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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、まだ行方は知れず。

 村長は早朝にも関わらず、庭の手入れをしていた。

 この、どこから見ても人の良いおじさんは自宅の庭をこよなく愛している。村長夫人が「嵐の夜に庭が危ない!って飛び出すのはアホよね」と毒を吐くくらいの庭ラブ。

 村民には等しく親切で微笑みが標準装備の村長だが、近所の悪ガキが愛しの庭を荒したときにはすごかったときいている。いまだにその悪ガキは村長宅に近づくことができないほど心に傷を負ったらしい。

 それ以来、悪さをする子どもに「村長の庭に放り込むよ」が脅し文句で使われることが増えたとか。


「おや、リリア。おはよう。こんな時間にどうしたんだ?」

 土のついた手を止めて、村長が顔をあげた。


 ここまで来ても、やっぱり何でもないです!と回れ右したい。でも何もせずに帰ったときのダリアの方が恐ろしい。適当な嘘をついてもすぐにバレるだろう。


「実は、星持ち様…アルドさんにきちんとお別れを言えてなくて」

 鉱山で助けてもらったときも傷を治してもらったお礼は言ったが、庇ってもらったことや鉱山から無事連れ出してくれたことに関してはお礼さえ言えていない。

 手紙でも、伝言でも構わないのでお礼だけでも伝えたい。

 ダリアにお尻を蹴られて嫌々出てきました、とは言わないでおく。


 しどろもどろながら説明した私に、村長は目を細めた。

「そういうことなら、リリアには教えても良いかな」


 ん?私には?


「いやね、昨日からわしのところに若い娘が続々と来てな。星持ち様はどこいったんだとか贈り物をしたいから自宅を教えてほしいとか、正直辟易しておったんだよ」


 わー。まじですか。そんな娘さんたちと同列に扱われるなんて恥ずかしすぎる。やっぱり今すぐ回れ右する。帰る!

 いや、言いたいことはその娘さんたちと実は同じなんだけど。同じだからこそ見透かされたみたいでいたたまれないんだよ!


 さっき気持ちを自覚したばかりの私には【村長宅でアルドさんの行き先をきく】任務はハードルが高いようですよ、ダリアさん。


 恥ずかしさの余り口をぱくぱくさせて顔をおさえる私に、村長が続ける。


「アルドさんはリリアの弁当が気に入ってたらしいからな。ついでに持っていってあげれば喜ばれるんじゃないか」


 それって、ホントに喜ばれたらいいけどそうじゃなかったらかなり痛いことになりませんか?

 その気もない女が前の仕事先から追いかけてきて弁当を渡す…。

 いやいやいや、ムリムリ。そんな女気持ち悪い。

 人の機微に疎い私でもできませんとも。


「とは言ってもわしも直接連絡先を知っているわけではないから、アルドさんが登録している星見台の人を紹介してやろう」

 にこにこと笑って、手早く村長さんは紹介状を書いてくれた。


「がんばるんだよ」


 いやー!あんまり言わないで!ていうかやっぱり見透かされてるの?!




 紹介状を持って一度自宅へ帰り首尾を報告すると、ダリアは満足げに微笑んでほめてくれた。


「よくやったわねぇ。リリアにしては上出来よぉ!」

 私にしては、ってどういうことだ。積極性に欠けることくらい自覚してるが言われたかない。


「村長さん、絶対気づいてたよ。恥ずかしい。しばらく顔見られない」

 半泣きで言うと、ダリアはさらに追い打ちをかける。

「何言ってんのよぉ、この程度で。今から星見台行くんでしょ」

「えーっ!!ムリムリ!店もほっとけないし」


 いくら寒い時期だといっても、保存があまりきかないおかずは今日のうちに売りたい。

 慌てて首を振ると、女の私も見とれるほど魅力的にダリアはにんまりした。


「大丈夫よぉ。ほとんどおかずは売り切ったもの。店閉めちゃいなさいよ」


 は?売り切った?なにをバカな、とカウンターを見るとダリアの言う通りほとんどおかずがない。


「顔見知りのうちのお客さんが何人か通りかかったからね。売り子を頼まれたんだけどちゃんと出来るか心配なの、たくさん売ってリリアを喜ばせてあげたいのにできるかしら、って言ったら両手いっぱい買っていってくれたのよぉ」


 うふふ、とダリアは微笑む。

 絶対確信犯だ。目を潤ませて手くらい握ったかもしれない。こいつはそういう女だ。

 余すことなく自分の魅力を理解し利用する…。弁当を両手いっぱいに買っていった人たちに同情するばかりだ。でも、買ったからにはちゃんと食べてね。


 昼過ぎに星見台に行こう、酒場は母さんに頼むから大丈夫!と言い切り、仮眠をとりにダリアは帰っていった。


 嵐が去ったような台所にしばし立ち尽くす。

 ああ、あいた皿を洗わなきゃ…、残ったおかずをしまわないと…と思うがどっと疲れがのしかかってきて身体を動かすのが面倒だ。


「…コーヒーでも飲むか…」



 本当は一杯ひっかけて眠ってしまいたい気分だったのだけれど。

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