<幕間>君は僕の輝ける星<別視点>
彼女に初めて会ったときのことを、今でもはっきり覚えている。
僕の住む村には、年の近い子どもは宿屋のダリアしかいなかった。今となっては、五つやそこら年が違っても特に気にならないが、子どもの頃は五つも違ったら別世界の人だった。同じ遊びでは楽しめないし、話も通じない。
そんなわけで、僕の遊び相手は大抵ダリア。女の子なのでやや物足りないなと思うことはあったけど、僕自身があまり男らしくなかったので特に不満はなかった。
ある春の日、僕とダリアは村長宅に呼ばれた。
村長が自宅へ村の子どもを招くときは大抵お説教か、何か特別に褒めるとき。
でも、どちらも心当たりがない。ダリアもわからない、ということだった。
通された居間でジュースをすすりながらダリアと顔を見合わせていると、村長が誰かの手を引いて入ってきた。
「新しく村に加わる子だよ。仲良くしてやってくれ。ジオとダリアとは年が近いんじゃないかな」
村長が言いながら小柄な女の子の手を引き、一歩前へ導いた。
ゆるやかにうねる漆黒の髪と濃茶の瞳。口も鼻も小さいのに、その瞳だけくりくりと目立つ。長いまつげが控えめに上を向いていた。
よろしくお願いします、とはにかんだ頬は薔薇色。
僕は一目で恋に落ちた。
小柄な女の子はリリアと言って、僕よりひとつ年上の十二歳。ダリアと同い年だ。
身寄りを亡くして困っていたところを村長が引き取ったらしい。
てっきり村長の家で暮らすのかと思っていたが、リリアはダリアの宿屋とうちの修理工場の間の空き店舗を改装して弁当屋を始めた。そしてそのまま店舗兼住宅に一人で住み始めた。
開店までは村長も村長夫人も手伝っていたが、これからずっと一人でやっていくという。
十二歳は、成人もまだまだ遠い。この年齢で一人で暮らすことだって滅多にないのに店を開くなんて、と村のみんなは驚いた。
当然、僕もダリアもびっくりした。
できっこない、子どものままごとだからすぐ音をあげるだろう、と面と向かって言う人もいた。
村長は一体何を考えているんだ、と言う人も少なくはなかった。
でも一月経ち、二月経ってもリリアは弁当屋を続けた。
その頃にはリリアの弁当をよく買いに行く常連ができはじめ、リリア自身もだいぶ手慣れたようで余裕が出てきた。
リリアの秘密を知ったのもこの頃だ。
ある日、近所から分けてもらった果物を持って訪ねると、リリアが調理を始めようとしているところだった。
火石と呼ばれる魔石を鍋の下へ放り込み、衝撃を与える。ほどなく火石がほの明るくなり、鍋を温め始めた。
「なんで星を使わないの?」
他のことで今日の分の魔力を使っちゃったのかな?
僕がきくとリリアは何でもないことのように、星がないから使えない、と答えた。
星がないってそんなことあるの、すごく不便じゃないの、と驚く僕にリリアはちょっとムッとした顔をする。
「私からすれば、星がないことが当たり前なの。それに、星がない人には国から補助が出て安く魔石を買えるから困らないよ」
そのことばに、僕は強い衝撃を受けた。
星がない、たった十二歳の子どもが必死に弁当を作って売っている。
それにひきかえ、星がある十一歳の僕は。
僕は何をしてるんだろう。
家族がいて、ご飯も用意してもらって、働くことも年齢を理由にそれほど真剣に求められてはいない。
リリアとはあまりに違う情けない僕。
その日帰宅してから、手伝い程度だった工場の仕事を本格的に教えてほしいと父に頼んだ。
嬉しそうに父は微笑んで、厳しくするから覚悟しろ、と頭を撫でてくれた。
リリアみたいに、自分の足で立ちたい。
一人で頑張るリリアを支えられるくらいしっかりしたい。
いつかそんな僕になれたら、この想いを告げられるかな。
その身体のどこにも星を宿していないリリア。
でも僕にとって、リリアは星。
僕の未来を照らしてくれる輝ける星。
ベタベタなタイトルは、彼のお花畑な思考ゆえ…と思ってください。