未熟
戦闘……○| ̄|_
◇
『依存』という言葉がある。……あまりいい意味では使われないか。
なら心の支え、でもいい。
たった数日の海外旅行でもホームシックになる人がいる。たった数日だ。
一人暮らしを始めても、続かずに帰ってきてしまう人がいる。
中には結婚しても、実家と同じ市内でも、よく帰る人もいる。
国内ですらホームシックになるのだ。海外なら、もっと多くなるだろう。
だが海外なら例え生活が不便だとしても、ごく一部の例外を除けば“自国”という帰る場所がある。
しかし今回のように、当たり前の“帰る”という選択肢がない場合。
本人の自覚の有無に関わらず、精神的な負担は大きい。
シンは自分の意思で来た。故に表面上は(自分自身は)誤魔化せるだろう。
だが、だからと言って潜在的な負担がなくなる訳じゃない。
だから求めた。
弱者が国に、組織に救いを求めるように、強者としてユイナを選んだ。
だからこそ……
シンにとってユイナは……
◇
その日もいつもと変わらなかった。相変わらず、水場で一日狩りをしていた。
だが突如、生き物が逃げ始める。不審に思い避難の準備をする。
領域があるとは言え、拠点化していた関係で荷物を広げていた。
夜なら片付けも一瞬だが、夕方だった為に闇精霊頼みに出来ない。闇精霊は、闇があってこそだ。
生き物が逃げ緊迫した空気が流れるが、こちらには武闘派もとい戦闘狂のユイナさんがいる。
それにオークが来るときも生き物は逃げるから、油断していた。
隠れて様子見をするぐらい慎重になれば――どっちにしろユイナは戦いを仕掛けたかも知れないが――少しは変わったかも知れない。
ユイナを見ていると“絶対ない”と言えないのが悲しいところだ。
ラピスをミスラに任せ、片付けが終わる頃にソイツは現れた。
高さ三メートルはあるか?動物に例えるなら小さな象、もしくは立ったホッキョクグマか。小さめな女性なら二人分だ。
高い身長に、体格もがっしりしていてそれだけでも思わず逃げたくなるのに、角まで生えている。名を大鬼と云うらしい。
逃げたくなるが気をつけなくてはイケナイ。肉食生物は背を向けて逃げる生き物を追い掛けるからだ。
足が知らずに向きを変えていたのを見て思い出す。
とりあえずユイナに確認してから静かに離れる。
ユイナが戦い、その他は逃げる用意だ。ユイナが勝てないなら逃げの一手。
その際には安定感のあるミスラが、ラピスを抱くのも当然だ。
“残る”選択をしたことに悔いはない。
もちろん最初から逃げたら安全だろう。
だが対象が“脅威”かも知れないのだ。知らずに尻尾を踏むより、調査したほうが後々のことを考えると安全だろう。
まぁ、隠れて様子見は必須だろうが。
けれど逃げる準備でなく、戦う(ユイナをサポートする)という選択肢も有った。
この場合はユイナをメイン、プアーを囮に、ミスラが遠距離だ。
俺に付き従う精霊は戦闘向きじゃないが、周囲の警戒は出来る。ラピスを俺が抱いて警戒すれば良かった。
のかも知れない。
だが“戦う”を選ぶと壊滅や全滅する可能性もあった。
結局は、後からなら幾らでも言える。不確定要素がないゲームなら兎も角、考えても仕方ない。
残念ながら何が正しいかなんて俺には解らない。ただ、この選択を後から悔やむのも確かだ。
―――……・
最初、ユイナは押していた。
口にするのは簡単だが、でっかい角付き筋肉を小さい羽付き少女が、だ。
あまりのサイズ差に、中々シュールな光景だ。
だが、俺は忘れていた。
直接聞いていたのに忘れていた。
――ユイナに戦闘経験がないことを。
もちろん今まで狩りをやってきたが、それは虐殺と言っていい。
一方的に狩るだけで良かった。オークの時も同じだ。圧倒的な身体能力の差の前では、技術など大した役に立たない。
オーガにすらユイナは優位に立っていた。しかしそれは技術で対抗出来る差でもあったようだ。
まだまだ素人の俺には分からなかったが、ミスラが気付いた。
ただ、気付いた所で既に遅かった。
なまじ優れたセンスのせいで、敵を一方的に葬ってきたユイナ。
だからこそ、フェイントや駆け引きなどにも縁がなかった。
そんなことをさせる間もなく、終わっていたからだ。
距離が離れていたから判ったのもある。
ユイナはフェイントに引っ掛かり致命的な隙を見せる。
そして振るわれた大剣は――
大剣は
ユイナの
左胸までを切り裂き
引き抜かれる。




