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盗っ人  作者: 日寝暮者
25/26

未熟

戦闘……○| ̄|_






『依存』という言葉がある。……あまりいい意味では使われないか。



なら心の支え、でもいい。




たった数日の海外旅行でもホームシックになる人がいる。たった数日だ。


一人暮らしを始めても、続かずに帰ってきてしまう人がいる。



中には結婚しても、実家と同じ市内でも、よく帰る人もいる。



国内ですらホームシックになるのだ。海外なら、もっと多くなるだろう。


だが海外なら例え生活が不便だとしても、ごく一部の例外を除けば“自国”という帰る場所がある。




しかし今回のように、当たり前の“帰る”という選択肢がない場合。


本人の自覚の有無に関わらず、精神的な負担は大きい。


シンは自分の意思で来た。故に表面上は(自分自身は)誤魔化せるだろう。


だが、だからと言って潜在的な負担がなくなる訳じゃない。





だから求めた。








弱者が国に、組織に救いを求めるように、強者としてユイナを選んだ。



だからこそ……


シンにとってユイナは……









その日もいつもと変わらなかった。相変わらず、水場で一日狩りをしていた。



だが突如、生き物が逃げ始める。不審に思い避難の準備をする。



領域があるとは言え、拠点化していた関係で荷物を広げていた。



夜なら片付けも一瞬だが、夕方だった為に闇精霊頼みに出来ない。闇精霊は、闇があってこそだ。



生き物が逃げ緊迫した空気が流れるが、こちらには武闘派もとい戦闘狂のユイナさんがいる。


それにオークが来るときも生き物は逃げるから、油断していた。


隠れて様子見をするぐらい慎重になれば――どっちにしろユイナは戦いを仕掛けたかも知れないが――少しは変わったかも知れない。



ユイナを見ていると“絶対ない”と言えないのが悲しいところだ。




ラピスをミスラに任せ、片付けが終わる頃にソイツは現れた。




高さ三メートルはあるか?動物に例えるなら小さな象、もしくは立ったホッキョクグマか。小さめな女性なら二人分だ。



高い身長に、体格もがっしりしていてそれだけでも思わず逃げたくなるのに、角まで生えている。名を大鬼オーガと云うらしい。




逃げたくなるが気をつけなくてはイケナイ。肉食生物は背を向けて逃げる生き物を追い掛けるからだ。


足が知らずに向きを変えていたのを見て思い出す。




とりあえずユイナに確認してから静かに離れる。

ユイナが戦い、その他は逃げる用意だ。ユイナが勝てないなら逃げの一手。


その際には安定感のあるミスラが、ラピスを抱くのも当然だ。






“残る”選択をしたことに悔いはない。


もちろん最初から逃げたら安全だろう。


だが対象が“脅威”かも知れないのだ。知らずに尻尾を踏むより、調査したほうが後々のことを考えると安全だろう。


まぁ、隠れて様子見は必須だろうが。





けれど逃げる準備でなく、戦う(ユイナをサポートする)という選択肢も有った。


この場合はユイナをメイン、プアーを囮に、ミスラが遠距離だ。


俺に付き従う精霊は戦闘向きじゃないが、周囲の警戒は出来る。ラピスを俺が抱いて警戒すれば良かった。

のかも知れない。



だが“戦う”を選ぶと壊滅や全滅する可能性もあった。




結局は、後からなら幾らでも言える。不確定要素がないゲームなら兎も角、考えても仕方ない。



残念ながら何が正しいかなんて俺には解らない。ただ、この選択を後から悔やむのも確かだ。




―――……・




最初、ユイナは押していた。



口にするのは簡単だが、でっかい角付き筋肉を小さい羽付き少女が、だ。


あまりのサイズ差に、中々シュールな光景だ。



だが、俺は忘れていた。



直接聞いていたのに忘れていた。






――ユイナに戦闘経験がないことを。



もちろん今まで狩りをやってきたが、それは虐殺と言っていい。



一方的に狩るだけで良かった。オークの時も同じだ。圧倒的な身体能力の差の前では、技術など大した役に立たない。



オーガにすらユイナは優位に立っていた。しかしそれは技術で対抗出来る差でもあったようだ。


まだまだ素人の俺には分からなかったが、ミスラが気付いた。



ただ、気付いた所で既に遅かった。



なまじ優れたセンスのせいで、敵を一方的に葬ってきたユイナ。



だからこそ、フェイントや駆け引きなどにも縁がなかった。



そんなことをさせる間もなく、終わっていたからだ。




距離が離れていたから判ったのもある。



ユイナはフェイントに引っ掛かり致命的な隙を見せる。





そして振るわれた大剣は――




大剣は




ユイナの




左胸までを切り裂き



引き抜かれる。




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