第2話 異世界人と常識
召喚の間から俺たち全員がでた後、魔導師たちが扉に魔法をかけているのを見た。
基本属性である、火、水、風、土の4属性の魔力を用いての封印か。
おっ、極め付けは、光の魔法による結界を施すのか、当然の事だが随分と厳重だな。
「おい、歩け」
いつまでも止まったままの俺に騎士が声をかけた。
扉の封印方法が気になってクラスメイトとの距離が開きすぎてしまったようだ。
「‥‥すいません」
まぁ、封印方法は分かったし必要なら利用してみるか。
俺がそんな事を考えているとは知らずに、騎士は俺を急がせる。
そんなに離れていなかった為、直ぐに追い付く事が出来た。元々、俺が最後尾だったので誰も俺が離れて戻って来た事に気付いていなかった。
しかし、俺がいなかった間にクラスメイトの数人の雰囲気が明らかに変わっていた。
おそらく地球にいた時から、異世界召喚モノなどのライトノベル小説が好きだった者たちだろう。
そういう本を読んでいる人の殆どが自分もこんな風になりたいと思った事があるだろう。
だからか、まるで自分が選ばれた存在のように感じ、その優越感からなのか先ほどよりも今の現状を楽しんでいるように見える。
本当に馬鹿な連中だ。
幻想と妄想は地球に置いてこいっての。
ここは確かにファンタジー世界だが、実際に人が死ぬ。斬られれば痛いし、強敵と対峙すれば恐怖で体が震える。
ゲームのようなコンティニューなど存在しない。
本物の世界だ。
それに気付けるかどうかでこいつらの運命が決まるかもな。
まっ、俺にはどうでも良いけどな。
俺が考え事をしている間に、王の間の前に到着していたようで、今 ゆっくりと扉が開いていくのが見える。
そして、シャルティアを筆頭に赤い絨毯がひかれた王の間を進んで行く。王の間の両端には大勢の騎士たちが並んでいて、全員が強い意志を宿した目で俺たちを見ている。
そして、王の間の奥、尊大に座っていた老人がこちらを見る。見た目は、シャルティアと同じ黄金色の髪に深い碧目、服を重ねて着ている所為で良く分からないが中肉中背の男性だ。
威厳と言うのか、眼力と言うのは、流石と言うべきか周りの騎士たちとは質が違う。
例えるなら、相手を見定めるような感じだろうか。騎士たちの場合は、どちらかと言うと俺たちが可笑しな真似をしない様に威圧している様に感じる。
確かに、召喚されるまでどんな奴が現れるか分からないから警戒して当然だよな。
そう言えば、100年前に召喚された時は王が直接向かいに来たんだよな。今思えば、蛮勇と言うか何と言うか、周りの騎士たちを困らせてばかりの人だったな。
あの時は、俺を裏切る何て思わなかった。
「‥‥!」
無意識の内に握っていた拳に力が入り、白くなっていた。
王の間を歩いていると、王の隣に佇んでいたお付きの男性が口を開いた。
「シャルティア殿下以外は、その場に跪け」
「何だと?」
「はぁ?意味わかんね」
「ってか、あのおっさん誰だよ」
「ちょーームカつく」
その後も文句を言うばかりで誰も跪こうとしないクラスメイトたちを見ていた老人の額に青筋が浮かんでいるのが見えた。
「黙れぇえ!!」
「「「「「!!!!」」」」」
男性の一喝で王の間が静まりかえる。
「貴様ら、自分の立場と言うものを理解していない様だな」
老人が右手を上げる。
その動作1つで王の間にいた騎士全員の手が装備している剣にのび、濃密な殺気が部屋中に満ちる。
これはマズイな。
この部屋の騎士たちは、あの男が指示をだせば本当に俺たちを殺す気だ。
魔法が使えない状態じゃ、流石の俺もこの数の騎士を相手にして生き延びられる自信はない。
そんなピンチを救ったのは、王家の2人だった。
「聖騎士たちよ、止めろ」
男性を超える威厳のある声が静まり返った王の間に響くと同時に部屋に満ちていた殺気も霧散した。
「陛下、宰相、勇者方々は異世界の住人。どうか、度重なる無礼をお許し下さい」
「勇者たちの無礼を許そう。だが、勇者たちよ。無礼を何度も許せる程、儂は温厚な性格はしていない」
王の目が、今やクラスの代表である澤輝を見据える。
まずは、お前が示せ。と言う事だろう。
空気を読んだ澤輝は王に向かって跪く。それを見たクラスメイト達も澤輝を真似て跪く。
もちろん俺も跪く。