冬の妖怪退治
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農村では、忙しい収穫の秋も最早終わり、身体の芯まで冷える季節がやって来た。冬の到来だ。この時期は山に食べ物が無くなるので、冬のあいだは妖怪が凶暴になり、食べ物を奪いに村に降りてくる妖怪も多くなる。妖怪はしぶといのでひと季節位食べなくても生きていけるのだが、空腹には勝てないのだろう。ちなみに、妖怪の定義は人間に役に立つか立たないかで、役に立たない認定された奴らが妖怪だ。なので、鹿や馬、猪の様な生き物もちゃんといる。しかし、どれも妖力は持っているので本質的には小鬼達と同じである。
「おらぁ!くぬ!」
「ほらほら、守っているだけじゃ倒せないぞ」
今日もそんな中、山の中で稽古中である。身体を動かしているので寒さは感じ無いが、終わったあとエネルギーを使い尽くした後は、死ぬほど寒くなる。
「ぐぅ!かはっ!ぐぁぁ!」
最後は返し切れなくなった攻撃を受けてしまい、吹っ飛ばされる。
「……ふむ、今日はここまでだな」
「はぁはぁ。今日は早くないですか?」
「あぁ、いや、そろそろ妖怪退治でもとな。いつもは俺が片付けているが、今日はお前がやれ。しかも、この時期は妖怪が村に降りてくるからな、減らして置かないといかん。だから、今日は早く終わった。お、さっそく寄ってきたな」
「えっ!もう!?何処、何処!」
「後ろだ」
「へっ?…ぐぁ!」
後ろから強い衝撃を感じて前に吹っ飛ばされる。正勝様はそんな直家を横目に見て邪魔にならない様に凄まじい跳躍で高い木の上の枝に座る。なんだそれ、そんな事できるのかよ、分かってたけど化け物じみてるな。武士と言うのは。
「クソッ!またお前か!!いい加減見飽きたわ!この野郎!」
舐めるなよ!前の俺ではないのだ。地獄の鍛錬を受けてきたのだ。小鬼如き雑魚妖怪に負けるか!とは、心の表面では思うが、結構前のトラウマがあるので、本人は気付いていないが足が少し震えている。最近ようやく槍の扱い方が分かってきた段階だ。しかし、もはや小鬼の敵意を真正面から受けても動じなくなっていた。
「ギァァ……!」
「………はぁあ!」
お互いにらみ合った。だが、堪え切れなくなった小鬼が突貫してくる。直家はタイミングを合わせて槍を小鬼の胸に突き出したが、身体を捻り小鬼が回避する。勢いを落とさないまま直家の中に入ろうとするが焦らず槍の柄で頭を殴り勢いを殺す。
「ガァ!?」
「トドメっ!」
殴り飛ばされて横に倒れた所を、槍で小鬼の横胸を刺す。苦悶の声を上げ、鬼気迫った表情をこちらに向けてくるがもはや決着は着いた。槍を強く身体の中に刺しこみ暴れる小鬼を押さえつける。そのまま、少しづつ抵抗する力が弱くなってきて終いにはピクリとも動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ。よし!やったぞ!1人で倒したぞ!うぉぉぉぉ!」
「気分が高揚しているのは分かるが、それでは他の妖怪も引き寄せるぞ……。まぁ、いいかそれが目的だしな。お、さっそく」
正勝様が木の上で呑気にそんな事を呟いた。それを直家が聞いていたら直ぐに口を噤んでいただろうが、もう遅い。
「うぉ!なんだ!小鬼がぞろぞろと!クソッ!やってやるよ!掛かってこいやぁ!」
「完全に虚勢だな、あれ」
言っていることは威勢はいいが残念ながら声が震えている。小鬼は小鬼で仲間を殺されて怒り心頭と言った感じだ。最初から、殺る気満々といった面持ちで、5体の小鬼がジリジリと直家に距離を詰めてくる。小鬼の恐ろしさは数が多いことによる集団戦法だ。リアル一騎当千の人間達より集団戦は得意かもしれない奴ららしい。前衛と後衛に分かれて前衛が牽制しながら後衛が石などを投げてくる、といった賢い小鬼もいるらしい。
「おらぁ!こいやぁ!」
幸い今回の小鬼はそんなことはせずに囲んで一気に襲いかかるつもりだ。直家の方は威勢のいい事をずっと叫んでいるが、1歩も前に出ていない。1歩も下がっていないことを褒めるべきだろうか微妙な所だ。ジリジリと近づいてくる小鬼。もはや距離は槍が届くか届かないかの位置まで近づいてきた。
「……らぁ!」
「グギャ!?」
このままでは、一斉に攻められてやられると思い直家は1歩もだけ前に出た。槍を大きく振り抜き穂先で避けきれなかった小鬼の胸を斬りつける。これをチャンスと思った直家は、一気に攻勢に出る。胸を斬られ血を噴き出す小鬼を追撃し、槍を胸に突き刺し、直ぐに抜く。一気に近づいた直家に左右から襲いかかってきた小鬼を槍の柄で迎撃しないと行けないためなかなかトドメを刺し抜く事が出来ない。
「このっ!食らえ!ぐぁ!ぐぁあああっ!」
「ギャ!ギャ!」
