第15話 白虎と虎殺し
主人公の名前を変更する事をお知らせします(。-_-。)
勝手ながら、申し訳ございません。
天津凍夜 ⇒一乃瀬凍夜
に変更させて頂きましま。
暗くジメジメした地下牢を歩く足音。
時折、上から落ちる水の音と罪人の呻き声が聞こえ、この場の気持ち悪さを倍増させる。
「はぁー」
私は思わず溜め息を吐き出した。
前の時は主と一緒だったから大丈夫だったけど、1人でここを歩くのは少し心細い。
しかし、私は自分に与えられた役目を思い出し、拳を握る。
「主のご期待に応えないと」
主と最初に出会った時は、正直そんなに契約に乗り気ではなかった私だが、今やあの方に出会えた事を女神アスレティア様に感謝する毎日です。
「今、何か聞こえなかったか?」
「・・・・そうか?」
「!」
今の私は『隠遁』で姿を隠しています。
だって、今日は主がいないんだもん。
そんな状態で、あんな気持ち悪い人間に舐める様に見つめられる何て我慢できません!
私は軽く早歩きで目的の場所に向かった。
人間の子供の姿をしていても、やっぱり少し時間がかかってしまいましたが無事到着しました。
そこにある2つの牢屋の中には、赤髪金眼の魔人族の少女リツェアさんと主に向け穢れた殺気を放った憎むべき白虎の獣人ヴィルヘルムがいました。
2人は『隠遁』で姿を隠している私が近付いている事に気付いていた様です。
私はスキルを見破られた事に対して驚きはありません。寧ろ、この後の事を考えればこれぐらいやってもらわなければ困ります。
「来たな」
「クククク、待っていたぞ」
私に気付いているなら話が早いです。
私は早速『念話』を使い2人に話しかけます。因みに『念話』はお互いが同じスキルを持っていない限り会話をする事は出来ません。
『こんにちは。自己紹介が遅れましたが、私の名はメデューサ・デル・カーリス・シールバー、メデルとお呼び下さい』
そう言って私は練習してきた通り礼する。
主の眷属となった今、私のミスは主の顔に泥を塗る事になりますので、気を引き締めないと。
それにしてもこのメイド服と言うものは少し動き難いですね。黒と白を基調にして落ち着いた感じが私は好きなんですけど.....。
今日の私の服装は、アスレティア様に頂いたたくさんのお洋服の中で、お母様に従者として恥ずかしくない服装を選んで貰ったのです。
でも、やっぱりパジャマの方が良かったかな?
最近の私のお気に入りはパジャマです。動きやすく、風通しも悪くないし、柄も色々あって可愛い。
お母様の趣味は人間に姿を変えてのオシャレですので、人の姿になれる様になった私はまるで着せ替え人形の様な扱いを受けています。でも、色々な服を着れるのは楽しく、これだけでもアスレティア様から『擬人化』のスキルを貰った価値は充分にあります。それにーー
ーーはっ!
不味い、また自分の考えに没頭してしまいました。
『これよりお二人に、脱出の方法に付いてご説明いたします』
2人は私の説明を静かに聞いてくれていましたが、途中顔色が悪くなったり、驚いたり、怒ったり、最終的には何やら危険な笑みが浮かんでいた。
「ふ、フフフフ!それは私たちへの挑戦なのか?」
「あの糞ガキ....!覚えてろよ」
何を言っているのだろう?
脱出出来る可能性があるだけ喜んで欲しいのですけど.....。それと、やはりヴィルヘルムは主に対して無礼過ぎますね。
『それでは早速2人の拘束を外しますね』
私はメイド服の隠しポケットから緑色の液体の入った瓶を取り出した。
「「?」」
その瓶の蓋を開け、牢屋の鍵にかける。
すると、鋼鉄で出来ている筈の鍵がみるみる溶け出した。
「「!?」」
『これは主が限られた材料で作り出した〝鉄崩し〟と言う錬金術で使われる溶液だそうです』
私は胸を張りながら2人に話す。
『魔力が込もった物には無害なので、人の体に異常をきたす事はありません』
まぁ、主の【聖剣】があったからこそ使えるんですけどね。この牢屋は元々、魔法が至るところにかけられている、いわば牢屋その物が魔法道具のような物でしたから。
「〝鉄崩し〟とは、生成するのに高度な魔力操作が必要な筈....、お前の主とは本当に何者だ?」
牢屋の中に入った私は『隠遁』を解除し、リツェアさんに笑顔でのみ応える。
そして残っていた〝鉄屑し〟を手枷にかける。
そして、ヴィルヘルムの牢屋の鍵も溶かし中に入った。その後ろを自由になりウキウキしているリツェアさんが続く。
ここが、入り口から見え難いからって跳ね回らないで欲しいんですけど‥‥。
『ヴィルヘルム‥‥さんを自由にする前に、主への態度を改める事を約束して下さい』
私の言葉を聞いたヴィルヘルムは見るからに表情を顰め、私を睨む。
恐いですが、一乃瀬ファンNo.100のプライドにかけて引く訳にはいきません!
『嫌なら良いんですよ?』
そう言って私は溶液を隠しポケットにしまう。
「ぐっ‥‥!て、てめぇー!」
へーんだ。鎖と手枷を嵌められた虎なんて恐くないんだから‥‥嘘です、やっぱり恐いです。足がガクガクします。
「ふむ、メデル時間はまだあるのか?」
『はい、時間はまだ大丈夫です』
主はまだ他の異世界人たちと訓練をしている筈ですから。
そろそろ終わる頃ですかねー。
「ならば薬を貸してくれ」
最初はヴィルヘルムの鎖と手枷を溶かすつもりなのかと思ったが、リツェアさんの黒い笑顔を見た私は、薬を渡しながら同じ笑みで返した。
それに、何かを感じたのか、ヴィルヘルムがゆっくり後ろに下がる。
「お、おい、待て、何をー」
「貴様は私と話しをする時、いつも無愛想だったな。しかも、最近では無視するようにもなったよな?」
「最低ですね」
あっ、思わず『念話』を使うのを忘れた。
‥‥もう良いや。
ガシャ‥!
もう後ろは壁です。逃げ場何て何処にもありません。
「いや、その〜あれはだな‥‥」
「私への無礼も償って貰う」
そう言うと、リツェアさんは〝鉄崩し〟をヴィルヘルムの鼻に垂らした。
その瞬間ヴィルヘルムの鼻から鼻水が大量に流れ出し、何故だか悶絶している。
「っ!!!」
声も出ない様子です。
あっ、思い出しました。
〝鉄崩し〟は確かに人体には無害ですが、人肌に触れると特有の臭いを発生させるんでした。
例えるなら、少し甘ったるい臭いの次に若干の汗臭さの混ざった酸っぱい刺激臭.....兎に角、臭いんです。主曰く、加齢臭を10倍増しにした位に臭いそうです。
それを嗅ぐと鼻水が出やすくなる、と主が言っていました。
それを嗅覚に優れた獣人、しかも鼻に垂らされた事でダメージは絶大なんでしょうね。
さすがはリツェアさんです!!
私とリツェアさんはお互いに硬く握手をした。
「悪は裁かれました」
「うむ。これからはこの溶液を〝鉄崩し〟改め〝虎殺し〟と名付けよう」
「はい、リツェアさん!」
この時、私はリツェアさんと良い友達になれる事を確信しました。
「っ!!!」
その脇で、鼻水だけでなく涙まで出始めたヴィルヘルムがジタバタと床を転がっていた。