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決着へ3


「正虎が討ち取られた?んな馬鹿な…。アイツは若けぇが実力は一級だぞ?それが始まってすぐ…」


「しかし!正虎様が受け持っていらしゃった前線が崩壊しています!抵抗も出来ずに次々討ち取られている現状、指揮官はもういません!至急救援を!」


「……分かった。すぐに行く。陣形は崩れるがしょうがねぇな。おら、行くぞテメェら。立て直しだ、ちっとケツに火ィつけて行くぞ」


位置的に右翼、右側に位置する四天王が一人薬袋千景の部隊が前に出る。本来の計画では、正虎が敵を押し返しそこを左翼側に位置する苗代源一とともに両側面を攻撃、撃破する手筈であった。


しかし、伝令からもたらされた報告は全く想定していなかったもの。多少押されるくらいならば支援することもできるが、まさか戦が始まった瞬間に崩れるとは全く思わなかった。それももっとも最悪な討ち取られるという可能性すら提示されるほどの酷い状況らしい。


「なにやってんだかねぇ、ご当主様の後継だろうに!」


歩兵部隊で編成された千景部隊。騎馬隊よりその歩みは遅い。それゆえに焦る。歩みを早め、周りの足軽達が着いてこれなくなる寸前、目的の場所に到着した。


「おいおいおい、なんだこれ……戦ってはじまったばかりなんだろう?だというのに…えぇ…なんなんだよなぁ…」


後ろの足軽達が息を切らして、足を止めた千景に追いついた瞬間皆が息を呑む。言葉を失い、恐怖すら感じた。


「これは、壊滅じゃねぇよ。()()ってんだ」


そこで見たのは、逃げ惑う山中軍を殲滅する玄武軍の姿。三百人の精鋭は見る影がなく、騎馬に踏まれてグシャグシャになった死体が散乱。


「戦じゃないな。まともな武士の戦い方じゃない。これはよ、一方的な()()()。慈悲なんてねぇ、一度崩れたら最後、骨の髄まで徹底的に吸い取る。決してその手を緩めはしねぇ。反吐がでるぜ、これは美学なんてねぇ獣の戦いかただ」


「ど、どうされます?」


「こりゃ正虎の野郎は死んだな。残念だ、ここは一旦——」


「退きますか?」


この地獄のような光景を作り出した敵と戦いたくは無い。その思いが滲み出るがゆえに、退却を考えてしまった足軽は千景の顔を見てそれを後悔する。


「馬鹿野郎…汚ねぇ獣には躾けが必要だ。調子に乗っている敵を壊滅させるに決まってんだろ」


「…ハッ」


かなり昔から虎助に仕えてきた千景は当然、正虎のこともよく知っている。それこそ子供の時から。努力し、自分なりに美しい戦法を確立した若者を無残の殺した敵。


「許せるわけねぇだろ…なぁ。武器を構えろ、騎馬の側面に突撃。足さえ止めれば少し高いだけの木偶だ」


「……準備完了です。下知を」


剽軽な千景が豹変する。歯を食いしばり、怒りに震え敵を殺し滅することのみ考え下知を下した。


「仇討だ!舐め腐った敵軍の臓腑をひきずりだして後悔させろ!誰に喧嘩売ったかをなぁ‼︎」


走り出す千景部隊。殲滅戦のためにバラバラになり、纏まりの無い猿吉軍に襲いかかろうとした。もともと練度が低い猿吉部隊はこの一撃で崩れる。












「馬鹿が…頭に血が上ったら人間なんてぇのは獣以下だ。初歩的な罠に引っかかる。沈め、2匹目だ直家」


はずであった。


猿吉の口角が上がる。誰も気がついていなかった筈の千景部隊に全兵の視線が集中した。まるで罠にかかった獲物を馬鹿にするように。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


「なんだ!?」


「な、南蛮筒です!側面に攻撃を受けました!」


驚きに足が止まる。一旦冷静になり周りを見渡し、現在の自らの状況を確認。銃口がこちらを向き味方が吹き飛ばされている。完全に意識外の攻撃。


「……やられた…!獣はこっちだったかッ!」


奇襲しようと思ったら奇襲された。側面を攻撃された千景部隊は混乱しかける。しかしすぐに千景が一喝。その動きは止まった。


「しかし、悪辣だなぁ、おい。抵抗できない正虎部隊を嬲って誘き出すたぁよ」


「それが狩人。開拓者の戦い方だ。敵の急所を見つめる時がその者の最も油断している時だからな」


誰も答えない筈の独り言に答えるものがいた。槍を持った大柄な青年。どこかで見たことがある、しかしその纏う妖力は感じたことが無いほどの高密度。一目でわかる、格上だと。


