第6話 過去の鎖
他の作者様方の作品と比べると私の小説は1話ごとの文章量が少なめです(⌒-⌒; )
これは投稿速度を落としてでも文章量を増やすべきでしょうか?
現在、悩んでおります(゜O゜)\(- -;
「‥‥儂の話はこれで終わりだ。トウヤ、次はお主の番だ」
唐突に話を振られ理解が追いつかない俺は、先生に質問を返した。
「‥‥何がですか?」
「お主の事だ。自己紹介もしていないのだろう?」
先生には全部お見通しか‥‥。
しかし、この2人に俺の正体を明かしても良いのだろうか?
「大丈夫じゃ。儂は口が軽い奴が嫌いなのだ。思わず、殺したくなる程にな」
先生は、氷の様に冷たい残忍な笑みを2人に送る。
それは言外に、今から話す事を他言すれば殺す、と2人に言っている様なものだ。その意味を理解出来た2人の表情は、先程とは違い引き締められている。
俺は一度先生を見る。
先生の視線と重なる。
先生の目は俺を促す様な事はせず、好々爺の様に優しい光を宿したまま俺を見つめ、一度頷いた。
それはまるで、過去と向き合おうとせず立ち止まっている俺の背中を押している様に感じた。
「お、俺は‥‥」
分かっていたんだ。
いずれは過去と向き合う必要があると‥‥。
でも、今の俺の生き方は100年前の勇者を否定した生き方だ。
クラスメイトを傷付けて、腕を切り落としても何も感じない。深海や風巻に剣を突き立てた時だって、必要な事だと割り切れた。
そんな中、どうしても心の奥底にいる勇者の遺物が俺に囁く。
『どうしてお前は戦っている?』
その問いに俺は返せない。
理由がなかった訳ではない。しかし、俺の持つどんな理由も見苦しい言い訳にしかならないと分かっていた。
だからこそ俺は勇者であった事から目を逸らし、否定しようとした。
その度に思い出すのは、100年前の冒険。言葉では現しきれない5年間。
『お前は忘れられるのか?』
忘れられる訳がない!
『なら、目を反らすな』
分かってる。
俺は覚悟を決め目の前に座る2人を見つめ、数度呼吸をする。
「俺の名は、トウヤ・イチノセ。かつては神導の勇者と呼ばれていた」
俺の告白を聞いた2人は驚愕していたが、あんがい早く冷静さを取り戻した。
「異世界人で、トウヤ・イチノセと言う名前の時点でまさかと思っていたが……」
「本物だったんだな」
2人の目は俺を凝視している。
あれ?
予想よりも驚いてないな。
100年前の他種族たちからすれば自分たちの王を殺した勇者が、目の前にいればもっと違う行動を取るのかと思った。
……そう言えば、俺の正体のヒント何てそこら中にあったよな。
異世界人、龍の契約術、魔法陣の書き換え、クラスメイトとの会話、龍の弟子、聖剣、などなど探せば他にも出て来るよな……。
少し自重するか。
今更遅いか?
いや、そんな事はないと信じたい。
「……なるほど。通りで強い訳だ」
ヴィルヘルムが先程から俺を必要に俺を睨み付けて来る。
‥‥いや、本人からしたら睨んでいるつもりはないのかもしれない。
目の前の2人が色々と納得している時、俺の隣のメデルはまるで自分の事の様に嬉しそうにしていた。
……何でそんなに嬉しそうなんだよ。
その後はメデルが俺の代わりにどれだけ100年前の俺が凄かったのか長々と語って聞かせた。
途中、何でそんな事まで知ってんだ!とツッコミを入れる事が何度もあったが、そこは「ファンですから!」と返されてしまった。
いや、メデルの言うファンとは俺の知るファンとは何かが違う気がする……。
今度時間を作ってゆっくりと話し合おうと思ったが、流石にこれ以上は無理だ。
俺が恥ずかしさの余りメデルの口を塞いだ。
……マジで勘弁してくれ。
一見楽しそうに会話をする5人のなかで、今まで押さえ込み、忘れようとしていた憎しみの炎が燃え上がっている人物がいる事に、俺は薄々気が付いていた。
「……」
ーーーーーーーー
空に浮かんでいた月や星々の光は黒い雲に隠され、風に流される雲の合間から偶にしか見る事が出来ない。
それでも奴は空を見上げている。
何がそんなに面白いのだろうか?
長い廊下の途中、明かりなど付いてはいない。
つまりこちらの動きには気付かれていない。
手に持ったレイピアを握る力が強くなる。
私の大切な人は奴に奪われた。
それなのに、奴はのうのうと生きている!
きっと、かつて殺した人の事など忘れている。
そして、自分は英雄だ、勇者だと、心の中では自惚れているに違いない。
私は奴を許さない。
この手で、奴を殺す!
魔力で全身、特に下半身を強化し奴に近付き黒いレイピアを躊躇無く放つ。
視覚からの完璧な一撃だと思った。
次の瞬間、胸を貫かれ奴は死ぬと。
しかしーー
「第五階梯魔法〝風壁〟」
「くっ」
ーー奴が素早く防御魔法を使用した。
何とか魔力に物を言わせて風壁を超えたが、風の影響で狙いがぶれ奴にはかすりもしなかった。
更に、奴は私のレイピアが風壁を超えた瞬間を狙って魔法を発動した。
「第五階梯魔法〝風の強打〟」
「カハッ‥!」
強化した左腕で防御するが後方に吹っ飛ばされ赤い絨毯の引かれた床に叩き付けられた。
一瞬呼吸が出来なくなり、呼吸が乱れる。
「はぁ、はぁ、何で 分かった?」
レイピアを支えに床から立ち上がった私は思わず声を出してしまった。
顔を上げると奴がこちを見ていた。
その顔からは、私が暗殺しようとした事に対してそこまで驚いている様には見えなかった。
まるで、私が来るのを分かっていて、1人で待っていたとも言える様子だった。
逆に私の方が戸惑っている。
その時、奴が私に声をかけた。
「リツェア、いくら魔王の力を持っているとは言え、せめてもう少し準備するべきだったな。……いや、“魔王の妹”として、姉を殺した俺を逸早く殺したかったか?」
そう言った時の元勇者の悲しみと後悔が宿った表情を私は見る事が出来なかった。
それに気付いてさえいれば、この後の私の葛藤が少しは楽になったのかもしれない。