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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、星見台で再会。

 星見台、とは星持ち様の組合のようなもの。


 アカデミーを出た星持ち様は星見台に登録し、星見台の規律に縛られる。その分、星持ち様だけに許される特権を保障するのも星見台。


 一般市民からの依頼も星見台へ出されたものが吟味され、適正にあわせて星持ち様へ渡されるらしい。


 星見台は王都に本部があり、ある程度の規模の街や村に支部をおいている。

 うちの村は当然、ある程度以下なので星見台の支部はない。よって、星見台に用事となると最寄りの星見台がある隣街まで行く必要がある。


 エディくんと村長の話を総合すると、こんな感じだ。


 予告通り昼過ぎにやってきたダリアはいつも以上に華やかだった。


 襟にレースをあしらったシャツと草木で染めた鮮やかなスカートに濃茶のブーツ。紅茶色の髪は上半分をゆるく結いあげてふんわりと肩へ流している。


 目の保養…と眺めていると私の姿を見たダリアが叫ぶ。

「ちょっと!何よぉ、その格好は!」

 え?どこかおかしい?

 仕事用ではない、ちょっとよそいきの花柄のワンピースに履き慣らしたブーツ。髪はいつも通りのひとつにまとめてくるくるだんごだ。


「惚れた男に会えるかもしれないのに、何そのやる気のなさは!なめてんの!?」

 ちょっ、大きい声で言わないでくれるかな。

 ご近所さんにきかれたら、明日には村中に広がってしまう。


 ぷりぷりと湯気をあげるダリアは、もう私の話なんてきいていない。

 そのままの勢いで宿まで私を引きずっていき、ああでもないこうでもないと着替えさせ、髪もしっかり結い上げた。


 ダリアと私では身長も違うので服は借りられない。そのため花柄のワンピースはそのままだが、白いレースのボレロを羽織らされ、髪を結った私は弁当屋ではなくどこぞのお嬢さんに見える。

 いつもは白粉さえつけるかつけないかなのに、仕上げに頬紅と口紅をしてもらったら鏡の中にいるのは別人だ。


「これ誰よ」

 鏡の前で横を向いたり後ろを見たり落ち着きない私を見てダリアは満足げだ。

「リリアは自分にもう少し目を向けた方がいいわよぉ。素材は絶対いいんだから」

 ハイハイ、あなたみたいな美人に言われてもお世辞にもきこえませんことよ。

 嬉しいけどさ。ちょっとだけだよ!



 予定外のお召し変えタイムが入ったが、その後運よく乗り合い馬車をつかまえることができて、夕の鐘までだいぶ余裕がある時間に隣街に着いた。


 隣街はいつ来ても賑わっている。

 街の入口から中央広場に向かって屋台が立ち並び、たくさんの人が買い物をしたり食事をしたりして午後のひとときを楽しんでいる。


 色とりどりの服を吊り下げる屋台、肉を串にさして売っている屋台、玩具を売る屋台…。見ているだけでうきうきしてくる。


 星見台のことがなかったら、私も屋台に行っていただろうが、今日は精神的にも時間的にも余裕がない。

 せっかくだけど、また今度ゆっくり遊びにこよう。


 街は広場を中心に、放射状に道を広げている。広場から見て南東の道をしばらく行ったところに星見台があると村長は言っていた。


 迷うことも想定していたが、すぐに独特の建物に突き当たる。

「ここみたいねぇ」

 白っぽい石造りの門には星座を象った宝石が埋め込まれている。あれはルビー?こっちはサファイア?一体、一個いくらするんだろう。うちの店くらい丸ごと買ってもお釣りがきそうだ。


 外の豪華さにおののいて、恐る恐る扉を開けると中は意外にも普通。

 カウンターが一つと、待ち合い用なのか五人ほどがかけられるソファが二つ。

 カウンターには気難しそうな眼鏡の男性が座っていた。


「ご依頼でしたら用紙に記入の上、こちらへどうぞ」

 男性が指し示す先には紙の束が置いてある。どうやらそれに依頼内容を書いて提出するらしい。

 あまりに下らないものだと受け付けてもらえないんだろうな。


「あ、えっと依頼ではなくてアルドさんという星持ち様に渡したいものがあって…」


 アルドさんが好きそうなベリーのパイと短い手紙。例え会えたとしても直接想いを告げるのは無理だと思い、何度も書き直してようやく綴ることができたもの。

 アルドさんに受け取ってもらえないかもしれないが、ここまできたのだから渡すだけ渡したい。


「そうですか。そういったものはこちらでは承れません」

 男性は一切表情を変えないで答えた。例外はありません、規則ですから、と冷淡なほどあっさりだ。


 アルドさんどころか、取り次いでもらうこともできないんですか。

 さすが、星持ち様…。バリケードもすごいんですね。


 事務的!という男性の態度に、後ろにいるダリアから怒りの空気が流れてくる。怖い、怖いよ!


「え、えっと、食べ物はダメだとして、手紙だけでも渡してもらえないですか?それか、連絡をとってもらうとか…」

「できません。申し訳ありません」

 とりつくしまもない男性に、とうとうダリアが身を乗り出した。


 まずい、勢いがついたダリアは私だけでは止められない。どっと冷や汗が出てくる。

 どうしよう、誰か。ていうかあなたが怒らせたんだから自業自得でしょ、涼しい顔してないでなんとか収拾してよ!


 そのとき、緊迫した空気を破るゆるい声がした。


「リリアさん、こんなところで何してるの?」


 ハッと振り返ると金糸で刺繍をいれた白いコートを着たエディくんが立っていた。

 今日も変わらず、舞い降りた天使のような愛らしさ。少年から青年へ変わる危うい美しさに思わず目を覆いたくなる。


「この人が手紙も取りつげないって言うから」

 こらこら、ダリア。人を指さしちゃだめでしょ。


 怒りで頬を染めたダリアが言うのに対し、あぁ、と眉を下げるエディくん。


「確かに、星持ちへの贈り物とか手紙の取りつぎは星見台では禁止されてるんだ。政治的に利用しようって人もいたりするから」

 賄賂…ってことかな?確かに、力のある星持ち様に取り入っておけばいざというときとっても心強いだろう。


「星見台としては預かれないけど、良かったら僕から渡そうか?アルドに渡したいんだよね?」

 エディくんの提案に、ぎょっとしたのは星見台の男性だ。


「エディラード様、それは…」

「星持ち同士での物品や手紙のやりとりは、別に禁止されてないよね?」


 男性は何かをさらに言いかけたが、口をつぐむ。


 エディくんの顔に浮かぶのは確かに微笑みなのに、否と言えない何かがあるのだ。私が昼食に付き合うことになったのもこの顔のせいだ。


 でも、話しやすく気安いエディくんとはいえ、星持ち様だ。頼むのも気が引ける。


 どうしよう、と躊躇っていると腕の中のかごを奪われる。

 あ、またこのパターン。


「お礼はまた昼食に付き合ってもらえばいいよ。あ、夕食でもいいね」

パイと手紙を手に、エディくんはニッコリ笑った。







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