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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第一章 星持ち様と弁当屋
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星持ち様、わがままをおっしゃる。

 少年は黒い笑顔を少し引っ込めて、

「僕のことはエディって呼んでね」

 そうおっしゃいながら、あれは嫌い、これは好きじゃない、と私が詰める弁当に注文をつけてきた。


 好き嫌いすると背が伸びないよ!エディくん。

 私よりは頭半分大きいけど、そのまま止まったら男性としてはだいぶ小さい。成長期終わったら取り返しがつかないんだから!


 眉間にシワを寄せながら、エディくんの好みに合わせて弁当を詰める。かさの大きいキノコを裏返して海老の擂り身を詰めたもの、鳥のフライ、根菜のゼリー寄せ、付け合わせの葉野菜とドライトマト。

 甘い味付けは嫌だ、魚も嫌い、とお子ちゃまはおっしゃるので、こんなもんだろう。

 野菜も好きじゃなさそうだけど、食べなさい。


 私の分は今日のおすすめ。野菜をたっぷり入れた一口大のキッシュ、豆と芋のサラダ、根菜の煮物、魚のフライ。

 うん、彩りよし、栄養バランスもよし。


「じゃあ行こうか」

 弁当が入ったバスケットを右手に、エディくんが左手を私に差し出した。


 え?

 スープのポットくらい私持つけど。

 背は小さいけど、腕とか結構ムキムキしてるんですよ。


 きょとんとして遠慮すると、プッと笑われる。

「違うよー。エスコートは男の役目でしょ」


 は?

 エスコート?こんな辺鄙な村で?

 お客様、会場をお間違えでは?こちらは舞踏会会場ではありませんよ?

 それに、あなた道わかんないんでしょ。道わかんない人がわかる人をエスコートっておかしくない?


 初対面の人に失礼じゃない程度に、あんたおかしいよと指摘するのはどう言ったら…と悩んでいるうちサッと手をとられてしまう。


「さ、早く行こうよ。どっちに行ったらいい?」

「いや、この手をちょっと…」

 村人に見られたら、明日から生きていきづらい。事実でもないのに冷やかされるなんて、本当に面倒くさい。


 私はわりと人見知りなんだ。初対面の人間と二人きりでご飯自体気乗りしないのに、それに明日からの噂の対応がついてくるなんて、ほんと御免。


「僕、アルドの話いろいろ知ってるけど。ききたくない?」

 新緑の瞳を三日月の形にして、エディくんがきいてくる。

 私が、ききたいと思ってることを知ってる口調だ。

「僕もアルドの話を教えるし、リリアさんも教えてよ。同じ星持ちとして尊敬してるんだ」


 星持ちとして尊敬。

 そんなの私だってしてる。

 話、ききたい。もっといろんな顔のアルドさんを知りたい。

 でも、知ったらもう戻れない。



 結局、怯んだ隙にエディくんに手を引かれることになってしまった。

 流されやすい自分を罵ってやりたい。



 迷った末、鉱山の近くにある小高い丘に行くことにした。

 村の広場は花壇も整備されていて綺麗だが、カップルやお昼休憩をとる村人に遭遇する可能性が高すぎる。


 なるべく人目につかず、万が一のときには助けを求められるところ。


 持ってきたキルトを広げて、エディくんと並び芝の上に座った。



 結論から言えば、エディくんとの昼食タイムはとても楽しかった。

 どうせここまで来たんだから美少年との昼食を楽しんでやる、と開き直ったのもよかったのかもしれない。


 根菜のゼリー寄せを口に入れたエディくんはちょっと目を見開き、

「野菜ってこんなのだっけ?」

ときいてくる。

 特製出汁で圧をかけて煮込んであるので根菜独特のくさみがなく、とろけるんですよ。野菜嫌いのお子ちゃまにはぴったりでしょ、とにやにやしてしまう。


 わあ、とか、へぇ、とか感嘆の声を上げながらどんどんおかずは消えていく。

私のお弁当もちらちら見ていたので、食べる?ときいてみると、ぽっと頬を染めて頷くエディくん。

 憎らしいくらいかわいいな。性別女として、色々悲しくなるよ。



 エディくんは話し上手で、きき上手だった。

 星持ち様の話をききたがった私に、星持ち養成校―アカデミーというそうだ―の話を教えてくれ、アルドさんがアカデミー時代どんな少年だったのかを、実に楽しそうにエディくんは語る。


「アルドはアカデミー始まって以来の天才って言われてて。本来なら入学から十年はかかる学科と実技を五年ほどで終えてしまったんだ。一等の星持ちの中でもかなりの実力者なんだよ」


 あれ?一等?

 確かロットさんが星持ち様のすごさを語っていたとき、二等って言ってなかったっけ?


「それは、多分もう一人の星持ちのことじゃないかな?二人きてたんだよね」

「あー…あのクソッタレですか」

 しまった。同業者に向かってつい本音が。


 言い訳に、鉱山であった人でなしの言動を教えるとエディくんは苦笑いする。

「結構、そういう星持ちは多いんだよ。自分は特権階級だから何してもいい、星持ちでない人には価値はないって思い上がる連中が」

 魚のフライを口に運びながらエディくんが言う。苦手だと言っていたけど、これは食べられるみたい。


「そんな星持ちが一般の人を害しないためにたくさん規律があるんだ。嘆かわしいことだよね」

 もちろん、そんな奴ばかりじゃないけどねと肩をすくめる。


 私にとってはアルドさんが星持ち様のイメージそのままで、そんな身勝手で傲慢な星持ち様がたくさんいるなんてにわかに信じがたい。


 でも、死ねばいい、と言い切った声はしっかり耳に残っている。


「アルドさんは本当にすごい人なんですね」

 星持ちとしてより優秀でも傲ることなく、人に自然に手を貸せるって。ほんとにすごい。

 私だったらちょっと鼻高々になっちゃうと思う。


 ぽつりとこぼした私に、僕もそう思うよ、とエディくんが花のように笑った。




 店まで送っていく、と言い張るエディくんをどうにか説得し、急いで一人店へ向かう。


 そんなに長い時間ではないが、仕事とは言いづらい理由で店を留守にしてしまった。せっかく足を運んでくれたお客さんに弁当を渡せないのは申し訳ない。少しでも早く戻らないと。


 それに、今日はアルドさんがまだ来ていない。すれ違いになったとしたら、残念すぎる。


 慌てて帰り着き、一次発酵が終わったパン生地を手にした。

 アルドさんが来るのは大抵朝早くか夕方。朝は来なかったから夕方来るとして。まだ時間は十分ある。昨日作った木苺ジャムを包んだパンを焼こうか。煮たりんごを粗く切って練り込んでもいいかもしれない。


 ちょっとは表情を変えてくれるかな。今度こそ、もしかしたら美味しいって言ってくれるかな。

 期待と不安を混ぜながらパンを成形していった。




 ところが、二種類の甘いパンが焼き上がっても、店を閉める時間になっても、その日アルドさんは店に来なかった。


 やはり、外出したときに行き違ったのか。それともまた鉱山で何かあったのか。


 言い様のない不安とともに、私は売らなかったパンを保存庫にしまった。





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