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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、お食事中。

 耐え難い息苦しさと吐き気に襲われて、ハッと目を開ける。


 長く水の中を泳いだあとのような…全力疾走を限界まで続けたような…。あー…気持ち悪い。


 こみ上げる吐き気を抑えながら周囲を見渡しても、暗くて何も見えない。


「目が覚めたか」

 よく通る低い声に首を巡らせると、すぐ傍らにうすぼんやりとアルドさんが見えた。

 襟元で星がほのかに光っている。魔石がなくても明るいなんて…うらやましい。


「あの…なにが…」

 頭を起こすと貧血のときのようにふわっとしたので、出来る限りのろのろと身体を動かす。


「出血量が多かった。目眩や吐き気があるだろう」


 アルドさんの視線の先には黒い水溜まりがあった。ほのかに、鉄の臭いがする…ってことは。


「えっ、これ私の血?!」

 一体どこにケガ?!

 慌てて身体中をぺたぺたと触る。

 足がぬるぬるするため、足のケガ?と慎重に指を滑らせたが皮膚の凹凸も特にないし、痛みもない。

 ああ、もう。見えないのがじれったい。

 ちょっとそこの星で照らしてくれないかな。


「傷はふさいだ。だが、流れ出た血液は私では戻せない」

 医療師ではないから、とアルドさんが少し眉を下げる。


 星持ちにも得意分野はそれぞれあって、ケガの治療や病気の快癒を得意とする星持ちを医療師と呼ぶそうだ。

 アルドさんは得意ではないものの、傷をふさぐ程度ならなんとかできるということだった。


「えっと…ありがとうございます」

 アルドさんの話をきいている間に、吐き気と目眩が少しずつおさまってきた。

どのくらいの傷だったかわからないけど、出血したままだと命がなかっただろう。

 血が戻せないくらい、大したことじゃないよね。


「美味しいごはんを食べれば、血なんてすぐできます。命を助けて下さってありがとうございます」

 いつも彼に向けている営業スマイルではなく、自然に笑みがこぼれた。



 私たちは、どうやら崩落事故に巻き込まれたらしい。

 『ごはん』サービスの常連であるマイスじいさんが以前教えてくれたことがある。


 40年ほど前にもこの鉱山で崩落事故があったらしい。その事故でマイスじいさんは片腕を失った。


「突然、腹に響くゴゴーッとすごい音がして、気が付いたときにはわしの腕はなかったわ」

 ぺたんこの袖口をさすりながら、マイスじいさんはよく言っていた。


 さっき私がきいた雷のような音。

 あれは崩落の音だったのか。


 閉じ込められた、という不安がないわけではない。だが、アルドさんに動揺した様子はないし、何て言っても星持ち様だ。

 災害時には人命救助もするという星持ち様。きっとパパッと解決してくれるんじゃ、という期待がある。


 助けてくれるよね、出られるよね?


 アルドさんを見ると、私の顔を見て何度か口ごもったあと、ボソッと、

「弁当はあるか」

と聞いてきた。


「は?」

 あ、しまった。

 こういうときは「え?」とか「もう一度よろしいですか?」だ。弁当屋始めたときに練習したのに。


「弁当…ありますけど」

 崩落に巻き込まれても、肩から斜めにかけていた鞄はなくならなかった。多少おかずは混ざっているかもしれないけど。ぎっちり詰めてあるからそんなにひどいことにはなってないはず。


 ていうか、食べるの?この状況で?腹が減っては戦はできぬ系な?

 まじまじとアルドさんを見つめてしまう。


「魔力は基本は睡眠で回復する。時間がないときは食事で補う」

 私の眼差しにややムッとしたようで、いつもより二割増無愛想にアルドさんが教えてくれる。


 へー、と感心しながら鞄から弁当を出す。蓋もしっかり閉まってるし汁もれもない。よしよし。


 1つはアルドさんに頼まれたもの。あとの2つはあわよくば他の鉱夫さんに売り付けようとたくらんでたもの。


「えっと…いくつ食べます?」

「………」

 苦々しい顔をしながら無言で3つとも手に取るアルドさん。


 いや、そんな怖い顔しないでよ。

 この非常時に食いしん坊め、とか思ってないよ。

 よく食べられるな、とかちょっとしか思ってないよ。



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