節目
◇
左腕もボロで、左太腿もボロで全身ボロボロだ。
魔力も残り少なく気持ち悪い。ユイナに背負ってもらう。
ユイナらがやっつけたオークがいる。
――半死半生で。哀れな。
ミスラに取ってきてもらった短剣でトドメを刺す。
魔力を吸収し、回復した魔力でオークを(朱桜で)回収する。
三体ほどカサカサになっている。
ユイナのどこに血が入ってるのだろう。何時も思うが疑問だ。
半死半生のオークだが、魔力が足りないから刻んで魔力吸収してから殺した。
スマン。
一体は食糧として解体して持ち帰りだ。
ユイナ印の血抜きがしてあるから楽に解体していた……
朱桜で二体プラス貰った魔核を吸収し、三体を召喚した。
俺達の食糧用に一体確保するが、他の肉は要らない。
三個の魔核を砕き、要らない肉はゴブリンに渡した。
長期保存できないし、俺、ミスラ、フレイなら肉一体でも多すぎるからだ。
後で、肉以外も活用できると知るが、どちらにせよ活用できる人員が居ないのだから問題ない。
なんにせよ、まずまずの成果だろう。
魔核だが、獣やスライムなどの低級ばかりだから知らなかったが、砕くと経験値になる。
――説明しよう
……まず死ねと魔核が出来るが、オークとかみたいな中級以上になると魔核は最初柔らかい。
その間に砕くと経験値として吸収され、硬くなると魔核として魔具に使えるのだ。
今回は頻繁に使う水属性でないので糧にすることにした。
勿論殺した時点で経験値になるが、魔核を砕くと比べ物にならないくらいの経験になる。
魔核は売れるらしいから、経験値をとるか?お金をとるか?この世界の人は悩むことになるそうだ。
大きくなればなるほど当然希少性が増し、魔核は高く売れる。だがその分経験値にもなる。
ああ、柔らかい間しか経験値にならないから、経験値稼ぎに買い漁るとかは無理らしい。
兎も角、骨豚鬼とミスラを領域に入れて、空の旅だ。領域は俺の影に設定してある。
そんなわけで、二度目の遠征も失敗した。
――いつになったら人に出会えるのだろうか?
もちろんユイナ任せに飛んでいけば、直ぐに人里に着くだろう。
だが美人がいる以上、ガラの悪い連中に絡まれる可能性は高い。
それに子育ての関係で、俺が狩りに行くことになるだろう。金も稼がないといけない。
そう考えるとショートカットするメリットはないのだ。
ままならない。
ゴブリンは例のメスゴブリンらしい。
ついでのように言われた。
「そんなに恨まれてるのかね……」
「どうして?」
「番殺したから恨まれてるって、言っただろう?」
「……信じてたの?」
「エッ…?!」
信じてたから、
普通にビックリした。
「ゴブリンみたいな弱者は、絶えず強者の血を求めてるのよ。殺されるような弱者なんか気にするはずないでしょ?」
「そうなの?」
異世界の常識なんか知らないがな。
「この前も救ったしね〜。あっ、やることやれば追っかけて来ないんじゃない??(笑)」
「ちょっと待った!」
笑えない冗談とか要らない
「こんな空で?」
わざとらしくキョトンとしてるけど、そんなボケ要らない。
「いや、違うし。……じゃなくてこの前救ったのはユイナでしょ?」
「向こうから見たら、シンと仲間たちでしょう」
「冗談だよね?」
「……冗談よ」
間を空けて、フフフと言いそうな雰囲気のまま、はぐらかされた。
本気で冗談だよね?
◇
オーク戦の負傷は、左肩と左太腿のヒビ、左腕の骨折だった。
握力を失っていた左手も一週間もすれば元通りになった。
もっとも握力が戻る前にユイナのお腹の子が動き始め、“動いてる”と喜んでいたせいで直ぐに気付かなかったが。
この時、ユイナのお腹に耳を当てるのだが“初めて”は何気に恥ずかしかった。
いやお腹に耳を当てるだけなんだけど。
やることやって――と思うだろうが――ホントなんでだろうな?
―――……・・
骨折などの影響で安静にしないといけないが、ちょうどいい。目を閉じないようにする訓練をしようと思う。
ユイナに頼んだけれど、単純な繰り返しにすぐ飽きた。代わりにミスラがやることになったが……
弓矢でやることになったのだ。骨折で動けない所に、顔のすぐそばを矢が通り過ぎる。
信頼してるとか、そーゆー問題じゃない。怖いものは怖いのだ。
バンジージャンプやジェットコースターを考えれば解るだろう。
安全とか関係ないのだ。
早く慣れ、終わらそうと悲壮な決意をしたその時、頬が熱を持つ。何かが滴り、流れ落ちる感触がする。
心臓が、急激に高鳴る。
――後日、微かに残った傷痕に嘆くことになる。
漫画とかの主人公なら、傷痕はカッコイイ男の象徴として誇れるが……
傷痕は近付かないと見えないほど“微か”だ。
そして目を閉じない特訓で出来た証。――つまりは恥の証ゆえに。
座った状態、怪我をしてない右腕は動かせる。だから、短剣を右手に。
女性陣の提案で矢を打ち落とす、に替わった。
習得に必死だった。
なぜ、目を閉じない訓練からこうなったのか解らない。
ただ、出来れば二度と思い出したくない。
ヒビが直り、リハビリする頃、オーク戦から二ヶ月も経たないうちにユイナは出産した。
ユイナと様々な初めてを経験した日から、ちょうど六ヶ月たった時の話だ。
寝てるところを叩き起こされ、アタフタしてる間に終わっていた。
後で思い出しても、本気でアタフタしてる記憶しかなく、不思議な感じだ。
ただただ優しい笑顔のユイナと、抱きしめられたら小さな赤子が印象的だった。
2000にも満たない小さな女の子。人間だと大事だが、吸血鬼だと未熟児でないらしい。
狩りのメインがユイナだったから反対出来なかったが、正直ビクビクしてたので無事に産まれて安心した。
ユイナの食事の関係で、三日と経たずに狩りに同行してもらう。
自分がもの凄い情けないが、見栄を張ったところで怪我をして迷惑をかけるだけだ。
だから代わりに傷が治ったときから、必死になって鍛えた。
必死になって鍛えた。そこは否定しない。
しかし“死に物狂い”ではなかったと思う。
平和な時の世代ゆえに、……いや違う。結局は個人の問題だ。
――なんにせよ決定的に危機感が足りなかった。
必死になるのが遅かったか…?転移して、すぐに死に物狂いになってれば、或いは……
もしも、に意味はない。
けれど……




