星持ち様、お仕事終了。
一人で食事をしても味気ないし、今は誰かといないと余計なことを考えてしまいそうだ。
暇が怖い。でも精力的に動く気力もない。
店を閉めてから最低限の明日の仕込みを済ませて、ダリアの酒場に向かった。
「いらっしゃい!おや、リリアかい」
扉を開けると珍しくエイダさんが出迎えてくれた。
「こんばんは。…なんだか賑わってますね」
店内を見渡すと、テーブルはどこもいっぱい。夕の鐘が鳴ってさほど経っていないのに、すでに出来上がってる人もいる。
「ああ。鉱山の磁場が解消したんだってさ。打ち上げだって鉱夫の連中が大騒ぎしてんだよ」
おかげでおちおち休んじゃいられない、とエイダさんはにっこり笑った。
磁場が解消。
時間の問題だとはきいていたけど。
まさかこんなに早いなんて。
アルドさんが来なかったのは最後の仕事に追われていたからなのか。
鉛を飲んだように重い胸を抱え、もう少し詳しい話をきける人はいないかと見渡した。すぐに奥のテーブルにつくロットさんを見つけた。鉱夫仲間と麦酒を豪快にあおっている。
私もエイダさんに麦酒をもらい、ロットさんの近くへ行った。
「よお!リリア。お疲れさん」
私に気づいたロットさんが座る席をあけてくれた。
「ロットさんたちもお疲れ様です。磁場が解消したんですよね?」
本当にききたいことはぐっと抑え、ロットさんの顔を見る。
「おう!さっすが星持ち様、仕事も早いのな!最後までブワーッとグワーッとすごかったぜ」
興奮気味にロットさんが語ると、周りから笑い声が起こる。全然わかんねーよ。なんだよブワーッて。適当すぎるんだよお前は、と口々に突っ込まれ、ロットさんは憮然とした。
「すげぇ人だってことだよ!エリート様だってのに偉そうにしてないし。最後に飲めたらもっと腹割って話せたのになー。あんな急いで帰らないでもいいのになぁ」
なぁ、とロットさんが私に振るが、うまく反応できない。
急いで…
帰った?
「……いつ頃帰ったの?星持ち様は」
声が震えないように、詰まらないようにきく。
「夕の鐘のだいぶ前だなぁ。夕飯を一緒に食いませんかって言ったら、そんなにゆっくりしてられないってフラれたんだよ」
酔っぱらっている鉱夫さんたちは、私の様子には気づかない。
「ロットが身の程をわきまえず煩くまとわりつくから嫌だったんだろ」
「だなー!ロットうぜぇもんな!」
「俺はうざくない!」
どっと笑う鉱夫さんたちの声が遠い。
身の程をわきまえず。
本当にその通りだ。
辺鄙な村の平凡な弁当屋と、華やかに光輝く星持ち様の道が一緒になるわけはない。
たまたま、2つの道が少し近づいただけ。
バカだなー、私。
どうやって酒場を出たか、よく覚えていない。気づいたら、自室にいて布団にくるまっていた。
強く目を閉じて、他のことを考えようとする。
明日のお弁当は何にしよう、明日は雨が降るだろうか。それとも晴れるだろうか。
そのたび浮かんでくるのはアルドさんが好きなんだろうおかず、きれいな黒髪を雨が滑る姿、陽光にも負けないほど輝く碧い星。
守ってくれた、温かい腕。
ひとつ浮かぶたび、息がつまるほど胸が痛いのにどうしようもなく嬉しい。
私が集めた宝物。
忘れたいけど、忘れたくない。
ようやくうとうととする頃には、東の空が白みはじめていた。