2話 肉、ときどき超絶美形青年
早速ブックマーク登録ありがとうございます。
驚きで目を疑いました。こんな小説にブックマークしてくださって嬉しです。ありがとうございます。
今回は何故かコメディチックになってしまいました。私もなぜこうなったのかわからりません。
森の中を移動して、3日がたった。地図、敵索と新たに気配を消す隠密の魔法をかけつつの移動で、上手く敵意を持っていそうな生き物を避けることができた。
しかし問題が起きた。私にとって一大事なことが。
「お肉、お肉が食べたいぃぃぃいいいいいい‼」
あの肉汁溢れるアツアツの焼き肉、肉まん、ハンバーグ、ステーキ、想像するだけじゅるりと涎が垂れる。
そう、私は肉に飢えていた。その場に座り込み、大声を出して緑犬みたいなのが寄ってくる可能性があることを考える余裕すらなくして。
肉は私にとって必要不可欠な食べ物。今時の女子はダイエットとかなんとかでサラダしか食べな~い、とか言ってるけど私には無理。まさにノーミート・ノーライフ。
肉が好きすぎて困っているこの私が、この3日間一口も食べてないってどういうこと?! 禁断症状出そうで怖いんだけど!
ずっと果物だけで長時間歩くって、ダイエットみたいだし。この3日間で少しスカートのウエスト緩くなったよ。
そこら辺の動物を狩ってさばけば良いんだろけど、私には無理。魚でもうぇってなるのに、動物をさばけるわけがない。
いつになったら町に着くんだろう。もうそろそろ着いても良いころ合いだろ思うんだけどな。
町に着いたらすぐに肉食べよう、肉。お金とかは、自分の持っているものをいくつか売ればお金になるかも。今身に着けている元彼から貰ったハートのネックレス、売ったらいくらくらいになるだろう。
どのくらい肉を食べられるだろうかと、「肉、肉」と呟きながら悶々と考えすぎていた私は背後から近寄る存在に気付いていなかった。
「そんなに肉が食いたいのか?」
だから、背後から声を掛けられた私は「うぇっい!」と変な声を出し、思わず飛び上がり尻餅をついていた。
敵索が警鐘を鳴らさなかったから、相手に敵意が無いのは分かる。後ろに振り返ってみると、一人の青年がいた。
その青年の容姿に、私は思わず目を瞠った。すらりとした八頭身で、筋肉も程よくついていて無駄がない。緩やかなサラサラとした金茶の髪と海を彷彿とさせるサファイアの瞳にそれを縁どる睫毛。柳眉にすっと通った鼻筋、肌も白く何もかもが整っていて、人間離れした容姿。格好は冒険者といったような出で立ちだけど、それすらその美しさを損なわせるどころか、引き立たせた。
雰囲気的には王子寄りの騎士だけど、あまりの美しさに私は息を呑んだ。こんな人が本当にいるなんて、と私は思った。
自分の元彼が一番イケメンだとか思ってたけど比じゃない。というか、この人さっきなんて言ったっけ。
こんな美形が私に声かけるってどういうことっ? 混乱して思考が上手く回らない。あわあわしている私をみて、その青年はくすっと笑った。
うわっ、笑う姿もなんとも……。美しすぎて直視できない。
「お前、面白な」
声も美しいです。少し低めのテノールはとても耳に心地いいです。目と耳が幸せすぎてちょっと混乱してますがなにか。
不意に、すっと目の前に肉汁かおる串焼き肉が差し出された。
「肉、食べたいんだろ?」
「食べたいです‼」
コクコクと私は頷き、大事そうにそれを受け取る。貴方が救世主ですね、わかります。
「ありがとうございます!」
その超絶美形青年の言葉を待つ前に私ははぐはぐと肉に噛り付いた。
「っ~~~~~~!」
あまりの美味しさに、私は声を唸らせた。旨い、旨すぎる。適度な塩加減といい、溢れる肉汁といい、見事な歯応えと柔らさ。何もかもが完璧。
生暖かい視線を、目の前の超絶美形青年から送られているとしても私は気にしない。目の前に肉があって何処をみるのか。肉でしょ!
