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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第三章 王家と弁当屋
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星持ち様、“心”を奮った結末。

残酷描写があります。そして暗いです。


苦手な方は読み飛ばして頂いても、差し支えない内容になっています。

 毎週末、イヴの屋敷へ行く習慣が加わっただけで、アカデミーでの生活は、特に変わりなく過ぎていった。

 変わったことといえば、サリエラがいなくなったことで取り巻き連中が解散したことくらいだろうか。


 ライラによれば、サリエラが“心”を使って行ったことは公にされていないそうだ。ただ、父であるエイリー公爵の不正により爵位を失いアカデミーを追放された、とだけ知らされたらしい。


 実際は、一ヶ月以上に及ぶ厳しい取り調べの結果、サリエラは魔力を未来永劫使えなくなる腕輪をはめられ、家族とバラバラに国外追放になることが決まった。

 公爵家令嬢としてなんの苦労もなく生きてきたサリエラには、一人で食べていくことさえかなり難しいだろう。

 重すぎる処分にも思えるが、“心”を使い人心を惑わすことはカティーラでは特にタブー視されていると最近私にもわかってきた。


 皆、知らないうちに自分の感情を左右されるなんて、気持ち悪いし嫌だろう。

 “心”を使える人は、隠すことが多いというのも、仕方がないことなのかもしれない。

 嫌がられるものを、わざわざ持ってるよ、とは言いたくないものだ。



「実は魔力が使えるってわかったとき、ちょっと嬉しかったんだけど」


 ライラの淹れてくれた紅茶を冷ましながら自嘲気味に言うと、無言でライラが見つめてきた。


「マイナーな、しかも悪いイメージの魔力しか使えないなんて」


 特に運がいい方ではないし、異世界トリップでチート!なんてご都合がそうそうあるわけないといるのはわかっている。

 そもそもそんなものがあるなら、ことばくらいわかるようにしてほしかった。

 それだけでもだいぶ助かっただろう。


「…私の母も“心”を使える」

「えっ?」

 私が作った焼プリンを食べながら、ライラがぽつりと言った。

 ライラのお母さんが?


「力は、持っているだけでは罪にはならない。どう使うかが問題。だから、私はこの風潮は納得できない」

「うん…、魔力も道具と考えればそうだね」


 考えてもみれば、悪用しようと思えば、どんな魔力だって凶器だ。ほとんどの人が使えるとは言っても、星持ちと一般人の間ではバズーカ砲と空気砲くらいの差がある。


 でも、“心”だけが特に嫌がられるのはなぜなんだろう?



「私も父からきいた話しか知らないけど」

 そう前置きして、ライラが教えてくれたのは、数十年前、一人の星持ちが辿った悲しい軌跡だった。




 カティーラのある子爵家の三男として、その男は生まれた。

 剣術にも長けていた彼は、アカデミーを優秀な成績で卒業したあと、国の魔術騎士団へ入団した。魔術騎士団とは、その名の通り、剣術と魔術に秀でた者によって構成される騎士団のこと。星持ちの中でも羨望を集める花形だ。


 彼はあらゆる魔力を自在に操り、歴代の星持ちの中でも抜きん出た存在だった。



 あるとき、西の国との国境付近できな臭い動きがあるという情報が入った。だが、まだきな臭いというだけで、決定的なものではない。先制攻撃を仕掛けるべきか、相手の出方を探るべきか。


 そして彼に下った命令は、西の国へ潜入し、敵情を探ること。


 西の国には数年前、カティーラの王女が嫁いでいたため、全面戦争を始める前に王女を取り戻すことも必要だった。


 命懸けの潜入捜査の見返りに、彼は王女を降嫁してもらう約束を取りつけた。

 王女が西の国へ嫁ぐずっと前から、彼は王女のことを愛していたから。



 だが、西の国へ潜入した彼は、そこで王女の身に何が起こったかを知ってしまう。


 和平の証として嫁いだはずの王女は、敵国の下賤な者として侮蔑され、凌辱され、ただの容器(いれもの)になっていた。

 美しく愛らしかった面影はどこにもない。

 やつれぼろぼろになった王女の瞳には何も映らない。


 そこからの彼の行動は速かった。

 王女の牢番を昏倒させ、彼女を腕に抱いて玉座へとって返した。


「この国は、終わる」


 低くよく響く声がきこえた、と思った次の瞬間には、断末魔が複数あがった。

 彼に“心”を流し込まれた騎士たちが、王や大臣に剣を突き立てたのだ。的確に急所を狙った剣は、次々と骸を積んでいった。


 たちまち王の間は血の臭いにあふれ、立っている者は騎士たちと彼だけとなった。


 目の前でむごたらしい殺戮が行われても、王女はぴくりとも動かなかった。



 この国の王は、独裁的に国政を押し進めすぎた。

 騎士たちも要職に就いているものたちも、多かれ少なかれ不満を持っていたため、崩すのは簡単だった。


 大国が、ガラガラと崩れていく音を背でききながら、彼は王女とともに逃げた。




「カティーラは、彼のしたことに恐れをなした」


 彼がどこの誰かはカティーラだけが知っていたが、当時の国王は口をつぐんで連合軍に加わった。正式に宣戦布告を行わないうちに、他国を滅ぼしたなど、周辺国からの猛烈な非難は避けようもない。

 真実が露見する前に、彼を回収もしくは処分しなければならない。

 失うには惜しい力だが、過ぎた力は身を滅ぼす。


「それで…どうなったの?」

「連合軍が彼と王女を追いつめたときには、彼は自分に“心”を向け、壊れていた」


 なんて救いのない話だ。

 王女を助け出して降嫁してもらって、めでたしめでたしではないのか。


「魔術騎士団にいたときの彼は、自分の力を制御して無闇に力を奮ったりしなかった。でも王女の一件で箍が外れてしまった」


 持っている力をどう使うか決めるのは、自分。それが忌避されるものになるのか、人を助けるものになるのかはそれ次第。


 そういうことなんだろう。


「それから、カティーラでは“心”の魔力の使い方を教えなくなった。誰にも教えられなくても使える人も中にはいるけど、少しでも“心”の使い手を減らすように」


 そんなことをしても意味はないのに。

 嘆息して、ライラが紅茶を飲んだ。


 実際、サリエラのように誰にも教えられなくても“心”を使い、悪用する人もいる。

 “心”の教育をしないことが解決策にはなっていないのは確かだ。


 私が星をもたないのに“心”だけ使えるのはなぜなんだろう。

 私はこれをどう使っていったらいいのだろう。


 ぼんやりと考えていると、ライラがふと私の手に触れた。


「リリアは、間違えたりしない。大丈夫」

「…うん。ありがと」


 流されるまま、ここまで来てしまったけど、そろそろ自分で考えて決めなくてはいけない気がする。


 …そんな余地は残されていないかもしれないけど。

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