漸く異世界へ
「一つだけ質問があります。異世界に戻ったあなたは何をするつもりなんですか?」
「‥…何もしないよ」
「何も、しない?」
テルミュースは心底不思議そうな声を出した。
「えー、とー君を裏切った奴らに復讐しないの?多分生きてる奴いるよ」
見た目は愛らしい幼女だが、随分と過激な言葉を使うもんだな。
「地球に戻った当初なら彼奴らに復讐したいと思ったけど、今思えば良い勉強になったよ」
彼奴らには、他人がどれだけ信じられない存在かを嫌って程教えて貰った。
まぁ、実際に出会ったらどうするか、今の俺にも分からないけどな。
「あははは、期待してるね~」
「俺も聞きたい事があるんだが良いか?」
「構いませんよ」
「良いよー、何でも聞いて」
「前に俺の所得していたスキルはどうなるんだ?」
「殆どのスキルは固有スキルも含めて送還の際に消滅してしまいました。しかし、一部の魔法系スキルは凍夜君の固有スキル『真・魔力支配』の【覚醒レベル】の上昇と共に再所得する事が出来ますよ」
やはりスキルの再取得には【覚醒レベル】のレベルアップが必要なのか。
‥…ってか。
「‥‥何で知ってんだよ」
「あー!テルー勝手にとー君のステータス見たー。だーめなんだ、だめなんだ」
「フフフ、神様の特権よ」
笑ったテルミュースの顔はそれは美しく美の象徴のようにも見えた。
「はぁー」
だが、俺はその言葉を聞き溜め息を吐き出すのを堪えきれなかった。
魔法系のスキルが再所得出来るだけでも幸運なのだろうが、長い旅の中で何度も俺を助けてくれたスキル達を失ったのはどうにも納得出来ない。
「あれ?そんなに嫌だった?」
「違うよー。大事にしてたスキルが無くなってショックなだけだよ」
……ま、無い物はしょうがないか。
「あ、立ち直った」
「随分と早いわね」
俺は気持ちを切り替えてテルミュースを見る。
「聞きたい事は以上ですか?‥‥と言いたい所ですが時間があまりないので勝手に説明させて貰います。異世界ルーファスは凍夜君が送還されてから100年が経過しています」
100年か、俺が送還されてから随分と経っているんだな。
「さらに、あなたの神器はマジックボックスの中に収納しておきましたが力を失っています。直に取り戻すとは思いますがーー」
テルミュースは俺の聞きたかった事を次々と答えていき、俺は兎に角聞く事に徹していた。
流石は女神だな....。
「テルーさっすが!」
「レティ、少し黙ってなさい。それで、他に質問は?」
「何故そんなに急いでいるんだ?」
「あんまり他の人と離れると時間軸の調整が難しくなってしまうのよ」
「女神なんだろ」
「私は、秩序と遊戯の女神、法神とも呼ばれているわ。時間や空間は別の神が司っているわ」
神もいろいろあるんだな。
「そういう訳だから、早速凍夜君も異世界に送るわね」
「はぁー、もう時間?」
アスレティアは俺の手を握り、「つまんなーい」と言いながらグルグル回っている。
「レティ」
「うん」
アスレティアは徐に俺の手を離す。
すると、いつの間にかテルミュースが目の前まで迫っており、俺が身構えるより早く優しい抱擁と口づけをされた。
重なっていた女神の唇が俺から離れると俺の足下から光の柱が立ち上がった。俺の体は無重力空間に投げ出されたかの様な浮遊感に包まれた。
俺の体は浮き上がり、テルミュースとアスレティアが下から手を振っているのが見えた。
「御機嫌よう、勇敢で愛しい、私の勇者」
「またねー、とー君。元気でねー」
テルミュースとアスレティアの声が聞こえるのと同時にまるで誰かに抱擁されている様な温もりを感じながら俺の意識は光の柱の中に消えた。
《称号『法神の寵愛』を取得しました》