢を失ったもの、親を亡くし庇護者がいなくなった子供。それだけではない、あらゆるものが力無く横たわり死んだものは服を剥ぎ取られ裸のものも多かった。


「で、肝心の悲鳴の正体はどこだ?」


「あれだな」


直家が指差した先にいたのは、集団でリンチにあっていた男。外見からして商人のようだ。


「お、オイラが何をしたってんだ!やめてくだせい!」


「何もしてないからこうなってんだろ?ここら辺のシマは俺ら小綱組みが仕切ってるのはしらねぇとは言えわせねぇ。お前が逃げ回っているのを捕まえるのに一月もかかったからな」


「わっ、わかりやした!か、金なら払います!」


「いらねぇよ、もう。テメェみたいな面倒な奴はここで殺す」


「だ、誰かぁ!助けてくれっ!誰でもいい!そこの二人!」


バレないように遠くで見ていたはずなのに、バレた。


「…あいつ、なんで俺たちがいるって…どうするよ、直家」


「……ちょうどいいかもしれない。商人なら余計に情勢に詳しいはず。味方につけておこう」


「…あん…誰だテメェら!見てんじゃねぇぞ!殺されてぇのか!小綱組みだぞこっちは!」


助けようと決めた直家と猿吉はゆっくりと商人を囲む男たちに近ずいていく。


「すまんが、今日来たばかりで小綱組みが何かわからないな」


「っけ、なら死ねやぁぁッ!」


「テメェがな」


刀を抜き、直家に斬りかかろうとした男は猿吉に真っ二つに斬られ絶命。それに動揺した男たちの隙をついて商人がこちらの方に逃げ出して来た。


「あ、この野郎!」


「あ、ありがとうございます!助かりました。このお礼は後ほど…」


直家と猿吉の後ろに隠れように走り込んだ商人。その動きは中々に素早い。もしかしたら戦闘経験があるのかもしれない。


「か、カシラ!」


その時裏路地の奥から、大柄の筋骨隆々の男が現れる。男たちからはカシラと呼ばれているのを見ると、ボス格なのだろうか。溢れ出る妖気も中々の量。この大門京では初めて見る量だ。


「なんだ…あいつらは?舐めた真似をするクズを捕まえて嬲って殺せという命令はどうした?」


「すいやせん!あの二人が邪魔を!」


「…若造二人にか?何してんだ、テメェら。舐めてんのか、あ?」


「すいやせん‼︎」


「ふん、まぁいい。おい、テメェら。小綱組みを敵に回して生きられるとおもわねぇ事だ。ここでおとなしく殺されるなら楽に殺してやる」


拳をバキバキ鳴らしながら、感情のない顔で近付いてくるカシラとよばれた男。


「に、逃げましょう!あいつはやばいです!大門京で知らぬ者がいないほどの極悪人!奴は神室家の連中も手を焼くほどの猛者!お強い二人でも流石に…」


「なんだ、そんな奴が素手なのか?」


「違います!武器を使う必要がないのです!これでどれほど強いかが…」


「ふぅん、猿吉俺がやりたい。槍を持ってくれないか?」


「ふん、嫌なこった。俺は雑魚をもう少し狩りたい。舐めた口を聞いたのを後悔させねぇとな」


「なら、これ持って…」


「いや、だから。む…重ッ!こんなものを片手でッ?」


肩をグルグルと回し、直家はカシラと相対する。


「命知らずの馬鹿ってのはいるもんだな。…テメェは楽には殺さねぇ。覚悟しろよ?」


「いいから、来いよ」


構える直家に、ブチギレたのか雄叫びをあげて襲いかかった。


「……これは、ひょっとすると…」


商人が小さく呟く。目線は鋭く、二人を観察する。一挙一動みのがさないと、集中して。


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