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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第二章 アカデミーと弁当屋
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星持ち様、新年祭の約束。

 特別授業が始まって二ヶ月目に入る頃には、エリクさんに怒鳴られることはほとんどなくなった。

 ここまで、本当に長かった。きくも涙、語るも涙、だ。


 私にとって、特に難しかったのが『無心』だったので、これに一番時間がかかった。

 ちょっと必死になると執念やら妄執やらが入ってしまう。妄執ってなにさ。


 自分の“心”の魔力は、自分では感じ取れないので、味見してもさっぱりわからない。そのうちなぜかライラも恐る恐るしか試食してくれなくなったので、弁当屋のプライドはズタズタだ。


 あの人は喜んでくれるかな、とか、今日はいいベリーが手に入ったな、とかは今まで垂れ流しにしてきただけあって簡単なのに。

 ちょっと意図しただけでこの難しさ。


 図らずして作ってしまった執念パンケーキも妄執弁当も、泣くほど怒鳴られはしたがエリクさんは必ず完食してくれた。

 身体に悪くないかとハラハラしたが、そんなヤワな身体で医療師が務まるかと一蹴された。


 ああ、その男気に惚れてしまいそうだ。

 師長、一生ついていきます。



「最近は、よくできたって誉められることも出てきたんですよ」

 美しい球体がくるくる回っているのを見ながら、うきうきと報告する。


『その分なら卒業も遠くないな』

 直接きくよりは、やや反響したような声。ああ、でもこの美声は腰にくるわ。


 例の入退院後、アルドさんからは定期連絡が入るようになった。

 こちらからもいつでも連絡していいと、識別番号を渡されたのだ。


 好きな人と番号交換!!

 例えそこに王族としての義務感とか、星持ちとしての責任感しかなかったとしても、浮かれてしまう。


 ちなみに、通信機は魔力が必要なので、ライラが作った魔石を使わせてもらってる。

 ライラに同席してもらえば魔石は必要ないのだが、人の会話をきく趣味はない、と強く魔石の使用を勧められたのだ。魔石となる石に魔力を込めるのも鍛練になると言われれば、甘えようかな?という気持ちにもなる。


「そういえば、もうすぐ新年祭ですね」

 堂々とアカデミーの敷地から出られる、貴重な機会だ。

 私もライラに誘ってもらって、王都の繁華街で遊ぶことになっている。屋台の食べ物も楽しみだし、王都の店にはどんなものが置いてあるのか、興味津々だ。

 一時的に実家へ帰る人、恋人と会うという人、買い物を楽しむという人。

 それぞれの思いでアカデミー内は浮き足立っている。

 私ももちろん。


「私、王都を見て回るの初めてなんで、今からウキウキしてます」

 あの村にいたら、王都の新年祭なんて一生縁がなかっただろう。

 ほんと、つくづく遠いところまで来たなぁと思う。


『そうか…。後夜祭は何か予定があるか?』

 新年祭は三日間に渡って行われ、前夜祭、本祭、後夜祭と名前がついている。前夜祭は文字通り夜に始まり、本祭は一日中、後夜祭は夜までつづく。


「えっと、前夜祭を見たあとライラの家にお邪魔して本祭を見る約束はしてます」

 後夜祭についてはライラは何も言ってなかったから、本祭が終わったら帰ってくるのかと思っていたのだが。


『本祭までは仕事があるが後夜祭は少し時間がとれる。よければ街を案内するが』


 ………


『…きこえているか?』

『はっ…はい!」


 しまった。あまりの衝撃的な提案に魂抜けかかってた。


「あの、とても嬉しいです…。でも、ご迷惑じゃないですか?」

 冷静に、冷静に。鼻息が荒いのがバレたらドン引きされる。


『俺も久し振りに街を見てまわりたいと思っていた。迷惑ではない』


 ふっ、とアルドさんの声がゆるんだ。

 これは、もしかして、もしかしなくても、デート?!

 後夜祭に出来上がるカップルはかなり多いらしいし、後夜祭に行かないか=交際を遠回しに伝えている、とか言っていた令嬢もいた。

 まさかアルドさんがそんな手法をとるとは思えないが、夜の街に二人で出歩くのはそれなりに特別な意味があるに違いない。


『久し振りにライラともゆっくり話せる』


 ………。

 ですよね。

 二人きりなわけがないですよね。



 通信を終えて、アルドさんの提案をライラに伝えると、なんとも言いがたい微妙な顔をした。

「アル、バカじゃないの。私と何を話すの」


 ライラは王太子妃候補にあがってはいるが、アルドさんにもエディくんにも一貫してさっぱりした態度だ。きけば、幼なじみとして過ごしてきた期間が長すぎてそういう対象には思えないとのこと。しかも、好きな人がいるからどっちとも絶対に結婚しない、とこっそり教えてくれた。


 貴族の令嬢の恋愛や結婚は、本人よりも家の事情や都合が優先されることが多いが、ライラは譲るつもりはないそうだ。つい先日もお父さんが持ってきた結婚話をひとつ潰したらしい。

 何をどうやったのかまでは教えてくれなかったけど。



 ライラと三人でとは言っても、お出かけはお出かけ。何を着ていこうか?どこに連れていってもらおうか?

 ライラは全然乗り気ではないようだが、私のためと思って付き合ってもらおう。



 アルドさんとのお出かけ予定に浮かれた私は、課題を持って行った先で、久々にエリクさんに泣くまで怒られることになった。

 ええ、浮かれて色んな雑念が入ったんでしょうね…。

 新年祭前だろうが容赦ないんですね、師長…。





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