3日ぶりの肉、じっくり噛みしめないともったいない。
どのくらい時間をかけたかは分からないけれど、青年は私が食べ終わるのを待ってくれていた。
「ごちそうさまでした。お肉、恵んでくださってありがとうごじゃいます」
あ、噛んだ。羞恥で顔が赤く染まるのを感じる。
私のその様子に、その青年はふっと笑んだ。ほんとに恥ずかしい。そんな優しい目で見ないで下さいと、切実に伝えたい。これあれだよ、幼い子どもを見てるような表情だよ。すっごい暖かく見守ってる表情だよ。居た堪れないよ。
でも仕方ない。こんな超絶美形目の前にして通常運転できるわけがない。いや、さっきの事は兎も角。余裕ができてやっと状況把握というか。
「いや、美味しそう食べてもらえたからな。食べさせた甲斐がある」
「それにしても、何で串焼き肉なんて持ってたんですか? いや、私としてはとても助かったんですけど」
そもそもそこだよね。何でこんな超絶美形青年が串焼き肉持ってこんな所にいるんだろ。どんな絵面ですか。いや、可笑しいどころか眼福ものだけどね!
肉と超絶美形青年とのコラボ……良い‼ じゃなくて……。落ち着けー私。地球での超絶イケメンに一度フラれてるんだぞ。散々ショック受けさせられてボロボロになったんだぞ。美形にかかわると碌な事が無いに違いないって。
いやでも、この人お肉恵んでくれたし良い人かな。ある意味恩人だもんね、この超絶美形青年。うん、一先ず信用しておこう。怪しかったら魔法でなんとかしたら大丈夫、だよね?
「俺はここから少し離れたところで昼食を食べていたんだ。お前の大きい声が聞こえて見に来てみれば……」
「あーはい。とてもお恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ないです。肉に飢えてたんです。すみません」
私は乾いた笑みを浮かべ、遠い目をする。
「いや、気にするな。面白かったからな。俺も一つ聞いても良いか?」
面白いとはなんぞや? どこかサドっ気を感じてしまうのは私だけでしょうか。というか聞きたいことってなんだろ。何でそんなに肉に飢えてたのか、とかかな。
「はい? 何ですか?」
「お前、何でそんな無装備でこの森にいるんだ? 死にたいのか」
「へ?」
死にたいのかって? 死にたいわけないじゃん。そのための地図と敵索と隠密だよ。隠密かけてたのに気付かれてしまったのは私が大声出した落ち度です、はい。
ていうか死ぬって何事?!
「あの……」
「何だ?」
「つかぬ事をお聞きしますがこの森って危険……何ですか?」
私のその台詞に、超絶美形青年は訝しげな表情をしたけれどすぐに答えてくれた
「そうだな。少なくとも装備無しで歩くのは無謀だ。よっぽど剣の腕があるか魔術師でなければ死ぬな。この森はギルドのランクは低い訳でじゃない。よく出没するDランクのグリーンウルフでも群れならCランク扱いになる。それよりも危険なBランクやB+ランクの魔植物や魔物がいるからギルドのルーキーでももう少し手前でクエストを受ける」
マジでか。そんな危険な森に私いたわけ? 想像だけどBランクとかって結構危険なレベルだよね。確かに地図に表示された生き物の表示とか敵索の反応とか結構あったけど。
私がこの森にいた最初は、なんて和な森なんだーって感じだったよ。毒があるとか思いもせずに果実を美味しく食べたよ。ギルドだっけ、そのルーキーが手前までしか行かない? 私はそのさらに3日くらいかかる距離にいたよ。
あれ? 私結構危険な立場だったんじゃ……?
「それって何かの冗談……」
「なはけないだろ。それでよく無事だったな。俺の説明でここがどれだけ危険か分かったはずだ。それに身形からして冒険者というより良家の娘にしか見えない。見たことのない作りだが素材が良いことは見てわかる。お前は本当にどうしてこんな所にいる?」
確かに、超絶美形青年からしたら謎だよね。こんな見るからに普通の女が、なんの装備もなしにふらふらーと歩いてるんだもんね。
というか身形いいんだね、私。私の今の格好というと、白のフリルブラウスに桜色の薄手のカーディガンでボタンはダミーの真珠。下は少しふんわりとした薄手のクリーム色のロングスカート。黒地に可愛いプリントがついている少しおしゃれ目なスニーカー。
いたって普通だと思うんだけど。ブランド物じゃないないし普通に某ファストファッションの服屋で買った安物だしね。それも安売りの時に買ったものだし。
超絶美形青年からしてみると、私は良家の娘に見えるらしいけどどう説明したらいいんだろう。
まさか異世界から来ましたなんて、言えない。私だったら気がふれたんじゃないかって思う。それか中二病に目覚めたのかって痛い子を見る目をする。
かと言って、全部嘘で塗り固めてしまったら、ボロがでるしすぐにばれる。それなら、真実と嘘を上手く混ぜて話した方が得策かもしれない。私は意を決して話すことにした。
「実は私にもよく分からないんです」
「……よく分からない?」
すっごい怪訝な顔をされた。うん、わかるよその気持ち。私もだもの。
「本当にどうして私がこの森にいるのかよく分からないんです。気付いたら森の中にいたんです。ここが何処の森かも分かりません。家の近くを散歩していたら突然何かに引っ張られたのは覚えているんですけど……」
殆ど本当の事だ。これであんまり違和感はない、はず!
