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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、噂になる。

 パイと手紙を預けた翌日、昼前にエディくんがやってきた。

「僕の従者が渡したよ。びっくりしてたみたい」

 ニコニコと報告してくれる。

 びっくりってどんなびっくり?うわ、なんだこいつ的な?

 わー、渡すんじゃなかったかな。


 後悔先に立たず。渡してしまったものは仕方がないけど…。気持ち悪がられたら、堪えられないかも。

 唸りそうになるが、気を取り直しエディくんに頭を下げる。


「ありがとうございます。アルドさんに受け取ってもらえて良かったです」

 反応はともかく、ちゃんと届けてもらえたのだから、お礼は言わないとね。


「いや、僕としてもとってもいい材料になったから」

 材料?なんのことだろう。

 首をかしげていると、それにしても、とエディくんがにっこり笑う。


「リリアさんはさ、ホントにアルドのことが好きなんだね」

「な…っ!」

 急に投下された爆弾に焦るあまり、唾液が気管に入ったのかげほげほとむせてしまう。

 売り物にかかってはいけないので慌てて口をおさえてしゃがみこむ。


「な、なんでそんなこと」

 しばらく咳き込んでから、ようやく復旧して立ち上がる。

 私、そんなにわかりやすかっただろうか。確かに一昨日アルドさんの話をして楽しげだったりしたかもしれないけど、本当に好き、と判断されるほどのものはなかったと思う。


「だって、昨日髪も結ってお化粧もしてたでしょ。服の感じもいつもと違ったし…。アルドに会えるかもって思ってたんじゃないの?」


 サッと顔に熱があつまるのがわかった。

 うああぁ、いたたまれない。

 浮かれてめかしこんでいたのを指摘されるのがこんなに恥ずかしいなんて。


 頭を抱えて再びしゃがみこんだ私にエディくんは笑う。


「よく似合ってたし、綺麗だったよ。いつものリリアさんもいいと思うけど」


 もういいです。もうなにも言わないで。うちの店の近くに集まってアルドさんにキャアキャア言ってたお嬢さんを小バカにしてごめんなさい。自分がこんな痛いことしちゃうなんて思ってもなかったの!昨日の私を埋めたい…。



 その日は時間があまりないとのことで、エディくんは弁当を買って帰っていった。

 パイと手紙を届けてもらったお礼にお代はいらない、と言ったのだが、今度一緒に食べるときに奢ってよと断られてしまった。


 また一緒に食べるの、と少し気が重くなるが、まれに見る美少年になつかれてくすぐったいような嬉しさがあるのも事実だ。

 それに、エディくんとつながっていたら、もしかしたらまたいつかアルドさんにも会えるかもしれない。

 会うのは怖いけど、やっぱり会いたい。灰色の瞳が緩むところを見たい。ちょっとムッとした顔も見たい。


 そんな妄想をしながら浮かれる気分で弁当を売っていたために、何かいいことあったのか?春でもきたのか?と常連さんから盛大にからかわれるはめになってしまった。


 …気を付けよう。村の噂は恐ろしく速く駆け巡り、尾びれや背びれをつけながら長く語られる。面白おかしくお茶請けや酒のつまみにされるのはホント勘弁。




 夕の鐘のあと、後片づけをしているとジオが訪ねてきた。

 珍しいな、こんな時間に。おじさんがご飯を作ってないのかな?

 台所へ招き入れ、さっき淹れたばかりのコーヒーを差し出した。私も一度手を止めて、コーヒーを飲む。


「リリア…。あの、さ」

 そう言ったきりうつむいてしまうジオ。視線はじっと手の中のカップを見ている。


 なに?どうしたの?紅茶が良かったとか?


 何度か口を開け閉めしたのち、ぎゅっと前を向き意を決したようにジオがきいてきた。


「リリア、好きな人ができたの?」


 思ってもなかった本日二つ目の爆弾に、口の中のコーヒーを吹き出しそうになる。


 危ない。

 すんでのところで堪えた。


 一人でおたおたする私と対照的に、食い入るような真剣な顔をしたジオ。

「店にきた人が噂してたんだ。リリアが王子様みたいな人と手を繋いでたとか、仲睦まじく食事をしてたとか。早ければ来年春には婚約するとか」

「婚約?!」


 手を繋ぐ、食事をする、は心当たりがある。相手が王子様みたいってとこがもうアレしかない。

 でも婚約はなんだ。どっから出てきた。


 これだから村の噂は怖いんだよ。きっとあと何日かしたらもっとヒレがついてるに違いない。


「確かに、王子様みたいな人に手をとってエスコートされたし、ご飯も食べた。でも別に好きな人じゃないし、婚約もしない」

 事実だけを端的に伝えると、良かったと表情を緩めるジオ。その表情を見て、そういうことかとようやく合点がいく。


「心配しなくても、そんな人ができたらちゃんと報告するよ。噂なんかよりも早く、ダリアとジオに言うから」

 ジオは私とダリアが女同士の話で盛り上がるとすごく寂しそうな顔をする。同年代の友人が村にはあまりいないのもあるだろう。今回も仲間外れにされたと思って不安だったんだね。よしよし。


「それは…そんな…」

 私のことばに愕然と何かつぶやくジオ。

 きき取れなかった、なに?ときき返しても彼は答えず、とぼとぼと帰っていった。


 変なジオ。まぁ、いつものことだけど。


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