星持ち様、お仕事中。
ものすごく速く、今まで見たこともないほどきれいな所作で、アルドさんは弁当を完食した。
残さず食べてもらえるのは嬉しいけど、目の前で弁当食べられるのは結構緊張する。
私は基本、お客さんに味の感想はきかない。
お客さんの方から言ってもらえる感想はありがたく受けとる。悪い評価は正直聞きたくないが、受け止める。
でも、自分から「どうでした?お口にあいましたか?」とは訊きづらい。
押しつけがましい気もするし、気を遣ってもらいお世辞言われてもむなしいものだ。
アルドさんはわかるようには表現してくれないが、まずいと思ってたら毎日買いに来ないだろう。それなりに気に入ってくれてると信じよう。
私がモヤモヤしているうちに弁当の空き容器を手早くまとめ目礼するアルドさん。
ごちそうさまということだろう。お粗末さまでした。
「崩落が起きたとき、一階層にいたのは私たちだけだ。鉱夫は昼の休憩をとると出ていたはずだ」
アルドさんのことばに、確かに、と頷く。入口でロットさんに会ってからは誰も見かけていない。
「じゃあ巻き込まれたのは私たちだけですね」
少しほっとする。
星持ち様と一緒にいたおかげで私は助かったけど、顔馴染みの鉱夫さんが無事じゃなかった、なんてだいぶ嫌だ。
ところがアルドさんは首を振る。
「二階層に星持ちと従者2名がいたはずだ」
は?
「星持ち様って…アルドさんだけじゃないんですか?」
しかも従者?お付きの人ということだろうか。
「今回見つかった磁場が大きかったため、星持ちは私とヴィクトールという男が派遣された。同じ宿に泊まっていたが」
そこまで言われて、はたと気づく。エイダさんの宿に届けた弁当は4つ。
1つはアルドさん、残りの3つがヴィクトールという人と従者さん2人ということなんだろう。
「ヴィクトールは自力で出られるだろうが、従者は難しいだろう。助けに行く」
言いながら立ち上がったアルドさん。
襟元の星がさっきまでとは比べ物にならないくらい光を放っている。
魔力を練り上げて放出するときに、星は輝く。その強さはそのまま魔力の強さであると言われるだけあって、アルドさんの星は眩しいくらいに強い光を持っていた。
アルドさんが目の前の岩肌にそっと手をかざすと、ゆっくりと岩が動く。
まばたきをしているうち、一つ、また一つと岩が動いていく。
「わっ、わっ」
私の足の下の岩が急に動き、慌てて足をどける。
途端にくらっと目眩がしてよろけてしまった。
「元あった形に戻るよう、土と水を動かしている。不安定ならつかまるといい」
よろけた私をちらりと見て、また作業を再開するアルドさん。
つかまる先を迷った末、ありがたくローブの裾をつかませてもらう。
あ、なんかこれいい素材なんじゃない?しっかりしてるのに軽い。手触りはなめらかなのに、ぎゅっと握ってもシワにならない。私のとっておきのコートが何枚も買えそうだな…。
私がローブの値段を予想しながら裾をにぎにぎしている間にも、アルドさんは歩き進めながらどんどん鉱道を戻していく。
高級服をにぎにぎするのに飽きた頃、ふとアルドさんが足を止めた。
一際大きな岩の向こう側から声がかすかに聞こえてきたのだ。