正面の1匹は直ぐには戦闘に参加出来ないが左右の4体に攻められてうまく迎撃出来ないでいた。殴り飛ばすと他の方向から襲いかかって来る。それで、決定打が打てないでいた。そうしているうちに少しづつ距離が近づいてきた。そのうちに、迎撃しきれなくなり鋭い爪で引っかかれた。その痛みに気を取られれ反応が遅れそうになるが無理矢理、槍でその小鬼を殴り飛ばし胸に槍を突き刺す。そのまま、小鬼を突き刺しながら走り他の小鬼と距離を離す。槍を引き抜き殴り飛ばして距離を離す。しかし、先ほどの小鬼と同じように、直ぐには動けない。残りは3体。
「うぉおおおおお!」
「ギャギャ!?」
怯んだ妖怪を見てここが攻め時と思った直家は、大きく槍を振り回しながら3体の小鬼に突貫する。槍を大きく振り回して、突っ込んで来る直家を見て逃げ腰になる小鬼達。そんな小鬼を近い順から槍の柄で殴り、殴り、殴り飛ばし、距離を詰めてまた殴る。槍の穂先を使って突き刺すとどうしても隙が出来る。今は小鬼の士気を砕くためにただ、殴る殴り飛ばし小鬼から距離を離しても槍のリーチを駆使して殴る、殴る、殴る。
「おらぁ!くらぁ!ぐらぁ!」
「ギャ!グギ!?ガァ!」
遂に戦意を喪失した小鬼が逃げ出し始めた。この時を待っていた。逃げようとする背中を突き刺し、斬り付けるのは致命傷になりやすく楽に仕留められる。逃げようとした、小鬼の背中を穂先で切りつけ、突き刺し、また斬りつける。
「これで、おわり、だ!」
「グギャ…アアアアァァァ!!」
仰向けに倒れた小鬼にトドメを刺して息の根を止める。その他の動けないでいた小鬼にもトドメを刺してまわる。
「はぁ、はぁ、はぁ、お、終わったぁ。し、死ぬかと、思ったぁ」
槍を支えにして立っていたが、ズルズルと腰が落ちていく。座り込み、槍を持つ手を見ると赤い血がベットリと付いていた。ほとんどが小鬼の血だが全てではない。腕を引き切られた自分の血も混じっている。戦闘中は痛みは無かったが、終わった今はジンジンと痛みが主張してくる。
「キキ?ギィー!」
「!?まだ、いたのかよ!畜生!ゴキブリかお前らは!わらわら出てきやがって!」
今度は、赤猿の群れの一部であろうか。4体の赤猿がこちらを見て、威嚇をしていた。それに対し直家は小鬼にやられた傷の痛みを感じなくなってゆき、妖怪との闘争に身を投じてゆく。
「いや、あれだけ叫びながら戦えばそうだろ」
そんな、正勝様の呟きは遠く。気迫のこもった直家の声が下から響いていた。
完全に妖怪ホイホイとなってしまった直家は、尽きない妖怪の来訪に遂に力尽きて、逃げ出した。それも、多種多様の妖怪に追っかけられ、まるで小さな百鬼夜行の体をなしていた。村に妖怪を引き連れる訳には行かないので迎撃しながら山の中を逃げ回っている。ちなみに、走っている時ずっと正勝様に助けを請い続けたが全てを黙殺し、余計寄ってくる妖怪が多くなるという結果に終わったので最早口を噤んで走り逃げている。心の中では放送出来ない単語が羅列されてるが。
「くっらぁ!この!ひぃ!」
ある程度走って少し迎撃して、数の暴力に屈しては直ぐに逃げ出す。それを何度も何度も繰り返す。まとめて相手にすると一瞬でやられてしまうが少しづつ相手して少しづつ相手を削ってゆく。と言う戦法に出ていた。というか、それしか無かった。
しかし、当たり前だが体力が持たない。というか、もう無い。限界などとうに過ぎている。ただ、分かっているのはここで倒れても正勝様は助けてはくれないだろうと言う直感が倒れる事を拒否している。ずっと見ているのは分かるが、まだまだ助けてはくれないだろう。自分でも分かっているが、直家には限界を超えた後の粘り強さだけが取り柄なのだ。いつも、稽古でもここからなのだ。ここらから、死ぬ気でやりきらないといけない。
「クソッ!しつこい!」
「ギャギャ!」
後ろを見るといつの間にかいなくなっている妖怪も入れば初めて見る妖怪もいる。
「このぉ!おらぁ!」
命を掛けた追いかけっこは終わらない。
「生き延びたぞ!俺は!生きているぞぉ!」
うぉぉぉぉと村に帰ってきて雄叫びを上げる直家。それを、可哀想な人を見る目で村人が見ているがもはや人の目を気にしてはいない。
あれから、約一ヶ月たった。稽古の時間を短くし、その代わり妖怪と戦う時間が多くなった。一日目の失敗以降、なるべく音を出さずに妖怪共を仕留める様にしてきて、事実寄ってこなくなったが、今度は正勝様が妖怪を引き連れて俺に擦り付けて、いつも追いかけっこをするはめになる。本当に最近は毎日が命懸けだ。
ましてや、雪が降り走りづらくなっているから尚更だ。しかし、ほぼ毎日妖怪を狩りまくっているおかげか今年は村に降りてくる妖怪が、少ないらしい。伊吉も喜んでいた。
あと、毎日死ぬほど走っているので痩せた。かなり痩せた。ライ○ップもびっくりなくらい痩せた。身体も引き締まって、そこそこいい身体になってきた。残念ながら皮が結構残っているため腹筋は浮いていないが。妖力も格段に増えたし、妖力の扱い方がも上達はしている。妖気も感じる様にはなってきたがこちらはまだまだらしい。槍の扱いの方はまだまだだと正勝様が言っていた。しかし、開拓者になれるような土台が出来ていっていると言うのでそれを信じて毎日やっている所だ。
そんな中だった、他の村から救援要請が正勝様に届いたのは。