「……それはつまり誰かに誘拐されたということか? それなら町の自警団の方に報せてその犯人たちを捕まえなければならない。犯人はお前の傍にはいなかったのか?」
あれ、大事になってない? そんな誘拐って、確かに世界規模でそうだけどね。犯人って絶対人じゃないと思うんだ。あんな冷たくて青白い手の人間がいてたまるかっていうかね。
「……いなかったです。気付いたら一人だったので」
余りに真剣な表情をされたものだから、思わず不安げな顔で私は目の前の超絶美形青年を見てしまった。そんな私を見ると、大丈夫だというように、頭を優しく撫ぜた。
どくん、と心臓が跳ねたのを感じた。
いやいやいや、なに今から恋の物語が始まるよ的な感じになってんの私! なにキュンってなってんの?!
私失恋したばっかりなんだけど! しかもイケメンに恋するとか報われなさすぎるでしょ! 絶対この超絶美形青年に恋人いるってっ。
いや違うでしょ、落ち着けー私。ただ傷心中に優しくされたから絆されただけだよ、そうだよねっ私! そうだとも私! 以上脳内会議終了!
「どうかしたか?」
何故だか興味深げに見られている私。え、どうしてそうなった。
「いえ! なんでもないです! お気になさらずっ」
「クッ、百面相で面白かったが気にしないでおこう」
慌てて答える私に対して笑うなんてなんて……。この人絶対Sだよ。
「とりあえず、今後について考えてみたんだが……お前を保護しようと思う」
「へ?」
「お前をこのまま置いていくわけにはいかないだろう。犯人がすぐ戻ってくるかも分からない。一旦町に戻ってお前の家が何処か探さないといけないだろ」
「一緒付いて行っていいんですか? きっと足手まといになりますよ? それに何か目的があってこの森に来たんじゃないんですか?」
「いや、気にするな。森の中を調査していただけだから。出来ないことはしないから安心しろ。とりあえずお前は無事に町にたどり着くことだけ考えてろ」
有無を言わさない言葉に私は思わず頷く。何もしないなんて何だか悪い気がするけど相手はプロっぽいし何もしない方が良いだろう。
すると、また超絶美形青年は私の頭を撫ぜた。何で私の頭を撫でるんだろう、謎だ。
「俺の名はレグルス・ルージェミア。レグルスでいい。お前の名は?」
漸く目の前の超絶美形青年の名前が分かった。そして自分の名前を問われてふと思った。本当の自分の名前を名乗っていいものなのかと。
別にレグルスが怪しい人とか言うわけじゃない。よく異世界ものであるよね。真名を知るのはその人の魂を握っているようなものだって。名前はこの世で一番短い呪だから魔術師なんかは真名は名乗らないって。
この異世界、何が起こるか分からない。自分の名前を元に偽名を名乗ろう。自分の名前を呼ばれても反応できる程度で。
「私はシノン・リーンミヤです。シノンでいいです」
詩乃に「ん」をつけて、シノン。鈴宮だから鈴の音と宮をつなげてリーンミヤ。我ながらなんて安直なんだろう。
「シノン、だな。敬語もいらない。普通に話して構わない。それじゃあ、まずは俺の荷物を取りに行く。腹ごしらえしたら出発する」
「わかりま、じゃない、分かった」
歩き出し、私を促すレグルスの後ろについていく。異世界の町がどんな所なのか、私は子どものように楽しみになるくらい、自分の中に余裕ができていたのを感じた。傍に誰かがいるってこんなに安心できるものなんだと改めて実感した。
いかがだったでしょうか?
可笑しいところはなかったでしょうか?
何かアドバイスあればお気軽にコメントをください。
次回は忙しくなるため更新が遅くなると思いますがよろいくお願いします。
警備隊から自警団に変更しました。(2015/05/08)