2度目の異世界召喚
前に書いていた小説の『改正版』です
昔の俺は、他人の為に怒り、泣き、笑う事が出来る優しく、思いやりを持った世間一般的に言う、良い奴だった。
努力すれば報われる。仲間と言うものを心から信頼出来る、と何の根拠もなくそう信じていた。
だが、この世界で3年前に起きた事件をきっかけに俺は変わった。‥‥いや、変えられたんだ。
あの世界で、裏切られたあの瞬間に。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
先生がいない実習の時間。
クラスには俺を含め30人の生徒がいた。
「あぁ?てめぇ調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
俺の腹にひざ蹴りが決まり、蹲る。
「良いぞーやっちまえ」
「「あはははは」」
「うけるー」
(‥‥ちっ)
俺の貴重な睡眠を妨げ、更にはこの程度の虐めを行う屑どもを俺は見上げる。
俺を見下して、優越感に浸っている男子生徒の名前は、海堂響毅だ。
俺を虐めている中心人物で、見た目は金髪を刈り上げた短髪に、耳にはピアスをしている。体は周りの男子生徒よりも大きく、喧嘩になれた筋肉のつき方をしている。
教師ですら手の付けられない不良だと、街でも有名だ。
確か父親は元総合格闘技の選手だと噂で聞いた事がある。その噂が本当なら、親の血を引いた喧嘩のサラブレッドなのだろう。
そんな奴に目を付けられたのは、確か俺の目が気に入らないってだけの下らない理由だった。そんな理由で虐められる方は溜まったものではないが、あっちの世界で鍛えられた体術のおかげでダメージは最低限に抑えられ、痛みに対する耐性も充分備えているので、今まで我慢する事が出来た。
海堂の指示で取り巻き2人が動き、俺を踏み付け、脇腹や顔をけり始める。
いつもの事だ。
たいしたことはない。
「おいおい、どうしたゴミ屑?強気なのはその目だけか?ああ!?」
海堂が俺の髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。
「くっ‥‥」
汚ねえ面をこれ以上視界に入れて欲しくないのだが.....。
俺がそう思った時、
バキッ‥‥!
殴られ再度床に叩き付けられた。
「てめぇのその目が気にいらねぇんだよ!」
そして、俺の頭を踏み付け、グリグリと足を動かす。
今のは少し痛かったぞ、屑野郎。
「もう俺様の我慢も限界だ」
そう言って、屑野郎ー海堂ーは狂気に取り憑かれたような笑みを俺に向ける。
「てめぇみたいな、何の役にも立たないザコで役立たずな奴は一生俺様の様な強者にペコペコ頭を下げて生きれば良いんだよ!」
「‥‥クククク」
俺は思わず嗤ってしまった。
「きもっ!」
「あの状況で笑うとか、マジ引くわー」
「こいつ立場分かってんのか?」
その他のクラスメイトが何やら言っているが、どうでも良い。
そんな事より、誰が強者だ‥‥。
お前の様な力を振り回す事しか能が無い、井の中の蛙のお前がか?
面白い冗談だ。
俺は制服に付いた埃を払いながら立ち上がる。
高校を卒業するまで我慢するつもりだったが、流石の俺も限界だ。
そして、立ち上がった俺を怒りを露わにして睨み付ける海堂にだけ僅かな殺気を放った。
「っ!」
それだけで、海堂は半歩後ろに下がり怒りの中に恐怖と混乱が見て取れた。
俺の口が吊り上がる。
「てめぇぇえ!良い度胸だ!面貸せ、俺様にそんな生意気な態度を取って無事で済むと思うなよ!!」
さぁて、無事ですまないのはどっちかな?
「ーーッ!(これは!?)」
その時、俺はこの世界では感じる筈のない魔力の流れを足下から感じた。
魔力を感じた足下に視線を向ければ、そこには3年前にも見た覚えがある魔法陣が描かれていた。
取り巻きの2人がおれの脇を固めて逃げられない様にし、おそらく体育館裏か何処かの人目のない所に連れて行こうとして、ここでやっとこの教室の異変に気付いたようだ。
まだ、魔力の光こそ弱くしか放っていないが既に効果の一部は発動している筈だ。
そんな俺の予想を証明する様に、海堂とその取り巻きが叫ぶ。
「あれ?」
「どうした」
「ドアが開かない!」
「はあ?何言って、どうなってんだ!?」
海堂達の反応で、今頃になって異常に気付いた連中が騒ぎ始めた。
「何で開かないんだ!」
「ふざけんな、どうして俺がこんな目に!!」
「誰か助けて!」
「助けてママー!!」
クラスの連中の悲鳴を無視して俺は冷静に現状を整理する。
魔方陣内の対象の拘束、膨大な魔力、魔力が存在しない世界に出現した魔方陣。
召喚魔法か。
異常事態にパニックになるクラス、着々と魔力を貯め光を放ち始めた魔法陣を見ながら俺は溜め息を吐いた。
「また、召喚か‥‥」
その瞬間、視界を覆い尽くす程の光を魔方陣が放ち、クラスにいた30人の生徒は地球からその存在が消えた。