星持ち様、強制連行。
アルドさんのおかげで、崩落した部分の修復はほどなく終了。磁場の解消も時間の問題らしい。
弁当を買いに来る鉱夫さんが口々に教えてくれる。終わりの見通しを得て、皆うれしそうだ。
私は適当な相づちを打ちながら、その度に胸が重くなる。
…余計なことを考えないように、パン生地でもこねるか。
手が空くと終わりを想像してしまう。忙しく、忙しく。
私の小さな幸せに、こんな痛みはいらないのだ。
台所の作業台でパン生地をこね、バシバシと仇のように叩きつける。ストレスがたまったときも、悲しいときも、この作業はうってつけだ。無心になれるし、汗をかけば少し気持ちが落ち着く。
「こんにちは」
声をかけられて、ハッと振り返る。
かなり集中してパン生地と戦っていたらしい。店頭に人が立っているのに気づかなかった。
「はい、いらっしゃいませ」
手を拭きながら振り返った私は、そのままの体勢で固まってしまう。
年の頃なら15くらい。カウンターのところに、にこにこと人懐こい笑みを浮かべた少年がいた。
ふわふわの金髪。春の新芽を思わせるぱっちりとした翠の瞳。肌は白くなめらかで、触ったらさぞ気持ちいいだろう。
声がしっかり男性のものなので間違うことはないが、黙っていれば美少女と言っても十分通るほどの愛らしさだ。
「ここ、お弁当屋さんだよね?」
大皿に盛られたおかずを見ながら少年がきく。
まさか、こんなきれいな子が、弁当?
いや、食べるだろうけどさ。トイレも行くだろうけどさ。
花の蜜を吸って生きてそうなんだもん。トイレも行かなそうなんだもん。
こっくり頷くと、少年はうれしそうに胸を撫で下ろした。
「よかったぁ、アルドが毎日お弁当屋さんに通ってるってきいて探してたんだよね」
あ、もしや、口コミで顧客拡大ですか?
「アルドさんのお知り合いですか?」
「うん。僕も星持ちだから」
金色の髪を左耳にかけると、翠の星が耳の付け根に見えた。日の光を受けきらきらと光っている。
最近、だいぶ見慣れたとはいえ、星なしの私にとっては至上の宝石に見える。
私が星を見たのを確認した少年は、愛らしい笑みを浮かべる。
「君にお願いがあるんだけどね。お弁当2つと、食べ終わるまでの時間を僕にくれないかな?」
は?
うちが売ってるのは弁当だけですよ?
私が怪訝な顔をするのに一層笑みを強める少年。
あー、あまりにきらきらしてて、ちょっと目に痛いのでそろそろやめてもらえませんか。
こんな田舎の村には、あなたみたいなきらきらした生き物はいないので免疫がないんです。
「お弁当を2つ買うから、一緒に食べようよ。アルドの話きかせてよ」
少年の提案に、店もあるので無理です、と言おうとした。初対面の人とごはんなんて、とも言おうとした。が、口を開くことを許されない空気が少年からびしばし飛んでくる。
笑顔なのに、黒い。なんかわかんないけど、怖い!
少年の笑顔を見ていると嫌な汗がじわじわと出てくる。
口調こそお願いだが、強制なんだね。拒否権はないんだね…。
「お弁当食べるなら景色がいいところがいいなー」
ね?君もそうでしょ?
天使も裸足で逃げ出す悩殺スマイルを浮かべて、少年は首をかしげた。