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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第四章 番外編
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〈番外編〉星持ち様、心はここに。〈sideアルド〉

第二章の最終話、『星持ち様、心はどこに。』のアルドサイドです。


一度活動報告であげましたが、文字サイズを変えられない、とのご意見を頂いたので、こちらに。


後日手直しするかも、です。

 どうしたら、いいのだろう。


 ピーターに言われずとも、彼女と二人で出掛けられることが決まってから、新年祭の贈り物はしたいとずっと思っていた。


 カティーラの新年祭では、親しい者同士が贈り物を贈り合う。花や菓子など安価なものから、貴族では鍵を渡して屋敷を贈る、などということもする。


 ―――自分と彼女の関係性を考えると、一体何がいいのだろう。


 装飾品では重いだろうか。ハンカチなど気軽に使えるものがいいか。だが、あまり軽いものだと、気持ちまで軽いと思われるだろうか。


 迷ったあげくライラにきいてみたが、嫌そうに舌打ちされ、自分で考えることに意味がある、とヒントさえもらえなかった。


 内容が内容なだけに、迂闊にきいてまわるわけにもいかない。身近にいる侍女や…ましてや妹に訊けば、何と噂されるかわかったものではない。


 ただでさえ危うい彼女の立場を、これ以上悪くするわけにはいかなかった。


 そうこうしているうちに、後夜祭当日が来てしまったのだ。




 コートのポケットに入れた小さな箱。そこに収まった髪飾りは、彼女の黒髪によく似合うだろう。


 ―――どう言って渡したらいいのか。


 ここが社交界なら、何とも思っていない女性相手なら、いくらでも何とでも言える。歯の浮くようなことを言っても、相手も言われ慣れているから、単なる挨拶みたいなものだ。

 意味のないことだとわかりながら言うので、照れることもない。


 ―――もっとも、言えるだろうというだけで、実際に言ったことはほとんどないのだが。


 今だけは、にこやかに微笑んで美辞麗句を生み出せる弟を心底羨ましいと思う。


「アルドさん?」


 焦げ茶の瞳が、じっと見上げてきた。

 いつもは化粧もあまりせず、機能性を重視した髪と服装の彼女だが、今日は控えめながら上品なドレスを纏い、髪も結われている。


 ありのままを言うなら、ことばにできない。

 とても愛らしい。

 慎ましいそのすべてを、持ち帰ってどこにも出したくはない。



 ―――ばかな。


 何と身勝手な感情だ。相手の人生を己のもののように扱いたいなどと。

 それでも。

 飛ぶ鳥に籠は似合わぬとわかっていても、手元から飛んでいかれるのが、身を裂くほどつらい。


 いっそ羽根をもいでしまいたい。泣いても嫌われても、籠に閉じ込めてしまいたい。


 思わず触れた緩く結いあげた黒髪は、柔らかだ。


 ―――なにを、している。


 慌てて手を引っ込めようとして、不思議そうに見上げられた。


「……ほどけている」

「え、どこですか?」


 咄嗟に出たごまかしのことばを真に受けたリリアは、焦ったように後頭部へ手を伸ばす。

 たが、崩れてなどいないのだから、どこに問題があるのかなどわかるはずもない。


 今更嘘だとも言えずどうしたものかと思ったが、次の瞬間、閃いた。


「じっとしていろ」


 言えば素直にリリアは手を下ろした。

 再びその柔らかな髪に触れる。片手でコートのポケットの中の箱を開け、取り出した。

 編み込まれた根本の部分に指を入れながら髪を浮かせる。

 全体が崩れてしまわないように、慎重に頭頂から耳の脇へ手をずらしていった。

 最後に、緩んだ部分を軽く後ろへ引きながら髪飾りを差し込んだ。

 奔放な妹の髪を結い直した経験がこのような形で役に立つとは、夢にも思わなかった。


 彼女の黒髪に、雪の結晶がきらめく。

 ちりばめられた宝石は一つ一つは小さいが複雑にカットされていて、明かりを受けて控えめながらも美しく輝いていた。


 ―――細氷に瞳を輝かせるリリアのようだ。


 ふと見下ろせば、リリアのうなじも耳も真っ赤に染まっていた。


 どうしたのか、と思わず訊こうとし、はたと気づく。


 ダンスのとき、声をかけたとき、微笑みかけたとき、頬や耳を染める令嬢を見ることは多くあった。

 初々しさや、こちらへの好意を感じることはあったが、それに対して心が動くことは一度もなかった。


 ―――こんなにも、胸がざわつくものなのか。


 彼女の頬を、耳を、色づかせたのが自分の手だということに、言い様のない喜びがこみあげてきた。

 もっと、触れたい。狼狽えさせたい。


 ―――だめだ。


 己の手が不埒な動きをする前に、手を握り下ろした。


「これで帰るまでは大丈夫だろう。…似合っている」


 小さく礼を言う彼女が贈り物に気づくのは、いつだろうか。

 その瞬間に居合わせられないだろうことがどこか残念で―――しかし、離れていても自分のことを思い出してもらえるということが、自然と口角を持ち上げた。





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