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盗っ人  作者: 日寝暮者
23/26

節目





左腕もボロで、左太腿もボロで全身ボロボロだ。



魔力も残り少なく気持ち悪い。ユイナに背負ってもらう。



ユイナらがやっつけたオークがいる。


――半死半生で。哀れな。



ミスラに取ってきてもらった短剣でトドメを刺す。


魔力を吸収し、回復した魔力でオークを(朱桜で)回収する。



三体ほどカサカサになっている。


ユイナのどこに血が入ってるのだろう。何時も思うが疑問だ。



半死半生のオークだが、魔力が足りないから刻んで魔力吸収してから殺した。



スマン。



一体は食糧として解体して持ち帰りだ。


ユイナ印の血抜きがしてあるから楽に解体していた……




朱桜で二体プラス貰った魔核を吸収し、三体を召喚した。


俺達の食糧用に一体確保するが、他のオークは要らない。


三個の魔核を砕き、要らない肉はゴブリンに渡した。



長期保存できないし、俺、ミスラ、フレイなら肉一体でも多すぎるからだ。


後で、肉以外も活用できると知るが、どちらにせよ活用できる人員が居ないのだから問題ない。



なんにせよ、まずまずの成果だろう。




魔核コアだが、獣やスライムなどの低級ばかりだから知らなかったが、砕くと経験値になる。



――説明しよう



……まず死ねと魔核が出来るが、オークとかみたいな中級以上になると魔核は最初柔らかい。

その間に砕くと経験値として吸収され、硬くなると魔核として魔具に使えるのだ。


今回は頻繁に使う水属性でないので糧にすることにした。




勿論殺した時点で経験値になるが、魔核を砕くと比べ物にならないくらいの経験になる。



魔核は売れるらしいから、経験値をとるか?お金をとるか?この世界の人は悩むことになるそうだ。


大きくなればなるほど当然希少性が増し、魔核は高く売れる。だがその分経験値にもなる。



ああ、柔らかい間しか経験値にならないから、経験値稼ぎに買い漁るとかは無理らしい。

兎も角、骨豚鬼とミスラを領域に入れて、空の旅だ。領域は俺の影に設定してある。








そんなわけで、二度目の遠征も失敗した。


――いつになったら人に出会えるのだろうか?




もちろんユイナ任せに飛んでいけば、直ぐに人里に着くだろう。


だが美人がいる以上、ガラの悪い連中に絡まれる可能性は高い。


それに子育ての関係で、俺が狩りに行くことになるだろう。金も稼がないといけない。


そう考えるとショートカットするメリットはないのだ。



ままならない。







ゴブリンは例のメスゴブリンらしい。


ついでのように言われた。


「そんなに恨まれてるのかね……」


「どうして?」

つがい殺したから恨まれてるって、言っただろう?」


「……信じてたの?」


「エッ…?!」


信じてたから、

普通にビックリした。


「ゴブリンみたいな弱者は、絶えず強者の血を求めてるのよ。殺されるような弱者なんか気にするはずないでしょ?」


「そうなの?」

異世界の常識なんか知らないがな。


「この前も救ったしね〜。あっ、やることやれば追っかけて来ないんじゃない??(笑)」


「ちょっと待った!」


笑えない冗談とか要らない


「こんな空で?」


わざとらしくキョトンとしてるけど、そんなボケ要らない。


「いや、違うし。……じゃなくてこの前救ったのはユイナでしょ?」


「向こうから見たら、シンと仲間たちでしょう」


「冗談だよね?」



「……冗談よ」


間を空けて、フフフと言いそうな雰囲気のまま、はぐらかされた。




本気で冗談だよね?










オーク戦の負傷は、左肩と左太腿のヒビ、左腕の骨折だった。



握力を失っていた左手も一週間もすれば元通りになった。



もっとも握力が戻る前にユイナのお腹の子が動き始め、“動いてる”と喜んでいたせいで直ぐに気付かなかったが。



この時、ユイナのお腹に耳を当てるのだが“初めて”は何気に恥ずかしかった。



いやお腹に耳を当てるだけなんだけど。



やることやって――と思うだろうが――ホントなんでだろうな?





―――……・・




骨折などの影響で安静にしないといけないが、ちょうどいい。目を閉じないようにする訓練をしようと思う。



ユイナに頼んだけれど、単純な繰り返しにすぐ飽きた。代わりにミスラがやることになったが……


弓矢でやることになったのだ。骨折で動けない所に、顔のすぐそばを矢が通り過ぎる。




信頼してるとか、そーゆー問題じゃない。怖いものは怖いのだ。


バンジージャンプやジェットコースターを考えれば解るだろう。


安全とか関係ないのだ。


早く慣れ、終わらそうと悲壮な決意をしたその時、頬が熱を持つ。何かが滴り、流れ落ちる感触がする。


心臓が、急激に高鳴る。




――後日、微かに残った傷痕に嘆くことになる。


漫画とかの主人公なら、傷痕はカッコイイ男の象徴として誇れるが……


傷痕は近付かないと見えないほど“微か”だ。


そして目を閉じない特訓で出来た証。――つまりは恥の証ゆえに。







座った状態、怪我をしてない右腕は動かせる。だから、短剣を右手に。



女性陣の提案で矢を打ち落とす、に替わった。


習得に必死だった。



なぜ、目を閉じない訓練からこうなったのか解らない。


ただ、出来れば二度と思い出したくない。




ヒビが直り、リハビリする頃、オーク戦から二ヶ月も経たないうちにユイナは出産した。


ユイナと様々な初めてを経験した日から、ちょうど六ヶ月たった時の話だ。


寝てるところを叩き起こされ、アタフタしてる間に終わっていた。



後で思い出しても、本気でアタフタしてる記憶しかなく、不思議な感じだ。


ただただ優しい笑顔のユイナと、抱きしめられたら小さな赤子が印象的だった。



2000にも満たない小さな女の子。人間だと大事だが、吸血鬼だと未熟児でないらしい。



狩りのメインがユイナだったから反対出来なかったが、正直ビクビクしてたので無事に産まれて安心した。




ユイナの食事の関係で、三日と経たずに狩りに同行してもらう。


自分がもの凄い情けないが、見栄を張ったところで怪我をして迷惑をかけるだけだ。



だから代わりに傷が治ったときから、必死になって鍛えた。








必死になって鍛えた。そこは否定しない。


しかし“死に物狂い”ではなかったと思う。


平和な時の世代ゆえに、……いや違う。結局は個人の問題だ。



――なんにせよ決定的に危機感が足りなかった。


必死になるのが遅かったか…?転移して、すぐに死に物狂いになってれば、或いは……





もしも、に意味はない。



けれど……





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