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第10話 リツェアの心


私はリツェア・ツェレス・クイーテル。


種族は魔人族。魔族と人間のハーフ。


私は気がつくと姉と旅をしていた。



両親は既に戦争で死んだ、と姉さんが教えてくれたけど後に分かった。


100年以上前は人間と魔族の戦争が最も厳しかった時だ。そんな時に、魔族と人間が愛し合えばどうなるか、子供の私にも想像するのは難くなかった。


私は生まれた頃から自分が嫌いだった。

自分は誰とも違う。人間でも魔族でもない、中途半端でみっともない存在。


でも、姉さんはそうは思っていなかった。


いつか、自分達は2つの種族を繋ぐ希望なるんだっていつも言って私を励ましてくれた。


それでも、私は自分が嫌いだった。


ハーフと言うだけで、嫌われ、蔑まれ、嘲笑れ、命まで狙われた。


魔族でも人間でもどちらでも良いから、どちらかになりたかった。



……どうして私じゃなかったのか、今でもそう思う。


あの頃の私は、他人を怨み妬む事しか頭になかった。



それなのに、〝嫉妬〟の大罪スキルは優しい姉さんを選んだ。


それからだ。優しかった姉さんが少しずつ変わっていったのは…………。


私は見ていられなくて、自分の無力が憎くて、そして変わっていく姉さんが恐かった。



そんな時だ。


あの勇者に出会ったのは。


勇者は私達姉妹に優しかった。

魔人族だと明かしても、最初は驚いていたが最後には「種族なんて関係ないだろ?」と言ってくれた。


その言葉を聞いた姉は、泣いていた。


今でも良く覚えている。


あの時の姉は凄く嬉しそうで、まるで自分を責めている様にも見えた。


これから何かが変わると思っていた。


……でも、変わらなかった。


魔人族だと知られると当然の様に石を投げられる。その程度なら慣れている。


しかし、その日は運が悪かった。


勇者と分かれ立ち寄った街ではなんと、私達姉妹に賞金がかけられていた。


混沌とした戦時中だ。

ハーフと言う珍しい種族をコレクションしたいがっている汚らわしい貴族がいる事を噂では聞いていた。


だが、実際に襲われた事はなかった。


賞金に目が眩んだ住人、冒険者達が姉妹わたしたちに剣を向けた。


そして、その中の1人が私の背中を斬り裂いた。


「おい!商品にあんまり傷を付けるな!」

「良いだろ、少しくらい」

「それに、なかなか良い身体をしてやがる。捕まえた後は味見してみるか」


そう言って気色悪い声で笑う冒険者達。


その時、姉は私の知る姉では無くなった。


姉さんは、いや、ヴィレア・ツェレス・クイーテルは大罪を宿す化け物、大罪の魔王の1人になった。


手始めに冒険者を殺し、次に街に住む賞金をかけた貴族を含めた全ての住人を殺した。


血で染まった街、血を浴び嗤う姉だった魔王。


勇者が来た時には、既に姉は前に私達がいた街に向かっていた。



私は勇者に頼んだ。


姉を救って欲しい、と。



結果的に、勇者は姉を止めてくれた。


姉を、嫉妬の魔王を殺す、と言う形で……。



私は勇者に、怒りを憎しみを悲しみを感情のままにぶつけた。罵声を浴びせ、顔を殴り、魔法を放った。


だが、勇者は1度も抵抗も言い訳もしなかった。


勇者は1人の人を私の姉を手に掛けた事を心から謝罪し、私の怒りをたった1人で受け止めた。


何故?


勇者は私の願いを叶えた。

そして、勇者は勇者として正しい事を成したのだ。


それなのに、貴方はどうしてそんな顔をするの?


感情をぶつけ続け引き籠ってしまった私に勇者は言った。


「俺を怨み続けてくれ。そして、いずれ俺を殺しに来るのを待っている。約束だ」


子供の頃の私にはその言葉の意味が良く分からなかった。


でも、孤児院で過ごす内にそこの神父さんから言われた。


「きっと勇者様はリツェアに生きて欲しいのですよ」


私は衝撃を受けた。


そして気付いた。


こんなバカで、愚かで、醜くい私に、あの時勇者は生き続けろ、そう言ったのだ。


不器用な人。


でも、不思議と暗くて冷たかった心が暖かくなった。


そして、これから私が進む未来に勇者かれがいる様な気がした。


それから私は勇者の背中に追う様に努力した。


いずれ勇者の前に現れて、約束を果たしに来たわ!と宣言して一発殴る。


そして、貴方を許す、そう言える強い女になる為に。


やっと自分の進む道を見つけた、とその時の私は信じていた。



……なのに、彼は死んだ。


それは突然の報せだった。



どうして、約束したのに……。


私の道はまた暗くて冷たい闇に閉ざされてしまった。


しかし、100年後の地下牢で勇者と再会した。


雰囲気も姿も変わっていて、最初は気付かなかった。


名前も唯の偶然だと思っていた。


でも、違った。


彼はあの時の勇者だった。


それを知った途端、色々な感情が湧き上がって来た。


その中で1番強かった者は、妬みだった。


おそらく、この時から嫉妬の大罪スキルが私を侵し始めていたのだろう。


大罪スキルに侵されるきっかけは、色々あるが1番はスキルの発動だ。


それを100年前に勇者が手紙で教えてくれた時から、私は最近まで〝嫉妬する蛇姫(レビィアタル)〟を使う事はなかった。


でも、強くなった今の私なら大丈夫だと言う慢心があった。


結果、私の心を満たしたのはどす黒くドロドロとした妬みだった。



もう自分ではこの感情スキルを抑えられない。


姉さんもこんな気持ちだったのかな?


あれ?そう言えば、姉さんは死ぬ間際に私に何を言っていたの?


もう何も分からない…………。


……でも、せめて私は貴方に殺されたい。


早く、私を殺して……トウヤ。

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