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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
19/94

<幕間>消えた幼なじみ 1<別視点>

 心地よい眠りの波をただよっていたところ、控えめなノックの音で私は目を覚ました。

「ごめんよ、ダリア。あんたにお客さんが来てるんだよ」


 母さんの声に目をこじあけて時計を見るとまだ昼すぎ。昨日は酒場も人が多かったため、疲れも抜けていない。

「お客さん?誰よぉ」

 睡眠不足は肌に良くないのに、とぶつぶつ言ってみたものの、わざわざ母さんが起こしに来るということは適当にあしらえる客ではないということか。


 手早く髪を整え、少し迷うが仕事着に着替えることにした。

 シャツに裾がふんわりした動きやすいスカートを身につける。汚れ防止のエプロンも忘れずに。睡眠時間は足りないが、二度寝をすると頭痛に悩まされることが多いのでこのまま起きてしまうことにする。


「下に待たせてあるよ」

 心なしか、母さんの顔がうかない。嫌な客なんだろうか。でも、もしたちの悪い客ならとっくに母さんが追っ払っているはずだ。


 階下に行くと、中年の男性がテーブルについていた。丁寧な仕立てのコート、きれいに撫でつけられた灰色の髪に青い目。若いころはさぞもてたであろう美中年だ。当然、こんな目立つ男はうちの村にはいないので、よそ者だ。服装や物腰からすると貴族様だろうか?

 貴族様が私に何の用だ。


「おまたせいたしましたぁ、お客様」

 営業モードの微笑みを浮かべ、客の正面へ座った。とっておきの私の微笑みにも、美中年は特に表情を動かさない。

「お休み中のところ、申し訳ありません」

 慇懃無礼を絵に描いたように、軽く黙礼する。顎のあたりにちらりと星が見えた。輝きからすると星持ちか。最近ちょっと大量発生しすぎじゃないか。


 怪訝そうに男を見ると、今回お伺いしたのはお知らせすることがありまして、と続ける。

「弁当屋のリリアさんを主人の屋敷にお連れしました」

 男の淡々とした度肝を抜くことばに、思わず立ち上がる。


「お連れ…ってどういうことよ」

「ことばのままでございます」

 あっさり答える男。

 リリアがなんの断りもなく店を長く空けることはないので、彼女の意思ではないだろう。

 つまり、誘拐?

 それをわざわざ教えに来るのはなぜ?


「目的はなんなの。主人って誰」

 うなるようにきく。

 涼しい顔をしたこの男の胸倉をつかんで揺さぶってやりたい。今こうしている間にもリリアがどうなっているかわからないのだ。焦りと怒りに強くこぶしを握った。


「目的に関しては私からは申し上げかねます。…主人はエディラード様です」

 エディラード、ときいて首をかしげそうになり、すぐに最近リリアに付きまとっているらしいエディという少年のことを思い出す。星見台でアルドさんへの取り次ぎを申し出てきた金髪の星持ち。


「私からおききになったことを、誰に話すか、どうなさるかはあなたにお任せします。ですが、お急ぎになった方がよろしいでしょう」

 脅しともとれるようなセリフ。そのまま男は席を立ち、出て行こうとする。


「ちょっと!待ちなさいよ!リリアはどこ?!」

 鋭く叫ぶ私の声に、店の奥から母さんが出てきた。男につかみかかりそうになる私の腕にそっと触れる。


「屋敷の場所は私からはお教えできません。ご自分でお調べください」

 母さんと私に丁寧に頭を下げると、男は店を出て行った。


「なんで止めるのよ!リリアが連れて行かれたのよ?!」

 母さんの腕を振りほどき、食ってかかる。


「ちょっと冷静になりな。あの男の人も星持ち様だろう、力づくであんたが詰め寄ったって敵わないよ。それに、わざわざ連れてったって知らせに来るんだ。何か目的があるんだろう」

「冷静になんて…!星持ちに連れていかれて、どんな目にあわされてるか…」


 先日までうちの宿には二人の星持ちが滞在していた。

 一人は愛想はないがごく控え目な物腰も丁寧な男。リリアの想い人だ。

 もう一人は共に滞在していた従者を物のように扱い、私たちにも蔑みの視線を向けてきた最低な男。宿の設備に文句をつけ、食事を突き返し、二言目には俺を誰だと思っている、と恫喝する獣のような男。


 あまりのひどさに村長に訴えたが、どうかもう少し辛抱してほしいと頭を下げられてしまったのだ。


 村長によれば、星持ち様、星持ち様と崇める人が多いせいもあり、傲慢な星持ちも多いらしい。



 エディという星持ちが、実はそんなヤツだったら。

 リリアが星を持たないことを知ったら。



「星持ち様のことなら、ここで騒いだって仕方ないよ。星見台に訴えるしかないだろうね」

 母さんのことばに、ハッと顔を上げる。

 あの男は、誰に話すかどうするかは任せると言った。急いだ方がいい、とも。


「待ちな!あんた一人で行っても…!」


 制止する母さんの声を振り切り、隣街への馬車の待ち合い場所へ走る。


 リリア、必ず助けるから。

 あのカウンターの男を締め上げてでも、絶対に居場所をつきとめるから。


 こぼれ落ちそうになる涙をぐっとこらえ、私は待ち合い場所へ急いだ。

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