「あぁ、テメェが直家か。調査した奴らから聞いたぞ。総大将なんだろ?」


「名目上だ。俺が死ねば猿吉が、猿吉が死んでも青海がいる」


悲鳴が聞こえる。自軍の声だ。足が止まった千景部隊は半分包囲された状態で直家部隊の強襲を受けている。不利な体勢での攻撃に反撃は難しい。


「心臓は三つあるってか。ずるいじゃねェの」


「そうでもしなきゃ勝てないんだ」


「冗談抜かせ…テメェら気合い入れろ‼︎練度は敵とそうかわらねぇ‼︎敵を押し返して突き進めぇ!」


千景の鼓舞に多少息を吹き返した部隊は押し込まれていた状態から許衡するところまで持ち直す。指揮官は健在の中、部隊は完全には崩れはしない。


「罠に嵌めたつもりだろうが、後悔させやる。見せるぜ、山中軍の底力ってやつをよ」


敵は確か開拓者であった。多少罠を心得ており、罠にはまりはしたがそれでも指揮能力は負けない自信はあった。産まれながらの武士が少し前まで農民だった開拓者に負けられない。


直家に対抗できる武器はそれしかないのだ。


「悪いが、見ている時間は無い。…目の前の敵を降し、屍を築け‼︎越えてきた数多の地獄‼︎それを敵に見せてやるんだ‼︎進めッ‼︎」


槍を天高く振り上げ、戦場全体に響き渡るかのような声で鼓舞。


「「「オオオオオオオオオオッッ‼︎」」」


「なぁッ!」


それをさらに地を震わす声で答える直家隊。拮抗していた戦線が一瞬で崩壊。崩れる千景部隊はもはやどうすることもできないほどの劣勢。


一騎打ちでは敵わない。軍略では遅れをとった。しかし、指揮能力、兵を操る力では負けないはずであった。戦さ場で必要なものすべてに上をいかれた。


勝ち目など、ない。


「ここに来た時点でもう終わっていたんだよ。お前は」


「…いや、まだだ。戦さ場で必要なものもう一個あるじゃねぇか」


「……」


「それは、運だ‼︎俺はそれに自信があってな。…ほら来たぜ、声が聞こえる」


猿吉部隊を中心として右翼側に直家、千景部隊がいる。その反対左翼で声が上がった。戦が始まった音だ。青海の部隊と、源一だろうか何かしら始まった。


「アイツはな、強ぇぞ。左翼にいるのは青海とかいう女だろ?戦さ場での活躍はあまりないって話じゃねぇか!こっちはあっちが崩れるまで待てば良い。粘らせてもらうぜ!」


「……残念だな。お前の運はそんなによくはないみたいだ。青海が負けるのも、ここで粘るのも不可能」


槍を構え、妖力を解放させる。紅い妖気が直家に纏わりつき始め肌が硬化。鬼人化だ。


「…な…んだそりゃ…反則だろ…」


行くぞ。とは言わない。反射的に避けたがそれでも腕は宙を舞った。


「ハッ、化け物じゃねぇかよ、おい」


「……聞こえるか?」


「…ッチ…マジかよ」


聞こえる。左翼側から悲鳴が聞こえる。妖術の爆発音と共に悲鳴が大きくなっていく。声だけで、劣勢に陥ってるとわかる。


「あーあ…あんとき無理しても殺しておくべきだったぜ。ここまでの完封は初めてだぜ、おい」


「俺たちは…こういう時も諦めなかった。その差かもな」


目を見開き、直家の言葉に驚く千景。なるほどなと、呟き脱力。短剣を持って直家に突貫した。


「なら、俺もそうしようかッ‼︎」


「……ここで諦めて逃げるって選択肢がないのは流石武士。価値観が違い過ぎるな、ほんと」


腕の無い身体は、首も失い地面に沈んだ。劣勢の中の指揮官討ち死には、部隊に致命的な士気低下を与え瓦解。千景部隊戦もそう時間はかからず殲滅戦に移行したのであった。


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