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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、依頼終了。

 翌朝、食堂で顔をあわせたアルドさんに特に変わった様子はなかった。

 寝癖もなければ、寝起きのむくみもない。美しい人種はいつ見ても美しいらしい。


 サンドイッチの行方は考えても不毛なので何もきかないことにしていたのだが、アルドさんから話を振ってきた。


「部屋で食べた。………ありがとう」


 消え入りそうなありがとうだったし、本当に食べたのかはちょっと定かではないけど、


「嬉しいです」

 えへへ、と笑いかけたら、アルドさんはふいっと目をそらした。

 そのまま黙って食事を開始。



 え…

 直視に堪えない、とかですか。

 地味にショック。


 あっ!もしかして、昨日の話で実年齢がバレて気まずいとかですか?

 この国では遅くても二十そこそこで嫁に行きますからねぇ。すいませんねぇ、気の毒な嫁き遅れで。

 でも、そんな暇なかったんだもん。

 大体、実年齢二十でも十二くらいにしか見えない私と結婚したいなんて、明らかにロリコンだろう。個人の性癖に口を出すつもりはないが、私に関係のないところでお願いしたい。

 二十八になって、ようやくまわりに適齢期と認識されるようになったのだから、弁当一筋だった私だけが悪いわけじゃないはず。



 ちょっとだけむくれつつ、勢いよく目玉焼きにフォークを突き刺した。





 中心街の星見台は、およその作りはうちの村の隣街と同じだった。

 門の宝石も一緒。相変わらず高そうな宝石ばかりだ。ほじくりだそうとする人はいないのかきいてみると、魔力でくっついている宝石なので簡単には外れないとのこと。納得。


「今日は何の用事なんですか?」

「依頼の経過報告と、…相談だ」


 なんだか歯切れの悪いアルドさん。じっと見ていると少し迷ってから口を開いた。


「君の魔力についての相談だ」

 はて?と首をかしげる私に、アルドさんが説明してくれた。

 魔力には可視のものと不可視のものがある。一般的に可視の魔力しか知られていないのは、不可視の魔力を扱える者が少ないため。魔力の質や量が少なくても、不可視の魔力を扱えるというだけで星持ち様になった例もあるそうだ。そのくらい稀なこと。


「だが、君は星をもたない。その場合、稀有な魔力を所持しながら制御はできないということになる。事例としては、星見台に知らせないわけにはいかないだろう」


 一般人の中に、稀に星持ち様に匹敵するほどの魔力を持った人がいるそうだ。力をもて余して暴走させてしまったり、よからぬことに使ったりする人もいる。そういった事例を星見台に報告することも星持ち様の仕事だそうだ。

 報告された事例は星見台で検討され、処遇が決定される。



 処遇とか言われると怖いが、不可視の魔力があると言われても実感もないし、私自身ではどうしようもない。もしいい方法があるなら、ぜひ教えてほしい。

 私にも魔力があると知ってしまった以上、今まで通りではいられないのは私にだってわかる。


「…よろしくお願いします」

「…可能な限り、君が望まないことは話さない」


 私が口ごもったことに気付いたのか、アルドさんは少し眉を下げる。

 どうしようか迷ったが、異世界からきたということは、とりあえず伏せてもらえないかと頼む。

 信じてもらえないくらいならいいが、場合によっては死んだ方がましなくらいひどい目にあわされるかもしれない。

 異物は迫害されるか妙に崇められるか、がよくあるパターン。どっちも私は嫌だ。


「どうしても必要になったら、自分で言いますから」

 私のことばにうなずいて、アルドさんはカウンターへ歩いて行った。



 カウンターでアルドさんが報告と相談をしている間、私はとりあえず星持ち様ウォッチング。こんな大きな星見台に来ることなんてきっともうないしね。


 本当はカウンターの会話に聞き耳を立てたいのをグッとがまん。あえて私を連れて行かなかったってことは、あんまりきかれたくないのかもしれないし。


 大きめの星見台なだけあって、何人かの星持ち様がカウンターで依頼の話をしたり、星持ち様同士で話をしていたりする。ほとんどの人がこれ見よがしに星をさらしており、赤や緑、金色に白っぽいもの、それぞれ輝いている。その光はもちろん一般人の星とは比べるべくもないが、


「でもアルドさんのが一番きれいだな」

「なんの話だ」

 独り言に返事が返ってきて、飛び上がる。振り返って見れば怪訝そうなアルドさんが立っていた。


「いえっ!なんでもないです!」

 慌てて手と首をブンブン振り、報告はどうだったのかきく。

「話は終わった。2、3日中には返答がもらえるだろう」


 あとは村に帰るだけだ。ここから半日はかかるらしいので、今すぐ出ても夕の鐘に間に合うかどうかだ。

 急ごう、とアルドさんがローブの裾をひるがえした。




 星見台から馬車の乗り場まではすぐだった。

 きっと身分が高いだろうに、庶民の乗り合い馬車で村まで一緒に行ってくれるというアルドさんに礼を言うと、


「いや…、仕事だ」

 目を泳がせて言われてしまう。


 知ってますとも。誰も私のことを好きだから送ってくれるのね、なんて思ってもないです。


 むなしい。




 途中で一度馬車を降り、昼食をとった以外はずっと移動だった。


 エディくんに連れられてきたときは高級馬車だったし眠ってたから何とも思ってなかったけど、結構お尻がつらい。

 そして、同乗のお姉さま方のお色気攻撃もつらい。


 ひそひそと話しながら、意味ありげな熱のこもった目線を送る。

 送られた当人は全く気にしていないようで、窓枠に頬杖をついてぼんやりしていた。


 でも私の様子はきちんと見てくれているようで、お尻が痛くてモゾモゾしてたところ、敷けばいいと畳まれたローブを渡された。

 高級感とお姉さま方の視線に首を振りそうになるが、痔になる方があとあと困る。

 ありがたく使わせてもらうことにした。



「まあ、下品な子ザル」

 いそいそと尻の下に高級ローブを敷いていると、きこえよがしな悪口が飛んでくるが別に気にならない。だってもう二度と会わないだろうし。私のお尻とはこれから毎日お付き合いしなきゃならないんだ。私は尻を大事にする。



 太陽の傾きとともに一人、また一人と乗客が減り、終点の我が村に着く頃には、とっぷりと日が暮れていた。



 せっかく狭い空間にアルドさんといたのに、お姉さま方のおかげで話しづらく、ほとんど無言だったのが心残りでならない。






次で第一章が終わる予定です。

だいぶ難産なので…がんばります。

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