第17話 やられたので、やり返します!
「あそこか!」
「そうです!あそこが召喚の間です!」
今走っている先に開かれた重そうな扉、その先にあるのが目的の場所、召喚の間です。
そこを護るように先程の騎士よりも高そうな鎧を纏った騎士が2人剣を抜き、2人の魔導師が杖を構え私たちを待ち構えていた。
「‥‥おい、リツェア。このガキは任せる」
「分かった」
そう言って頭にしがみついていた私をリツェアさんに渡し、ヴィルヘルムは一度両手の掌を打ち合わせる。
その瞬間、ヴィルヘルムの魔力が膨れ上がる。
「〝魔装・迅雷〟」
そう詠唱すると、ヴィルヘルムの体を雷が纏いーー消えた。
そして、4つの鈍い打撃音。
前を見れば、扉の前で剣を構えていた筈の2人の騎士と杖を持っていま魔導師2人が部屋の中に倒れていた。
「うそっ....」
強い、強すぎます!
一足先に部屋に入ったヴィルヘルムは部屋にいる人間に向けて殺気を丸出しにして威嚇していた。
「ひぃ!」
「何だよあいつ!」
「皆さん下がって下さい!あれは獣人です!」
「獣人って、あの野蛮で凶暴な!嘘でしょ!?」
「騎士さんは、死んでるの?いやゃぁぁあああ!」
遅れて私たちも中に入ります。
「やっぱり、人間が大勢いるぞ!?」
召喚の間には、主のクラスメイトたちが大勢いた。
主の言っていた通り、計画通りです。
「ここにいる人間の殆どは、7日前に召喚された異世界人です。あと、騎士の後ろにいるのは王女です」
そして、異世界人は私の敬愛する主を馬鹿にした憎むべきやつらです!!
「ヴィルヘルム!扉を閉めて!」
「分かってる!ってか、呼び捨てにしやがったな!」
雷を纏ったヴィルヘルムによって唯一の出口である扉が閉じられた。
「それでは、少し遊んでも良いか?」
「やっちゃって下さい!」
「さて、どうしてくれようか‥‥」
リツェアさんから吹き出す桁外れの迫力にこの場にいる全員の顔から血の気が引いた。
誰もこの中では動けない中で、国の騎士と1人の異世界人が動いた。
「ま、待て!皆には僕が指一本触れさせない!」
光り輝く剣を構え、私たちに未熟な殺気を放つ明るめの茶髪の少年。確か名前は、さわきてんめい?だったっけ.....まぁ、どうでも良いや。
ん?その後ろでキャーキャーと声援を送っているのは、確かさわき親衛隊よね。
主が彼女たちには見所があるって言っていたけど、‥‥確かにこの中で声援を送れる精神力は凄いですね。
「待てだ?あのガキは馬鹿なのか?」
「何だと!?」
「戦いはもうとっくの前に始まってんだよ!」
ヴィルヘルムの殺気を浴び、さわきは萎縮してしまう。
その時、リツェアさんがスキルを発動した。
「恐怖を知れ〝嫉妬する蛇姫〟」
その瞬間、この場にいた人たち恐怖で腰を抜かし、悲鳴を上げ、騎士でさえ既に戦意を失っています。
それでいて、誰1人として気を失う事のない絶妙な加減。
流石はリツェアさんです!!
そして、錯乱でもしたのか10人程の騎士ががむしゃらに突っ込んで来た所をヴィルヘルムによってあっという間に戦闘不能になりました。これで、この部屋にはまともに戦闘を行える戦力はいなくなり、逃げ腰の異世界人と王女がいるだけです。
「ひぃぃ、無理、むりよムリ!!」
「俺は死ぬんだ!」
「嫌だいやだ!死にたくない!!」
「皆さん落ち着いて下さい!!」
「お前!皆に何をした!」
「クククク、私は何もしていないさ」
「‥‥おい、良い加減にしろ」
「おーこわいこわい」
ヴィルヘルムさんは纏っていた雷を解き私をまた定位置ー頭の上ーに戻してくれた。
雷のおかげなのかさっきよりもフカフカです!
最後に残ったのは、光り輝やく剣を構えるさわきと主を虐めていた海堂とか言う奴です。
多分、海堂は恐くて動けないだけですけどね。
まぁ、さわきも逃げ腰で戦う何て無理ですね。
「ふむ、私たちとやる気か?」
「こ、こい!」
「ヴィルヘルム、さん。あの眩しい剣の隣の奴、主を虐めてた奴だから一発やっちゃって下さい!」
「ほぅー。おい、リツェア。あのガキを自由にしろ」
ヴィルヘルムがそう言うとリツェアさんは言う通りにしたようで、海堂の顔色が少し良くなったように見えます。
「お前があの糞ガキより強いのか試すぞ」
「な、何だてめぇ!俺とやるってのか!!」
敵が目の前に来ているのに構えようともしないとか、自殺志願者なのかな?
ヴィルヘルムはもう準備万端だよ。
「てめぇなんか、殺しーぶぅぐっ!!」
ヴィルヘルムの放った拳が見事顔面にめり込み、海堂が吹っ飛んだ。
「はぁ?え?嘘だろ?」
ヴィルヘルムはどうやら全然全力ではなかったらしい。本人も困惑している様子だ。多分、本人は様子見のつもりだったんだと思います。
吹っ飛んだ海堂は、ズザザァァァァ、ドカッ‥‥と言う音を上げて止まりました。
「‥‥」
「おー飛んだなぁ」
「いい気味です」
その結果、白目で泡を吹き、気を失っている様です。しかも、この臭い、漏らしてますね。
「海堂ー!!きさまぁ ーーあぎゃ!?」
「さっきからピィーピィー煩い」
剣を振りかぶったさわきの股間に、リツェアさんの蹴りが決まった。
「ありゃ、いてーぞ‥‥」
ヴィルヘルムがとっさに顔を顰め、僅かな同情を込めた声でそう言った。
男性にしか分からない痛みですね。
悶絶するさわきの横を通り2人は召喚の間の中央、召喚の魔法陣へと向かう。
「随分と役立たずな異世界人共だな」
「クククク、まぁ そう言うな」
ヴィルヘルムとリツェアさんが歩くとその前にいる異世界人は脇によけ道が出来た。
よく見れば、全員顔がまっ白になり、歯もガチガチ音を立てて震えています。それに、漏らしちゃっている人続出ですね。
ズボン濡れてます‥‥。
気持ちは分からなくもないけど、だらしなさ過ぎるよ。
これが主と同郷の人間‥‥、やっぱり主は特別なんですね。
私たちは、魔法陣の中央に立つ。
「無駄です!その魔法陣は異世界から勇者を召喚する物です。貴方たちでは使えません!それに、もう直ぐここに国の宮廷魔導師や精鋭騎士たちが来ます!逃げ場はありません!!」
王女がそう言った。
しかし、それも主の掌の上ですね。
「あれ?開かない?」
「何でだ?!」
こっそり逃げ出そうとしていた男女の異世界人が悲鳴にも似た声を上げた。
そして、リツェアさんが魔法陣に魔力を流すと魔法陣が光を放ち始めた。
「う、嘘!?まさか、魔法陣を書き換えたの!こんな短時間で、不可能です!!」
口ではそう言ってるけど、王女の目は見開かれ、必死に目の前の現実を否定しようとしているのが分かります。
確かに魔法陣を書き換えたのはリツェアさんではありません。行ったのは、主です。
しかも、一度限り、転移した場所も逆探知出来ないように高度な書き換えを行ったんです。
リツェアさんは鍵となる魔力を込めただけです。
そして、扉も一度閉めると自動的に全基本属性と光属性の魔力を込めて押さないと開かないように細工してあります。
そう言えば、主は「宮廷魔導師たちの手間を省いてやった」と黒い笑みを浮かべていましたね。
私が主の説明を思い出していると、魔法陣の光も強くなり始める。
「それではさらばだ。愚かな人間の諸君」
リツェアさんが渾身の笑顔を浮かべ、目の前が光に包まれた。